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1089ブログ

日本人の大好きな桜、さくら、サクラ、咲く。

中国や朝鮮半島では、「花」といえば「梅」「桃」をまずイメージしてきたようですが、私たち日本人にとって「花」といえば、何といっても「桜」でしょう。今でもそうですし、いにしえよりそうでした。

たとえば百人一首に選ばれた有名な和歌。
入道前太政大臣こと藤原公経(1171~1244)が詠んだ「花さそふ 嵐の庭の 雪ならで  ふりゆくものは 我が身なりけり」(花をさそって散らす嵐の吹く庭には、雪のような桜吹雪が舞っているが、本当に古りゆくものは、雪ではなくわが身であったなあ)
あるいは、平安朝のあの小野小町が詠んだ「花の色は うつりにけりな いたづらに  わが身世にふる ながめせしまに」(桜の花はむなしく色あせてしまった。長雨が降っていた間に。私の容姿もむなしく衰えてしまった。日々の暮らしの中で、もの思いしていた間に)
これらの和歌では、「花」というだけで桜を意味しています。

一方、今。
皆さんのお財布を開けていただくと、千円札の表裏のあちこちや百円玉の表(豆知識:年号のある方が裏なのだそうです)には桜の花がデザインされていることが確かめられるでしょう。日本の象徴としての「桜」。私たちは桜とともに毎日生活しているのです。カラオケに行けば、「サクラ」ソングはたくさん歌えますが、「梅」や「桃」のナンバーを見つけるのは難しいかもしれません。
これは余談でした。

私たち日本人が「桜」が大好きなのは、どうしてなんでしょう。

ひとつには、「白」という色への愛好があるからではないでしょうか。千円札の裏にも描かれた「富士山」(祝、世界遺産登録!)も、雪をまとった白い山のイメージでした。日本の芸術・美術の特質の一つとしても捉えられている「雪月花」は、どれも白い色です。単純明快、シンプルなその姿という共通点もあるでしょう。

もうひとつの理由。服部嵐雪の有名な俳句「梅一輪一輪ほどの暖かさ」がしめすように、梅は少しずつ花を開いていき、けっこう長い期間、楽しめます。これに対して桜は、パッと一気に咲きます。けれども、楽しめる期間は限られていて、先にあげた和歌にも詠われていましたが、風に吹かれて、まるで吹雪のように舞い、一気に散ってしまいます。その変化の派手さ、いさぎよさ、それがゆえのはかなさが、好まれてきたのではないでしょうか。

今年も当館では、3月18日(火)から4月13日(日)まで「博物館でお花見を」と題して、皆さんのお越しをお待ちしています。

近世絵画では、住吉派(住吉如慶、具慶)や狩野派(狩野主信、養信、永敬、永岳)などが描いた優品を出品。それぞれの作品には、満開の桜や舞う花びらが描かれています。描かれた桜をみると、白い絵の具がふんだんに使われ、画面の中で際立ち、輝いています。


源氏物語絵合・胡蝶図屏風
(左)源氏物語絵合・胡蝶図屏風の展示風景 (右)桜の花は皆こちらを向いています。

たとえば狩野晴川養信(1796~1846)の「源氏物語絵合・胡蝶図屏風」(4月20日(日)まで本館8室にて展示)の画面には、金地に美しい緑や青、赤などの濃い色彩が乱舞していますが、そのなかで純白の桜の花が、ひときわ輝いています。一歩近づいてご覧いただくと、桜のひとつひとつの花が皆こちらを向いていることに気づかれるでしょう。桜の花が、まるで旅行のときの集合写真のように「カメラ目線!」なのです。これを「装飾的」といってしまえば、それまでですが、現実に咲く桜を見上げたときのように、斜めや裏側など、いろんな向きに描かれたとしたら、ずいぶんと華やかさが失われるのではないでしょうか。桜の華やかさの演出、そのために絵師が選んだ描き方、そのようにみる方が作品の魅力をつかまえられるのではないかと思います。


「花より団子」の私ですが、春はやはり花で楽しみたいものです。外でも展示室でも。
そういえば、お団子も白いですね。
 


「博物館でお花見を」関連展示
本館日本ギャラリー 桜めぐり
会期中(3月18日(火)~4月13日(日))、桜をモチーフにした作品には桜のマークがつけられています。
スタンプラリーも実施しますので、展示室で桜を探してみてください。

 

カテゴリ:研究員のイチオシ博物館でお花見を

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posted by 山下善也(絵画・彫刻室主任研究員) at 2014年03月10日 (月)