東博のスリーピング・ビューティー 東洋の民族資料 特集「フォルモサ(美しき島)の豊かな暮らし」その1
現在、平成館の企画展示室では、特集「フォルモサ(美しき島)の豊かな暮らし」―台湾の原住民族の資料―(2026年3月10日(火) ~ 2026年5月31日(日))を開催中です。「東博には何度も行ってるけど、こういう展示や資料は初めて見た」という感想もいただいています。
本ブログでは、本展への想いと現地調査について、担当研究員によるリレー形式でお届けします。

特集「フォルモサ(美しき島)の豊かな暮らし 台湾の原住民族の資料」の展示風景
民族ごとに器物や衣服を陳列し、それぞれの民族の居住地や住居などをパネルで紹介しています。右手のケースにはパイワン族の家屋のなかで安置する祖霊像、左手のケースにはパイワン族の首長が着用する雲豹(うんぴょう)の毛皮の服がみえます。
東博には、平素より「東洋民族」という分野の展示があります。場所は東洋館の地下の一番奥で、展示ケースはひとつきりです。そこでは台湾の原住民族の資料だけでなく、インドネシアのワヤンという人形や、クリスという短剣、南太平洋の民族資料などを代わりばんこに展示しています。
念のために申しますと、展示場所が小さいという不満を漏らしているわけではありません。展示ケースはひとつだけですが、かつては民族資料を紹介する場所さえなかった時期もありました。もともと東博の所蔵品のなかでも、民族資料は規模が小さいので、それに応じた展示場所の広さだともいえましょう。大切なのは、小さくとも展示場所があるということです。

東洋館地下にある東洋の民族資料の展示
現在は「南太平洋の生活文化」というテーマでオセアニア地域の民族資料を展示しています(東洋館13室、2026年6月21日(日)まで)。ここで台湾の民族資料を展示することもあります。過去のブログでも、パプアニューギニアでの調査やタオ族の文化などについて紹介をしてきました。
パプアニューギニアでの調査 (2016年11月16日付ブログ「南太平洋の生活文化」 へ移動)
タオ族の文化 (2024年10月23日付ブログ「世代を重ねるおしゃれ タオ族の胸飾」へ移動)
東洋の民族資料については、まだまだ未整理のところがあり、きちんと調べてからでないと展示できない事情があります。ビジネス用語で「スリーピング・ビューティー(眠れる美女)」という「眠ったままになっている素晴らしい資産」を指す言葉がありますが、そういった状態の作品たちを目覚めさせるためには相応の準備が必要になります。台湾の原住民族の資料については、ここ数年ほど、日本や台湾の研究者、そして現地の方々にも教わりながら、同僚たちと一緒に調査を進めてきたのですが、その成果を生かして、いつもより大きな規模で展示したのが、このたびの特集です。

台湾の角板山(かくはんざん)での伝統的な工芸技術に関する調査(鄭光博氏撮影)
タイヤル族の伝統的な工芸技術の伝承者の方から苧麻(カラムシ)の繊維の採取について指導を受けました。左から伝統工芸保存者のユリ・アバウさん、一人おいて、東博の研究員 猪熊兼樹(筆者)、福島修、廣谷妃夏。

台湾東部の花蓮にある祖霊屋での調査
アミ族の祖霊を祭るカキタアンという建物のなかで、伝統的な生活様式や信仰について取材を行いました。屋内には、祖霊の姿を浮き彫りした像が安置されています。

台湾南東沖の蘭嶼(らんしょ)という島での調査
蘭嶼には海洋民族のタオ族が暮らしています。その船は両端が反り上がり、白・赤・黒で彩られる独特な形状です。船の工房で製造工程を見学したのち、実際に海上に出て、その操作法や機能性について教わりました。左から大野颯真さん(東華大学)、一人おいて、東博の研究員 廣谷妃夏。
東博の展示には、日本やアジア地域の素晴らしい美術品や考古資料が多数ならび、皆様がよくご存知の名品も少なくありません。そのようななかで東洋の民族資料の展示というのは、あるいは珍しく見えるかもしれませんが、だからこそ東博の展示に多面性を与えるように思っています。宝石を輝かせるには、カットを加えながら大小の面(ファセット)から構成される多面体を作り出して、光の反射を増幅させてゆきますが、展示についても、大小さまざまな内容があることで、来館者の皆様に多様な楽しみを提供できると考えています。これからもブリリアントな東博をお見せできるように、頭をめぐらせたいと思います。
ゆりの木の花咲く季節に、ひととき、お目覚め中のフォルモサの民族資料たちに会いにいらっしゃいませんか?
パンフレットPDFをひらく
特集「フォルモサ(美しき島)の豊かな暮らし」―台湾の原住民族の資料―は2026年5月31日(日)まで、金曜日・土曜日は20時まで(入館は19時30分まで)夜間開館を実施しています。
台湾の原住民族の多彩で豊かな生活様式を伝える資料を、ぜひ会場でご覧ください。
| 記事URL |
posted by 猪熊 兼樹(調査研究課長) at 2026年05月07日 (木)
特別企画「韓国美術の玉手箱」その3 祈りの造形が伝える、高麗王妃の生きた証




オン(om)
二(ni)
カテゴリ:特別企画
| 記事URL |
posted by 玉城真紀子(海外展室研究員) at 2026年04月02日 (木)
特別企画「韓国美術の玉手箱」その2 高貴なる美意識の結晶、高麗青磁
現在開催中の日韓国交正常化60周年記念 特別企画「韓国美術の玉手箱―国立中央博物館の所蔵品を迎えて―」(4月5日まで開催中)は、大きく高麗時代と朝鮮時代の2つの章から構成されています。
今回は、工芸を担当する三笠より、第1章「高麗――美と信仰」でご覧いただける韓国国立中央博物館所蔵の金銀器と高麗青磁の魅力について紹介いたします。

第1章「高麗――美と信仰」展示風景
高麗時代(918~1392)は、中国の影響を受けながら、独自の仏教文化を開花させました。それに裏づけられたハイセンスな高麗の上流階級者たちを魅了したのが、金銀器と青磁のうつわです。高麗では仏教信仰を礎に金属工芸が大きく発展したといわれていますが、金属は後世に鋳直すことが多いため、伝世品はきわめて稀少です。
なかでも上質な金銀器は日本ではなかなか目にすることはできないと思います。今回、韓国国立中央博物館から高麗の王族や貴族たちが手にした、たいへん貴重な作品をお借りすることができました。花びらをかたどり、うつわの内外に細かな装飾を刻んだ皿や盃に、当時の人びとの洗練された暮らしの一端をみることができるでしょう。



カテゴリ:特別企画
| 記事URL |
posted by 三笠景子(東洋室長) at 2026年03月31日 (火)
特別企画「韓国美術の玉手箱」その1 ソウルで感じた、日本美術への深き理解
2月10日(火)より当館本館で開催中の特別企画「日韓国交正常化60周年記念 韓国美術の玉手箱― 国立中央博物館の所蔵品をむかえて―」(4月5日まで開催中)では韓国国立中央博物館より日本初公開の作品15件を含む所蔵品17件をご出品いただき、当館所蔵作品とともに展示しています。
韓国の歴史と文化をお伝えする本展に先立ち、日韓国交正常化から60年をむかえた昨年2025年には韓国国立中央博物館の常設展示ホール3階306号室において、「日本美術のとびらー四つのまなざし」(以下、「日本美術のとびら」)が6月17日(火)~8月10日(日)まで開催されました。
注)「日本美術のとびら」はすでに展示が終了しています

韓国国立中央博物館 外観
韓国国立中央博物館は、ソウル特別市の中央部、漢江北岸の龍山(ヨンサン)区龍山公園の最南端に位置する、世界でも有数の規模を誇る博物館です。
当館とは長年にわたり、両国の歴史と文化への理解を深めるために緊密な交流をしています。
「日本美術のとびら」では、韓国の皆様に日本美術に親しんでいただくことを目的として、当館と韓国国立中央博物館がそれぞれの所蔵品の中から厳選した合計62件の作品を展示しました。
当館からは重要文化財「小袖 白綾地秋草模様(冬木小袖)」をはじめとする名品、「武蔵野図屛風」などの日本の情景を伝える絵画作品、重要文化財「一重口水指 銘 柴庵」といった独自の美意識を示す茶道具、また重要文化財「能面 曲見」などの伝統芸能に息づく造形美を表す作品など40件を出品しました。
韓国国立中央博物館 特別展「日本美術のとびらー四つのまなざし」展示会場入り口(現在は展示が終了しています)
展示は韓国国立中央博物館のチームが主となり、日本美術に内在する本質的な特徴と美意識を感じ取っていただくことを意図して、4つの視点から日本美術を眺める構成がとられました。
前半2章で装飾性と非装飾性という外形的な2つの視点、後半2章では内面的・情緒的な視点と大きく2つの視点から日本美術を眺め、更にそれぞれの視点の中で対照的な2つの視点に分ける4章構成で企画されます。
「日本美術のとびら」第1章「飾りの情熱」展示風景
「日本美術のとびら」第2章「抑制の追求」展示風景
まず第1章は「飾りの情熱」として、美に対する理想を色や形をもって象徴的に表現しようとする装飾性の視点から、縄文時代の土器からはじまり有田焼、鍋島焼の色絵陶磁器、料紙が美しい近世の書作品、華やかな彩色と形態が目を引く屏風絵などが展示され、つづく第2章では「抑制の追求」として、物の本質を追求するために装飾をそぎ落とし必要最小限まで絞りこんでいく非装飾性の視点から、井戸茶碗や黒楽茶碗といった茶道に関する作品が展示されました。
「日本美術のとびら」第3章「はかなさの美」展示風景
「日本美術のとびら」第4章「遊びの美学」展示風景
第3章は「はかなさの美」として、自然の繊細な移ろいに対する感動を表す「あわれ」の視点から、秋草などの植物をモチーフにした作品や、能面、能衣装が展示され、第4章では「遊びの美学」として、愉快で機知に富んだ美的感覚を表す「あそび」の視点から、狂言面、浮世絵などが展示されました。
どの章においても、テーマ設定の仕方と作品の選定、展示空間の設計や演出手法において、日本美術への深い理解と敬意が感じられるとても素晴らしいものでした。現地でも非常に良い展覧会として好評を博したと伺っています。
さらに、同展覧会で私が特に感心したのは、展覧会のポスターデザインです。
全体としては、白地に金で桔梗や女郎花、ススキ、菊といった秋草をポスターのほぼ全面に大きくあしらい、その草むらの中に見え隠れしながら、黒の細い直線と、漆工品の蒔絵をイメージしたであろう黒と金の配色で〇や△、▢にデザイン化されたハングル特有の文字の構成要素によって表された「日本美術」の文字がリズミカルに配された瀟洒でスタイリッシュなデザインとなっています。



カテゴリ:特別企画
| 記事URL |
posted by 沖松健次郎(列品管理課長) at 2026年03月23日 (月)
「明末清初の書画」のたのしみかた、その3 いびつな形の裏側に
年明けに開幕した東京国立博物館(以下「東博」)と台東区立書道博物館(以下「書道博」)の連携企画「明末清初の書画」は、2月10日(火)より後期展示がはじまり、気付けば閉幕まであとわずかとなりました(3月22日(日)まで)。









本展の公式図録をミュージアムショップで販売しています。
明末清初の書画 ―乱世にみる夢― 八大山人 生誕四百年記念編集:台東区立書道博物館
編集協力:東京国立博物館、九州国立博物館
発行:公益財団法人 台東区芸術文化財団
制作・印刷:大協印刷株式会社
定価:1,900円(税込)
カテゴリ:研究員のイチオシ、中国の絵画・書跡、「明末清初の書画」
| 記事URL |
posted by 六人部克典(平常展調整室主任研究員) at 2026年03月17日 (火)