このページの本文へ移動

1089ブログ

江戸時代のお人形

江戸時代の技巧を凝らした人形と、3月3日の桃の節供にちなみ、毎年恒例となった    雛飾りを展示する特集陳列「おひなさまと日本の人形」(~2012年3月4日(日))のご紹介です。
以降掲載の画像はすべて(~2012年3月4日(日)展示)です。

女の子が人間や調度を小さく象ったおもちゃで雛(ひな)遊びをすることは、平安時代の昔からありましたが、人形が広く人々の生活の中で親しまれるようになったのは、江戸時代になってからのこと。
室町時代末期から江戸時代初期にかけて描かれた風俗屏風には、人形使いである傀儡子(くぐつし)や人形浄瑠璃を演じる小屋などが見られ、人形を用いた芸能が人々の娯楽として定着しつつあった様子がうかがえます。
玩具や芸能だけではなく、鑑賞用に人形が作られるようになったのは、江戸時代になってからのことです。ひなまつりに飾る内裏雛はその典型といえますが、ひとひねりした細工にはいかにも日本らしい人形の特徴が見られます。

「嵯峨人形」は京の嵯峨に住む仏師が寛永~寛文期頃より手遊びに作るようになったと言われています。木彫に胡粉を厚く盛り、衣服の部分に彩色や金箔を施した華やかな作りが特徴で、その模様はなるほど、仏像の衣に表された模様のようにも見え、また、寛文期に流行したキモノや元禄期頃の鍋島の色絵磁器や友禅染の割付模様と共通するデザインが見られます。
 
嵯峨人形 首振り嵯峨(部分) 江戸時代・19世紀 個人蔵

猿廻しや人形使い、遊女など当時の風俗を表したものや桃太郎や七福神といった御伽噺に出てくる親しみやすい造形が特徴です。町方で愛好されたものでしょう。
この「首振り嵯峨」は、子どもが小脇に子犬を抱えた姿で表されます。


犬は子沢山ですから、子宝に恵まれるように、という思いが人形に込められていると言われています。後頭部をつつくと首が動き・・・
うなずく拍子に子どもの口からぴろっと、舌が出るようになっています!


嵯峨人形は次第に進化し、縮緬や錦でできた衣裳を着せ替えできる「裸嵯峨」と呼ばれる5歳児くらいの大きさの人形が生まれます。裸嵯峨から発展した人形が、お公家さんがお土産物として遣った「御所人形」と言われています。
「御所人形」はあどけない幼子の姿を写したものが多く、桐塑に胡粉を塗り重ね、磨き上げたつややかな白肌は「白菊」に喩えられます。特に「つくね」と呼ばれる小さい御所人形の愛らしさは、手にとってみてはじめて感じられるものかもしれません。
見てください、このふっくらとしたお手々!6ヶ月くらいの赤ちゃんの手を思い出します。

御所人形 唐冠をかぶり唐団扇を持つ童子 江戸時代・19世紀

座ったおしりもかわいいでしょう!


日本の雛人形や雛飾りの見所といえば、驚くほどに繊細な細工にあります。
江戸時代後期に流行した「牙首雛」は顔と手が象牙細工でできた雛人形です。

牙首雛(1対のうち) 江戸時代・19世紀 三谷てい氏寄贈

高さ5cmほどの小さな人形ですが、着重ねた衣裳の丁寧な木目込みや、繊細な手や耳の彫りをご覧ください。
 

もう一点、トーハク自慢の一品は、紫檀に蒔絵を施し、調度金具を象牙細工で表した、この箪笥です。
 
紫檀象牙細工蒔絵雛道具 紫檀製重箪笥 江戸時代・19世紀 三谷てい氏寄贈

高さ13㎝ほどのミニチュア箪笥にちゃんと扉が開閉できる精巧な象牙細工!このこだわりこそ日本の工芸の真髄と言うにふさわしいものです。
 




今年は東京国立博物館で雛飾りを始めて10周年記念ということで特に名品の数々を展示いたしました。今回ご紹介したものの他にも、からくり人形や船鉾人形など、見どころ満載です。本館14室で江戸時代の人形たちが皆様をお待ちしております。

カテゴリ:研究員のイチオシ

| 記事URL |

posted by 小山弓弦葉(工芸室) at 2012年02月14日 (火)