絹の生産は日本の重要な伝統産業の一つです。明治・大正期には生糸は貴重な外貨獲得のための輸出品として日本の近代化を支える存在でした。
明治時代以降の歴代の皇后陛下は、絹の生産の奨励、振興のために、宮中でご養蚕を手がけてこられました。
皇后陛下によるご養蚕は、昭和後半期に入って日本の養蚕業が急速に衰退してゆく中でも、日本の伝統文化を守るために、連綿と続けてこられました。
現在本館特別4室・特別5室で開催中の特別展 御即位30年記念「両陛下と文化交流―日本美を伝える」(4月29日(月・祝))まで)では、皇后陛下とご養蚕に関わる作品が展示されています。
会場入口
養蚕天女 高村光雲作 大正13年(1924) 宮内庁三の丸尚蔵館蔵 3月31日まで展示
日本の近代彫刻を牽引し、帝室技芸員にも任命された高村光雲(1852~1934)が桜材から彫り出した養蚕の女神の像です。
大正13年(1924)の皇太子(のちの昭和天皇)のご成婚の際に、貴族院より皇太子妃(のちの香淳皇后)に献上されました。
蚕蛾を表した冠を被り、左手で薄衣を軽くつまみ上げ、右手に持った繭を愛おしむように見つめています。
繭は中央が少しくびれており、純国産種の繭である小石丸を表したものとみられます。
小石丸は飼育が難しく、取れる糸の量が少ないため、存続の危機にありましたが、皇后陛下の手によって守り育てられました。
小石丸の細く繊細な糸は、正倉院に伝わる古代裂の復元模造や、鎌倉時代の絵巻物の修復にも用いられ、日本の伝統文化の継承を陰で支えています。
(左)赤縮緬地吉祥文様刺繍振袖 昭和10年(1935)
(右)黒紅綸子地落瀧津文様振袖 昭和13年(1938)
ともに宮内庁侍従職所管 3月31日まで展示
さて、日本と同じく絹産業が盛んであったフランスとわが国との間には、浅からぬ縁があります。
近代化の過程で日本はフランスから多くを学びましたが、19世紀半ばにヨーロッパで蚕の病気が蔓延し、フランスの養蚕が壊滅の危機に瀕した際には、日本から蚕種が送られ、フランスの絹産業を救いました。
平成26年(2014)にフランスのパリで皇室と日本の絹文化を紹介する「KAIKO」展が開催されました。
同展に出品された天皇陛下が御幼少時にお召しになった振袖は、本展が国内では初の公開となります。
イヴニングドレス、コート 昭和時代・20世紀 宮内庁侍従職所管 3月31日まで展示
天皇皇后両陛下が、日本の伝統文化の継承と振興に果たしてこられた足跡を、この機会に広く知っていただければと思います。
カテゴリ:2019年度の特別展
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posted by 今井敦(調査研究課長) at 2019年03月20日 (水)
住友財団修復助成30周年記念 特別企画「文化財よ、永遠に」報道発表会実施!
2019年10月1日(火)~12月1日(日)、当館本館特別5室・特別4室にて
住友財団助成30周年記念特別企画「文化財よ、永遠に」を開催します。
公益財団法人住友財団では、文化財の維持・修復の費用を助成しています。
その事業が間もなく30年を迎えるのを記念して、助成の対象となった文化財をご覧いただく企画を泉屋博古館(京都)、泉屋博古館 分館(東京)、九州国立博物館、当館の4会場で同時期に開催します。
3月18日(月)に4展覧会合同の報道発表会を行いました。
まずは、主催者を代表して住友財団 常務理事の蓑康久よりご挨拶いたしました。
住友財団 常務理事 蓑康久
そして、展覧会全体の概要と住友財団の助成についてご説明しました。
文化財は心の豊かさの源であり、文化財を通し国境を越えた異文化に触れることで相互理解を深めることができ、
人類共通の財産である文化財を守り次の世代に継承することが私たちの責務であること、
また財団では、国内外の彫刻・絵画・書跡・典籍・古文書・工芸品・考古資料・歴史資料などの美術工芸品の修復を行っていることをご説明しました。
【みどころ1】 全国4会場で同時期開催!
仏像・絵画・文書・歴史資料など多彩な修復作品を一挙公開します。
*各会場で異なる作品約30件を展示します。
【みどころ2】 修復によって蘇った名品の数々
国宝5件、重要文化財22件のほか、全国各地で大切に守り伝えられてきた名品を一挙公開(地方自治体指定文化財を含む約50件)します。
【みどころ3】 世界最高水準の文化財修復技術の真髄
古くより伝わる伝統技術を軸に、最新の科学技術を活用した英知の結晶により、木・紙・絹など脆弱な材質の文化財が蘇ります。
【みどころ4】 自然災害による損傷を乗り越えた文化財
阪神淡路、能登半島、東日本、熊本など、大地震によって被災した文化財の状況とその修復を紹介します。
つづいて、開催館の4館より各展覧会のみどころをご紹介しました。
はじめに、当館学芸企画部企画課長 浅見龍介より解説いたしました。
東京国立博物館 学芸企画部企画課長 浅見龍介
東京国立博物館(会期:2019年10月1日(火)~12月1日(日))
日本の各地には多くの仏像が残っています。
山間地などにひっそりとまつられる仏像からは、地域の人たちの思いが伝わってきます。
東日本大震災や能登半島地震で被災した仏像を含め、大切に守り伝えられてきた仏像を展示します。
次に、泉屋博古館分館 分館長 野地耕一郎より解説いたしました。
泉屋博古館分館 分館長 野地耕一郎
泉屋博古館分館(会期:9月10日(火)~10月27日(日)【 前期:9 月10 日(火)~ 9 月29 日(日)後期10 月1 日(火)~10 月27 日(日) 】
今に伝わる文化財は、その時代の修復や保存技術によって守られ、長い間の劣化や、天災による損傷をくぐり抜けてきました。
現代の技術によって近年修理された国宝や重文を含む絵画や工芸品約30点とその修復過程を紹介します。(前後期で展示替えがあります)
続いて、泉屋博古館 館長 廣川守より解説いたしました。
泉屋博古館 館長 廣川守
泉屋博古館(会期:9月6日(金)~10月14日(月・祝))
千年を超え日本の政治文化の中心であった京都。平安から江戸時代まで、この地に遺された彫刻、絵画、文書は膨大な数にのぼります。
修復を終え面目躍如たる名品の数々が一堂にならびます。また、修復により受け継がれる修復技術とその精神にもスポットをあてます。
最後に九州国立博物館 学芸部長 小泉惠英より解説いたしました。
九州国立博物館 学芸部長 小泉惠英
九州国立博物館(会期:9月10日(火)~11月4日(月・振休))
九州・沖縄に伝わる考古、絵画や彫刻など、約30点をご紹介します。
対外交流の盛んな九州ならではの文化財や近年の自然災害で被災した仏像などを通して、これらを守り継いできた人々の思いを見つめます。
貴重な文化財は、それを大切に守り伝えようとする人々の意志と先人たちの知恵をあつめた卓越な修復技術に支えられながら、多くの人々の「思い」がこめられて、長きにわたり伝えられてきました。
各会場でその軌跡を一挙にご紹介いたします。
この機会にぜひ、修復された文化財の素晴らしさにとともに、修復の意義を感じ取っていただきたいと思っております。
今秋は、全国4会場で修復展が熱いです!
どうぞお楽しみに。
カテゴリ:特別企画
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posted by 江原 香(広報室) at 2019年03月19日 (火)
特別展 御即位30年記念「両陛下と文化交流―日本美を伝える―」開幕
3月5日(火)、特別展 御即位30年記念「両陛下と文化交流―日本美を伝える―」が開幕しました。
本展は、天皇皇后両陛下が担われた文化交流を辿る展覧会です。
諸外国をご訪問された際に紹介された宮内庁所管の皇室ゆかりの美術品、
皇后陛下が大切にされてきたご養蚕の伝統と日本文化の関わりを紹介します。
また、展覧会の冒頭では天皇陛下御即位に際して制作された「悠紀・主紀地方風俗歌屏風」(ゆき・すきちほうふうぞくうたびょうぶ)をご覧いただけます。
悠紀地方風俗歌屏風は本日から3月31日(日)までの展示、主紀地方風俗歌屏風は4月2日(火)から展示します。
会場は本館1階の特別4室・特別5室です。
まずは第1会場の特別5室の展示風景をご紹介します。
第1会場入口
松竹薔薇蒔絵十種香道具(まつたけばらまきえじっしゅこうどうぐ) 江戸時代・18世紀 宮内庁三の丸尚蔵館蔵 展示期間:3月5日(火)~31日(日)
小栗判官絵巻(おぐりはんがんえまき) 岩佐又兵衛筆 15巻のうち2巻(巻第十、巻第十五) 江戸時代・17世紀 宮内庁三の丸尚蔵館蔵 ※会期中に巻替有
源氏物語図画帖(げんじものがたりずがじょう) 伝土佐光則筆 江戸時代・17世紀 宮内庁三の丸尚蔵館蔵 ※会期中に場面替有
養蚕天女(ようさんてんにょ) 高村光雲作 大正13年(1924) 宮内庁三の丸尚蔵館蔵 展示期間:3月5日(火)~31日(日)
次に第2会場の特別4室の展示風景です、
こちらでは国内の美術館、博物館に行幸啓(ぎょうこうけい)のご様子のほか、
外国ご訪問の際の写真パネルを展示しています。
第2会場展示風景
本展を通して、皇室が大切に守り伝えてきた「日本の美」をぜひ感じてください。
会期は4月29日(月・祝)までです、ぜひお見逃しなく。
※会期中に展示替があります
カテゴリ:2019年度の特別展
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posted by 柳澤想(広報室) at 2019年03月07日 (木)
日中文化交流協定締結40周年記念 特別展「三国志」報道発表会実施!
2019年7月9日(火)~9月16日(月・祝)、当館平成館にて日中文化交流協定締結40周年記念
特別展「三国志」を開催します。
2月20日(水)に本展の報道発表会を行いました。
まずは当館副館長の井上洋一よりご挨拶いたしました。
当館副館長 井上洋一
2世紀末、漢王朝の権威がかげりをみせるなか、各地の有力武将が次々に歴史の表舞台へと躍り出ました。
中でも、曹操(そうそう)、劉備(りゅうび)、孫堅・孫権(そんけん・そんけん)父子が台頭し、魏、蜀、呉の天下三分の形勢が定まり三国時代が幕を開けたのです。
魏、蜀、呉の動向は歴史書や小説に記され長く人々の親しむところとなりました。
そして近年、三国志をめぐる研究は曹操を葬った墓-曹操高陵(そうそうこうりょう)の発掘など重要な考古成果が相次いだことで新たな局面を迎えました。
それらは実物ならではの説得力と、歴史書や物語をしのぐ迫力を有しています。
本展は、「リアル三国志」を合言葉に、漢から三国の時代の文物を最新の研究成果によって読み解きます。
三国志勢力図
本展の見どころについて担当研究員の市元塁より解説いたしました。
【みどころ1】
必見!最新の発掘成果が解き明かす三国志の実像
三国志研究史上、最大の発見で、海外初出品となる河南省の曹操高陵出土品や、呉の皇族クラスの墓と目される江蘇(こうそ)省の上坊(じょうぼう)1号墓など、最新の発掘成果が目白押しです。三国志の実像に迫ります。
金製獣文帯金具(きんせいじゅうもんおびかなぐ)
金、貴石象嵌 後漢時代・2世紀 2009年、安徽省寿県寿春鎮古墓出土 寿県博物館蔵
体躯をくねらせた瑞獣(ずいじゅう)を立体的にあしらい、随所に貴石を象嵌し、金粒細工を施しています。魏の文帝(ぶんてい)もこうした豪奢な金具をつけた帯を欲しましたが、すでに作り手は絶えていたといいます。
揺銭樹台座(ようせんじゅだいざ)
土器 後漢時代~三国時代(蜀)・3世紀 2012年、重慶市林口墓地2号墓出土 重慶市文化遺産研究院蔵
富裕層の墓に置いた揺銭樹=「金のなる木」の台座です。
貨客船(かきゃくせん)
土器 後漢~三国時代(呉)・3世紀 2010年、広西壮族自治区貴港市梁君垌14号墓出土 広西文物保護与考古研究所蔵
漢から三国時代にかけて、呉の沿岸部の墓では船型模型が集中的に出土します。対外交易がさかんだった海洋国家・呉ならではの文物です。
【みどころ2】
潜入!曹操高陵!
2009年、河南省安陽市で曹操を葬った墓-曹操高陵を発見。その知らせは国内外の学者たちの注目を集め、現在も調査研究が続いています。
本展では、この曹操高陵の実像に迫ります。
石牌「魏武王常所用挌虎大戟」(せきはい「ぎのぶおうつねにもちいるところのかくこだいげき」)
石 後漢~三国時代(魏)・3世紀 2009年、河南省安陽市曹操高陵出土 河南省文物考古研究院蔵
「魏の武王」は曹操を指します。これにより発掘された墓が曹操高陵であることの決め手となりました。
罐(かん)
白磁 後漢~三国時代(魏)・3世紀 2009年、河南省安陽市曹操高陵出土 河南省文物考古研究院蔵
中国磁器文化の礎ともいうべき白磁は、従来、6世紀末頃出現すると考えられてきましたが、
本品はこれを300年以上さかのぼります。
※白磁についてはこちらのブログをご覧ください。
【みどころ3】
競演!さまざまな三国志との夢のコラボレーション!
小説やマンガ、ゲーム、人形劇など幅広いジャンルで世代を超えて親しまれている三国志。
本展覧会では、コーエーテクモゲームスのゲームや、横山光輝さんの漫画、川本喜八郎さんの人形劇をはじめとする様々な三国志とのコラボレーションを予定しています。
今回の報道発表会には、NHK「人形劇 三国志」で実際に使用された、川本喜八郎さん作の曹操の人形に、長野県・飯田市川本喜八郎人形美術館よりはるばるご来場いただきました。
放送から35年経つ現在でも、とても繊細かつ豊かな表情に作られていることが、よく分かります。
NHK「人形劇 三国志」の人形は、本展会期中に展示室内で数体展示される予定です。
NHK「人形劇 三国志」より 曹操
飯田市川本喜八郎人形美術館蔵 (c)有限会社川本プロダクション
このほか、三国時代に使われていた武器ややきもの、壁画など貴重な文物が一同に会します。
2019年夏、いざ、リアル三国志へ参らん!
どうぞ、お楽しみに。
なお、本展は、2019年10月1日(火)から2020年1月5日(日)まで、九州国立博物館でも開催いたします。
【おまけ】
期間限定の、お得な早割「3594(さんごくし)」3 枚セット前売券を、3月9日(土)から4月8日(月)まで期間限定で発売いたします。
詳しくは本展公式サイトをご覧ください。
3枚つづりで3,594円!
三国志ファンよ、本展覧会に集まれ!
カテゴリ:2019年度の特別展
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posted by 長谷川 悠(広報室) at 2019年02月27日 (水)
平常展調整室の三笠です。
現在、東洋館5室にて特集「白磁の誕生と展開」(~4月21日(日))を開催中です。
これに関連して、1月12日(土)に展示企画・出品のご協力をいただきました常盤山文庫の佐藤サアラ氏(当館客員研究員)をお招きして、月例講演会を行ないました。
まだ新年明けて間もなく、とても寒い日だったにもかかわらず、沢山のお客様にお運びいただき、盛況な会となりました。ありがとうございました。
佐藤サアラ氏講演風景
ここで、「白磁」についておさらいをしておきましょう。
白磁とは、胎土(化粧をする場合もある)に灰を主成分とする釉をかけて高火度で焼きあげてできる白いやきものです。
美しく清潔で、しかも堅牢な白磁は、いまや世界中でひろく使用される器。
それは中国で生まれ、中国から世界へ広まったものです。
では、その始まりはどのような姿だったのでしょうか?
この問題にとり組んだ本特集は、佐藤氏のご研究に基づいています。
画期的な成果は、“白磁の始まり”に位置づけられる隋~初唐の資料を中国古墓発掘報告に基づき整理した結果、たとえば横河コレクションの「白磁杯」(TG-646)のように、かつて「唐白磁」と考えられた一部の作品の制作年代がさかのぼるなど、短命王朝であった隋とそれに続く初唐までの100年余のあいだに現れた白磁の初期的様相が把握できるようになったことです。
白磁杯 隋・7世紀 東京国立博物館 横河民輔氏寄贈
この作品は陶磁研究家の小山冨士夫(1900~75)も愛した逸品。薄づくりで精緻な形に魅了されます。今回の研究で、この形式の杯が隋末のごく限られた時期の、ごく限られた地域でしか出土していないことがわかりました。
白磁天鶏壺 隋・6~7世紀 常盤山文庫
4世紀頃、江南において青磁でつくられていたいわゆる天鶏壺ですが、隋になって華北地方において白磁でつくられるようになります。不思議な形をしたこの器の用途は、いまのところよくわかっていません。釉の青みが強く、青磁とも見える作例です。つまり、灰を主成分とする釉がかかった高火度焼成の青磁の土や釉から不純物を取り除くと白磁ができる。白磁が青磁生産の流れのなかで始まったことを教えてくれます。
重要文化財 白磁鳳首瓶 初唐・7世紀 TG-645 横河民輔氏寄贈
同上 蓋を外した姿
トーハク中国陶磁コレクションの顔ともいうべき名品。ガラスを写したのか、金属器を写したのか、はっきりとした祖形は現在のところ見いだせていません。その形の特殊性をじっくりとご覧いただくために、今回はあえて蓋を外して展示しています。
なぜ、隋において白磁がつくられたのか、その具体的な生産動機はよくわかっていません。しかし、隋の貴人墓の副葬品をみると「白」を強く志向している様子がみとめられます。
隋・開皇15年(595)没 河南省安陽張盛墓出土品(2009年河南省博物院にて筆者撮影)
ご記憶の方も多いと思いますが、一部が2010年の特別展「誕生!中国文明」に出品されました。なかには釉のかかっていない土製のものもありますが、俑やミニチュアの明器など多くが白磁でした。
このような不思議な隋~初唐の白磁はその後どのように姿を変えていったのでしょうか。
そして、白磁はその後どのように中国から世界へ羽ばたいていったのでしょうか。
つづきは、東洋館5室「中国の陶磁」のコーナーも合わせて、展示室でぜひご覧ください!
もっと詳しく知りたいという方は、常盤山文庫発行の『常盤山文庫中国陶磁研究会 会報7 初期白磁』をオススメいたします(東洋館ミュージアムショップで販売中)。
これであなたも白磁の世界にどっぷり浸かることができます。
ところで。
先日、今夏に東博で開催予定の特別展「三国志」(2019年7月9日(火)~9月16日(月・祝))の報道発表が行われました。
日本でも大人気の三国志。
登場人物のなかでも欠かすことのできない英傑、曹操(155~220)の墓が近年河南省安陽で発見され、その副葬品に含まれていた「世界最古?」の白磁罐がやってくる、と大きなニュースになったことは皆さまのご記憶にも新しいところではないでしょうか。
え?世界最古?
三国時代の白磁?
うそでしょー、
あの写真、白く見えないし。
と思った方もたくさんいらっしゃったはず。
我々トーハクのスタッフのあいだでも、当初疑問の声が上がりました。
2016年に刊行された発掘報告書でも白磁(白瓷)とされていたものですが、昨年末に河南省文物考古研究院において調査を実施し、灰を主成分とする釉をかけて高火度で焼きあげた白いやきもの、つまり白磁であることを確認しました。
2018年12月の調査風景(河南省文物考古研究院にて潘偉斌先生、陳彦堂先生、市元研究員と)
この罐が3世紀頃につくられたであろうことは、当時普及していた耳付罐との器形の類似性からうかがうことができ、青磁を生産する技術に基づいて突発的に白磁ができても不思議ではないのですが、「三国時代に白磁が始まった」という確証には至っていません。
曹操が白いやきものを愛し、つくらせたのか…? と想像は膨らみますが、そうした背景を決定づけるものが魏の貴人墓からまだ見つかっていないうえ、これに続く三国時代以降の白磁は6世紀まで確認されていないのです。
曹操墓出土品の白磁罐は、まだ多くの謎に包まれています。
今後、三国時代の古墓の発掘がさらに進み、関連資料の発見が望まれるところです。
というわけで、夏を楽しみに待ちながら、まずは東洋館で白磁の誕生と展開について一緒に予習いたしましょう!
カテゴリ:特集・特別公開、2019年度の特別展
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posted by 三笠景子(平常展調整室主任研究員) at 2019年02月26日 (火)