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「手わざ」に込められた秘密と意味

 「手わざにはたくさんの秘密がある!」
沖縄県立博物館・美術館が取り組んだ模造復元事業の7年間はこの一言に尽きます。模造製作の前に、原資料の目視調査、科学的な調査、史料調査を行い、それをもとにスタートするのですが、常に壁が待ち受けており、試作の連続でした。分析の結果でわかった目からウロコの話もあれば、うまくいかなかったこともあります。

展示室の様子
 
木綿紺地花織(経糸や緯糸が浮いて模様をつくる織物)の赤い糸。これは、長いこと謎でした。これまでの模造では、蘇芳(琉球が海外から入手した色材)や他の色材で染めていましたが、今回、非破壊の色材分析で、何と!朱の顔料だと分かりました。現在、沖縄には顔料で糸染めする技法が継承されていないため、製作者も事務局もその事実に困惑しました。試作の結果をみて染色方法を判断することにしたものの不安だらけでした。
顔料を呉汁(ごじる)で溶いた染液に緫糸(かせいと)を投入すると赤い色が糸に吸い込まれていったと報告を受けたときガッツポーズしました。
 
木綿紺地緯絣に経浮花織衣裳(胴衣)(もめんこんじよこがすりにたてうきはなおりいしょう)
平成30年度(原資料:19世紀後半) 沖縄県立博物館・美術館蔵
展示期間:2月8日(火)~3月13日(日)
 
分析による組成で製作したにもかかわらず、原資料とは異なるものとなり、試作を繰り返したものもあります。
 
金工の金は原資料とは色味が若干異なります。監修委員、製作者と何度も調整しましたが、どこに秘密があるのか、わからず経年を待つことにしました。
 
聞得大君御殿雲龍黄金簪(きこえおおぎみうどぅんうんりゅうおうごんかんざし)
平成28年度(原資料:16世紀) 沖縄県立博物館・美術館蔵
展示期間:2月22日(火)~3月13日(日)
 
陶芸は焼成して手わざの結果がわかる工芸です。模造復元が最も難しい工芸といえます。緑色を得るため実験を繰り返していた製作者が「後30年必要だ」と語るほど、手わざは秘密に満ち、最後は常に製作者に委ねた7年間でした。
 
緑釉四方燭台(りょくゆうしほうしょくだい)
令和元年度(原資料:18~19世紀) 沖縄県立博物館・美術館蔵
展示期間:2月8日(火)~3月13日(日)
 
完成した作品の展覧会は、文化でも歴史でもなく、その目に見えない「手わざ」にスポットを当てようと考えたのは、そのような理由だったのです。
 
「手わざ」こそ、模造復元のベースであり、継承しつづけなければならないものです。

特別企画「手わざ -琉球王国の文化-」は3月13日(日)まで、平成館企画展示室で開催しています。

 

カテゴリ:「手わざ -琉球王国の文化-」

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posted by 與那嶺一子(沖縄県県立博物館・美術館主任学芸員) at 2022年02月21日 (月)