こんにちは。研究員の横山です。
今日は、ずっと温めていた特集のご紹介です。
いつも、展示室でご覧いただいている作品たち。
ふだん、展示室に出ていないときは、どのような箱に入っているのでしょうか。どのように保管されているのでしょうか。気になりませんか?
特集「やきもの、茶湯道具の伝来ものがた ―付属品・次第とともに観る―」(平成館企画展示室、2018年1月28日(日)まで)は、作品の箱など付属品(一緒に伝わっているもの)までお見せします、という展示です。
ここでは日頃担当している陶磁器や、茶の湯関係の作品を中心に紹介しています。
この企画、実は博物館に入る前から関心のあったテーマでした。
茶道をされる方は目にすることがあるかもしれませんが、お茶の道具にはとにかく「大切に、大切に」扱われ守られ伝えられてきているものが多くあります。
たとえば、茶入にはいくつもの仕覆(しふく:茶入を包む袋)がともなって、まるで「着せ替え人形」のようなものもありますし、著名な茶人が「これは確かなものですよ」と記した箱は、それだけで価値のあるものとなります。
さらに、その箱を守るためにまた箱を新たにつくって、“マトリョーシカ”のような二重三重の箱になっていることもあります。
唐物肩衝 銘 松山 中国 南宋~元時代・13世紀 原田吉蔵氏寄贈
作品と付属品がずらり勢ぞろい。小さな茶入にこれだけのものが付属しています。
この茶湯道具における付属品(「次第(しだい)」ともいいます)の重要性は、先の特別展「茶の湯」にかかわっていくなかでも、あらためて実感することでした。
箱の蓋を保護するために覆う紙、小さな紙札、更紗など特別な裂であつらえられた包裂…。
その一つひとつが作品を大事に守り伝えてきた証であり、歴史を物語る大切なものばかり。
作品を展示台に並べる際も、展示を終えてもとに戻す際も、それらに触れると何ともいえない緊張に包まれました。
重要文化財 青磁輪花碗 銘 馬蝗絆 中国・龍泉窯 南宋時代・13世紀 三井高大氏寄贈
茶の湯展にも登場した名碗。この展示では箱と伝来記も一緒に御覧いただきます。
作品それ自体が興味深いものばかりの博物館の所蔵品ですが、その周辺に付属するものを見ていくと、前の所有者の「顔」や「思い入れ」がうかがえることがしばしばあります。これは博物館研究員の役得ですね。
学生時代から近代数寄者やコレクターについて関心のあった私にとって、博物館入職以来、ワクワクすることの連続です。
ぜひ、こういう世界も展示で楽しんでいただけたらいいな、という思いもずっと抱いてきました。
彫唐津茶碗 銘 巌 唐津 安土桃山~江戸時代・16~17世紀 広田松繁氏寄贈
この特集では、東京国立博物館の陶磁器や茶の湯関係のコレクションの中核をなす、広田不孤斎と松永耳庵の二人を取り上げました。
加えて、昨年から保存修復課に属し、「どのようにして作品を後世に伝えていくか」ということを、前にも増して考えるようになりました。
作品の修理にかかわることが主な仕事ですが、作品をいかに安全に収蔵していくか、作品周縁の環境づくりも大切なミッションです。
そうしたなかで、新しい保管箱を作るなどしていくと、私自身もまたある種、作品の付属品づくりにかかわり、ものの歴史に関与していくことになります。
銹絵十体和歌短冊皿「八十一歳乾山」銹絵銘 乾山 江戸時代・寛保3年(1743)
乾山の共箱をともなう作品。箱も大切に伝えていくため、10客の皿は新たに誂えた保管箱に収蔵しています。
…そんなこんなで、いろいろな思いが重なって、今回の特集につながりました。
展示室をご覧いただくと、いつもとは少し違う雰囲気をお楽しみいただけるのではないかと思います。
なお、展示室やこのブログでお伝えしきれなかったよもやま(?)話は、1月20日の月例講演会でお話しできたらなと思っています。
合わせて足をお運びいただければ、幸いです。
特集「やきもの、茶湯道具の伝来ものがたり ―付属品・次第とともに観る―」は、2018年1月28日(日)まで展示中です。
それではみなさま、どうぞよいお年を!
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posted by 横山梓(保存修復室) at 2017年12月18日 (月)
感謝っ・・・! 東博的感謝っ・・・! 「トーハク感謝DAY」!
さて、クリスマスまであと10日となりました。今年のご予定はお決まりですか?
…そうですね。皆様のおっしゃりたいことはよくわかります。
クリスマスに予定を入れなきゃいけないと誰が決めたんだ、と。
チキンとケーキを買わなきゃいけない気になるのはなぜだ、と。
いやそもそもトーハクとクリスマスに何の関係があるのだ、と
…そうですね。トーハクとクリスマスにはあまり関係がございません。正直なところ、私自身、世の中のクリスマスムードを「お、やってるね!」と、一定の距離を置いて眺めておりました。 昨年までは。
ええ。今年のトーハクは一味違います。
今年のクリスマス、トーハクはタダで開館しています。
…「タダ開館」している…だけ?いえいえ、「タダ」と「開館」の間、よーく目を凝らしてご覧ください。今年のクリスマス、トーハクはタダで開館しています。
そうです!今年のクリスマス、トーハクは入館無料!正確に言うと、年内最後の開館となる12月23日から25日の3日間は入館無料!クリスマスムードに便乗しようなどというよこしまな気持ちは一切ありません。クリスマスはたまたま被っただけです!
というわけで、トーハクが年内最後の開館となるこの3日間、すべての来館者の皆様に感謝を込めてお贈りする「トーハク感謝DAY 2017」。入館無料となるほかにこの時期にぴったりのイベントなども行いますので、簡単にご紹介させていただきましょう。
まずは、特別ライトアップ。本館と本館前庭を中心としたエリアに、普段とは違うライトアップを行います。館員一同の感謝の気持ちが思い余って光になったものですが、クリスマスのロマンティックな夜にもぴったりです。
もう一つ。クリスマスライブも無料でお楽しみいただけます。館員一同の感謝の気持ちを音楽に託したものですが、まさにクリスマスシーズンぴったり。
出演は、ジュスカ・グランペール(ギター・高井博章さんとバイオリン・ひろせまことさんのアコースティックデュオ)、ウィリアム・プランクルさん(チェロ)。ゲストとして、シンガーソングライターのACOさんをお迎えします。
ジュスカ・グランペール(ギター、ヴァイオリン)
ウィリアム・プランクル(チェロ)
ACO(シンガーソングライター)
約30分の無料コンサートを、本館エントランス、平成館ラウンジなど館内各所でお楽しみいただける贅沢な機会!ダイワハウス工業の協力により、12月23日(土)は法隆寺宝物館エントランスが燈火器によって幻想的な空間に変わります!実施時間・場所は日によって異なりますので、詳細はウェブサイトでご確認ください。
そのほかにも、三遊亭究斗師匠によるミュージカル落語(別途チケットが必要)など、この3日間でしか楽しめないイベントをご用意。
25日はトーハクくん、ユリノキちゃんも年内最後のごあいさつに登場予定です(10:30~、13:00~、14:30~ ※登場はいずれも本館エントランス、各30分程度)。
25日までご覧いただける特集「親指のマリアとキリシタン遺品」へもぜひお寄りください。
おひとりでも、カップルでも、ご家族でも気軽にお楽しみいただけること間違いなしです。今年はこれまで来館の機会がなかった方も、今までトーハクにいらっしゃったことのない方も、3日間もあれば滑り込みセーフ!ぜひ皆様に、「今年のご来館ありがとうございます」という感謝の気持ちをお伝えできればと思います。
クリスマスイブイブ、クリスマスイブ、クリスマスの3日間、皆様のご来場を心よりお待ちしております。
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posted by 田村淳朗(総務課) at 2017年12月15日 (金)
こんにちは。ボランティア室の神辺です。
今年も東博ボランティアデー(通称ボラデー)が12月1日(金)、2日(土)に開催され、盛況のうちに幕を閉じました。神辺は今年4月よりボランティア室に配属となり、初めてのボラデー運営でした。ボラデーについて事前に「ともかくボランティアさんたちの熱量が半端ない」というふんわり怖い情報を得ており、しかしその熱量への具体的な対策は思いつかないまま、ボランティア室最大のイベントかつボランティアの祭典であるボラデーの初日を少々緊張して迎えました。
今回はそんな初々しい目で見たボラデー2日間の様子をレポートいたします。
そのまえに「トーハクボランティアデーって何?」という方、1089ブログ11月21日(火)「ボランティアデーと平成30年度からのボランティア募集のお知らせ」を先にお読みくださいませ。
ちなみにトーハクボランティアによる自主企画グループは全部で16種類ありますが、今年のボラデーにはそのうち14種類のグループが参加しました。
それでは、平成29年度のボランティアデーレポート、時系列でどうぞ。
12月1日(金)―1日目 | |
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9:30 前日夕方の天気予報で台東区の降水確率30%だったのに、朝からしっとりと小雨。しかも寒い。運慶展の熱狂、開館前の正門の長打の列は今はもう、影も形もありません。祭典のスタートとしては少々心細いですが、ボラデーの幕開けです。まずは庭園茶室ツアーの整理券配布からスタート! 庭園茶室ツアーは18名限定の人気のツアー。30分ほどでめでたく整理券配布終了。 |
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10:00 鈴木ボランティア室長によるボランティア募集説明会(1回目)開始。 トーハクボランティアの目的や具体的活動について詳しく説明するため、来年度トーハクボランティアに応募予定の方には必聴の内容です。 募集案内はこちら |
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10:20 ガイドツアートップバッターは考古展示室ガイドです。 ボランティアガイドツアーは「初めて来館された方にも楽しんでもらう」「作品以外のトーハクの魅力を知るきっかけづくり」が目的です。そのため、わかりやすい言葉づかいや話し方を心がけています。 |
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10:30 考古展示ガイドが順調に進んでいることを見届けて、ボランティア活動紹介ツアーにかけつけます。案内人は現役のボランティア。トーハクボランティアの活動の中心であるお客様へのご案内と教育スペースでのお客様の対応を実際にご覧いただきます。 ツアー参加者はボランティア活動に興味深々の様子。楽しくおしゃべりしながらのツアーです。「トーハクボランティアに合格する秘訣は?」なんていうトンデモ質問も飛び出します。 |
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11:00 朝イチで整理券を配布した庭園茶室ツアーが出発です。庭園にある5つの茶室をめぐります。 皆様、庭園の美しい紅葉と茶室の趣向を堪能されていました。 |
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12:00 鈴木ボランティア室長によるボランティア募集説明会(2回目)開始。 室長の最初のひとこと「昼食ではなく説明会を選んだ皆様ようこそ」 |
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12:00 たてもの散歩ツアーも正午スタート。本館、東洋館、表慶館など建物に着目するツアーです。 いつの間にか雨もやみ、前庭から本館の外観についてご案内。トーハクで一番大きな重要文化財、本館。「正面玄関の屋根には鳳凰の形をした鬼瓦があります」とのこと。 |
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12:30 本日2回目のボランティア活動紹介ツアー。 ボランティアが手にしている旗は各ボランティアの手作りです。 |
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12:50 天候を気にしながら樹木ツアースタート。館内の木々について紹介します。 トーハクのシンボルツリー、ユリノキはすっかり葉も落ちてしまいましたが、庭園には常用樹、落葉樹いろいろあり、鮮やかです。 |
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ツアーは説明者だけでなく、お客様がはぐれないよう最後尾にもガイドのパネルを持ったボランティアがいます。樹木ツアーなのでパネルもかわいいもみじのかたち。 |
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14:10 野外でのガイドのあとは本館ハイライトツアーです。本館2階「日本美術の流れ」を案内します。 本館7室は屏風と襖絵の展示室。円山応挙筆波涛図をご紹介。「応挙56歳、画家の魂の漲る力作です。どうぞ、この大きなうねりの波の中にご自身を置いて、部屋全体が波に満たされていることを想像してみてください。」ボランティアさんのトーク、しびれます。 |
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美しく色づいたイチョウを横目に見つつ、今度は法隆寺宝物館へ。 |
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15:00 法隆寺宝物館ガイドの始まりです。本日はガイドツアー以外にお客様はなく貸し切り状態。贅沢な時間です。 第6室に展示中の「商山四皓 文王呂尚図屏風」は大きな作品。ボランティアさん、身振り手振りを交えてダイナミックにご紹介。 |
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15:50 再び本館。本日最後のガイドは彫刻ガイドです。 サポートのボランティアさんはガイドツアーに参加されないお客様への配慮も欠かしません。スペースを空け、通路も確保します。 |
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16:00 彫刻ガイドをちょっと抜け出し、鈴木ボランティア室長によるボランティア募集説明会(3回目)へ。 トーハクの広報大使トーハクくんが見守っています。 これにて、初日終了。 |
12月2日(土)―2日目 | |
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9:30 昨日とは打って変わって晴天の朝! 本日はガイドツアーが11種類! それに加えてお茶会もあります。週末ということで多くのお客様の来館を期待しつつ、まずはお茶会の整理券配布からスタートです。 |
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学生さんから年配のご夫婦までいろんな方が整理券をもらいにいらっしゃって、あっという間に一席目満席。二席目も残り3席。 |
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10:00 本日も始まりました、鈴木ボランティア室長によるボランティア募集説明会(通算4回目)。 朝から大勢の方が集まってくださいました。 |
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10:20 浮世絵ガイドが始まりました。 酉の市や忠臣蔵など師走の風物詩がテーマで、馴染みがある地名もでてきて、皆さん「わかるわかる」とうなずいてらっしゃいます。 |
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10:30 浮世絵ガイドから10分後、ボランティア活動紹介ツアーが出発です。案内人の皆さん、本日も張り切っています! トーハクボランティアについて知りたければ、まず説明会を受け、紹介ツアーに参加する、というのがおススメコース。大半の方がそのコースを選択。 |
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10:55 もうすぐ11時。11時は2つのガイドツアーとお茶会が同時スタートです。ガイド集合場所である本館エントランスはガイドの呼び込みとお目当てのガイドへ向かうお客様で活気があります。 そこへ広報大使ユリノキちゃんとトーハクくんも登場。現場はいっそう華やいだ雰囲気に。 |
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11:00 樹木ツアー、英語ガイドそしてお茶会。 まずはお茶会の様子を見に、応挙館へ参りましょう。 |
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さきほどの本館エントランスの喧噪とは打って変わって、応挙館は静寂のひととき。「東博流ですのでお作法は気にせずにどうぞ。」という案内役のボランティアさんの言葉にお客様の緊張が少し緩みます。 舞台裏では陰点の真っ最中。 |
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そおっと襖をしめて、さて次は樹木ツアー。 昨日にひきつづき大勢参加されています。菩提樹の名前の由来や楠の香りなどパネルや木の見本を使っての紹介はわかりやすいです。毎日見ている庭園の木々なのに知らないことばかり(汗) |
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樹木ガイドの皆さんの博識に感心しつつさてお次は英語ガイドへ。本館2階へGO! 英語ガイドは本館2階の展示品からハイライトとなる作品を選び英語で説明します。 参加者はうなずいたり、笑ったりしながら興味深く作品を見ています。和やかな一体感があるツアーです。 |
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11:30 続いては東洋館ガイドです。ボランティアデーのためのスペシャルツアー「世界遺産を巡る旅」を行っています。 目を見張る大盛況ぶり。ツアーサポートのボランティアさんがパネルを掲げて作品の場所を示してくれています。 |
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11:55 東洋館から室長の募集説明会のため本館へ向かう途中、これから始まる刀剣ガイドのチラシを配布するボランティアさんに遭遇。 なんだかまるで舞台女優のよう。 |
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優しい親子連れがチラシを受け取ってくれました♪ お待ちしておりま~す。 |
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12:00 鈴木ボランティア室長によるボランティア募集説明会(通算5回目)開始。 博物館と来館者をボランティアがつなぐ♡ という説明、その通りだなぁとしみじみ納得。 |
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12:10 トーハクボランティアの意義を再確認しつつ刀剣ガイドへ。 こちらも大盛況。参加人数が多いため2階5・6室から見るグループと1階13室から見るグループに分かれます。 |
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スムーズなツアーを行うため、お客様を誘導したりトーク時間を計ったり、別グループの動きを確認したりとトークを行わないサポートのボランティアさんも活躍しています。 |
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12:30 本日2回目のボランティア活動紹介ツアー。 ボランティア自身の経験を交えてお話します。ツアー参加者からの質問とそれに対する返答が時間いっぱい続きます。 |
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13:00 近代の美術ガイドとお茶会二席目がスタート。 トーハクには明治以降の優れた美術品も所蔵しています。それでは近代の美術ガイドを聞きに本館の18室に参りましょう。 後ろのお客様も作品を見ることができるようにしゃがんでくださる前列のお客様。お客様の優しい対応にちょっと感動。 |
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心温まりながらお茶会のため再び応挙館へ。 お茶会ではお点前終了後、応挙館にまつわるエピソードに関するある演出を行います。 隣の部屋の襖があいて、皆さま興味深げに何かをご覧になっています。どのような演出か気になる方、ぜひ次回のお茶会にご参加ください。 |
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13:25 お茶会は続いておりますが、陶磁ガイドが始まるためいったん本館へ。 本館テラス脇のモトヤカフェからコーヒーのいい香りが漂ってきます。燃えるような紅葉を見ながら池のほとりでコーヒーブレイク…いかん、いかん誘惑を断ち切り、本館へ戻ります。 |
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13:30 陶磁ガイド、本日はお着物のガイドさんもいます。 |
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14:00 お次は大人気の本館ハイライトツアー。本日も大入りです。 9室能装束の展示室「能と歌舞伎」にて、能「三井寺」の能面について「人生経験を経た中年の女性を表す面で、若い女性の面よりも頬のふくらみがなく、髪がやや乱れ、憂いをふくみ・・・」とのこと。アラフォーの神辺、能面にがぜん親近感がわきました。 |
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14:40 急ぎ1階11室の彫刻ガイドへ。 「阿弥陀如来は西の果ての極楽浄土から迎えにきてくれます」とのこと。トークをするボランティアさんの姿は見えませんが、わかりやすいトークが聞こえてきました。 |
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15:10 彫刻ガイド終了後、法隆寺宝物館へ急ぎます。 こちらにも軽食の屋台。コーヒーの良い香りが鼻孔をくすぐります。 |
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法隆寺宝物館第1室の灌頂幡について「現存する古代の灌頂幡はこの作品以外はすべて織物で作られています」とのこと。 |
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16:00 鈴木ボランティア室長によるラストのボランティア募集説明会(通算6回目)が始まりました。 皆さん熱心に耳を傾けてくださっています。この回は若い女性の参加者が多いなあ。 |
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同時に考古展示室ガイドもスタートです。これがボラデー最後のガイドツアーです。 通常とは違う夕刻のガイドにもかかわらず、大勢の方が集まってくださいました。未来の考古博士の姿もあります。土偶、銅鐸、埴輪、古墳…簡潔にテンポよい解説です。 |
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考古展示室ガイドをもって2日にわたるボラデー全ての説明会、ツアーが終了しました。研究員のギャラリートークとは一味違った、初めて来館された方にも楽しんでもらう作品紹介や建物や樹木ガイドを通じて新しいトーハクの魅力をお伝えできたのではないかと思っております。またブログではお伝えしきれませんでしたが、トーハクボランティアの中心的であり日々の活動でもある「ご案内」「お客様対応」のボランティアさんも大活躍でした。 説明会、紹介ツアー、ガイドツアーに参加くださったお客様がボラデーを通じてトーハクボランティアのことを知っていただき、親しみを感じてくださったなら幸いです。 トーハクボランティアのみなさまお疲れ様でした。 |
平成30年度ボランティア募集中
応募にはこちらの募集案内をお読みの上、郵送でご応募ください。
応募期間は12月11日(月)~1月11日(木)までです。
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posted by 神辺知加(ボランティア室) at 2017年12月11日 (月)
こんにちは、保存修復室の瀬谷愛です。
街にクリスマスのイルミネーションがみられるようになりましたね。この時期になると思い出すのは、イエス・キリストの母マリアのことです。教会付属の幼稚園に通っていた私は、クリスマスに年長組の出し物でマリア役を演じました。
寒い冬の夜。夫ヨセフとともに一晩泊めてくれる宿を探すのですが、どこも貸してくれません。やっとのことで貸してもらった家畜小屋で、無事にイエスが生まれ、天使や東方三博士が祝福に来てくれました。そのうれしさと安ど感…。
6歳にして、母の気持ちを味わってしまったのでした。
重要文化財 聖母子像 ヨーロッパ 16世紀後期~17世紀初期 長崎奉行所旧蔵品
幼子イエスを抱く聖母マリア。世界で最もよく知られた母子の姿といえます。
聖母マリアとイエス・キリストの関係は、宗教学的な深い解釈がある一方で、まずもって「母と子」であることが、多くの人々の心をとらえ、信仰へと導いたと思われます。逆に、ふつうの人間の母子像であっても、その親密さと情愛が神々しさを帯びれば、「聖母子」の姿にみえることがあるでしょう。
十字架上のキリスト図 フランス・パリ トマ・ド・ルー版刻・刊行 16世紀末期~17世紀初期 福井にて発見
左下では、聖母マリアが手を組み、十字架上のイエスを見上げています。
一方、イエスの最期において。ヨハネの福音書によれば、イエスがゴルゴダの丘で十字架にかけられたとき、マリアは下でその死を看取ったといいます。
母として、大切に育てた自らの子の最期に立ち会うのは、極めて厳しいことです。命が尽き、十字架から降ろされたイエスとその遺骸を抱くマリアを表した聖母像はとくに「ピエタ」と呼ばれますが、その造形に多くの人が感銘を受けるのは、誰もがその苦しみに感情移入できるためでしょう。
重要文化財 聖母像(親指のマリア) イタリア 17世紀後期 長崎奉行所旧蔵
シドッチ神父がイタリアから携行した、極めて美しいマリア像です。
17世紀以降、日本ではキリスト教が禁じられ、多くの宣教師、信者が処刑、国外追放となりました。その後、キリスト教禁制下の日本にあえて潜入したイタリア人宣教師がいました。ジョヴァンニ・バティスタ・シドッチ(1667-1714)です。
幕府の重臣新井白石(1657-1725)は、宝永5年(1708)12月6日にこの知らせをきき、翌年、江戸へ護送されてきたシドッチと面会。11月22日から12月4日にかけて尋問を行ないました。
新井白石が著した尋問記録『西洋紀聞』によれば、シドッチはイタリア、シチリア島パレルモ出身。家族は11年前に亡くなった父ジョヴァンニ、母エレオノーラ(65歳)。4人兄弟の長女は幼い時に亡くなり、兄ピリプス、次が自分で41歳(今の私と同い年…)、弟は20年前に11歳で亡くなった、ということです。
白石がイタリアに残した老いた母や兄について問うと、シドッチはしばらく憂いを浮かべて黙り、身体をさすりながらこう言ったそうです。
「そもそも国の推薦による使命を受けており、ともかく日本へ布教することだけを考えてきました。老いた母や兄もまた、私が日本へ行くことは、キリスト教のため、国のため、これ以上の幸せはないと悦びあいました。けれどもこの身は捧げても、家族のことは別です。生きてこの身がある限り、家族を忘れることはできません」
白石は取り調べ後、博識で思慮深いシドッチを高く評価し、本国へ送り返すことを幕府へ言上します。「老いたお母さんへ会わせてあげたい」という気持ちもあったのではないでしょうか。
しかし、12月29日に下された沙汰は、「切支丹屋敷への終身収容」でした。そして、正徳4年(1714)シドッチは47歳で没し、切支丹屋敷(現文京区小日向)裏門脇に埋葬されました。
「親指のマリア」をみつめるシドッチ神父…ぜひ会場へお越しください。
そして、没後300年の、平成26年(2014)。
驚いたことに、この節目の年、シドッチは再び江戸の青空のもとに出現したのです!
集合住宅建設にともなう切支丹屋敷跡の発掘調査が行われ、3つの墓から3体の人骨が発掘されました。そしてそのうちの1体が、国立科学博物館のDNA分析によりイタリア人と判明。関連する歴史資料の調査もふまえ、シドッチ本人のものとわかったのです(『東京都文京区 切支丹屋敷跡―文京区小日向一丁目東遺跡・集合住宅建設に伴う埋蔵文化財発掘調査報告書―』2016年)。
現在、開催中の特集「親指のマリアとキリシタン遺品」(2017年12月25日(月)まで、本館2階特別2室)では、文京区教育委員会のご協力により、国立科学博物館が頭蓋骨から復元したシドッチ頭部像を、「親指のマリア」とともに展示しています。
300年ぶりに再会した「親指のマリア」の表情はシドッチの苦しみに寄り添うような悲しみをみせ、シドッチ神父の表情は逆に驚くほど穏やかにみえます。
クリスマス。家族やお母さんを想って過ごしてみませんか。
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posted by 瀬谷 愛(保存修復室主任研究員) at 2017年12月08日 (金)
2017年ユネスコ「世界の記憶」登録記念 特集「朝鮮国書―朝鮮通信使の記録」
日本時間10月31日、当館が所蔵する重要文化財「朝鮮国書」を含む『朝鮮通信使の記録』が、ユネスコ「世界の記憶」(Memory of the World)に登録されました。これを記念し、現在本館特別1室において、「朝鮮国書」を中心とした特集展示(2017年ユネスコ「世界の記憶」登録記念 特集「朝鮮国書―朝鮮通信使の記録」、2017年12月5日(火)~12月25日(月))を行っています。
「朝鮮国書」は、朝鮮国王が徳川将軍に向けた使者「朝鮮通信使」にもたせた国書のこと。国書は、両国王の名で取り交わされる最も重要な外交文書で、現代の外交においても元首の間で交わされます。当館では江戸時代に12度行われた通信使のうち、9度の使節に関わる国書を有しています。
重要文化財 朝鮮国王国書(部分) 朝鮮国王李淏・孝宗 朝鮮 朝鮮時代・乙未年(1655)
なかでも特異な国書が1617年のもの。これは対馬藩が改作したものです。ときは豊臣秀吉による朝鮮出兵の動揺が収まらぬ江戸時代初期、幕府将軍は2代秀忠。対馬藩は室町時代以来、対朝鮮外交の実質的窓口であり、同時に貿易を通じて巨利を得ていました。対馬藩にとって、両国が対立したままでは不都合で、国書の文面を融和に導くよう書き換えたのでした。しかし、この国書を秀忠が受け取ったことで、両国の国交が回復したのです。
ところで国書は本幅とも呼ばれ、これに対となるのが別幅。別幅とは通信使が持参し、徳川将軍に献呈した進物品の目録のことです。国書(本幅)が外交上の挨拶や通信使派遣の意図を述べているのに対し、持参品を一つ一つ書き上げているのが別幅です。
別幅に記載された品々は、当時の朝鮮で得られた希少なものです。年によって異同はありますが、鷹・虎皮・豹皮・駿馬・人参・黄蜜・筆・墨・紙・金襴・綿紬・緞子・繻子等々献上品にふさわしい品々が、通信使により届けられました。
重要文化財 朝鮮国王国書別幅(部分) 朝鮮国王李焞・粛宗 朝鮮 朝鮮時代・己亥年(1719)
朝鮮通信使人物図 江戸時代・19世紀
正装の朝鮮通信使・正使
朝鮮通信使は両国の国力衰退や、東アジア世界の政治的変動などを背景に1811年をもって最後となります。しかしながら、江戸時代に唯一国交のあった朝鮮国の使者がもたらした影響は、とりわけ文化交流の面で大きく、朱子学をはじめとした朝鮮文化、そして朝鮮を通じて中国文化を間接的に触れることができたのでした。また総勢400人あまりに及ぶ大使節団が宿泊、休息、通行した土地土地では、現代までその名残を芸能や民謡などに伝えているところも少なくありません。
朝鮮人行列図(部分) 江戸時代・18~19世紀
正使の前方、白馬に乗る人物が持つ赤い箱が国書箱
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posted by 冨坂賢(保存修復課長) at 2017年12月07日 (木)