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書を楽しむ 第20回「良寛」

書を見るのは楽しいです。

より多くのみなさんに書を見る楽しさを知ってもらいたい、という願いを込めて、この「書を楽しむ」シリーズ、第20回です。

まずは、本館8室・書画の展開で展示中の作品の画像をご覧ください。


自画賛 良寛筆 江戸時代・19世紀 竹内静子氏寄贈
自画賛 良寛筆 江戸時代・19世紀 東京国立博物館蔵(竹内静子氏寄贈) (本館8室にて9月2日(日)まで展示)

これを書いたのは、良寛(りょうかん、1758~1831)です。
ゆるやかに見える線で書かれた文字。
右は、「貴賎老少 / 惟自知」。
左は、「良寛書」とあります。

真ん中は、朝顔に見えましたが、
ドクロ(髑髏)の絵です。
良寛はほかにも髑髏を描いていて、
禅の世界では、髑髏は情識分別をはなれたさまをあらわしています。


良寛の書をエンピツで写してみました。

エンピツで写した良寛
エンピツで写した良寛

写してみると、絶妙のバランスがあることに気付きました。
「老」の縦線は、横線と交差する上と下の長さが違います。
適宜、空間を持たせていて、
自分自身の呼吸というか、間のとり方が上手い!
線のスピードにも変化をつけて、
字形を引き締めています。

良寛の独特の書は、
夏目漱石(1867~1916)や、安田靫彦(1884~1978)も好んだそうです。


一行書「積徳厚自受薄」(左) 和歌(あきのひに)(右) 
一行書「積徳厚自受薄」(左) 良寛筆 江戸時代・19世紀
和歌(あきのひに)(右) 良寛筆 江戸時代・19世紀
  東京国立博物館蔵(竹内静子氏寄贈)
(ともに今年度の展示予定はありません。ごめんなさい。)


良寛は、江戸時代後期の越後(新潟県)の人です。
若いころに出家して、22歳から岡山県の円通寺で修行しました。
諸国をまわったあと越後に戻り、
托鉢をしながら人と触れ合い、書や詩をよく書いていました。

良寛は、「秋萩帖」(国宝、当館所蔵)の拓本を持っていたことが
知られています。

国宝 秋萩帖
国宝 秋萩帖  伝小野道風筆  平安時代・11~12世紀  東京国立博物館蔵
(2013年夏の特別展「和様の書」で展示予定!)



「秋萩帖」は、古様の草仮名の遺品として有名ですが、
良寛の書のくずし方は、草仮名の雰囲気があります。
良寛が「秋萩帖」をよく学んだことがわかります。


私は、良寛の書から、
静けさと同時に、ゆらぎのない強い意志を感じます。
それは、
良寛の暮らしぶりと、その暮らしをつらぬいた姿勢を、
私が、良寛の書に重ねているのかもしれません。


書を見る。
その人の生涯を調べて、
あらためて書を見る。
印象は変わったり、変わらなかったり。
それも書を見る楽しさのひとつです。

カテゴリ:研究員のイチオシ書跡

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posted by 恵美千鶴子(書跡・歴史室) at 2012年08月19日 (日)