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1089ブログ

中国絵画にLOVEをみつけよう!

現在、東洋館では「博物館でアジアの旅 LOVE♡アジア(ラブラブアジア)」(~10月14日(月・祝))が開催中です。
「中国の絵画 高士と佳人―18から19世紀の人物画と肖像画」(~10月27日(日))が展示されている東洋館8室でも、LOVEを探してみましょう。


東洋館8室「中国の絵画」会場風景

中国では悠久の歴史の中で、さまざまな恋物語が語られてきました。
そして画家たちは、これらの物語にインスピレーションを得て、次々と魅力的な作品を生み出してきたのです。

例えば、三国志に登場する貴公子、曹植(そうしょく/192~232)の文学作品『洛神賦(らくしんふ)』は、古くから何度も絵画化されてきた恋物語です。

曹植は、魏の曹操(そうそう/155~220)の息子で、優れた詩人として知られています。
都から帰る途中、華北地方を流れる洛水(らくすい)のほとりで、川の女神に出会った曹植は一目で恋におちます。

『洛神賦』は、女神の美しさ、二人の間に育まれる愛、そして「心はとこしえにあなたを想っています」との言葉を残して、女神が天上に去っていくまでを、流麗な文章でうたいあげています。
一説に、この女神のモデルは、曹植が恋焦がれていた、兄・曹丕(そうひ/187~226)の妻であったといいます。


洛神女図扇面 顧洛筆 清時代・18~19世紀

顧洛(こらく/1763~1837頃)は、杭州(浙江省)の画家で、美人図を得意としたといいます。
この扇面では、風に衣をたなびかせながら、波立つ水面の上に浮き、蠱惑的な笑みを浮かべる洛水の女神を描きます。

   

髪や耳の華麗な装飾、唇に点じられたつややかな紅など、細部まで非常に丁寧に表わされています。
『洛神賦』が、「朝もやに昇る太陽」「波間に咲く蓮」にたとえるような、曹植を虜にした女神の魅力が伝わってきます。

下って南宋時代、12世紀には、姜夔(きょうき)と小紅(しょうこう)の物語が知られています。
姜夔は、詩体の一種である詞と、笛のような楽器である簫(しょう)の名手として有名な文人でした。
美貌の歌妓(かぎ)、小紅を寵愛しており、詞を作ると彼女に歌わせ、自ら簫を吹いて伴奏するのが常であったと、仲睦まじい様子が伝わっています。

晩年、困窮した姜夔は、小紅のためを思って、しかるべき相手に彼女を嫁がせたようです。
姜夔が亡くなり、馬塍(ばしょう)という花の名所に葬られると、彼の友人が「もし小紅がここにいたら、嘆き悲しんで、馬塍の花をことごとく散らせてしまっただろう」と追悼の言葉を述べています。


春水吹簫図扇面 諸炘筆 清時代・乾隆48年(1783)

諸炘(しょきん)も杭州の画家で、18世紀ころに活躍しました。
姜夔と小紅の故事になぞらえたとして、春のうららかな一日、舟上で簫を奏でる青年と、その音に耳を傾けている乙女を描きます。

 

桃の花が咲き乱れ、思わず召使の子供がうたたねしてしまうような気候の、まさにデート日和。
簫をギターに持ちかえれば、現代日本の公園でもみられる光景かもしれません。
ひな人形のような、愛らしく上品な顔立ちがほほえましい作品です。

この他にも東洋館8室には、「LOVE♡アジア」にちなんだ作品が並んでいます。
この機会にぜひ、中国の絵画・書跡の中に、LOVEをみつけてみてください。

カテゴリ:研究員のイチオシ中国の絵画・書跡博物館でアジアの旅

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posted by 植松瑞希(出版企画室研究員) at 2019年10月04日 (金)

 

「愛」を探して、博物館でアジアの旅!

朝晩はひんやりとした風が心地よく、虫の声が秋の訪れを感じさせる今日この頃。
トーハクでは、秋の恒例企画「博物館でアジアの旅」を絶賛開催中です。皆様、もうお越しいただけましたか?



会場はトーハクの東洋館。ここではアジア各地の美術品や考古遺物を展示しています。
東洋美術ファンはもちろん、「いつも特別展を見るだけで手一杯」、「そもそも『東洋館』ってどこにあるの…?」という方にも、ぜひこの機会に足をお運びいただきたい場所です。


正門から入り、本館を前にして、右手に見えるこの建物が「東洋館」です。

「博物館でアジアの旅」では、毎年さまざまなテーマのもと、アジアの名品をご紹介してきました。
今年のテーマは「愛」! 「LOVE♡アジア(ラブラブアジア)」というタイトルのとおり、愛を題材にした多彩な作品を展示しています。


東洋館の入口でも、韓国語の「サラン」やギリシャ語の「エロス」など、「愛」を表す言葉が皆様をお出迎え。


東洋館の中はこんな感じ! フロアが複雑に入り組んでいます。

館内に足を踏み入れて、「『LOVE♡アジア』の展示室はどこだろう?」と戸惑う方がいらっしゃるかもしれません。
実は、作品が特定のスペースに集合しておらず、館内のあちらこちらに点在しているのが、「博物館でアジアの旅」の醍醐味。
まさにアジア諸国を旅するような気分で、東洋館の各フロアをのんびり散策しながら楽しんでいただきたい企画なのです。
「愛」にちなんだ作品全39件を探して館内をめぐるうち、思いもよらないところで、新たなお気に入りの一品に出会えるかも?


このピンクの札が、「LOVE♡アジア」関連作品の目印です。

どんな作品が皆様をお待ちしているか、少しだけお見せしましょう。


花鳥図屛風 朝鮮 朝鮮時代・19世紀 小倉コレクション保存会寄贈

最上階の10室に展示しているのが、こちらの屛風。
可愛い鳥たちとともに、石榴(ざくろ)や牡丹(ぼたん)などの植物が表されています。
目にもラブラブなつがいの鳥は、夫婦円満の象徴。
さらにこれらの植物は、富貴や長生きなど、おめでたい意味を持つのだとか。



「屛風」と聞くと絵画を連想するかもしれませんが、この作品は刺繡で表現されているのも見どころです。
繊細な仕上がりは、思わずため息が出そうなほど。
こうした華やかな屛風は、朝鮮時代、新婚の高貴な女性に贈られたものと考えられています。


草葉文鏡 中国 前漢時代・前2世紀

対してこちらの鏡は、ぱっと見た限りではラブラブ感が皆無……。
けれど実は、「見日之光長毋相忘(日の光あらわる。長く相忘るることなかれ)」という、君主と臣下、あるいは男女が互いを末永く大切に想うことを願う銘文が施されています。
言い回しは難しいけれど、私たち現代人も共感できるメッセージに、少し親近感が湧いてきませんか?

そして、「LOVE♡アジア」関連作品をより深く知ることができるイベントもお見逃しなく!
明日28日(土)は、月例講演会「アジア美術に見える愛の表現」を開催。
また、ボランティアによるさまざまなガイドツアーも実施しています。
*ガイドツアーの日程はこちらをご参照ください。

さらに、研究員が「愛」をキーワードにご案内するスペシャルツアー「愛を探す旅 ―添乗員はトーハク研究員―」もおすすめです。
開幕初日に行われた第1回「工芸に表現された愛」では、たくさんの方にご参加いただきました。


展示の見どころを熱くお伝えする三笠主任研究員(左)と小野塚研究員(右)


TNM&TOPPANミュージアムシアターでワヤン・クリについて解説した猪熊特別展室長。シャツの柄にもご注目を!

スペシャルツアー第2回「絵画に表現された愛」は10月8日(火)に開催します。
事前のお申込みは不要! 当日ふらっと参加できるので、お気軽にお立ち寄りください。

博物館でアジアの旅 LOVE♡アジア」は、10月14日(月・祝)まで。
いろいろな愛のかたちを探しに、この秋はぜひトーハク東洋館へ!

カテゴリ:催し物博物館でアジアの旅

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posted by 新井千尋(広報室) at 2019年09月27日 (金)

 

トーハクにいる3羽の共命鳥

現在、東洋館で開催している「博物館でアジアの旅 LOVE♡アジア(ラブラブアジア)」(10月14日(月・祝)まで)。愛をテーマにしたさまざまな作品を展示している本企画から、今回は共命鳥についてご紹介します。



共命鳥(ぐみょうちょう)は人の頭をふたつもった想像上の鳥です。

『阿弥陀経(あみだきょう)』には、共命鳥がクジャクやオウムなどとともに極楽浄土に棲み、妙なる声でさえずると記されています。

また『雑宝蔵経(ぞうほうぞうきょう)』では、ふたつある頭のうちの一方がおいしい果実を食べて満腹になったことに、もう一方が嫉妬し、その腹いせに毒の入った果実を食べてしまいます。ついにはともに死んでしまうのです。
この物語は、身体がひとつなのに、頭がふたつあるゆえに生じる感覚や思いの食い違いがさまざまな葛藤や愛憎を惹(ひ)き起こし、やがてわが身を滅ぼすという悲しい結末へと至ります。
そして物語の最後では、おいしい果実を食べた頭が仏陀、毒の入った果実を食べた頭が仏陀と敵対する弟となったと結び、仏教における因果(いんが)がめぐったことを説いています。

このように共命鳥は不思議な姿をし、そして愛憎劇ともいえる不思議なエピソードをもつ鳥として、人々に理解されてきました。
実は、『西遊記』の三蔵法師として知られる玄奘(げんじょう)も『大唐西域記』の中でネパールのヒマラヤ山脈に共命鳥がいたと記しています。玄奘はインドへ仏教経典を取りに行く途中、共命鳥を目撃したのでしょうか。

そんな共命鳥が、トーハクには3羽もいます。


重要文化財 如来三尊仏龕(にょらいさんぞんぶつがん) 中国陝西省西安宝慶寺 唐時代・8世紀

まず1羽は如来三尊仏龕の上部に彫り出された浮彫で、東洋館1階1室の「宝慶寺石仏群」のコーナーにいます。


如来三尊仏龕の上部中央に表わされた共命鳥

これは現在、片方の頭が欠損しているものの、一般的な共命鳥の姿です。ふたつの顔には男女の区別がありません。共命鳥が天空を飛ぶ姿を浮彫に表現したと考えられます。共命鳥を仏龕の上部に表わした例はこの作品のほかになく、たいへん貴重です。

そして残りの2羽は大谷探検隊が将来したテラコッタ製の共命鳥像で、いずれも東洋館2階3室の「西域の美術」のコーナーにいます。

そのうちの1羽は男の顔をもつ鳥と女の顔をもつ鳥が互いに肩を組み、合掌(がっしょう)していたと考えられます。本来の共命鳥像のように身体がひとつでもありません。ただ頭に光背(こうはい)を表わしているので、仏教の尊像であったと考えられます。


共命鳥像 中国、ヨートカン 5世紀 大谷探検隊将来品

もう1羽は人面をもつ鳥ひと組がくっついた姿をしているようです。


共命鳥像 中国、ヨートカン 1~4世紀 大谷探検隊将来品


東洋館3室にある、「テラコッタ小像及破片」を展示したこちらのケース右下にご注目ください。

これらは如来三尊仏龕に表現された共命鳥と、まったく異なるものです。
どうやら西域には男の顔を持つ鳥、女の顔を持つ鳥がそれぞれ仲睦まじい姿に表現されることがあったようです。ただこの種の共命鳥は当館が所蔵する2点しか現存していません。その点できわめて貴重な作品であるといえます。

東洋館では「博物館でアジアの旅」を開催している間、3羽の共命鳥がそろっています。これを機会にぜひ3羽の共命鳥を探してみてください。

カテゴリ:研究員のイチオシ彫刻博物館でアジアの旅

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posted by 勝木言一郎(東洋室長) at 2019年09月24日 (火)

 

ジョグジャカルタで考えました。

こんにちは。デザイン室の神辺です。
皆さま、「博物館でアジアの旅」でジャランジャランしてますか?
※ジャランジャラン? 何?っていう人、早くジャランジャランの青い字押して!

「博物館でアジアの旅」は関連イベントも充実しています。
前半戦は 研究員のコスプレが定着しそうでしない「研究員によるスペシャルツアー」や、インドネシアの影絵芝居「ワヤン・クリ」の上演があり大盛況でした。
後半戦も、楽して健康になりたいし仏像も見たいという欲張り屋さんのための企画「気軽に椅子ヨガ in 東洋館」や月例講演会「世界無形文化遺産 バティックの世界を訪ねる」があります。
ボランティアさんのガイドツアーもアジアの旅特別バージョンになっていて必聴です。

さて、わたくし今回の「海の道 ジャランジャラン」にて展示・グラフィックを担当したのですが、展示に携わる者は現地を知っておくべきということで、先駆けてインドネシアへ取材に行ってまいりました。
わたくしにも家庭やらなんやらあるため、2泊4日(機内泊二日)の弾丸出張です。

羽田発ジャカルタ経由ジョグジャカルタ着で8時間の飛行。
ジョグジャカルタは空港の段階ですでに南国の穏やかでゆったりとした雰囲気が漂っていました。
しかもオーストラリアからの偏西風のおかげで意外に涼しかったです。


最初に訪れたのはクリス工房。


皇室へ献上するクリス制作を任されている由緒正しい工房です。


お話を伺ったモモさん。亡くなったお父様(後方額縁)は人間国宝。


制作の実演。40歳にならないと一人前の刀匠と認めてもらえないとのこと。モモさん現在37歳。


大切なクリスを作るときは身を清め、好きなものを断ったり願掛けをしたりするのだそうです。そしてベストな精神状態の時のみ制作に入ります。
インドネシアの男性の正装にも用いるクリス。クリスがインドネシアの人にとって特別な存在であることを改めて知りました。


続いてはワヤン工房。


おじいちゃんの作業場は軒下の机。


インドネシアの人は鳥好き。多くのお宅に鳥かごがかけてありました。


太陽の光のもと、使い慣れた道具で水牛の皮に細かい模様をひとつひとつ彫っていきます。ときおり鳥がさえずり、風が吹き抜けていきます。


少し離れたところでは娘さんたちがワヤンの絵付けをしています。おしゃべりに花が咲くと笑い声も聞こえます。
ドアのない隣の小部屋には天井からゆりかごが吊ってあって、赤ちゃんが寝ています。


美術品の制作地、素材、制作工程など一通りの知識を得て、その美術品のことをわかったような気がしていたけれど、美術品の奥に作り手の顔が見えると、美術品が今までとは全く別のものに見えるなぁ、などと考えたインドネシアの昼下がり。


その後、ワヤン・クリの上演、バティックの工房やダナルハティ・バティック博物館、プランバナンの遺跡も訪問しました。詳しくは猪熊小山の1089ブログで。


取材の最後に、道中を共にした運転手さんが地元の人が夕焼けを見に来るというヒンドゥー教の遺跡に連れて行ってくれました。

 
日の入りが近づくとぞろぞろと着の身着のままの人たちがいずこから集まってきて、石垣に一列に座って足をぶらんぶらんさせながら夕焼けを見ています。


人びとの顔も遺跡もそこにある全てがオレンジ色に染まっています。
夕焼けを見るための時間と場所を持つ人たち・・・。そんな日常があるインドネシアの人たちがうらやましくなりました。

そして、インドネシアの伝統工芸が持つ繊細さとおおらかさが混在する不思議な美術が、この地で生まれた理由がほんの少しわかった気がしました。

展示を通して、そんなインドネシアの美術品の魅力を堪能いただけたら幸いです。
展示室では取材で撮影した映像も流しています。作品鑑賞の合間にぜひご覧くださいませ。

 
東洋館エントランスと展示室に設置した「海の道 ジャランジャラン」のディスプレイ。
ワヤンとバティックをモチーフに秋らしい落ち着いた赤色で統一されています。
インドネシアの国旗は「半分、赤い。」ですが、アジアの旅は「全部、赤い。」です。

博物館でアジアの旅 海の道 ジャランジャラン
東洋館 2018年9月4日(火)~9月30日(日)

 

カテゴリ:研究員のイチオシ博物館でアジアの旅

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posted by 神辺知加(デザイン室主任研究員) at 2018年09月20日 (木)

 

インドネシアから始まる、インドを探る旅

彫刻担当の西木です。

「博物館でアジアの旅」、今年は「海の道 ジャランジャラン」のタイトルで、インドネシアを特集しています。
会場は東洋館の12室・13室なのですが、いつもご覧になっているお客様には「あれ? 仏像がない」と思われるかもしれません。
じつはいつも金銅仏を展示しているケースはワヤン(ブログ参照)にお譲りし、その向かいのケースにインドネシアゆかりの仏像を展示しております。


展示の様子


中央が高くなって、四方に仏像が配置されているのは偶然ではありません。
見覚えのある方もおられるでしょうか。
そう、世界遺産にも登録されている、ジャワ島のボロブドゥール寺院をイメージして展示しました。


東洋館に設置している「オアシス2 旅の案内所」より

世界の中心にあると考えられた須弥山(しゅみせん)という山岳の周囲に仏を配する発想により、壮大な寺院が建造されたのです。
そして、その頂上にいるのは、すべての仏の中心とされる大日如来です。


大日如来坐像 インドネシア 10世紀頃 [東洋館12室にて2019年5月6日まで展示中]

両手を胸の前で組み、智拳印という形を作るので、大日如来とわかります。
豪華な背もたれつきの台座に、傘蓋(さんがい)と呼ばれる傘も備わっており、いかにも高貴な人物という雰囲気を醸しています。

密教は、インドのパーラ朝時代、8世紀ごろから信仰されるようになる、仏教の考え方のひとつです。
在来のヒンドゥー教に対抗するため、顔や手足の多い異形の姿や、複雑な仏の世界観を考え出しました。
大日如来はその中心的な仏であるため、インドネシアでも当時、密教が盛んであったことが知られます。


インドの影響は仏の種類にとどまりません。
たとえば、この豪華な背もたれつきの台座ですが、モデルはインドのグプタ朝時代、5世紀ごろから見られるもので、仏の偉大さを示す調度として考案されました。


釈迦如来坐像 インド パーラ朝・9世紀 [東洋館3室にて2019年6月23日まで展示中]


釈迦如来坐像 インド・ボードガヤー パーラ朝・11~12世紀 [東洋館3室にて2019年6月23日まで展示中]

それぞれパーラ朝(8~12世紀)の仏像ですが、どちらも背もたれがついている台座に座っています。
また、衣が体にぴったりとして、肉体の美しさを誇るような表現もインドらしさです。
先に紹介したインドネシアの大日如来もそうでしたね。

じつはこうした特徴はインドネシアにとどまらず、東アジアでもインド風を示すものとして取り入れられました。


重要文化財 如来三尊仏龕(部分) 中国陝西省西安宝慶寺 唐時代・8世紀 [東洋館1室にて2019年4月7日まで展示中]


重要文化財 如来三尊仏龕(部分) 中国陝西省西安宝慶寺 唐時代・8世紀 [東洋館1室にて2019年4月7日まで展示中]

やはり台座には綺麗な布をかけたような背もたれがついていますね。
浮彫ですが、胸が盛り上がり、いかにも肉体に張りがあるようです。
2枚目の如来三尊仏龕には、怪獣のような装飾がついています。

さらに、インド風の表現はほかにもあります。
たとえば、インドネシアの仏像でも椅子に座って足を降ろした、倚像(いぞう)というスタイルの仏像が流行しましたが、これが中国にもあります。


如来倚像 インドネシア 中部ジャワ時代・8世紀頃 [東洋館12室にて2019年5月6日まで展示中]


重要文化財 如来倚像 中国山西省天龍山石窟第21窟か 唐時代・8世紀 [東洋館1室にて2019年4月7日まで展示中]

どちらも股を開いて堂々と座り、脚のラインがくっきり出るほど衣が体に密着しています。
下の像は中国・天龍山石窟からもたらされたもので、少し服装は中国化していますが、その豊満な肉体美はまさにインド風です。


もう一つだけインド風を見てみましょう。
たとえば、こんな座り方も日本では珍しいですね。いかにもくつろいだ格好です。


ジャムバラあるいはクベーラ坐像 インドネシア 中部ジャワ時代・8~9世紀 [東洋館12室にて2019年5月6日まで展示中]


菩薩坐像 インド パーラ朝・9~10世紀 [東洋館3室にて2019年6月23日まで展示中]

これは輪王坐(りんのうざ)といって、インドでは王者の座り方とされています。
とくに出家前の釈迦をモデルにした菩薩像や、神像などに採用されました。

上のインドネシア伝来の仏像は、右手にシトロンと呼ばれるレモンのような果実を持ち、左手にはマングースをモチーフにした財布を握っており、福徳の神であることがわかります。
ただ、同じような図像があり、仏教ではジャンバラ、ヒンドゥー教ではクベーラと呼んでいるため、区別するのはむずかしいです。


以上、駆け足ですが、インドネシアの仏像に見られるインド風の表現をご紹介しました。

さて、インドネシアに限らず、東アジアでもなぜこれほどインド風の表現が見られるのでしょうか。
それは、インドネシアの場合は海上交通によりインドから膨大な文物がもたらされたからです。
ワヤンで演じられる物語もインドの神話がモチーフになっていました。

また今回、中国の作品はいずれも唐時代(8世紀)のものを挙げましたが、有名な三蔵法師玄奘や、インドに派遣された使節である王玄策(おうげんさく)など、インドの文物や情報が盛んにもたらされたのがこの時代でした。
人々はそのエキゾチックな表現に魅了されたのでしょう。

もうひとつ重要なのは、インドこそ仏教のふるさとであることです。
ただそれだけの理由ですが、仏教徒にとって仏教の開祖である釈迦は永遠の憧れであり、インドこそ本来の正しい仏教が行われる土地と信じられていました。
そのため、数多の僧侶がインドへ旅し、またインドから僧侶を招いたのです。
玄奘がもてはやされたのは、インドのお経や仏像を中国に持ち帰ったからでした。
人々は競ってインド風の仏像を造り、拝んだことでしょう。

インドネシアの場合でも、ただ地理的あるいは経済的な事情だけでなく、インドスタイルで仏像を造るという背景には、そうした意味があったに違いありません。

写真で紹介したインドや東アジアの仏像はいずれも展示中で、「海の道 ジャランジャラン」のマークがついています。

さあ、インドネシアから出発して、東洋館でインドを見つける旅にまいりましょう!
 

このマークが目印です。

博物館でアジアの旅 海の道 ジャランジャラン
東洋館 2018年9月4日(火)~9月30日(日)

東南アジアの金銅像
東洋館 12室 2018年5月8日(火) ~2019年5月6日(月)

中国の仏像
東洋館 1室 2018年4月10日(火) ~2019年4月7日(日)

インド・ガンダーラの彫刻
 東洋館 3室 2018年6月26日(火) ~2019年6月23日(日)

 

カテゴリ:研究員のイチオシ彫刻博物館でアジアの旅

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posted by 西木政統(貸与特別観覧室研究員) at 2018年09月17日 (月)