本ブログでは、特別展「タイ ~仏の国の輝き~」の第2章にあたるスコータイへ皆さんをご案内します。
本展では、タイの仏教文化の歴史が最初期から現代までたどれる充実した内容となっています。各時代を通じて仏像のスタイルは様変わりしていくのですが、来館された方々の感想として「どの仏像もほほえんでいる」という声が非常に多く聞かれます。
「仏陀坐像」(スコータイ時代・15世紀、サワンウォーラナーヨック国立博物館蔵)
「仏陀遊行像」(スコータイ時代・14~15世紀、サワンウォーラナーヨック国立博物館蔵)
確かにその通りです。担当者の一人として展覧会の準備のために眉根を寄せて仏像とにらめっこしていた自分には、仏さまの慈悲の姿が見えてなかったことをお客様の声から気づかされました。
タイの仏教美術は、13世紀のスコータイ王朝の成立とともに上座仏教を中心とする形へ大きく舵を切りました。仏像のスタイルもスリランカなどの影響を受けた優美な姿へと変わっています。展覧会でも遊行仏をはじめとするスコータイ仏の美しさを楽しんでいただけたことでしょう。ひときわ優しい笑みを浮かべるスコータイ仏の故郷とは、どのような場所なのでしょうか。
バンコクから飛行機で北行すること約1時間、小さなスコータイの空港へと降り立つと・・・
空港の職員が皆サファリルックでお出迎え。
建物は吹き抜けで、おまけに滑走路と建物の間にはなぜかシマウマなどの動物たちが、と観光気分は否が応でも盛り上がります。いや、そうじゃなくて仕事で来ているのだとこの空港に来るたびに自分に言い聞かせる羽目に。
東西1.8km、南北1.6kmの四角い城壁に囲まれたスコータイ中心部は、現在は大規模な歴史公園として整備されています。都城の中心に位置するワット・マハータートはスコータイ最大の規模を誇る王室の寺院で、スリランカからもたらされた仏舎利を安置していました。
独特の蓮蕾型の仏塔を中心に堂宇が建ち並び、寺内の仏塔はおよそ200基を数えます。
実はここの本尊は現在、バンコクにあるワット・スタットの仏堂に安置されています。
右は特別展「タイ」会場風景 「ラーマ2世王作の大扉」(ラタナコーシン時代・19世紀、バンコク国立博物館蔵)
そう、展覧会にも出品された巨大な大扉のある寺院です。700年の時を超えて仏への信仰が今の人々へ受け継がれているのです。
もう1ヶ所、城壁の外にあるワット・シーチュムをみてみましょう。ここは巨大な坐仏で有名です。堂正面中央のスリットのように開いた隙間から、優しさに満ち溢れたお顔立ちの大仏がみえます。
堂内に入ると、高さ15mを超える仏の威容に圧倒されます。
堂の壁の中には細い階段があって上へ昇ることができ、上から仏さまを拝めるのです。
普段は仰ぎ見るばかりの仏がまた違った表情を見せてくれます。ただし、その高さはちょっとコワいですが。
さて、1279年に即位したラームカムヘーン王の碑文には、「水に魚あり、田に稲あり」とあり、当時の人々の豊かな暮らしぶりがうかがえます。それを裏付けるかのようにスコータイの都城の内外にはたくさんの寺院が残されています。これらの寺では今でも多くの人が訪れ、それぞれの祈りを捧げています。
※優しい微笑みのスコータイ仏は、東京国立博物館 平成館で8月27日(日)まで開催中の日タイ修好130周年記念特別展「タイ ~仏の国の輝き~」でご覧いただけます。
カテゴリ:研究員のイチオシ、2017年度の特別展
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posted by 小泉惠英(九州国立博物館 研究員) at 2017年08月10日 (木)
泰平の世に、日本を飛び出し、活躍の地を求めてアユタヤーに雄飛した人びとがいました。
彼らのなかで最も有名な人物が、駿河出身とされる山田長政(?~1630)です。
「山田長政像」(江戸~明治時代・19世紀 、静岡浅間神社蔵)
洋装に身を包んだ長政の肖像。なぜ洋装なのかはよくわかっていません。
同時代の資料が少なく、なかば伝説的な人物のように扱われることの多い長政ですが、彼の名は江戸幕府初期に活躍した以心崇伝(いしんすうでん)が著した外交実務の記録『異国日記』に、「山田仁左衛門」の名で登場します。また、彼の故郷にある静岡浅間神社には、長政が奉納した絵馬の写しが伝わっています。
静岡浅間神社
「山田長政奉納戦艦図絵馬写」(浅間大祝高孝寄進、江戸時代・寛政元年(1789)、静岡浅間神社蔵)
荒波をものともせず進む軍艦。甲板に多数の鎧武者とともに長政が描かれています。
長政は、勇猛な日本人義勇軍を率いて活躍し、時の国王に重用されますが、宮廷内の諍いに巻き込まれてしまい、最後はタイ南部の六昆(リゴール)の地で暗殺されたといわれています。
「カティナ(功徳衣)法要図」(ラタナコーシン時代・1918年、タイ国立図書館蔵)
法要図に描かれた日本人義勇軍。薙刀を手にしています。
山田長政終焉の地である六昆は、ナコーンシータンマラートと名を変えて今に至っています。タイ南部を代表する都市です。
さてこの地に、長政を偲ぶものはあるのでしょうか。
この街には、現在でも長政が活躍したアユタヤー王国時代に作られた城壁が残っています。煉瓦(れんが)を平積みに積んだ高くて堅固な城壁です。
ナコーンシータンマラートは城塞都市だったんですね。
もしかしたら、長政もかつて見上げた風景かも知れません。
ほかに何かないでしょうか…街を歩いてみます。ナコーンシータンマラートは、目抜通りこそ車の往来が激しくて、とてもせわしないですが、少し裏手にまわるとのんびりとした風情があります。この日は、歩いている途中に眠りこけている犬を何匹も目にしました。
遂に見つけました!
山田長政邸宅跡に残る井戸です!! 本当かどうかはわかりません!!!
内側を煉瓦で積み上げた横長の井戸ですね。
今も井戸の底には水をたたえています。
井戸のすぐそばにパン屋さんがありましたが、そこの看板に「RIGOR」と書いてありました。「リゴール」、つまり六昆ですね。
ナコーンシータンマラートで美味しかったのは、地元特産の貝料理でした。
日本でいうと、これはたぶんサルボウとイガイですね。長政も亡くなる前にお腹いっぱい食べることが出来たのでしょうか。駿河人は海産物が大好きなのです。ちなみに、このコラムの筆者も駿河人です。
長政の故郷、静岡では毎年10月に「日・タイ友好 長政まつり」が開催されています。今年で32回目を迎えます。のんびりとしたお祭りです。興味のある方は行ってみて下さい。 今年は10月8日(日)開催だそうです。長政公も出迎えてくれます。
※今回ご紹介した作品は、東京国立博物館 平成館で8月27日(日)まで開催中の日タイ修好130周年記念特別展「タイ ~仏の国の輝き~」でご覧いただけます。
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posted by 望月規史(九州国立博物館 研究員) at 2017年08月04日 (金)
「ビール!タイ料理!ビール!ビール!」派の方も!
「ビール!ビール!ビール!タイ料理!」派の方も!
「タイ料理!ビール!ビール!ビール!」派の方も!
「その辺の順番には特にこだわらない」という方も!
お待たせいたしました。
いよいよ「トーハクBEER NIGHT!」、明日7月28日(金)・29日(土)に開催します。
はい、そもそも「トーハクBEER NIGHT!」ってなに? という方、いらっしゃいますか?
あ、いらっしゃいますね。ご説明いたしましょう。
「トーハクBEER NIGHT!」は、真夏の夜のトーハクでビアガーデンを楽しむイベントです。
これまでもトーハクの中でビールを楽しむ機会はありましたが、東京国立博物館平成館の前庭で、しかもこれほど大規模に展開するのは初めての試み。
「博物館の中のビアガーデン」は上野の山の新名所となること請け合い。
ちなみに発音の際は、「トーハク、ビアナイッ!」と、語尾に力いっぱい「!」をつけるのがポイントです。
今年は、現在開催中の特別展「タイ ~仏の国の輝き~」にあわせて、ガパオライスなどタイ料理を含む4つのキッチンカーが日替わりで出店。
※出店料理の一例
さらには、都内でも珍しい「樽出し」のシンハービールが出店します!
タイといえばやっぱりシンハー!
ラベルに刻まれているのは、タイ王室の象徴「神鳥ガルーダ」。タイ王室に認められているその味をぜひご賞味ください。
いかがでしょう? もう舌が「ビールとタイ料理」になってきましたか?
…え? なんですか?
「ビールは日本のビールじゃなきゃ嫌」…?
もちろん日本のビールも冷えております。
「私、ビール党じゃないの」…?
タイ産の焼酎「カオカヤラット」、ワイン「モンスーンバレー」、ワインクーラー「スパイ」などはいかがでしょう?
「医者から酒は止められてて」…?
ソフトドリンクも冷えてます。
「俺、カレーは『インド』に決めてるから」…?
どっこい、インドカレーの屋台も出ています。
「僕、エスニックフードが苦手で」…?
角煮・グリルチキン(7月28日)、ソーセージ・牛煮込み(7月29日)などもございます。
「今週末は予定があるから、行けたら行くわ」…?
じゃあ、来月でもいいですよ。8月25日(金)、26日(土)もやってます!
…さて、外堀はもう完璧に埋まりましたね?
「トーハクBEER NIGHT!」、当日の入館料は必要ですが、テーブルチャージ等はなしでお楽しみいただけます。
明日、7月28日はプレミアムフライデー。
少し早めに仕事を終えて、ご家族・ご友人、同僚の方々と博物館で展示とビアガーデンを楽しんでみてはいかがでしょう。
さいごに、7月28日はトーハクくん、ユリノキちゃんも登場予定です(17:30と19:00から30分程度)。
皆様のご来場お待ちしております。
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posted by 田村淳朗(総務課) at 2017年07月27日 (木)
このたびの 、日タイ修好130周年記念特別展「タイ ~仏の国の輝き~」では、タイの仏教美術を紹介し、日本の仏教美術とは異なった主題や造形、そして美意識を楽しんでいただこうと思っています。
そのひとつとして、ここに紹介するのは、マーライ尊者にちなんだ作品です。
「マーライってなに? ひとの名前なの? 」という方は多いでしょうが、東南アジアの民間で親しまれてきた仏教説話のキャラクターです。マーライはスリランカの僧侶で、天界や地獄に移動できる超能力をもっています。その能力を使って、彼は地獄で苦しむ人々に出会い、天界で弥勒菩薩と語り合い、人間界へと戻ったのち、人々に地獄の苦しみを述べて、弥勒菩薩の言葉を伝えて、功徳を積むことの大切さを説いたのでした。
そのマーライの物語を描いた「マーライ尊者チュラーマニー仏塔巡礼図」を見てみましょう。
「マーライ尊者チュラーマニー仏塔巡礼図」(ラタナコーシン時代・19世紀、タイ国立美術館蔵)
ラタナコーシン時代は、現在まで続いているタイの王朝時代です
2メートルの大画面絵画です。中央に白い塔があり、下方の塔のまわりに天人たちが集まり、上方に雲のなかを飛ぶ天人たちが描かれています。ここは天界のひとつ三十三天。塔はチュラーマニー仏塔といい、仏陀の4本の犬歯のうちの1本をまつっています。
塔に向かって左側には坊主頭の人物と、緑色の肌をした高貴な身なりの人物が座って対話しています。この坊主頭の人物こそがマーライです。そして異色肌の貴人は、なんとインドラ神です。
(中央部分)三十三天の中央にそびえる白亜のチュラーマニー仏塔。天人たちが合掌して塔をおがんでいます。その塔のかたわらではマーライとインドラ神が語り合っています
左がマーライ、右はインドラ神
インドラ神は帝釈天ともいい、三十三天に住んでいる雷神です。こともあろうにマーライは、のこのこと三十三天に現われて、インドラ神と対等に会話をしているのです。われわれ凡人にはできないことを平然とやってのける。そこに人々はあこがれの気持ちを抱いたのでしょう。
さて、そんな両者の会話に加わろうとして、もっと上のほうにある兜率天(とそつてん)という天界から弥勒菩薩が天人たちを従えて降下してきます。
(上部部分)ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ!!! すさまじいとどろきとともに弥勒菩薩が兜率天から降ってきます
この作品が描いているのは、マーライが上空の天人の一団を指さして、どれが弥勒菩薩なのかをインドラ神に尋ねている場面とされています。このあと、マーライは弥勒菩薩と対話をして、その言葉を人々に伝えに行くのです。
「プラ・マーライ経」という経典の挿絵にも同様の場面が描かれており、こちらは人物にフォーカスがあたっています。なので、全体の雰囲気は仏塔図で見て、人物の顔やすがたは経典で見ると分かりやすいでしょう。
「プラ・マーライ経」(トンブリ―時代・18世紀、タイ国立図書館) [展示期間:7月30日(日)まで(この場面は7月17日〈月・祝〉まで)]
トンブリー時代は、ラタナコーシン時代の前にあった短期間の王朝時代です
(左部分)マーライは「やれやれだぜ。こんなところで弥勒さんに出くわすとはな」とつぶやいたのち、ビシィッと天空を指さして、一体どれが弥勒菩薩なのかをインドラ神に問います
きらびやかな装身具を付けた弥勒菩薩が、身体を輝かせ、両手を合わせ、左右の足を大胆に折り曲げたポーズで、天人たちを従えて降下してきます
このドラマチックなシーンを通じて、タイの民衆的な仏教説話の世界をお楽しみください。
カテゴリ:研究員のイチオシ、2017年度の特別展
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posted by 猪熊兼樹(出版企画室主任研究員) at 2017年07月12日 (水)
日タイ修好130周年記念特別展「タイ ~仏の国の輝き~」開幕!
東京では暑い日が続いています。
こんな日はゾウさんのように水浴びなどいかがでしょうか?
この写真は、いよいよ7月4日(火)に開幕した、日タイ修好130周年記念特別展「タイ ~仏の国の輝き~」の会場風景です。
開幕に先立ち、7月3日(月)には開会式・内覧会を行い、多くのお客様にご出席いただきました。
内覧会ではタイ舞踊の公演もありました
今回の特別展は、日タイ修好130周年だからこそ実現した、タイにおける国宝級の作品をいちどに見ることができるまたと無い機会です。
会場では、古代からスコータイ~アユタヤー~ラタナコーシンまで、タイ仏教美術のうつり変わりを王朝ごとに紹介しています。
第1章「タイ前夜 古代の仏教世界」の入口では「ナーガ上の仏陀坐像」(シュリーヴィジャヤ様式・12世紀末~13世紀、バンコク国立博物館蔵)がお出迎え。タイ展いちおしの美仏です
第1章の展示風景
第2章「スコータイ 幸福の生まれ出づる国」の「仏陀遊行像」(スコータイ時代・14~15世紀、サワンウォーラナーヨック国立博物館蔵)
第3章「アユタヤー 輝ける交易の都」の展示風景
まばゆい輝きの「金象」(アユタヤー時代・15世紀初、チャオサームプラヤー国立博物館蔵)
第4章の「シャム 日本人の見た南方の夢」では、600年にわたる日本とタイとの交流の歴史を裏付ける作品を展示します。日本の交易の歴史のなかで、タイが大きな位置を占めていたことがわかります。
第4章の展示風景
「天部形像(白衣観音坐像台座部材のうち) 」(范道生作、 江戸時代・寛文3年(1663)、京都・萬福寺蔵)には、タイから寄進されたチーク材が使われています
第5章「ラタナコーシン インドラ神の宝蔵」では、金色に輝く大扉が目の前に! タイの教科書にも載っているタイ国外不出の名宝です。その貴重さと大きさから、本展が日本で見られる最後の機会になるでしょう。
「ラーマ2世王作の大扉」(ラタナコーシン時代・19世紀、バンコク国立博物館蔵)は、一木から掘り出された超絶技巧の作品。このエリアでは写真撮影OKです!
また、冒頭で紹介したゾウさんに乗せた象鞍も、同じく第5章でご覧いただけます。
「象鞍」(ラタナコーシン時代・18~19世紀、バンコク国立博物館蔵)
このほかにも、魅力的な仏像や工芸品など、約140件のタイ仏教美術の名宝がトーハクに集結しています。タイ本国でもこれだけの作品をまとめて見られる機会はありません。
今年の夏はトーハクでタイ気分を満喫してみてはいかがでしょう?
会期は8月27日(日)までです。
「仏陀遊行像」の後姿。タイ舞踊にも通じるしなやかな曲線が印象的です
今後、タイ展の見どころを、このブログで紹介していきます。 どうぞ、ご期待ください!
カテゴリ:2017年度の特別展
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posted by 宮尾美奈子(広報室) at 2017年07月06日 (木)