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トーハクくんがゆく!「国宝 大神社展」其の六 最終回

トーハクくん登場

ほほーい!ぼくトーハクくん!
今日は井上研究員といっしょに「国宝 大神社展」を見に行くほ。
第2章 祀りのはじまり」について教えてくださいだほー!


井上さんとトーハクくん

待っていたよトーハクくん!最終回は、考古遺物を紹介しよう。

トーハクくんお願いしますほ!
この章では、「国宝 大神社展」のなかで一番古い時代のものを展示しているんだほ?

井上さん そうだよ。日本には神道のもととなった思想が、仏教伝来以前からあったわけだ。そのあたりを見てゆこう!

トーハクくんはいっ!(うぷぷ、井上さんの戦隊ヒーローモノみたいな語り口がたまらんほ!)


展示風景


井上さん 人々は、山や海、岩や木など、自然のものに神を見出して、畏れ敬ってきた。
第2章の展示は、この展覧会のコンセプトの基底をなす部分だけど、それをきちんと表現するには、少なくとも縄文時代の状況から説明しなければならない!
なにしろ縄文時代だけで1万年以上あるんだから、それだけでひとつの展覧会が出来てしまうくらいだ!
しかしそれには全然スペースが足りない!


苦悩の井上さん
苦悩する井上さんと、なす術のないトーハクくん。


そういうわけで、数ある遺跡のなかでも、神社が成立する以前の神マツリの状況が伝わりやすいであろう、2つの遺跡に絞って紹介することにした。
人々が何故山や海を信仰するようになったのか、それが神社創建にいかにつながっていったのかをご覧いただこう。


山ノ神遺跡出土品
山ノ神遺跡出土品
古墳時代・5~6世紀 東京国立博物館蔵



井上さん 奈良県の山ノ神遺跡は、山自体を御神体として祀っている大神神社(おおみわじんじゃ)に深く関わる祭祀遺跡、つまり、神を祀り、祈りをささげたところだよ。

トーハクくんほ~、なんだかボク、親しみを感じるほ。

井上さん そりゃそうさ、古墳時代・5~6世紀の遺物だから、キミの誕生とほぼ同時期だ。

トーハクくんほー!それはご縁だほー!
(トーハクくんは5歳ですが、モデルになった「埴輪 踊る人々」は古墳時代・6世紀の遺物です。)
お皿とかツボみたいな、いろんな形をしているけど、何かの道具なのかな。

井上さん うむ。鋭いな。これは、お酒をつくる道具という説が有力だ。
杵(きね)と臼(うす)で脱穀した米を箕(みの)でふるって、柄杓(ひしゃく)で汲んだ清水(せいすい)を加えて坩(かん。つぼのこと)で醸(かも)す。


山ノ神出土品をみる


トーハクくんほう。こんなにミニサイズの道具でお酒がつくれるほ?

井上さん おそらくこれは儀式用につくられたものだから、小さくつくられている。
でも酒造りは実際に行われていて、その工程を模したんだろう。

トーハクくんなるほ。
でも不思議だほ、山の神さまなのにどうしてお水やお酒と関係があるほ?

井上さん それはだねトーハクくん。
水は山から湧いてくる。湧いた水は泉になり、川になり、やがて海にたどり着く。
水は、山に住む動植物を育てる。田畑をも潤す。
その水と、水が育んだ米で造られる酒は、まさに神と人とを結びつけるものなんだ。

トーハクくんポエム!
井上さん、ボク今ちょっと感動しちゃったほ。そういう大事なことをどうしてもっと早くに教えてくれなかったほ!

井上さん それはキミが早く取材に来ないからだろう!

トーハクくんぎくっ!

井上さん まあいい、とにかく水の生まれ出るところは生命の根源、神聖な場所として崇められることが多いんだ。

トーハクくんそっか。なんだかボク、そういう感じが懐かしいような気分がするほ。
山の神様は、たくさん恵みを与えてくれるんだね。

井上さん そうだ。しかし同時に山は、土砂崩れ、地すべり、噴火など、いつも穏やかな顔ばかりじゃない。
だからこそ人々は山や自然を畏れ、敬うんだ。これが、神社創建に関わる思想的ルーツとも言えるんだな。


さて、もうひとつの作品を見てみよう。

方格規矩鏡
国宝 方格規矩鏡
古墳時代・4~5世紀 福岡・宗像大社蔵

井上さん 福岡県の沖ノ島祭祀遺跡から出土した鏡だ。

トーハクくんオキノシマ?

井上さん 島全体が御神体ともいわれている島だよ。古くから祭祀が行われていたから、遺跡がたくさんある。
もともとは一氏族が、航海の安全や一族繁栄のために祭祀を執り行っていたようだが、弥生時代以降、大陸との交流が盛んになることで、古墳時代には大和政権が国家的事業として祭祀に取り組むようになっていった。
この島で出土した遺物が、これだ。


鏡をみる


トーハクくんグラフィカルでかっこいいデザインだほ!

井上さん うむ。中央にある鈕(ちゅう。丸い部分)の周りを四角で囲み、その四方にはT・L・Vの形の文様がならぶ。
TとLは定規を、Vはコンパスをあらわしているとされている。

トーハクくん模様がとっても細かくて、いい仕事しているほ!デザインがあんまり日本っぽくないように感じるけど。

井上さん たしかに。そう感じるのは、この鏡に中国からきた四神(玄武・朱雀・青龍・白虎)の思想が盛り込まれているからだろう。
このデザインは、その思想を巧みに和様化したものだととらえている。
沖ノ島からはこうした精緻な銅鏡がたくさん発見されているが、その中でも目を見張るデザインと言えるだろう。

トーハクくんねえ井上さん、もしかして沖ノ島にはまだたくさん遺物が眠っているんじゃないの?

井上さん そうさ!まだまだ眠っているに違いないんだ!ここは通称「海の正倉院」と呼ばれているくらいすごい場所なんだよ。
もしさらに調査が進むのであれば、古代の人々の祈りの実態がもう少し深く分かってくるはずだ。
今後の調査に大いに期待したい!

トーハクくんミステリーがいっぱいありそうでワクワクするほ!
そうか。いまボクたちは神社へお参りに行くけど、神社ができる前は、山や海とか自然そのものに対してお祈りしたり、お祀りしていたんだね。
ここが神社のスタート地点だったんだ!
井上さん、アツいお話をどうも有難うございました!

Mr.銅鐸とトーハクくん
ミスター銅鐸とトーハクくん。

日本人の祈りのルーツが、自分の誕生するずっと前から脈々とあったんだと思うと、ちょっと胸が熱くなったトーハクくんなのでした。
~おわり~

カテゴリ:研究員のイチオシ考古2013年度の特別展

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posted by トーハクくん at 2013年05月28日 (火)