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トーハクで建築探訪~表慶館~

現在トーハクの敷地内にある展示館の中で、最も古い建物が表慶館です。
「慶びを表す」という名のとおり、1900(明治33)年、当時の皇太子(後の大正天皇)のご成婚を記念して建設が計画され、1909(明治42)年に開館しました。

 

表慶館外観


設計は、初代本館を手がけたジョサイア・コンドルの弟子で、東宮御所(現在の迎賓館赤坂離宮)も設計した宮廷建築家の片山東熊(かたやまとうくま)です。
奈良国立博物館旧本館(現:なら仏像館)、京都国立博物館旧本館(現:明治古都館)を手がけたことでも知られます。
堅牢な煉瓦造で関東大震災の被害も少なく、倒壊したコンドル設計の初代本館にかわり、現本館が竣工するまで、展示施設としての役割を果たしてきました。

外観は、中央と左右に美しいドーム屋根をいただくネオ・バロック様式で、上層部の外壁面には製図用具、工具、楽器などをモチーフにしたレリーフがあります。
入口には、2頭のライオンが鎮座しています。
よく見ると、一方が口を開き、もう一方が口を閉じた"阿吽"の像になっています。
作者は、工部省で皇居造営時の建築彫刻にも携わった彫刻家の大熊氏広です。ちなみに、上野公園内にある小松宮彰仁親王銅像も大熊の作品です。

阿吽のライオン
入口に鎮座する阿吽のライオン

外壁のレリーフ
製図用具、工具、楽器などをモチーフにしたレリーフにもご注目


表慶館は現在、展覧会やイベント開催時以外は内部非公開となっていますので、ここでみどころを紹介していきましょう。

エントランスに入ると、足元はカラフルなタイルの床、見上げると光が射しこむドーム天井が目を惹きます。

エントランスタイル タイル
十六稜の星型を描くモザイクタイル

ドーム天井
ドーム天井を見上げて


床を彩る7色のモザイクタイルは、フランス産の大理石でできています。
ドーム天井には、漆喰の装飾レリーフかと見紛うほど、陰影を巧みに用いて描かれた文様があります。
この文様は、外壁のレリーフと同じく絵画や音楽などがモチーフとなっており、ここが芸術の館であることを示唆しているかのようです。

 

天井画
巧みな陰影で立体的に見える天井画

建物左右のドーム部分は、階段室になっています。
優美な曲線を描く手すりは真鍮製、縦の支柱は鉄製です。
表慶館の中でも、最もフォトジェニックな場所ではないでしょうか。

階段室
1階から2階へ

階段 階段手すり
踊り場では手すりの曲線美をご覧ください


その存在自体がまるで美術作品のような表慶館。
明治末期の洋風建築を代表する建物として1978(昭和53)年、重要文化財に指定されました。


今年は、内部をご覧いただけるチャンスがあります!
フランス人間国宝展」(2017年9月12日(火)~11月26日(日))が表慶館にて開催されます。
作品とともに、贅沢な展示空間をぜひ、ご堪能ください。

 

 

カテゴリ:展示環境・たてもの

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posted by 奥田 緑(広報室) at 2017年06月01日 (木)

 

さよなら「茶の湯」オールスターズ

青葉が本当に気持ちのよい季節になりました。
日差しも少し強くなって、雨も長くなって、そろそろ梅雨が来るのかなと感じます。

そして特別展「茶の湯」も残すところわずかとなりました。

展覧会の企画は3年前ほどから本格的にスタートして、
そのあいだ私はずーっと平成館展示室の図面とにらめっこの日々でした。
5、60枚は図面を引いたでしょうか…。
これだけたくさんのお茶碗、そして茶入、茶杓や香合といったとても小さな工芸作品が特別展会場である平成館にならぶ機会は珍しく、その形、大きさから照明を当てるのも書画や彫刻とは異なる細やかな工夫が必要です。

とりわけやきもの専門の研究員として、茶の湯のやきものについて
ぜひお伝えしたかったのは、日本ほどやきものを身近に感じている国は他にないということです。

ガラス質のなめらかな釉面の中国のうつわ。
轆轤目が粗く残るざらざらとした朝鮮半島のうつわ。
そして縦に横にヘラによって削られた日本のうつわ。
先人たちは手にとってそうした違いを受け止めて、大切に伝えてきたということ、これだけ個性あふれる名品が集まる機会はめったにないということ、ぜひその素晴らしさをこの展示で再現したいと思いで準備をしてきました。


重要文化財 油滴天目
建窯 南宋時代・12~13世紀 九州国立博物館蔵

古田織部、松平不昧が所持した油滴天目。こちらも大阪東洋陶磁美術館所蔵の国宝の「油滴天目」に負けないくらい魅力たっぷりに輝いています。


国宝 大井戸茶碗 喜左衛門井戸
朝鮮時代・16世紀 京都・孤篷庵蔵
名もなき陶工がスピードにのって轆轤を挽きあげ、ざくざくと削って整える様子が目に浮かぶよう。圧倒的な存在感を放って佇む孤高な姿に心打たれます。


国宝 志野茶碗 銘 卯花墻
美濃 安土桃山~江戸時代・16~17世紀 東京・三井記念美術館蔵
ほんのりと赤みを帯びた穏やかな火色で、一見優しい雰囲気を漂わせる名碗「卯花墻」にはじつは胴部に大胆に箆目が入り、力強い造形で迫ってきます。

そこで今回、光源を展示台の下に設けた特別な照明を作り、茶碗の側面や高台部分をより良く観ていただけるようにしました。
(協力:デザインオフィスイオ、大光電機、株式会社マルモ)


楽茶碗の展示ケース
(撮影:横山研究員)


作品は重要文化財「黒楽茶碗 銘 ムキ栗」(文化庁蔵)。
360度ぐるりと、ちょっと腰を落として目線の高さを変えてみたりして、楽茶碗の薬の変化や箆削りなど、いろいろな表情を見つけることができます。


重要文化財 黒楽茶碗 銘 俊寛
長次郎 安土桃山・16世紀 東京・三井記念美術館蔵

柔らかい光が当たった胴から裾にかけて、ぐっと横に箆削りが入っているのをみることができます。口が内向し、持つ手にぴったりと収まる絶妙なかたち。
茶の湯が生み出した唯一無二のやきもの、楽茶碗の名品です。



茶碗のみならず、どれもそれぞれに魅力たっぷりの「茶の湯」オールスターズ。
こんな名品が一堂に会する機会は、もうしばらく無いだろう…と、
企画者の一人として展示替えのたびにちょっと寂しい気持ちがしておりますが、素晴らしい作品たちと向き合える時間を大切にしようと心新たにする日々です。

カテゴリ:研究員のイチオシ2017年度の特別展

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posted by 三笠景子(平常展調整室主任研究員) at 2017年05月28日 (日)

 

特別展「茶の湯」20万人達成!

特別展「茶の湯」(4月11日[火]~6月4日[日])は、5月26日(金)に20万人目のお客様をお迎えしました。
ご来館いただきました多くのお客様に、心より御礼申し上げます。

20万人目のお客様は、茨城県ひたちなか市よりお越しの小野瀬きよみさん。
小野瀬さんには、当館館長の銭谷眞美より、記念品として展覧会図録とトートバッグを贈呈しました。


特別展「茶の湯」20万人セレモニー
左:小野瀬きよみさん、右:館長の銭谷眞美
5月26日(金)平成館エントランスにて。
トーハクくんとユリノキちゃんもお祝いに駆けつけました

10万人目のお客様に続き、20万人目の小野瀬さんもお着物でご来館くださいました。
何と小野瀬さん、お茶の先生をなさっていらっしゃるとか!
本日もお茶のお稽古帰りに、お友達とご一緒にお立ち寄りくださったそうです。
ちなみに、お友達もお茶を習っていらっしゃるそうで、やはりお着物でお越しくださいました。
まさに本展の20万人目にぴったりのお客様です!

小野瀬さんは「仕事柄、お茶のお道具には興味があります。今日は、お稽古用とは違う、本物のお道具が見られるのが楽しみです」とお話しくださいました。
特に三井記念美術館所蔵の国宝「志野茶碗 銘 卯花墻」が気になるそう。
小野瀬さんだったら、卯花墻でどんなお茶を立てられるのでしょうね。

特別展「茶の湯」は6月4日(日)まで。
そろそろ閉幕の足音が聞こえてきました。
次にこれだけの名品が勢揃いするのは、果たしていつになることか…という、奇跡の展覧会です。
どうぞお見逃しのないように!
 
 

カテゴリ:news2017年度の特別展

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posted by 高桑那々美(広報室) at 2017年05月27日 (土)

 

等伯の松林であそぶ? それとも光琳のつるとあそぶ?

夏休み恒例の親と子のギャラリーでは、トーハク所蔵の国宝のなかでも人気ナンバー1の長谷川等伯筆「松林図屏風」とアメリカ・フリーア美術館所蔵の尾形光琳筆「群鶴図屏風」の高精細複製に、ダイナミックな映像をプラスした体験型の展示を企画しています。



「松林図屏風」(綴プロジェクトによる高精細複製品)
原本=長谷川等伯筆 安土桃山時代・16世紀
原本、複製品とも東京国立博物館蔵



群鶴図屏風高精細複製
「群鶴図屏風」(綴プロジェクトによる高精細複製品)
原本=尾形光琳筆 江戸時代・17~18世紀
複製品=東京都美術館蔵
Facsimiles of works in the collection of the Freer Gallery of Art, Smithonian Institution, Washington, DC:Purchase, F1956.20, F1956.21



ここでひとつ質問です。
みなさんにとって、絵画を見る楽しみってなんですか?
美しい風景を眺めてそこに行った気分になれる、とか
かわいいものを見つけて、ほのぼの幸せになれる、とか
絵に込められた祈りに触れて、敬虔な気持ちになる、とか。

絵によって、また見る人にとって、その喜びはいろいろですが、いずれにしても、自分の目で見て、想像したり、感じたりすることが楽しいのではないでしょうか。
トーハクにはたくさんの絵画作品がありますが、ご存じのとおり古いものばかりです。時代を経たもの、伝統的なものの前に立つと、なぜか緊張してしまって、自分なりに自由に見たり、感じたりすることができなくなっていることがありませんか?
いわゆる「敷居が高い」という感覚です。

そこで、考えたのがこの企画。目的は、皆さんの前にある決して低くない敷居をすべてとっぱらうことです。
 


第1会場は「松林であそぶ」
くつを脱いで畳の広間にすわって、のんびり松林図を眺めましょう。もちろんガラスケースなしで。
等伯が描いた松林のその向こうにはどんな風景が広がっていたのか?
松林では何が起こっていたのか?
みなさんの想像力を刺激する映像が、松林図屏風を見る楽しみを広げることでしょう。
 
特別5室会場イメージ
会場には高さ約5メートル、直径約15メートルの半円形のスクリーンを設置。
ダイナミックな映像をお楽しみいただきます。

 


第2会場は「つるとあそぶ」
びょうぶに描かれた鶴たちは、どこから飛んできてどこへ行くの?
子どもたちの動きにあわせて鶴が動くインタラクティブな演出も交えて、まさに、絵の中の鶴とあそんでみてください。
 


このほか、触って楽しむハンズオンコーナーなども企画しています。
詳細は追って、このブログで少しずつ紹介していきます。
この夏はぜひ、お子さんと一緒に、トーハクであたらしいアート体験を楽しんでください。

 
親と子のギャラリー びょうぶとあそぶ 高精細複製によるあたらしい日本美術体験
本館 特別4室・特別5室   2017年7月4日(火) ~ 2017年9月3日(日)

 

 

カテゴリ:研究員のイチオシ教育普及特集・特別公開

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posted by 小林 牧(博物館教育課長) at 2017年05月26日 (金)

 

霊雲寺開基 浄厳の思想

こんにちは、保存修復室の瀬谷愛です。

特集「幕府祈願所 霊雲寺の名宝」(本館特別2室、~6月4日(日))は、中日の展示替えを経て、残すところあと2週間となりました。



リーフレット
リーフレットを作りましたよ!

この、小規模ながらも史上初の一大企画のために、がんばって8ページ、オールカラーのリーフレットを作成しました。
しかも、無料です!
会場に見本がありますので、ぜひ本館インフォメーションでお受け取りください。

さて。

今回、霊雲寺さんの展示をするためにいろいろと新しいことを知りましたが、最も興味深かったのは、やはり浄厳和尚のことでした。


梵書阿字
梵書阿字 浄厳筆 江戸時代・17世紀 1幅 紙本墨書 東京・霊雲寺蔵
一番大事な梵字です。


浄厳は、高野山で修行を始めた若いうちから、梵字研究をとても大切だと考えていました。
梵字は、ただの文字ではなく、この一字一字のなかに、仏とその教えが詰まっている。
形と意義、その力、すべてを理解したうえで真言陀羅尼を唱えなければならないといいます。

なかでも、この梵字。
読みは「ア」、漢字では「阿」と書きます。
「阿(ア)」は、すべての音声、文字、教えの根本となる梵字です。


悉曇三密鈔
悉曇三密鈔  浄厳編  江戸時代・天和2年(1682) 3冊 東京国立博物館蔵
浄厳が梵字の発音や文法、仕組みや意味などについて解説したこの本にも、一番初めに「ア」が。


梵字をマスターした浄厳直筆の梵書。
その霊験は計り知れないと、多くの人が求めたことでしょう。

でも、浄厳は自らの梵書を「無料」では配布しませんでした。
さて、代わりに何を求めたでしょうか??

銭? いいえ。
米? いいえ。

答えは、

「光明真言1日300回念誦すること!」

 
梵書胎蔵界大日如来真言
梵書胎蔵界大日如来真言 浄厳筆 江戸時代・17世紀 1幅 絹本墨書 東京・霊雲寺蔵
皆様ご存知の「ア・ビ・ラ・ウン・ケン」も、浄厳に始まる流派では、五字目に根本の「ア」を混交することで「ア・ビ・ラ・ウン・キャン」と読みます。


こちらの梵書を求める人には、陀羅尼を1日500回課されたそうです。

これはミーハーな気持ちでは達成できませんね。
お金やお米を一度きりで払ったほうがよほど安いような気がします。

しかし、これには浄厳の深い深い想いが詰まっています。

浄厳は常々、次のように語っていたそうです。
「私の恩に報おうとするならば、常に戒律を守って、正しく真言を持誦するように。私の恩のみならず、三世の仏恩、三国の祖師の恩に報いなさい」
と。

そして、真言宗の祖、弘法大師空海も、釈迦が「梵字に通じて自由自在となり、他の者のために解説して、名誉や財をむさぼらなければ、功徳を得るだろう」と言っているので、初心者のために「梵字悉曇字母幷釈義」を著したそうです。

自らが会得したものを、他者に伝え、自らのための見返りは求めない。
というわけです。


幕府祈願所 霊雲寺の名宝」。
リーフレット、無料です。
名誉も財も、求めません。
ぜひ、霊雲寺と浄厳についてご理解を深めていただけましたら幸いです!


ちなみに、
大阪出身・浄厳ゆかりの文化財が下記展覧会に展示されます。あわせてご覧ください。
1) 「木×仏像 飛鳥仏から円空へ 日本の木彫仏1000年」 
4月8日(土)~6月4日(日) 大阪市立美術館
2) 「創建1250年記念 奈良 西大寺展 叡尊と一門の名宝
7月29日(土)~9月24日(日) あべのハルカス美術館
(浄厳関連文化財は大阪会場のみの展示となりますが、本展は、三井記念美術館〔4月15日(土)~6月11日(日)〕、山口県立美術館〔10月20日(金)~12月10日(日)〕を巡回します。)
 

カテゴリ:研究員のイチオシ特集・特別公開

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posted by 瀬谷 愛(保存修復室主任研究員) at 2017年05月25日 (木)