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1089ブログ

「南太平洋の生活文化」作品を楽しむヒント

今年も残すところひと月となりましたが、いかがお過ごしでしょうか。
以前このブログでご紹介いたしました、平成館企画展示室にて開催中の特集「南太平洋の生活文化」(12月23日(金・祝)まで)も残すところ2週間余りとなりました。展示や展示作品に関するエピソードは、11月15日の「南太平洋の生活文化」現地レポート(セピック川の日々)をご覧いただくとして、今回は民族作品の魅力を身近に感じていただくヒントをいくつかご案内したいと思います。


展示風景

ヒントその1:作品の形や色づかいを楽しむ
この特集で展示しているのはオセアニアと台湾の作品です。オセアニアはオーストラリア大陸、メラネシア、ポリネシア、ミクロネシアを含めた南半球の広大な地域です。日本人観光客でにぎわうハワイ、ニュージーランド、モアイ像で有名なイースター島など、魅力あるたくさんの島々があります。広大な地域から構成されているため、気候や自然環境などが多様であり、そこに育まれた文化も地域ならではの素材や技術で作られたものばかりです。まずはそうした作品の形や色づかいをお楽しみください。

腰巻、褌
左:腰巻(女用) ミクロネシア、サイパン島 19世紀後半~20世紀初頭 (後藤充蔵氏寄贈)
中:褌(男用) ミクロネシア、サイパン島 19世紀後半~20世紀初頭
(後藤充蔵氏寄贈)
右:腰簑  ミクロネシア、パラオ 19世紀後半~20世紀初頭
(坂本須賀男氏寄贈)

袖無上衣
左:袖無上衣  台湾、プユマ族 19世紀後半~20世紀初頭
中:脚絆  台湾、ツアリセン族 19世紀後半~20世紀初頭
右:袖無上衣  台湾、パイワン族 19世紀後半~20世紀初頭 (佐藤正夫氏寄贈)




ヒントその2:作品の質感を楽しむ
作品が露出展示されているわけでもなく、またハンズオンのように直接触れるわけでもないのに、どうやって質感を楽しむのか…難問かもしれません。しかしながら、作品に直接触らなくても質感を間接的に楽しむことはできます。例えば、下の写真をみてください。こちらはワニを捕まえるための木製の釣り具です。ワニの口に引っ掛ける、ルアーのような道具と考えらます。2枚目は向かって右側の逆「く」の字状になった屈曲部分を拡大したものです。よくご覧いただくと、木の表面が縦にギザギザに剥がれたり擦れているのがお分かりになるのではないでしょうか。なんだか痛々しいようすです。実は、この痕はワニを釣り上げる際に付けられたものと推測されます。イメージを膨らませるならば、大あばれするワニを引き上げる際にできた傷かもしれません。作品がどのように使われたものかを考え、じっくり観察すると、色々な状況証拠が残っています。そんな魅力がたくさん隠れているのも民族作品ならでは、と思います。
触らなくても楽しめる質感、いかがでしょうか。

ワニ釣針 ワニ釣針
ワニ釣針 メラネシア、ニューブリテン島 19世紀後半 (吉島辰寧氏寄贈)


ヒントその3:異なる時代、地域の作品を比べて楽しむ
次の写真は今回展示している木製の仮面です。メラネシアに属するパプアニューギニアの作品です。木を刳りぬいて作っています。アーモンド形をした面長の顔に楕円形の目。口元は笑っているようにも見え、何もよりも鉤鼻をした大きな鼻が印象的です。

精霊の仮面
精霊の仮面  メラネシア、ニューギニア島北東部 20世紀初頭 (藤川政次郎氏寄贈)

一方、下の作品は、日本の縄文時代後期の土面です。丸い顔にややつり上がった目。粘土を貼り付けて眉を盛り上げています。丸い鼻とぽっかり空いたような口があどけない印象を与えていますが、見方によってはすごみを効かせた表情にもみえます。こちらの土面は企画展示室の隣にある平成館考古展示室に展示してあります。材質、顔の構成部分、表情など、比べてみると、似ているところ、異なるところがまだまだ沢山ありそうです。こうしたお面をつけて一体どのような衣装で踊っていたのでしょうか。

土面
土面 縄文時代(後期)・前2000~前1000年 長野県松本市波田上波田出土 (徳川頼貞氏寄贈)  ※平成館考古展示室で展示中


さて、次の写真はアプークと呼ばれるパラオ諸島の木製のうつわです。舟形に刳りぬいて、両端の耳の部分には貝殻の象嵌が施されています。その下はアイヌの木器です。本館16室に展示されています。向かって左側の作品は舟形をしていてアプークと形は似ています。アプークのような貝殻の模様はありませんが、アプークよりも深めに作られており、汁物を盛り付ける容器としても使えそうです。赤道に近い熱帯と、冷涼な北海道という環境が全く異なりながらも、似たような物質文化が育まれたことが不思議だとは思いませんか? 器にどのようなものが盛り付けられたか考えながら眺めてみてください。


食器(アプーク) 19世紀後半~20世紀初頭、ココヤシ匙 19世紀後半~20世紀初頭 (いずれも柴田定次郎氏寄贈)


椀 樺太アイヌ19世紀 (徳川頼貞氏寄贈) ※本館16室にて2016年12月18日(日)まで展示中


足早ではありましたが、いかがだったでしょうか。日本とは自然環境も文化も異なる、はるか南太平洋の民族作品ではありますが、見方をちょっと変えるだけで作品が色々と語りかけてくれます。また、本館、東洋館、平成館考古展示室をはじめ、似ている他の分野の作品を探し歩くのもトーハクならではの楽しみ方かと思います。
民族作品をより身近に感じて頂く際の何かのヒントになれば幸いです。何かと気忙しい年末に、ちょっと一息ついてみませんか。


 

カテゴリ:研究員のイチオシ特集・特別公開

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posted by 井出浩正(考古室研究員) at 2016年12月09日 (金)