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模造復元と技術継承

特別企画「手わざ -琉球王国の文化-」では、沖縄県立博物館・美術館が実施する琉球王国文化遺産集積・再興事業で製作した作品を展示しています。
この事業では、姿形だけではなく技術や道具・材料も含めた復元を目指し、8分野65件の資料を復元しました。それぞれに様々な苦労やドラマがありますが、今回は黒漆雲龍螺鈿東道盆についてご紹介します。


黒漆雲龍螺鈿東道盆(くろうるしうんりゅうらでんとぅんだーぶん) 
令和2年度(原資料:19世紀) 沖縄県立博物館・美術館蔵 
展示期間:1月15日(土)~2月20日(日)

東道盆は琉球漆器を代表する形の漆器です。直方体の器面に黒漆を塗り、ヤコウガイを用いた五爪(ごそう)の雲龍文様を表すタイプは中国皇帝などに献上されました。このタイプは、首里王府において漆器製作を所管した「貝摺奉行所」で製作されたと考えられています。

復元で加飾を担当したのは、前田貴子さん・春城さん夫婦、そして宇良英明さんです。現代の沖縄漆芸界を引っ張る皆さんですが、そこに沖縄県立芸術大学漆芸コースの1~3期生の3人が加わっています。
沖縄県立芸術大学の漆芸コースは平成24年4月に開設されたばかりのコースで、製作を行っている頃は3期生までの世代がやっと大学院を出たばかりの頃でした。
これまでの研究成果や科学分析をもとに製作が進むわけですが、科学的なデータがあるからと言ってすんなり作れるものではありません。

東道盆の場合、マイクロスコープで貝を観察したところ、「毛彫り」(貝に線を彫って文様を描く技法)の線がカーブで鋸歯状(きょしじょう)になっていることがわかりました。


黒漆雲龍螺鈿東道盆原資料の毛彫り部分拡大画像

現代の毛彫りでは様々な道具を使いますが、代表的なものにミシンなどの針があります。しかし針ではギザギザとした跡はつきません。
そこで製作者たちは、このような跡がつくであろう形を模索し、刀を何本も加工して試し彫りを行いました。


刀のテスト

ベテランの皆さんにとっても未知の領域でしたが、ともに試行錯誤した若手の皆さんには様々な技術が伝えられたのだろうと思います。これまでベテランの皆さんが培ってきた技術、そしてそれをもとに復元で取り戻された技術、それらの技術が次の世代に伝えられるきっかけになったのが、この東道盆なのです。


黒漆雲龍螺鈿東道盆復元作業の様子




模造復元の黒漆雲龍螺鈿東道盆は2月20日(日)まで展示しています。

カテゴリ:「手わざ -琉球王国の文化-」

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posted by 伊禮 拓郎(沖縄県立博物館・美術館学芸員) at 2022年02月04日 (金)