世界にまたがるイスラーム文化
トーハク界隈にあるアメヤ横丁をぶらぶらしていると、ハラール、すなわちムスリム(イスラーム教徒)向けの食事を出す店を見かけるようになってきました。
もちろんムスリムでなくても食べてよく、私も時々おいしくいただいています。
近年では、日本国内でもムスリムの人々が身近で親しい存在になってきました。ただ、その割にはムスリムの背景にあるイスラーム文化に触れる機会は少ないように思われます。
そのような世相をふまえて、同僚たちとイスラーム文化を紹介する企画の必要性が話題になったこともありましたが、実のところ、トーハクの所蔵品にはイスラーム関係の作品が非常に少なく、独力では、多様なイスラーム文化を紹介する企画を組むのは困難であろうと考えていました。
アメヤ横丁
上野駅から御徒町駅までつづく商店街。このあたりではアジア料理を楽しむことができます。
ハラール
ハラールのマークがあるメニュー。ハラールとはアラビア語で「許されている」という意味。
そんななか、このたびマレーシアにあるイスラーム美術館の厚い協力を得て、イスラーム世界を見渡す展覧会を開催する機会に恵まれました。イスラーム美術館では、同館の地元であるマレーシアや東南アジア、あるいは聖地マッカ(メッカ)がある西アジアといったような、どこか特定の地域に限らず、広く世界中のイスラームの美術や資料を集めて、イスラーム文化を紹介しています。
イスラーム教は世界各地に伝わり、それぞれの土地の文化と結びついたので、各地の伝統的な造形や美意識に基づき、風土に応じた工芸技法を駆使して、モスクの建築や調度などが作られました。イスラーム美術館の館内を歩いていると、そのようなイスラーム文化の多様性を肌で感じることができます。
マレーシア・イスラーム美術館
首都クアラルンプールにある美術館。屋上にあるターコイズ色のドームはランドマークとなっています。
Islamic Arts Museum Malaysiaの頭文字をとったIAMMの略称で親しまれています。
このたびの特別企画は、そのイスラーム美術館のエッセンスを紹介するものです。イスラームの世界や歴史は複雑で、簡単には理解しにくいですが、難しい話はさておき、まずは広大な地域のなかで長大な時間をかけて育まれた多彩な造形や美意識に親しんでいただければと思います。
*作品はすべてマレーシア・イスラーム美術館蔵(画像提供:マレーシア・イスラーム美術館)
スルタン・マフムト一世の勅令 トルコ 1733年
流麗な書体で記された本文の上方に、オスマン朝のスルタンの華麗なトゥーラ(花押)が表され、その左側には「君主の命に従え」という題字があります。
宝飾ターバン飾 インド 18~19世紀
ムガル朝の皇族がターバンに付けたアクセサリー。力と生命を象徴する真っ赤なルビーと豊穣と繁栄を象徴する常緑のエメラルドがきらめいています。
真鍮燭台 エジプトまたはシリア 1293~1341年
マムルーク朝の宮殿の内部は多くの蠟燭で照らされていました。この燭台は真鍮製で、銀象嵌の装飾が施されており、上部に長い蠟燭を突き立てました。
ラスター彩アルハンブラ壺 スペイン 20世紀初
ナスル朝のもとで建造されたスペインのグラナダにあるアルハンブラ宮殿には赤みを帯びたラスター彩の壺が飾られました。洋梨形の胴に翼のような耳が付くのが特徴です。
儀礼用バティック布 マレー半島 20世紀初
マレーシアやインドネシアで行なわれるバティックという伝統的な染色技法で『クルアーン』の言葉などを表わした布。貴重な写本を包んだりしました。
青花ペンケース 中国 15世紀
オスマン朝の宮廷で用いるペンケースとして中国で注文製作された青花磁器。このままで完成とせず、さらに金具を付けたり、宝飾を施したのち、スルタンに献上されます。
マレーシア・イスラーム美術館精選 特別企画 「イスラーム王朝とムスリムの世界」 東洋館 12室・13室 2021年7月6日(火)~2022年2月20日(日) |
カテゴリ:「イスラーム王朝とムスリムの世界」
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posted by 猪熊兼樹(特別展室長) at 2021年08月06日 (金)