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金色に輝く月と柏葉ー漆作品について

表慶館で開催中の特別展「工藝2020−自然と美のかたち−」では、日本の現代工芸作家が近年に制作した82件の作品を展示しています。
工芸には陶芸、漆芸、金工、染織、木竹工、人形、ガラスなど様々な分野がありますが、自然由来の素材を使い、古くから伝えられてきたわざを用いながら、作家たちは個々の創造性を生かして現代を表現する作品を制作しています。
本展は工芸の諸分野を網羅していますが、今回は展示作品から二つの作品を紹介し、現代工芸にみる過去とのつながりについても紹介します。


柏葉蒔絵螺鈿六角合子(はくようまきえらでんろっかくごうす) 室瀬和美作 平成26年(2014) 個人蔵

こちらは漆の作品で、合子とは蓋付きの容器のことです。秋の日差しに照らされて異なる色に輝く柏の葉と小さいどんぐりが器全体を覆う、自然の息吹が感じられる作品です。



葉の部分には金粉を蒔く蒔絵と鉛板を貼り付ける平文(ひょうもん)という技法を用い、どんぐりは、二種類の貝を模様型に切り取って嵌める螺鈿(らでん)技法で表しています。金色に輝く葉は、形の異なる金粉を使うことで仕上がりも違ったものになっていますが、
5~10ミクロンという非常に細かい金粉を粉筒に入れ、中指、薬指、小指を使って蒔く量を調整しながら一定のリズムで蒔いていきます。刷毛やヘラなど、室瀬氏が制作に使う道具のほとんどが自然由来のもので、粉筒には鶴の羽の軸を使っています。
この作品には、金粉を蒔いた後、全体に漆を塗り磨く作業を繰り返して仕上げていく研出蒔絵(とぎだしまきえ)という技法が用いられています。

蒔絵や螺鈿は古くから漆工に用いられてきた技法で、東京国立博物館所蔵の八橋蒔絵螺鈿硯箱にも同じ技法が使われています。


国宝 八橋蒔絵螺鈿硯箱(やつはしまきえらでんすずりばこ) 尾形光琳作 江戸時代・18世紀 東京国立博物館蔵 2020年11月29日まで本館12室にて展示


月出ずる 並木恒延作 平成26年(2014) 個人蔵

工藝2020展からもう一つの作品をご紹介しましょう。「月出ずる」は、画面の大半を占めているスーパームーンが印象的な、静寂が支配する厳かな雰囲気をもちながら迫力のある作品です。月の表面がリアルに表現されており、前景には湖が広がり、月の優しい光を受けて湖面がキラキラと輝いています。



実はこの作品は漆や金粉を使って描かれています。山と空の境界線のあたりには金粉をまき月明かりがぼんやりと照らしている様子をあらわし、よくみると、きらきらと輝いている水面には貝が使われています!自然の素材の特徴を巧みに取り入れて生かした作品です。この作品にも螺鈿や研出蒔絵が用いられています。

これらの作品を見ると、同じ素材や技法を用いながらもそれぞれ表現が異なること、そして素材や技法によって現代と過去がつながっていることがわかります。

展示会場には漆工の他にも、陶芸、染織、木竹工、金工、人形、ガラスなど、現代を表現する芸術家たちの手による作品が多数展示されています。作品は画像では伝えきれない多くのことを語ってくれます。是非会場に足を運んでみてください。

展覧会公式ウェブサイトでは、展示作品について作家が制作の意図や技法などを語ったコメントを紹介していますので併せてご覧ください。

 

カテゴリ:2020年度の特別展

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posted by 特別展「工藝2020」担当者 at 2020年10月23日 (金)