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鳥獣戯画の断簡と模本

6月1日(火)より特別展「国宝 鳥獣戯画のすべて」が再開しました!
再開後は、鳥獣戯画の断簡がそろって展示され、甲・乙・丙・丁の各巻とあわせ、文字通り、「鳥獣戯画のすべて」をご覧いただけます。


断簡展示風景

断簡と模本は、会場第二章でご紹介しています。

さて、「断簡(だんかん)」、耳慣れない言葉だと思いますが、これは、もともと巻物の一部分であったものが、伝来の過程で別れてしまったものです。
巻物は一定の幅の紙や絹を継いで、一巻の長い巻物にしていくので、経年の劣化によって継ぎ目がはがれやすくなります。
本来の巻物から離れてしまった断簡は、多くの場合、保存と鑑賞に適するよう掛軸の形に改められました。
鳥獣戯画には現在、5点の断簡が確認されています(甲巻の断簡が4点、丁巻の断簡が1点)。
いずれの断簡も、「高山寺印」が捺されていないことから、江戸時代以前に分かれてしまったと考えられます。個々の断簡は、甲・乙・丙・丁の各巻とは異なる、それぞれの歴史を歩んできました。

例えば、現在MIHOミュージアムに所蔵される甲巻の断簡は、内箱の蓋裏に金字で「抱一暉眞記」の文字と、重郭楕円印「等覚院印」が朱で記されます。


鳥獣戯画断簡(MIHO MUSEUM本) 平安時代・12世紀 滋賀・MIHO MUSEUM蔵


鳥獣戯画断簡(MIHO MUSEUM本)内箱の蓋裏

江戸琳派の祖として名高い酒井抱一(1761~1828)の手元にあった可能性が高い作品です。同じ場面ではありませんが、抱一は甲巻をアレンジした作品も残しており、鳥獣戯画に関心があったことがうかがえます。
この他、「益田家旧蔵本」と呼ばれる断簡は、近代を代表する実業家、茶人、そして美術コレクターとして著名な益田鈍翁(1848~1938)の旧蔵品です。
個々の断簡の伝来は、所蔵していた人々の愛玩の歴史といえます。

このような断簡の歴史をたどる手掛かりとなるのが「模本」と呼ばれる、鳥獣戯画を写した作品です。
模本を見ると、模本が制作された時点での、鳥獣戯画の様子を知ることができます。
例えば、肥前(現在の佐賀県)平戸藩主であった松浦静山(1760~1841)の賛がある「松浦家本」には、「益田家旧蔵本」と「高松家旧蔵本」の二点の断簡が写されており、当時は福山藩主であった阿部正精(1774~1826)が所蔵していたことがわかります。


鳥獣戯画模本(松浦家本) 狩野洞益筆、松浦静山賛 江戸時代・文政2年(1819) 長崎・松浦史科博物館蔵

この他、現存する最古の模本である「長尾家旧蔵本」、江戸時代を代表するやまと絵師の家系である「住吉家」に伝来した「住吉家旧蔵本」も展示されていて、断簡の当初の位置や、今は失われてしまった場面があること、そして、甲巻はもともと二巻で成り立っていたことがわかるのです。
個人的に模本の中で興味深かったのが、江戸時代前半に活躍した御用絵師・狩野探幽(1602~1674)による、「探幽縮図」と呼ばれる絵画鑑定手控えに写された鳥獣戯画です。
冒頭部分に「かいる」「さる」「うさき」とあって、カエルは「カイル」だったことがわかります。


鳥獣戯画模本(探幽縮図) 狩野探幽筆 江戸時代・17世紀 京都国立博物館蔵

当時の読み方(発音)まで記されていて、模本、興味深いですね。

謎の多い「鳥獣戯画のすべて」を考えるためには、断簡と模本は大変重要な存在です。
今後、「猿と蛙の首引き」や「舟をこぐ蛙」「蛇の登場に慌てる蛙」といった、模本でしか伝わらない場面の断簡が、ひょっとしたら再発見され、往時の姿がよみガエルかもしれません。

※会期は6月20日(日)まで延長となりました。入場には日時指定券が必要です。日時指定券の購入等、詳細は展覧会公式ウェブサイトでご確認ください。

 

カテゴリ:2021年度の特別展

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posted by 古川攝一(平常展調整室) at 2021年06月03日 (木)

 

「鳥獣戯画展」ができるまで~アメリカからの作品借用リポート

特別展「国宝 鳥獣戯画のすべて」は、現在わかっている鳥獣戯画巻の全ての場面をご覧いただけるよう、高山寺蔵の国宝4点に加え、かつてその一部だった断簡と、今は失われている場面を過去に写した模本、さらに、鎌倉時代に高山寺を再興した明恵上人にかかわる文化財も加えて鳥獣戯画の世界をあますところなくご堪能いただく企画です。
展示作品のうち3点は、海外からお借りした掛軸です。コロナ禍で昨年夏開催の予定が延期となり、いったんは白紙となったものの、新しい会期での貸与を改めてご検討いただき、幸いにもお借りすることができました。


釈教三十六歌仙絵巻断簡 貞慶上人・明恵上人 南北朝時代・貞和3年(1347)
The Cleveland Museum of Art, Mr. and Mrs. William H. Marlatt Fund 1985.88


通常、作品貸与にあたっては、作品を所蔵する美術館から職員(コレクション管理担当者や保存修復担当者など)が作品に随伴してくるのですが、日米双方の感染症対策のため、国内外での人の移動に制限があり、来日できません。そのため、クリーブランドからお借りした作品については、輸送から点検、展示の一連の作業をリモートで確認していただくことになりました。
作品が日本に到着し、無事展示されるまでの一端をリポートします。

まず、作品が空港に到着すると、飛行機から作品の入ったクレートを下ろし、トラックに積み込みます。トラックに積み込むところから、日本とアメリカの輸送会社が写真のやり取りをして、各作業工程を現地の係員に確認してもらいました。
空港の制限エリア内での通話はできないので、コミュニケーションアプリを通じて写真のやり取りをしました。


飛行機から降ろされたクレートの入った貨物コンテナ


作業の様子を写真に撮って送ります

博物館に到着後、収蔵庫で環境にならし、数日後に展示です。
展示の際は、特別展用の収蔵庫からクレートを運ぶ様子をTeamsで中継、クレートの移動の様子から、クレートから作品を取り出し、点検、展示するまでを所蔵美術館の職員に確認してもらいます。

クリーブランド美術館でこの作業を担当されたのは、3人。学芸員のシネ―ドさん、レジストラーのグレッチェンさんは、昨年の当館の専門家交流事業に参加されました。また、保存修復担当のサラさんは、2014年に当館で行ったクリーブランド美術館展の際、保存担当として来日されました。いずれも当館館内の様子はよくご存じです。


先方とやり取りをしながら進めます

点検は、今回は館外の保存修復の専門家のご協力を得ました。

作品点検中、気になるところはズームアップし、確認しながら作業を進めていきます。


見づらいところはPCを近づけて確認いただきました

作品には特に問題もなく、ほっとしたところで、展示にかかります。


展示作業もご覧いただき、必要な時はご指示をいただきます


無事に作業終了することができました

現地は夜にもかかわらず、ご自宅からこちらの作業を見守っていただいたのは感謝の一言に尽きます。

アメリカ各地で感染爆発の中、クリーブランド美術館も一時期感染症対策のため閉館となっていましたが、今は活動を再開、地域の方々が多く来館されています。
こうした非常時にもかかわらず、この展覧会にご出品をご快諾いただいたことに、改めて心よりお礼を申し上げたいと思います。これは、クリーブランド美術館と当館との長い交流ではぐくんだ友情の賜物でもあるかと思います。
初めてのリモートでの作業は大変でしたが、よい経験になりました。
新しい日常の中、このような新しい展覧会作業も増えていくのかもしれません。
簡単に海外に渡航できない日々がまだまだ続きますが、文化財を通して、世界との交流を感じていただければ幸いです。


 

カテゴリ:2021年度の特別展

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posted by 鬼頭智美(広報室長) at 2021年04月20日 (火)

 

お待たせしました。特別展「国宝 鳥獣戯画のすべて」開幕だほ!



ほほーい!ぼくトーハクくん。特別展「国宝 鳥獣戯画のすべて」がついに開幕したほ!

2020年の夏に開幕するはずだったけど、延期になって、やっと開幕となりました。皆様大変お待たせしました。

ユリノキちゃん、早く会場に行くほ! ぼくがユリノキちゃんの分まで事前予約しておいたほ。

さすがだね、トーハクくん。さっそくギガがお出迎えしてくれているわ。

鳥獣戯画 エントランスバナー 写真
バナーだほ!

ポップな雰囲気で、わくわくするほ!

まずは今から400年程前に鳥獣戯画を写した模本と国宝「鳥獣戯画 甲巻」をスクロールしている映像がある部屋から始まるわ!

鳥獣戯画 スクロール動画 写真
本物を見る前に映像で予習ができるほ

次の部屋は、皆様お待ちかね、国宝「鳥獣戯画」の部屋ね。ここで国宝の4巻をすべてみることができるわ。

国宝「鳥獣戯画」は4巻もあるほ? カエルさんとウサギさんが出てくるものだけかと思っていたほ。

国宝「鳥獣戯画」は全4巻あるのよ。トーハクくんが言っているのは、みんな大好きな「甲巻」のことだね。
ほかには、日本にいる動物と、外国の動物や空想の動物が描かれた動物図鑑のような「乙巻」。
前半は人物戯画、後半は動物戯画が描かれた「丙巻」。
二重のパロディとヘタウマに注目、最後まで飽きさせない「丁巻」があるのよ。

ほーすごいほ。でも2015年の特別展「鳥獣戯画─京都 高山寺の至宝─」では前半部分と後半部分を途中で巻き替えていて、半分ずつしか見れなかったほ。今回はどうなんだほ。

いい質問だわ。今回は、全4巻、全場面を展覧会中一挙公開しているの。前半部分と後半部分を見比べたり、違う巻を見比べたりしながら、すべてを見ることができるのよ。

すごいほ。わくわくするほ! おや、なんだか博物館では見慣れない装置があるほ。空港とかでは見たことがあるほ。

鳥獣戯画 動く歩道 写真

トーハクくん、これも今回の大きなポイント、国宝「鳥獣戯画 甲巻」は動く歩道にのって鑑賞するのよ。

なんでだほ?

絵巻を、博物館の展示のように広げた状態で見ることは、昔の見方とは異なっているの。もともと、手元で少しづつ広げては巻いてを繰り返して見ていたのよ。

先の場面に何がくるかわからなかったほ?

そうよ。場面を動かしながら見ていたから、次はどんな場面がくるのかな、とわくわくしながら見ていたのよ。だから、絵巻のもともとの鑑賞方法を皆様に体験してもらいたいと思って、動く歩道を設置したのよ。

ほー。そのために動く歩道を設置するなんてすごいほ。

動く歩道のおかげで、みんな作品の近くで同じ時間で見ることができるね。

鳥獣戯画 動く歩道 写真
国宝「鳥獣戯画 甲巻」の待機列には18:30分以降はお並びいただけませんのでご注意ください

ほー、思ったよりゆっくり見ることができたほ。甲巻の次は、乙巻、丙巻、丁巻のコーナーだほ。鑑賞のポイントはなんだほ?

甲巻との線の違いを見比べたり、巻物前半と後半を見比べたり、自分が好きな動物を探したり、描かれた人々が何をしているのか想像したり、自由に楽しんでもらいたいわ。

鳥獣戯画 乙丙丁展示室 写真
乙巻、丙巻、丁巻の展示風景だほ!

鳥獣戯画 乙作品 写真
国宝 鳥獣戯画 乙巻 平安時代・12世紀 京都・高山寺蔵
空想上の霊獣、麒麟の場面

鳥獣戯画 丙作品 写真
国宝 鳥獣戯画 丙巻 平安時代~鎌倉時代・12~13世紀 京都・高山寺蔵
目比べ(にらめっこ)と腰引き場面

鳥獣戯画 丁作品 写真
国宝 鳥獣戯画 丁巻 鎌倉時代・13世紀 京都・高山寺蔵
大木を運ぶ、木遣りの騒動に振り返る人々の場面


国宝「鳥獣戯画」満喫したほ~。第2会場にきたほ。断簡(だんかん)と模本のコーナーがあるほ。どんなコーナーか簡単に解説してほ。

断簡は、国宝「鳥獣戯画」の一部が本体から切り離され、掛け軸などに仕立て直されたものよ。模本には、国宝「鳥獣戯画」の本物では今は失われている場面も写されているの。
国宝「鳥獣戯画」の4巻と、これらの断簡と模本もあわせて、もともと存在していた「鳥獣戯画のすべて」を紹介するコーナーなのよ。

鳥獣戯画 断簡展示 写真
断簡の展示風景(第2会場)

鳥獣戯画 模本写真 写真
鳥獣戯画模本(住吉家旧蔵本) 巻第5 安土桃山時代・慶長3年(1588) 東京・梅澤記念館蔵

鳥獣戯画 全貌パネル 写真
国宝「鳥獣戯画」復原パネル

最後は、明恵上人と高山寺を紹介するコーナーよ。

国宝「鳥獣戯画」を持っている高山寺のことは知っているほ。明恵上人って誰だほ?

明恵上人はたくさん勉強して、修行を頑張った鎌倉時代を代表するお坊さんよ。その明恵上人が高山寺を鎌倉時代にたてなおしたのよ。

なんだかすごそうな人だほ。

修行のために右耳を切ったり、自分が見た夢の日記をかき続けたり、海で拾った石をお釈迦様から自分にたどり着いたものだと大切にしたりと、色々なエピソードがあるわ。

鳥獣戯画 夢記 写真
重要文化財 夢記 明恵筆 鎌倉時代・承久2年 京都・高山寺蔵 展示期間:4月13日(火)~5月9日(日)

あっ、すごいリアルなお像があるほ。

鳥獣戯画 明恵上人像 写真
重要文化財 明恵上人坐像 鎌倉時代・13世紀 京都・高山寺蔵

28年ぶりにお寺の外で公開したのよ。まるでそこにいるような存在感だね。

みてみて、これなんだほ?

鳥獣戯画 たつのこ 写真
龍子 京都・高山寺蔵

これは乾燥した状態のタツノオトシゴだわ。明恵上人はお釈迦様にあこがれていて、天竺(てんじく:インドの旧名)への旅を計画していたの。この「龍子」(たつのこ)も異国を象徴するものとして、明恵上人が大切にしていたのかもしれないのよ。

鳥獣戯画 子犬 写真
重要文化財 子犬 鎌倉時代・13世紀 京都・高山寺蔵

「子犬」も明恵上人が手元に置いて、かわいがっていたものだったそうよ。

見ごたえ十分だったほ。もう1回見たいほ。

トーハクくん、90分以内を目安に観覧するようお願いが出ているから、守りましょうね。

そうだったほ!それなら図録で展覧会を振り返るほ。

図録もすごいのよ。国宝「鳥獣戯画」の全4巻の全場面がほぼ原寸大で載っていて、鳥獣戯画の謎に迫る最新研究だけでなく、冒頭には入門編、応用編の2つのステップの解説があって、鳥獣戯画をより楽しめるようになると思うわ。

鳥獣戯画 図録 写真
図録 3,000円(税込) A4判、474ページ

この図録の厚さ!!すごいほ。最後までギガアツイ!展覧会だったほ。

トーハクくん、会場の外、平成館1階には高山寺紹介コーナーと8K映像コーナーがあるのよ。あと、本館特別1室・特別2室・14室では特集「鳥獣戯画展スピンオフ」が開催されているから、それも見ましょうね。


タイトルディスプレイ


館14室展示風景


藍釉兎 中国 唐時代・8世紀 横河民輔氏寄贈 東京国立博物館蔵 本館14室にて6月6日(日)まで展示

ユリノキちゃん!平成館企画展示室では4月27日(火)から5月30日(日)まで、親と子のギャラリー「動物のうごき」が開催されるから、それも要チェックだほ!

ほかにも、「博物館で動物めぐり」というタイトルで、本館、東洋館、平成館考古展示室の各展示室でも動物をモチーフにした作品を展示しているのよ。

動物にたくさんあえるほ!トーハク、ギガアツすぎるほ!ユリノキちゃん、二人で最後のあいさつするほ!

特別展「国宝 鳥獣戯画のすべて」は5月30日(日)まで、入場には事前予約が必要です!

カテゴリ:トーハクくん&ユリノキちゃん2021年度の特別展

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posted by トーハクくん&ユリノキちゃん at 2021年04月16日 (金)

 

トーハクの桜 今年も巡ってきました「博物館でお花見を」開催中

 

「博物館でお花見を」メインビジュアル

トーハク春の恒例企画「博物館でお花見を」を3月16日(火)~4月11日(日)で開催しています。
昨年は新型コロナウイルス感染症拡大の影響により、中止となりましたので、2年ぶりの開催となります。

今年は、新型コロナウイルス感染症予防のため残念ながら、例年会場で開催しているワークショップ等の関連イベントは見合わせとなりましたが、桜を題材とした作品の展示や、アプリで参加する期間限定のスタンプラリーなどをお楽しみいただけます。
今年の「博物館でお花見を」を楽しむポイントをご紹介します。

まずは、作品でお花見を楽しむ「本館桜めぐり」。
本館の各展示室では、桜にちなんだ様々な作品を展示しています。
該当作品のキャプションには桜マークが付いていますので、展示室でお気に入りの桜を見つけてみてください。

源氏物語図屛風(絵合・胡蝶)の作品画像
源氏物語図屛風(絵合・胡蝶) 狩野〈晴川院〉養信筆 江戸時代・19世紀 東京国立博物館蔵
※本館7室にて4月18日(日)まで展示

『源氏物語』の一場面から。鮮やかな色彩や白く輝く桜が美しい、華やかで春らしい作品です。今年のキービジュアルに使われた作品です。


「振袖 鶸色縮緬地桜藤菊尾長鳥模様」作品画像
振袖 鶸色縮緬地桜藤菊尾長鳥模様 江戸時代・19世紀 阿部美代子氏寄贈 東京国立博物館蔵 
※本館8室にて4月25日(日)まで展示

桜をはじめとする、四季折々の花の折枝をふっくらとした刺繡で表しています
 

本館10室 浮世絵コーナーの風景画像
本館10室 浮世絵コーナー
※4月11日(日)まで展示

桜を描いた浮世絵がずらりと並びます。


「博物館でお花見を」対象作品を示す桜マーク
今年の桜マーク

例年、紙のシートで行っていたスタンプラリーですが、今年は「さくらスタンプラリー」と題し、「博物館でお花見を」開催期間限定で、当館公式鑑賞ガイドアプリ「トーハクなび」にて開催しています。

お手持ちのスマートフォンやタブレットなどの端末に「トーハクなび」をダウンロードしてご参加ください。
本館展示室内に設定されたスタンプラリーのポイントに行くと、その展示室にある作品にちなんだクイズが出題されます。
6つのポイントをまわり、すべてのクイズに正解した方は、期間限定でオリジナルのプレゼント画像をダウンロードできます。

※「トーハクなび」は最新のバージョンにアップデートしてください。
※「さくらスタンプラリー」について詳しくはこちらをご覧ください。
「さくらスタンプラリー」の詳細を見る

「さくらスタンプラリー」のイメージ画像

さくらスタンプラリーに参加している様子
スタンプラリーのポイントにて赤いスタンプマークを押すとクイズが表示されます

桜にちなんだ作品や桜をテーマにした俳句を投稿する、東博句会「花見で一句」はオンラインで募集しています。

「博物館でお花見を」開催期間中に当館ウェブサイトのフォームより応募できます。
入選作品は、当館ウェブサイトで発表し記念品を贈呈します。

※東博句会「花見で一句」について詳しくはこちらをご覧ください。
東博句会「花見で一句」の詳細を見る

東博句会「花見で一句」のイメージ画像
皆さまの素敵な一句をお待ちしております

当館では、作品の桜だけでなく本物の桜もご覧いただけます。
本館北側の庭園では、ソメイヨシノをはじめ、約10種類の桜が時期を変えて咲きます。
庭園は、工事のため部分開放となっていますが、4月1日(木)より全面開放予定です。

庭園風景
庭園風景

「博物館でお花見を」は4月11日(日)までです。トーハクならではの特別なお花見をお楽しみください。

 

博物館でお花見を

本館
2021年3月16日(火)~ 2021年4月11日(日)
「博物館でお花見を」のイメージ画像

 

 

カテゴリ:博物館でお花見を

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posted by 長谷川悠 (広報室) at 2021年03月26日 (金)

 

明時代の宮廷絵画とその系譜(2)――比べてたのしむ

東洋館8室で開催中の特集「宮廷から地方へ――明時代の絵画と書跡」(~4月11日〈日〉)は後期に入りました。
前回のブログ「明時代の宮廷絵画とその系譜(1)――緻密な描写をたのしむ」につづき、本ブログでは、「比べる」をキーワードに、本特集展示の楽しみ方をご案内します。
前回のブログ「明時代の宮廷絵画とその系譜(1)――緻密な描写をたのしむ」に移動する

本展のおすすめの並びの一つは、王諤(おうがく)筆「山水図軸(さんすいずじく)」、王世昌(おうせいしょう)筆「山水図軸」、朱端(しゅたん)筆「寒江独釣図軸(かんこうどくちょうずじく)」です。


山水図軸 王諤筆 中国 明時代 16世紀


山水図軸 王世昌筆 中国 明時代 16世紀


重要文化財 寒江独釣図軸 朱端筆 中国 明時代 16世紀

  
右から
山水図軸 王諤筆 中国 明時代 16世紀
山水図軸 王世昌筆 中国 明時代 16世紀
重要文化財 寒江独釣図軸 朱端筆 中国 明時代 16世紀

 

この3作品には、次のような共通点があります。

・16世紀頃の宮廷画家が絹に墨と淡彩で描く。
・山水を描き、点景として人物を描きこむ。
・いわゆる「馬夏様式(ばかようしき)」に属する。

※馬夏様式=南宋時代の宮廷画家、馬遠(ばえん)、夏珪(かけい)を源流とする山水画様式。対角線で区切った片側にモチーフを寄せる構図、斧で切りつけたような墨線を用いた山石の質量表現(斧劈皴〈ふへきしゅん〉)を特徴とする。


では、相違点についてはどうでしょうか?

まず、描かれた季節について考えてみましょう。


重要文化財 寒江独釣図軸 朱端筆(部分・積雪)
一番わかりやすいのは、朱端筆「寒江独釣図軸」の冬でしょう。
画面には全体にうっすらと墨が刷かれ、山や樹木の一部を白く塗り残すことで、雪の降り積もった様子が表わされます。
釣り人の笠や蓑、舟にも雪が降り積もっています。



山水図軸 王世昌筆(部分・紅葉)
王世昌筆「山水図軸」は、広葉樹にうっすらと赤茶色が塗られた紅葉の表現が確認できることから、秋と判断できます。



山水図軸 王諤筆(部分・柳)
王諤筆「山水図軸」は、やや迷いますが、枝垂れ柳の緑が美しいのは春から夏にかけてです。
柳の後ろには、靄がただよい、木々や建物の屋根がおぼろに見えています。
このような春霞を思わせる大気の表現から、春の景としたいと思います。


大気の表現に関心を移せば、最も印象的なのは王世昌筆「山水図軸」といえそうです。


山水図軸 王世昌筆(部分・風)
強い風に吹き散らされて、小枝や葉が宙に舞っています。
画面左側の余白には、淡墨の塗り残しで表わされた白い帯が斜めに幾筋も見え、山から吹き下ろす風の存在を伝えます。 


山水図軸 王世昌筆(部分・水面)
これを受けて水面が波立つ様子は、とがった筆線で表わされています。 
 


山水図軸 王諤筆(部分・水面)


重要文化財 寒江独釣図軸 朱端筆(部分・水面)
王世昌筆「山水図軸」と比べると、王諤筆「山水図軸」に描かれる、やわらかくおだやかな水の流れ、朱端筆「寒江独釣図軸」の、波一つ立たない静まりかえった水面も、それぞれ趣深く感じられます。


人物表現はどうでしょうか?


山水図軸 王諤筆(部分・人物)


山水図軸 王世昌筆(部分・人物)


重要文化財 寒江独釣図軸 朱端筆(部分・人物)
いずれも人体の構造をよくとらえた、描写角度に齟齬のない、きっちりとした表現です。
王諤と王世昌は、衣に打ち込みと強弱(肥痩)のはっきりした筆線を用いています。
王世昌の方が、若干、筆の速さが強調されているようです。
二人に比べると、朱端の衣の筆づかいは、どこか、たどたどしいですが、これは、王諤と王世昌の描く人物たちが、開放的に、空気に身をさらしているのに対し、朱端の人物は寒さに縮こまっているため、と解釈できるかもしれません。

三人の個性は、山石にほどこされた斧劈皴にも表われているようです。


山水図軸 王諤筆(部分・皴)


山水図軸 王世昌筆(部分・皴)


重要文化財 寒江独釣図軸 朱端筆(部分・皴)

    右から
山水図軸 王諤筆(部分・皴)
山水図軸 王世昌筆(部分・皴)
重要文化財 寒江独釣図軸 朱端筆(部分・皴)
一番おとなしく優等生的な斧壁皴は、王諤のもの。
王世昌のそれは、衣と同様、筆線の勢いが強調されます。
朱端は、おどるような、遊びのある斧壁皴です。

 

筆墨の主張の強さは、画面の大きさとも密接に関わっています。
王諤筆「山水図軸」は縦146.0cmですが、王世昌筆「山水図軸」は206.0cm、朱端筆「寒江独釣図軸」は171.9cmです。
画面サイズと表現との対応関係は、複製図版では何ともお伝えできませんので、後はぜひ、会場にて確認していただければ幸いです。 

宮廷から地方へ――明時代の絵画と書跡

編集・発行:東京国立博物館
定価:660円(税込)
カラー24ページ

各作品の詳細な説明については、こちらの小冊子もご参照ください。

 

カテゴリ:特集・特別公開中国の絵画・書跡

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posted by 植松瑞希(出版企画室) at 2021年03月23日 (火)