みなさん、こんにちは。ユリノキちゃんです。
今日は、現在開催中の特集「ドレッサーの贈り物―明治にやってきた欧米のやきものとガラス 」(2016年9月27日(火)~2016年12月18日(日))をみなさんにご紹介しようと思って、本館14室にやってきたの。
美しいやきものとガラス
展示室に入ってみたら、ビックリ…!
いつもトーハクの展示室で見るのとはちがう種類の、とっても綺麗なやきものやガラスがいっぱい。
写真左: 「多彩釉花唐草貼付文飾壺」 イギリス ミントン社 1873年
写真右: 「緑彩茶彩葉文脚付瓶」など ルイス・C・ティファニー/アメリカ ティファニー社 19世紀 ルイス・C・ティファニー氏寄贈
これらのやきものやガラスのキャプションには「ミントン社」とか「ティファニー社」とか書いてあるけれど、あの有名な陶磁器メーカーや宝飾デザイナーのことかしら…。ドレッサーさんとどういう関係があるのかしら。
ドレッサーさんってどんな人??
ドレッサーさんは、イギリスのデザイナー。19世紀末のイギリスの有名な製陶会社として知られるミントン社や、リンソープ・アート・ポタリー社という新しい製陶会社でデザインをしていたようね。それらのやきものは当時の流行の最前線だったそうよ。すごい!
アメリカのティファニーさんとは深い親交があって、ドレッサーさんが1876年から日本に滞在した際は、ティファニーさんのために美術品を収集したりしたんですって。どうやら、ドレッサーさんは日本とも関係があるようね。
写真左: イギリスを代表する製陶会社の一つミントン社にドレッサーがデザインを提供して焼かれたもの
写真右: 「茶褐釉渦文鉢」など イギリス リンソープ・アート・ポタリー社 19世紀 ※ドレッサーと、美術商で評論家のチャールズ・ホーム氏が一緒に当館へ寄贈したもの
きっかけは、ウィーン万国博覧会
明治政府が初めて公式にウィーン万国博覧会に参加したのは1873年で、この時の博覧会事務局が後のトーハクになるらしいの。何だかとても勉強になるわ。
ウィーン万国博覧会会場風景
そして、ウィーン万国博覧会が終わり、日本への帰路の途中、フランス船ニール号が…、なんと、沈没!有望な技術者や船に積んでいた出品作品や購入品など、多くを失ってしまったそう…。
沈没したニール号引き揚げ作品
右: 「色絵金彩婦人図皿」 ドイツ・バイエルン 19世紀
左: 「銹絵葡萄図角皿」 乾山 江戸時代・18世紀
日本への到着を目前に、伊豆、南入間沖で沈没したニール号から奇跡的に引き揚げられたうちの2点なのだそうよ。右のお皿に描かれているのは、バイエルン国王マクシミリアン2世の王妃マリー様なんですって。
日本への贈り物
その悲報をうけて、日本と親交のあったイギリスのサウス・ケンジントン博物館長は、ヨーロッパの美術品を日本へ贈ることを呼びかけ、彼の手紙と多くの寄贈品を携えたクリストファー・ドレッサーが来日したというわけね。なるほど。
右手: 「多彩釉四耳瓶」など イギリス ドルトン社 19世紀
ドレッサーさんはそれらの寄贈品の選定と収集に深く関わっていて、この寄贈には日本の博物館や技術者への教育の意味もこめられていたんだそうよ。う~ん、ドレッサーさんと日本の博物館って、深い関わりがあったのねぇ。
生まれ変わったガラスのうつわ
生まれ変わる?ってなんだろう…。
それにしても、とっても綺麗なガラスのうつわね。こんなに薄くて儚いガラスが今でも残っているなんて。うっとり…
割れたり、汚れていたりしたところを、このたび最新の技術を用いて修理し、140年前の姿を取り戻すことができました。修理にあたったのは、北野珠子さん(陶磁器修復たま工房)と当館保存修復課アソシエートフェローの野中昭美さん
トーハクが草創期に受け入れた欧米のやきものやガラスをご紹介しましたが、いかがでしたか?
はじめに「いつもトーハクの展示室で見るのとはちがう種類の」って思ったけれど、そのはず。ドレッサーさんが博物館に持ってきたものの多くは工業見本として各地に分けられ、散逸してしまったそう。もったいない…。
でも、最近は近代美術の動向に注目が集まるようになって、これら欧米の工芸作品を受け入れた意義も見直されているとのこと。
みなさんも、この機会(~12月18日(日)まで)にぜひトーハクに足を運んでくださいね~。
カテゴリ:特集・特別公開
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posted by ユリノキちゃん at 2016年11月28日 (月)
彫刻担当の丸山です。
特別展「平安の秘仏―滋賀・櫟野寺の大観音とみほとけたち」の仏像のなかで、私がおすすめするのは、こちらの毘沙門天立像です。
重要文化財 毘沙門天立像
平安時代・10~11世紀
滋賀・櫟野寺蔵
この像、櫟野寺(らくやじ)のなかではやや異質の存在です。
櫟野寺に伝わる仏像は大きく3つに分けられます。
ひとつめは長身で洗練された表現で、本尊の十一面観音菩薩坐像の制作時期に近い10~11世紀前半につくられた作品。
重要文化財 観音菩薩立像
平安時代・10世紀
滋賀・櫟野寺蔵
ふたつめはやや鄙びた表現で、11世紀前半~12世紀につくられました。
重要文化財 観音菩薩立像
平安時代・12世紀
滋賀・櫟野寺蔵
みっつめは、12世紀末の薬師如来坐像と地蔵菩薩坐像で、都の仏師によってつくられたと考えられる優れた作品です。
左:重要文化財 薬師如来坐像 平安時代・12世紀
右:重要文化財 地蔵菩薩坐像 平安時代・文治3年(1187)
ところが、この毘沙門天立像は、時代的にはひとつめのグループに属しますが、第4のグループに分類したほうがいいかもしれません。
ひとつめのグループの特徴である洗練された表現と少し異なるためです。
目を見開き、口をへの字に歪めて怖い表情をしていますが、口元の皺のせいかどこか人間くささがあります。
頭を横から見ると、額と兜の中の頭の形がつながらないのは技量に拙さがあるためでしょう。
体は太く重く、腰のあたりはやや横にのびた感じがします。
そして、腹に付けた顔の滑稽さが、この像のありようのすべてを表わしているように思います。
一方で、この像はとても丁寧に彫刻されています。
甲の飾りや布の襞をこれほどよく表す天王像は多くありません。
特に膝上方の花形の飾りは見事です。
天王像の飾りは彩色で表すことが多いのですが、この像は彫刻で華やかさを表しています。
モデルとなった彫刻か絵画があったのではないかと思います。
本尊の十一面観音菩薩坐像など、大きな作品が注目されがちではありますが、櫟野寺にはこういったユニークな仏像も伝わっています。
他にも会場の仏像はどれも個性豊かな像ばかりです。どうぞ20体をそれぞれつぶさにご覧いただき、皆様自身の「ベスト仏像」を探してみてください。
カテゴリ:研究員のイチオシ、2016年度の特別展
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posted by 丸山士郎(特別展室長) at 2016年11月26日 (土)
開催中の特別展「禅―心をかたちに―」では、禅宗にまつわる文化事象として 「茶の湯」の美術を紹介しています。
茶の湯といえば抹茶。この抹茶の飲み方が中国から伝わり、日本にひろく定着したのが、平安から鎌倉時代にかけての頃のことといわれています。
この喫茶法の普及に大きく貢献したのが禅僧、そして禅宗寺院でした。
当時、中国の宋から禅僧が来日し、そして日本からもたくさんの留学僧が中国へ渡りました。茶種を持ち帰って茶樹の栽培に成功したと伝わり、「茶祖」とも称される明庵栄西(1141~1215)はその象徴的な存在です。
彼ら禅僧が用いた喫茶の道具は唐物、つまり中国などからの舶来の道具でした。そして禅の影響を受けた武士のあいだでも、中国風のスタイルで茶を喫することが流行するようになるのです。
当時の喫茶の一端をいまに伝える建長寺の四ツ頭茶礼(よつがしらされい)を、 11月12日(土)、当館の大講堂で建長寺禅文化委員会の皆様に実際の道具を使って実演していただきました。
午前中に行われたリハーサルの様子。本番は大講堂が満員になる盛況ぶり。お客様を席まで導く役、お香を焚く役、お運びの役、それぞれを担当する僧侶たちの無駄なく息ぴったりの動きに会場は厳かな空気に・・・。観客の皆さまも神妙な面持ちでご覧になっていました
四ツ頭茶礼とは、4名の正客(しょうきゃく)と、それに伴う8名の客の計36名に茶を供するもの。禅院で古くから行われてきた特別な儀礼です。今回の講演会では、舞台の中央を真前として2名の正客とそのお相伴客6名の皆様に登壇していただきました。また離れた席からでもご覧いただけるように「単(たん)」と呼ばれる高座を建長寺様に特別にご用意いただきました。
建長寺では毎年10月24日に一般の方向けの四ツ頭茶礼が行なわれています。そして、茶礼が行われる方丈と呼ばれる室内には、建長寺開山の蘭渓道隆(1213~1278)像を中心に三幅対の軸が掛けられ、その前に燭台、香炉、花瓶(けびょう)の三具足が置かれます(講演会で使われた軸は模造、そのほかは建長寺で普段お使いの道具ということでした)。このような室礼が当時の荘厳のひとつのあり方です。
ここで注目したいのは三具足!
鎌倉から室町時代の頃より、今日まで寺院において大切に使われてきた古銅や青磁の燭台、香炉、花生のセットは、鎌倉や京都をはじめ各地の寺院に現存することが知られています。
しかし古銅はその後鋳直されたり、また青磁は割れてしまったり、と制作当初の姿をとどめるものは決して多くはありません。そうしたなか、南宋から元時代の中国で焼かれ、おそらく早い時期から一具として伝わってきた鑁阿寺の青磁は珍しい例です。
重要文化財 青磁浮牡丹文花生・香炉 龍泉窯 中国 南宋~元時代・13~14世紀 栃木・鑁阿寺蔵
その産地である龍泉窯(現在の浙江省南西部一帯)は当時最も隆盛した時期にあたり、やや白濁した水色、いわゆる粉青色の青磁がつくられました。とくに、制作年代が南宋にさかのぼると位置づけられたものは、唐物の象徴的な存在として後世まで賞玩の対象となります。このように、数百年ものあいだ大切に使い続けられてきた中国青磁は、まさに日本における「禅」文化の賜物といえるでしょう。
展示では当館所蔵の仏画(「白衣観音図」 鎌倉~室町時代・14世紀 *特別出品)と置き合せてみました
栃木県足利市にある鑁阿寺(ばんなじ)は1197年(建久7)に創建された真言宗大日派の古刹であり、足利氏に縁深い寺院として知られています。そして、青磁浮牡丹文香炉は室町幕府初代将軍の足利尊氏(1305~1358)、対の花生は3代将軍の義満(1358~1408)によって寄進されたものとの言い伝えがあります。
よくみてみると、香炉はその釉調や造形的特徴から、わずかながら制作年代が花生よりも早い印象があります。尊氏寄進の伝承を裏付けているといってよいかもしれません。
宗派を超えて、鑁阿寺様にはこのたび貴重なご宝物を出品していただきました。
ありがとうございます!
他にも、大坂城落城の際に被災し、徳川家康の命で救い出され、修理されたと伝わる唐物文琳茶入 銘「玉垣文琳」(遠山記念館蔵)など、後期展示も注目の作品ばかりです。
特別展「禅―心をかたちに―」は、いよいよ11月27日(日)までです。お見逃しなく。
カテゴリ:研究員のイチオシ、2016年度の特別展
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posted by 三笠景子(東洋室主任研究員) at 2016年11月25日 (金)
ボランティアデー開催と平成29年度ボランティア募集のお知らせ
12月3日(土)と12月4日(日)に、東博ボランティアデーを開催します。
この2日間は、館内のあちこちで、ボランティアによるイベントを行います。
トーハクをもっと楽しみたい方、博物館のボランティアにご興味がある方は、ぜひご参加ください。
トーハクのボランティアってどんな人たち?
トーハクのボランティアは、現在、155名在籍しています。
普段は、来館者の方へのご案内や、体験コーナーのサポートなどを中心に活動しています。
また、講演会などのイベントやワークショップ、スクールプログラムなどのサポートもしています。
「今日は何を見ようかな」、「一番近いお手洗いはどこ?」「今日の感動を誰かと分かち合いたい」、そんなときは、ぜひボランティアに気軽にお声がけください。
「ボランティア」の腕章をつけて、笑顔で活動しています。
ボランティアデーはどんなイベントがあるの?
この2日間は、ボランティアのグループによるガイドツアーなどのイベントがたくさんあります。
展示作品を見るガイドが10種類。
初心者の方でも楽しめる内容になっています。
本館を中心に、東洋館、平成館考古展示室、法隆寺宝物館で行います。
そのほかに、たてものや庭園、樹木などをご案内するツアー、お茶会やワークショップなどもあります。
いろいろなイベントがありますので、お好きなものにぜひ参加してみてください。
ボランティアと一緒に見ることで、新たなトーハクの魅力を発見できるかもしれません。
*一部定員制や事前申込制があります
ボランティアデーだけの「活動紹介ツアー」
ボランティアが自分たちの活動場所を、少人数のツアー形式でご案内します。
普段、ボランティアがどのような活動をしているか、どのようにお客様をご案内しているか、どんなことにやりがいを得られるかなど、ボランティアの本音を聞くことができるでしょう。
博物館のボランティア活動に興味をお持ちの方や、トーハクに興味がある方は、このツアーもお勧めです。
平成29年度ボランティア募集中
ボランティアデーでは、平成29年4月から3年間活動する、新規ボランティアの募集説明会も行います。
活動の内容や応募の注意点をお話しますので、どうぞ、お気軽にご参加ください。
応募には募集案内をお読みの上、12月12日(月)~1月12日(木)までに郵送でお送りください。
お待ちしております。
ボランティアのお祭りのようなにぎやかな2日間になります。
初冬のひととき、ボランティアデーのトーハクで楽しんでみませんか?
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posted by 鈴木みどり(ボランティア室長) at 2016年11月24日 (木)
彫刻担当の西木です。
今回の1089ブログでは、特別展「平安の秘仏―滋賀・櫟野寺の大観音とみほとけたち」に出陳されている作品のなかから、私のイチオシの仏さまについてお話ししたいと思います。
イチオシ・・・といえば、早いもの勝ちのようで申し訳ないと思いながらも遠慮なく挙げさせていただくと、まずは櫟野寺ご本尊の十一面観音菩薩坐像をおいてほかにありません。
重要文化財 十一面観音菩薩坐像 滋賀・櫟野寺蔵
圧倒される大きさ、これだけでも展覧会をご覧いただく価値があると思います。
像の大きさだけでも3メートル、台座と光背をあわせると5メートルにもなる、見上げるような大きさです。
秘仏のため、お寺でも年数回の限られた機会にしか拝観できないのですが、ここで強調したいのは、お寺では巨大な厨子に安置されているため、ほとんど正面から拝するしかないことです。
本尊を安置する櫟野寺の巨大な厨子
それが、本展では360°ぐるりと拝することができるという、それだけでお寺からお出ましいただいた甲斐があったと思いました。
ぜひ側面からご覧ください(本展でしかご覧いただけません!)。
脚部の合わせ目がみえると思いますが、ここまで1本の木で出来ています。
左:左側面から見た十一面観音菩薩坐像
右:十一面観音菩薩坐像の修理写真(提供:西川杏太郎氏)
ズドンとした、この重量感。
頭と体の中心部分を、1本の木から彫り出しているからこその迫力です。
お腹まわりから考えると、直径1メートルを超える大木を用いたことがわかります。
こうした木心を含んだ木材の場合、中心と周辺で収縮率が異なるため、乾燥すると割れてしまいます。これを防ぐために背中から刳り抜いており、これを内刳り(うちぐり)と呼ぶのですが、それでも大変な重さがあります。
せっかくの機会なので重さを測ってみたところ、なんと本体だけでも、つまり台座と光背を除いても、740キロもありました。
同じ大きさの仏像でも、ずっと内刳りの技術が進んだ時代であれば、その3分の1の重さなので、木そのもののような印象さえ受ける重量感です。
櫟野寺は、最澄(さいちょう/伝教大師・でんぎょうだいし)が、延暦寺の建立のために良材を求めて甲賀の地を訪れ、地元の杣人(そまびと=木こり)が信仰していた櫟(イチイ)の大木をみて、これに仏像を刻んだのがその開創と伝わっています。
かつて境内に生えていたイチイの大木(大正9年ごろの写真)
現在のご本尊は、作風からみて10世紀ごろの制作とみられ、材木もヒノキを用いているとみられるため、最澄よりも後世につくられたものと思われます。
とはいえ、1本の木であることの名残をうかがわせる力強い姿をみていると、こうした伝承すら「もしかすると」と思いたくなります。
木に対する信仰という意味では、こちらの2体を挙げなければなりません。
左:重要文化財 観音菩薩立像 滋賀・櫟野寺蔵
右:重要文化財 吉祥天立像 滋賀・櫟野寺蔵
いずれも、本尊とはちがって小さくて愛らしい印象のある像ですが、近づいてよくご覧ください。
鑿(のみ)跡がたくさん残っていませんか?
いずれも顔はなめらかに仕上げられているのですが、観音菩薩立像の場合、体や着衣の部分にざっくりとした鑿跡がはっきりみえ、足先にいたってはほとんど彫っていないようです。
吉祥天立像も材木を削り落としたような跡が随所にみられますが、胸のあたりはとくに横方向の鑿跡が几帳面にあらわれています。
こうした、意図的に鑿跡を残す表現を「鉈彫(なたぼり)」と呼びます。
鉈といっても、本当に鉈で彫っているわけではありません。鑿跡からみると、丸刀(がんとう)などの鑿を使っているようですが、鉈で荒く削ったようにみえるのでこのように呼ばれています。
本来は未完成との説が強かったのですが、残されている時代や地域に偏りがあるため、特殊な表現として認められるようになりました。
その背景には、神仏が霊木から現れるところをあらわしたもの、彫刻家としては素人である高僧が手ずから彫ったことをあらわす表現など、さまざまな説がとなえられていますが、最近では、仏典に記される最初の仏像を芸術の神さまが彫った際に、その鑿音を聞いた人々が悟りを開いたとする説話にもとづき、鑿音を視覚的にあらわしたという考えも出されています。
ただ、いずれも木を使わなければこのような表現にはなりません。
櫟野寺は、古代から杣(そま)、すなわち木材の供給地として知られていました。
昔はたくさん生えていたというイチイも、今では甲賀にほとんど見られませんが、櫟野寺の背後には鈴鹿山脈がひかえ、緑ゆたかな土地であることは今もかわりません。
甲賀の風景。正面に見える山並みが鈴鹿山脈です
木とともに生き、木をなりわいとしてきた人々は、ことさら木に対する信仰もつよかったのではないでしょうか。
随筆家の白洲正子(しらすまさこ)さんは、代表作である『かくれ里』という本のなかで、櫟野寺を訪ねられた際に、「収蔵庫の中に、林のごとく居並ぶ仏たち」と表現されています。
私は、櫟野寺の仏像をみるときに、これほどふさわしいことばはないと思っています。
みなさまにも、展示室の中央にどっしりと鎮座するご本尊と、これを囲んで林立する仏像群をぜひともご覧いただき、甲賀の里に残る信仰の息吹をご体感いただければ幸いです。
展覧会場では、十一面観音菩薩坐像の堂々としたお姿がひときわ目をひきます
カテゴリ:研究員のイチオシ、2016年度の特別展
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posted by 西木政統(絵画・彫刻室) at 2016年11月23日 (水)