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ほとけを演じるための仮面

仮面をつけて、自分とは違うものになりきって遊んだり、劇をしたりした経験は多くの方がお持ちだと思います。
仮面は古くから、別のものを演じるために使用されてきました。
今回、特集「行道面 ほとけを演じるための仮面」(本館14室にて、5月26日(日)まで)で展示している行道面(ぎょうどうめん)は、ほとけ様を演じるための仮面です。
法要で使われたり、仮面をつけてほとけ様になりきって、経典にあるシーンを再現したりしていたようです。


特集「行道面 ほとけを演じるための仮面」 展示室の様子

展示室に入ると、いろいろな種類があることに気づくと思います。
さまざまなほとけ様を演じていたことが想像できますね。
いくつかをじっくり見てみましょう。


「行道面 菩薩(ぎょうどうめん ぼさつ)」の展示風景

画像に写っている4つの行道面は、いずれも「行道面 菩薩」です。
本特集では、兵庫県浄土寺に伝わった計25面の菩薩面のうちの4面を展示しています。二十五菩薩が亡くなった人を迎えに来て、浄土に導くというシーンを演じる法会で使用したのでしょう。
どれも同じに見えるかもしれませんが、よく見るとそれぞれ表情が違います。
展示ケース内の左側の2面は笑顔です。

 

行道面 菩薩 その24
快慶作 鎌倉時代・建仁元年(1201) 兵庫・浄土寺蔵
行道面 菩薩 その24 横から見た様子

 

行道面 菩薩 その25
快慶作 鎌倉時代・建仁元年(1201) 兵庫・浄土寺蔵
 

 

「行道面 菩薩 その24」は上下の歯を見せて微笑んでいるようです。横から見ると、歯がしっかりとあらわされているのがわかるはずです。
「行道面 菩薩 その25」も口元に歯と思われる白い部分があり、目も笑っています。

一方、こちらの2面はどうでしょうか。

 

行道面 菩薩 その14
快慶作 鎌倉時代・建仁元年(1201) 兵庫・浄土寺蔵
行道面 菩薩 その5
快慶作 鎌倉時代・建仁元年(1201) 兵庫・浄土寺蔵

 

「行道面 菩薩 その14」は口がうっすらと開いてはいるものの、笑顔とはいいがたい表情です。顎のあたりがすっきりとしたようにも見えますね。
「行道面 菩薩 その5」はほかに比べて頬や顎のあたりが少しふっくらとし、落ち着いて見えます。

表情がいろいろだということ、感じていただけたでしょうか。
さらに近づいてみましょう。


行道面 菩薩 その25 左眉部分

眉の部分がくりぬかれていることが見えるはずです。
目の孔だけでは、面をつけた時に視野が狭いのですが、眉も開いているとよく見え、息もしやすいのでしょう。
仮面をつけて練り歩くことを考えれば実用的な工夫のように思いますが、なぜかほかに眉の輪郭にそって全体をくり抜いた面は知られません。

この菩薩面が伝わった、兵庫県の浄土寺は、快慶の阿弥陀三尊像でよく知られています。
菩薩面もまた、快慶のもとで複数の仏師が制作したものと考えられます。
顎のあたりがすっきりとしているとご紹介した菩薩面には快慶らしさが感じられます。
ふっくらとして落ち着いた菩薩面は運慶や康慶に近い雰囲気といえるかもしれません。

人々の声や音楽のなか、表情豊かな二十五菩薩がそろって練り歩く法会はきっと、にぎやかだったことでしょう。
特集「行道面 ほとけを演じるための仮面」では、ほかにもたくさんの種類の面を展示しています。
近づいてじっくり、また法会で使われている様子を想像しながらご覧ください。

 

カテゴリ:特集・特別公開

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posted by 川岸 瀬里(教育普及室長) at 2024年04月17日 (水)