このページの本文へ移動

1089ブログ

ようこそ日本へ!「清明上河図」!前編

清明上河図」が、はじめて中国を離れ、ここ日本で特別展「北京故宮博物院200選」(~2012年2月19日)にて公開されています。2012年1月24日(火)までの限定公開です。今回はこの魅力あふれる中国絵画史上の傑作について前後編2回に渡ってお話したいと思います。
(以下、作品の掲載画像はすべて、[一級文物] 清明上河図巻(せいめいじょうかずかん)(部分)
張択端(ちょうたくたん)筆 北宋時代・12世紀 中国・故宮博物院蔵
[展示期間:2012年1月2日(月・休)~24日(火)])

私がはじめて「清明上河図」を見たのは、1999年、建国50周年を記念して開かれた故宮博物院の大展覧会でした。当時は太和殿の西回廊が絵画展示室となっており、まだ大学院に入りたての私は、先生につれられて初めて北京に赴きました。初めての中国、初めての北京で、紫禁城の巨大な空間に驚き、行けども行けども尽きない金色の瓦に圧倒されました。
私たちの見学旅行は12日の行程で10日間毎日故宮に通い、ギャラリーで作品を見るというものでした。先生方は作品を見始めると、一つの作品の前からまったく動きません。2日も3日も同じ場所で同じ作品を見ています。何をそんなに見ているんだろう、当時の僕はそう思っていました。ところが、やはりしっかりと見ないと中国の絵画作品はよくわからないのです。


たとえば、「清明上河図」には、橋の上から下をのぞきこんでいる人々が描かれています。

赤い円で囲った辺りを見つめているようです。何があるのでしょうか?

一見すると何気なく水面をながめているようにみえますが、実はよくみると、水の中には魚が泳ぐ姿が淡墨で描かれており、人々はこの魚を見ていたのです。この時私は初めてこのことを教えてもらいましたが、ガラスケースの向こうに魚の姿が見えたとき、背筋に寒いものさえ感じました。日本の絵画とはまったく違う世界がここにあるんだ、ということがわかったからです。


淡墨で描かれた魚群


宋代は中国絵画の写実表現が最高峰に達した時代でした。宋画に“いいかげんな”描写はありません。何を見ているのか、何をしているのか、画家はすべてを計算して描いているのが、宋代絵画の特質です。「清明上河図」は、私に中国絵画の画技のすごさを教えてくれた作品でもありました。


(実寸は約5センチ)
この船の細密描写!ロープや板の一枚一枚まで描かれます。


(実寸は約2センチ)
「おいおい何してるんだぃ、ぶつかっちまうよ!」声まで聞こえてきそうな描写です。


(実寸は約2,5センチ)
船に渡された板を渡る人。いかにも、「おっとっと(汗)」って感じです。うまい!


(実寸は約3センチ)
「あれ、ちょっと上司にあっちゃったかな。まずいな…」って場面でしょうか。



私が二度目に「清明上河図」を見たのは、南京師範大学美術学院に留学中の2002年のことです。「晋唐宋元書画国宝展」と題されたこの大展覧会は、故宮、遼寧省博物館、上海博物館の名品が一堂に会した、まさに画期的大展覧会でした。この千載一遇のチャンスを逃すまいと、南京師範大学からも特別バスが出て、私を含む学生たちは大挙上海へと赴きました。この時は「清明上河図」を見るための4時間待ち、5時間待ちの行列が深夜に至るまで延々と続き、「清明上河図」が中国の人々の心に占める比重の大きさに圧倒されました。私も「清明上河図」を見たい一心で、毎朝4時から列に並んだ一人です。同じことは、2004年の遼寧省博物館でも繰り返されました。まさに、中国人の「心の絵」といってもよい作品が「清明上河図」なのです。


北京・首都空港では巨大な清明上河図が飾られています。

(後編も近日公開予定です。お楽しみに!)

カテゴリ:研究員のイチオシ2011年度の特別展

| 記事URL |

posted by 塚本麿充(東洋室) at 2012年01月02日 (月)