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「空海と密教美術」展の楽しみ方  シリーズ(2)-1 絵画

密教美術初心者代表・広報室員が、専門の研究員に直撃取材する『「空海と密教美術」展の楽しみ方』。
第2回目のテーマは「絵画」です。今回は、絵画が専門の沖松健次郎研究員にインタビューしました。


『貴重づくしの高雄曼荼羅』

密教美術におけるキーワード、「曼荼羅」。ジュニアガイド「曼荼羅って何だろう」によると、「集まったもの」「満ち足りていること」「聖なる空間」などの意味があるそうです。今回ご紹介する国宝「両界曼荼羅図(高雄曼荼羅)」(作品No.41)は、胎蔵界(展示期間終了)と金剛界(展示期間:展示中~8月15日(月))の2枚がセットになった両界曼荼羅。大日如来を中心とする密教の宇宙を表しています。

広報(以下K):この作品は、見られる機会がほとんどないとうかがいましたが。
 

国宝 両界曼荼羅図(高雄曼荼羅)金剛界
沖松(以下O):そうです、関東で見られる機会は今後ないのではないでしょうか。
一つには場所の問題があります。サイズが約4m×4mと大きいため、天井が高くてそれなりの設備がある会場でなければ掛けることが出来ません。
もう一つは保存状態の問題です。とても繊細でもろいため、そうそう出すことが出来ません。今回は特別に許可をいただき、出品がかないました。

K:そんなに貴重な展示だったとは!心して拝見いたします。
となると、輸送にも相当気をつかったのではないですか?

O:もちろんです。今回は輸送用に二重の箱をつくりました。
まず外箱は、木箱の中にアートソーブ(調湿機能を持つ緩衝剤)を入れ、湿度を一定に保てる環境をつくります。次に、トライウォール(板ダンボールを強化したもの)で内箱をつくり、海外輸送時にも用いられるアルミシート(防湿用)を内側に貼ります。二重構造で完全装備。最上級に気を使った輸送です。縦横約 4mの軸ですから、重さもかなりのものです。

K:そんな苦労があったなんて知りませんでした。こうして目の前で拝見できるのは有難いことですね。


『綾地に輝く金銀泥』

K:両界曼荼羅図は、どのような時に使われたのですか?

O:灌頂と呼ばれる重要な儀式などの時だけ、堂内の壇の左右に掛けられました。灯明の明かりのもとで見るので、より神秘的な感じがしたことでしょう。

K:儀式の時だけですか…。確かに前に立つと、厳かな雰囲気に圧倒されます。
しかし…、「よく見えなくて分からないわ」という声が会場内から聞こえてきました。近づいてみるとうっすらと仏様のお姿が見えるのですが、確かにはっきりと見ることは出来ません。
どのようなところに注目したら良いのでしょうか。

国宝 両界曼荼羅図(高雄曼荼羅)アップ

O:これは、文様を織り出した絹の綾地の上に、金銀泥と呼ばれる金と銀の絵の具で描かれています。現在では、銀色は酸化してしまってほとんど見えません。
綾地とは、生地の織り目が斜めに走っている織物のことで、ツイードやデニムなどと同じ織り方です。でこぼこした綾地の上に描くと、筆の引っかかりが大きく、滑らかな線を引くのは相当難しいといわれます。濃い目の金泥でなめらかな線を描けたということは、よほど技術があった人が描いたのだろうと思います。

また、金泥の線にご注目ください。箔のような光沢がありますよね。純度が高く厚塗りをしたものをさらに磨いているのでしょう。磨くだけでも大きな手間です。

もうひとつ。高雄曼荼羅は、空海が中国から持ち帰った曼荼羅図あるいはその1回目の転写本をお手本にして写していると考えられるため、唐の宮廷画家が描いた原本にとても近い図だろうと言われています。唐代の画壇の優れた画風を現代に伝える作品としても、非常に価値の高いものなのです。

(インタビューは後半は近日公開します。どうぞお楽しみに)
 

カテゴリ:研究員のイチオシnews2011年度の特別展

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posted by 小島佳(広報室) at 2011年08月12日 (金)