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「空海と密教美術」展の楽しみ方  シリーズ(1)-2 書跡

ますます盛り上がって参りました「空海と密教美術」展。少しずつ展示替えされていますので、お目当ての作品がありましたら事前に展示作品リストでチェックしてみてください。

さて、前回「書」についてのインタビューを掲載しましたところ大変ご好評いただきましたので、今回は更にもう一歩「書」の世界に踏み込んでみたいと思います。研究員はいったいどのような視点で「空海と密教美術」展の書を見ているのでしょうか。解説はもちろん、書跡担当の髙梨真行研究員です。

 

『弘法筆を選ばず、は一日にして成らず』

広報(以下K):髙梨さんが好きな作品、または「ここに注目!」という箇所がありましたらお話ください。

髙梨(以下T):是非ご注目いただきたいのは、国宝「大日経開題(だいにちきょうかいだい)」(作品No.53 展示期間:展示中~8月21日(日))です。

空海、弘法大師というと、元々天賦の才があったからというイメージが先行しがちですが、実はものすごい努力家だったということがとても良く分かります。
作品全体を見てみてください。何枚もの料紙が使われ、書体も行間も実にさまざまです。このことから、一日で書かれたものではなく、長期にわたって勉強したものを継いだと考えられます。
これは、真言七祖の一人である一行が著した「大日経疏(だいにちきょうしょ)」(大日経の教えを要約したもの)を、空海が自身の勉強のために抜き書きした自筆の抄録です。

現代の人は重要な箇所にマーカーを引いたりしますが、当時はそんなことは出来ませんので、その部分をひたすら写すのです。文章がどういう意味なのかを脇に小さく記したり、どこまでを勉強し終わったかチェックしたりして、本当に勉強熱心だった様子が見てとれます。

K:空海が名を残しているのは単に天才だったからではなくて、こうして努力して勉強していたからなのですね!

T:そうです。空海は、その名に見合うだけの努力をしていたのです。


『空海の威光、宗派を越えて』

T:もう一つ、空海の声望が見えてくるのが、国宝「灌頂歴名(かんじょうれきめい)」(作品No.39 展示期間:展示中~8月21日(日))。
 
これは、いつ、誰が、どの仏と結縁したかが書かれた備忘録ですが、ここに書かれている人物がすごい。最澄はもちろん、のちに天台宗の高僧となる光定、最澄の弟子・泰範など、宗派を越えて受け入れられています。空海の実力を認めざるを得なかった、空海の勢いを感じますね。中には俗人の名前も入っています。
これは、空海以外の人々が空海とどう向き合ったかが分かる、貴重な史料です。

K:大日経開題と灌頂歴名、そういう視点でこの二つの作品を見てみると、空海の実直な人となりが浮かび上がってきます。

空海は、色々な伝説や逸話ではカリスマティックに描かれることが多いので、今まではそういう印象を抱いていたのですが、そのカリスマ性は努力や勤勉さに裏付けられたものだったことがよく分かりました。人間・空海の姿を垣間見れた気がします。
髙梨さん、どうも有難うございました!
 

今回ご紹介した、国宝「大日経開題」と国宝「灌頂歴名」が見られるのは8月21日(日)までです。

次回のテーマは「絵画」です。どうぞおたのしみに!

カテゴリ:研究員のイチオシnews2011年度の特別展

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posted by 小島佳(広報室) at 2011年08月06日 (土)