ほほーい!ぼくトーハクくん!
今日は小山(おやま)研究員といっしょに「人間国宝展―生み出された美、伝えゆくわざ―」を見に行くほ。
研究員ならではの展覧会の見どころを教えてくださいだほー!
小山研究員(以下O):こんにちはトーハクくん!展覧会の見どころね。
この展覧会は、国宝や重要文化財といった古い名品と人間国宝の作品を隣り合わせて展示しているところがポイントなの。
(左)重要文化財 奈良三彩壺 奈良時代・8世紀 九州国立博物館蔵
(右)三彩花器「爽容」 加藤卓男作 平成8年(1996) 東京国立博物館蔵
ボクの勝手なイメージだけど、「古い名品!」って言われるちゃうと、やっぱりそっちのほうがなんとなくスゴイ感じがしちゃうんだけど。
O:そうですねー。
えっ!
(言い切っちゃったほ!)
O:だって昔の人は制作にかけた時間も素材も全然違うんだもの、仕方のないことでしょう。
ひとつの作品をつくるためだけに生き、色んな技法を試す。そういう時間と環境こそが良い作品を生んだのよね。
ほー!
(小山さんはかわいいお顔なのに、コメントに男気があるほ!)
O:昔の作品はやっぱりすごい。パワーがある。
昔の日本人、つまり私たちの祖先はこんなにすごいんだってことを見てほしいという気持ちもあるの。
そして現代の作家さんたちが、ここまでがんばって発展させてきたこと、これもまたすごいことね。
こういう作品から、たくさんエネルギーをもらってほしいわ。
しっかし、人間国宝かあ…。なんだか仙人みたいなイメージだほ。
小山さんは図録の執筆のために人間国宝さんにインタビューをしていたけど、実際にお話してみてどんなひとたちだったほ?
O:そうねえ、雲の上の人っていうイメージを持っている方も多いでしょうね。
でも実際はそうではないの。
どんなに偉いひとだって、皆最初はゼロからスタートするでしょ?
スタート地点があって、寄り道もして、歩む道を選択しながらやっとここまで来たの。
悩んで悩み抜いて試行錯誤して、到達した結果が人間国宝というだけの話。
今だって姿勢は変わらず、作品をつくるために日々悩んでいらっしゃるわ。
そうか、人間国宝も人間なんだね!当たり前のことだけど!ちょっとムネがアツくなったほ!
O:私もインタビューをしていてアツくなったわ。
作品制作も、伝統をどこまで引き継ぎ、どこまで自分の表現を出すのか、自分なりの道を見出さないといけない。その作業はとても大変なことよ。
それを粘り強く続けられたからこそ人間国宝になれるのね。
粘り強く続けられる。ひとはそれを才能と呼ぶのだほ。(キマッタほ!)
O:うふふ、でも才能だけでは人間国宝にはなれないのよ。
ぐはっ!(かっこわる!)
O:努力、運、人との出会いも大切ね。
でも逆にいうと、いま作品の制作に携わる全ての人たちにも、人間国宝になれる可能性があるってことよ。
私は、現代人が昔の人に劣っているとは決して思わないの。
昔の日本人が、こんなに素晴らしい作品を作っていたのだということを糧にして、現代の人にはそれ以上の作品をつくってもらいたいなと思います。
では究極の質問だほ!
もし小山さんが、世紀の美術泥棒・キャッツアイだったら何を盗みたいほ?
O:あらあらキャッツアイ?そうね…ひとつだけ選ぶのは難しいわね…
あのね、「いいもの」っていうのは古さを感じさせないものなの。
現代まで残っているのには理由があるのよ。(キラーン☆)
うわっ!いま小山さんの目が光ったほ!
O:そう!私は小さい頃からキラキラしたものが大好きだったの。
宝石の広告チラシを切り抜いて遊んだりしてたなあ。
ということで、私はコレを選びます!
截金彩色飾筥「花風有韻」(きりかねさいしきかざりばこ かふうゆういん)
江里佐代子作 平成3年(1991) 文化庁蔵
えっ?!小山さんは染織が専門なのに、お着物は選ばないんだほ?
O:悩んだんだけどね。
毎日同じ服を着る人っていないでしょ?だからお着物をどれかひとつって言われると困っちゃうの。
こういう作品だったら毎日手元に置いて眺めたり、中に自分の大切なものを入れたりして楽しめるじゃない?
にゃるほ。小山さんはこの作品のどういうところが好きなんだほ?
O:キラキラしていて本当に綺麗でしょう?
これは截金(きりかね)って言って、細く切った金箔を杉の箱に施しているの。
O:見て!光に当たって、まるで金糸みたいにきらめいて見えるでしょ?照明も工夫したのよ。
ほー、キラキラの線が折り重なってビューティほー!
O:もしキャッツアイだったら、暗闇の中で懐中電灯をつけて、パッとこのハコが目に映った時、きっとトキメクだろうなあ!
♪みーつめるキャッツアイ かーふうゆういん きーんいろにひかーるー
O:トーハクくん、古い歌知ってるのね。
えへへ。5歳だけどものしりだほ。
でもこうやってガラスケースに入っていると、「美術作品」として見てしまうけど、「どれが欲しいかな」とか「自分だったらどう使うかな」とか、そういう風に見てもいいんだほ?
O:もちろん!そういう風に見てもらいたいわ。
だって使う人あっての工芸だもの。作り手と使い手、双方が一緒に工芸を盛り立てて、お互いに成長していくの。
そのことを心に留めて展覧会を見ていただけたらいいなと思ってます。
そうか、使うひとがいないと、作るひともいなくなっちゃうもんね!
使うひとも大事な役割なんだってことが、とってもよくわかったほ!
小山さん、アツいお話をどうも有難うございました!
小山弓弦葉(おやまゆづるは)工芸室主任研究員。専門は染織です。
大好きな作品(友禅訪問着「羽衣」 森口華弘作 昭和59年(1984) 滋賀県立近代美術館蔵)の前で。
カテゴリ:研究員のイチオシ、news、2013年度の特別展
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posted by トーハクくん at 2014年01月22日 (水)
いよいよ明日、「クリーブランド美術館展―名画でたどる日本の美」と、日本伝統工芸展60回記念「人間国宝展―生み出された美、伝えゆくわざ―」が開幕します。
それに先立ち、本日は2つの展覧会の開会式・内覧会が行われました。
ご来場いただいたお客様の数は、午前中に行われた報道内覧会とあわせると1500人近く。
皆様の大きな期待を受けて、好発進となりました。
クリーブランド美術館からフレデリック・ビッドウェル館長が出席され、
「今回の展覧会がクリーブランド美術館と東京国立博物館の長い交流の成果であり、クリーブランドの市民は、彼らの愛するクリーブランドの日本美術コレクションを日本の皆様に見ていただけることを、とても楽しみにしている」と挨拶されました。
フレデリック・ビッドウェル クリーブランド美術館長
展覧会の入口では、雷神さまがお出迎え。
雷神図屏風 「伊年」印 江戸時代・17世紀 クリーブランド美術館蔵
ユーモラスな顔に思わずにっこりしてしまいます。
白い体が金の地から浮かび上がって見えることにもご注目ください。実はこの作品には、新しい照明が使われています。
照明に関しては、本ブログにて改めて解説いたしますのでご期待ください。
大画面が並ぶ、「花鳥風月」「物語絵画」のコーナー
この展覧会では、日本美術における人と自然の表現に焦点をあてながら、日本美術の流れをご覧いただきます。
そんなコンセプトが成り立つのは、クリーブランドの日本美術コレクションが体系だったものだから。
市民の皆さんが誇りに思っておられるというのもうなずけます。
次に日本伝統工芸展60回記念「人間国宝展―生み出された美、伝えゆくわざ―」についてご紹介します。
歴代人間国宝104人の名品がずらりと並びます。これだけ揃うと大変豪華です。
この展覧会の最大の魅力は、国宝・重要文化財などの名品と、人間国宝の作品が並べて展示されることです。
名品の造形が人間国宝の作品にどのように影響したのかを見比べていただくことができます。
改めて、人間国宝の作品には迫力があります。そして、古典の名品が守り伝えられてきた理由も分かります。
両展ともに、新春を飾る特別展にふさわしく、華やかで見ごたえのある作品が揃いました。
まったく違うアプローチの2つの展覧会ですが、共に日本の美の再発見を目指します。
どうか、会期中早いうちにご来場ください。
今後、本展覧会の見どころについて研究員がご紹介してまいります。どうぞおたのしみに!
カテゴリ:news、2013年度の特別展
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posted by 小林牧(広報室長) at 2014年01月14日 (火)
すでにお知らせしている通り、2014年の1月、トーハクでは2つの個性的な展覧会が同時に幕を開けます。
そのうちのひとつ「人間国宝展」については、トーハクくんとユリノキちゃんが「なるほー!人間こくほー!展」で紹介してくれました。
残るひとつ「クリーブランド美術館展―名画でたどる日本の美」については、わたくし広報室の小林が紹介いたします。
そもそもクリーブランドってどこ?
正直言って、日本人にはあまりなじみのない街かもしれません。
クリーブランドは、五大湖のひとつ、エリー湖の南岸に位置するオハイオ州第2の都市です。
音楽が好きな方ならば、アメリカ5大オーケストラのひとつとされるクリーブランド管弦楽団の名前はご存知でしょう。村上春樹の大ベストセラー「1Q84」の冒頭、主人公がタクシーの中で耳にしたのが、ジョージ・セル指揮、クリーブランド管弦楽団による『バルトーク:管弦楽のための協奏曲/ヤナーチェク : シンフォニエッタ』でした。
そのクリーブランドに1913年に開設されたのがクリーブランド美術館。
中世ヨーロッパの美術や東洋美術、そして印象派などの近代美術から現代美術まで、約4万5000点のコレクションを誇る全米でも有数の規模の総合美術館です。
水と緑の風景が美しい、クリーブランド美術館
なぜ日本美術のコレクション?
それにしても、なぜクリーブランドにこれほどの日本美術のコレクションがあるのでしょうか? 実は、GHQの美術顧問を勤め、東洋美術研究者として名高いシャーマン・リー(1918-2008)が1952年にクリーブランド美術館に赴任し、1958年から館長を勤めているのです。彼が、ジャンルも時代もバランスよく体系的に日本美術を収集したことが、いまの日本美術コレクションの土台になりました。
なぜいま、クリーブランド美術館展を開催するの?
2013年6月、クリーブランド美術館に新しく日本ギャラリーが開室されました。それを記念して、2014年2月16日~5月11日には、東京国立博物館所蔵の日本美術の名品による特別展「伝統の再生-日本近代美術」が開催されることになっています。当館におけるクリーブランド美術館展はその交換展。東京国立博物館とクリーブランド美術館の交流から生まれた展覧会なのです。
どんな展覧会なの?
みなさま、展覧会のサブタイトルにご注目ください。
「名画でたどる日本の美」
そう、先ほど、シャーマン・リーのコレクションは体系的である、と書きました。
今回の展覧会はまさにその点に着目した構成になっています。
平安時代から明治時代まで、日本の絵画の流れを概観しようという壮大な試みです。
展覧会は、人と自然との関わりをテーマに、(1)神仏を描く作品や肖像画などの人体表現、(2)咲き誇る花や鳥を描く花鳥画、(3)名所や理想の景色を描いた山水画、(4)人と自然が融けあうように表わされる物語絵画と、四つの章で構成されています。
出品作品42件のラインナップには、雪村、蕭白、盧舟、始興に暁斎と人気の絵師も勢ぞろい。
さらに、テーマにあわせて、クリーブランド美術館の所蔵品からピカソ、モネ、ルソーなど西洋絵画と中国絵画の名品も展示。
古今東西の絵の中に遊ぶ贅沢な時間をお約束します。
<主な作品>
雷神図屏風 (らいじんずびょうぶ) 「伊年」印 江戸時代・17世紀
よく知られた「風神雷神図」のうち「雷神」の姿を描いた絵
会場では、有機ELパネルを用いて、当時この絵が鑑賞された環境に近い光を再現する今までにない照明を計画中。
本来の日本絵画のもっていたパワーを実感していただきます。
詳しくは、担当研究員が本ブログでご紹介する予定です。どうぞお楽しみに!
龍虎図屏風(りゅうこずびょうぶ) 雪村周継(生没年不詳)筆 室町時代・16世紀
雨を呼ぶ龍と風を呼ぶ虎。ちょっとユーモラスな表現は、雪村ならでは
燕子花図屏風(かきつばたずびょうぶ) 渡辺始興筆(1683-1755) 江戸時代・18世紀
尾形光琳を慕った始興の代表作。燕子花の配置が生み出す、心地良いリズムを楽しんでください
「クリーブランド美術館展─名画でたどる日本の美」
2014年1月15日(水) ~ 2014年2月23日(日) 平成館 特別展示室第1・2室
カテゴリ:2013年度の特別展
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posted by 小林牧(広報室長) at 2013年12月18日 (水)
こんにちは!トーハクのアイドル、ユリノキちゃんです。
(わお、アイドルって自分で言っちゃってるほ…)こんにちは、トーハクくんです。
今日は、日本伝統工芸展60回記念「人間国宝展―生み出された美、伝えゆくわざ―」についてご紹介します。
よろしくだほ。
しっかし、人間なのに国宝になっちゃうっていうのは、なんだか不思議な気がするほ。
人間国宝ってね、正確にいうと「重要無形文化財の保持者」のことなのよ。
ジューヨームケーブンぶくぶくぶく、、ぬはぁー!難しくてよくわからんほ!
ごめん、ごめん!
「国宝」は、とても大切な国の宝物でしょ?「人間国宝」は、「国宝にしたいくらいすごい人」という意味で使われるようになったの。
「ジューヨームケーブンぶくぶくぶく」じゃ分かりにくいでしょ。
そうか!じゃあボクもなれるね?
あらら。トーハクくん、「国宝は一日にして成らず」!本当に大変な努力がないとなれないのよ?
うむむ。じゃあ、人間国宝ってどんなひとがなれるんだほ?(ボクもなりたいほ。)
じゃあまずは、人間国宝の制度の成り立ちから説明するわね。
昭和25年に「文化財保護法」っていう法律が制定されました。今ではよく耳にする「文化財」っていう言葉が広く使われるようになったのは、ここからだと言われているの。
文化財保護ホー?
「文化財を保護する法律」よ。
絵画や彫刻とか、目に見える「物」は、形があるので「有形文化財」って言うの。
もう片方で、歌舞伎や落語のような芸能は、目に見えるけど、「物」は無いでしょ。
ほっほ、ユリノキちゃん。今はDVDっていう便利なものがあるじゃないほ~。
ヘリクツ言わないの。
歌舞伎や能や落語のような芸能は、「物」じゃなくて「技」が大切でしょ。
こうした、「物」じゃないもの、「形」がないものということで「無形文化財」って言うのよ。
じゃあ今回は落語家さんの展覧会なんだほ?
ノンノンノン。今回は「工芸」の展覧会です。
焦ーげー?
工芸!
日本では昔から焼物が作られ、漆が作られ、織物が織られたりしてきたでしょう?
そうしたものを作る「技」、これを「工芸技術」として保護していくことにしたの。
工芸の「技」が無形文化財になって、その「技」を持っている人が保持者。
昭和25年の「文化財保護法」は、形の無いものまで保護しようとしたのよ。
当時じゃ、世界でも類のない画期的な制度だったの!
UKだけじゃなくてムケーも大事ってことだほ。
そう。でも変な文字変換しないでよね。
ほほーい。
日本の工芸ってほんとにすごいわよ!
ほら、木・竹工や金工などの綺麗な作品がたくさんあるし、陶磁器も華やかよね。
法隆寺宝物館や本館にも展示されているでしょ?
重要文化財 色絵月梅図茶壺 重要文化財 金銅火焔宝珠形舎利容器
仁清作 江戸時代・17世紀 鎌倉時代・13~14世紀
いずれも東京国立博物館蔵、本展覧会出品作品。
うん!12室に展示されてる漆のハコもすごいし、お着物も、刀剣も、もう挙げてったらキリがないほ。
国宝 片輪車蒔絵螺鈿手箱 重要文化財 縫箔 紅白段草花短冊八橋模様
平安時代・12世紀 安土桃山時代・16世紀
いずれも東京国立博物館蔵、本展覧会出品作品。
普段の生活が「アート」に囲まれてる。そんな生活の中の芸術品である工芸を大切に伝えてく。
これぞ、世界に誇る日本の文化!
ということで昭和29年、無形文化財のなかで特に重要な技を「重要無形文化財」として指定して、その技をもっている人のなかでも最も優れた人を「重要無形文化財の保持者」いわゆる「人間国宝」として認定したの。
ほおおー!やっと出てきた「人間国宝」!
そうか、こういうスゴイ作品をつくれる技を持っていて、なかでもスーパーグレートなひとが「人間国宝」なんだほ。
そう。細かく言うと色々条件はあるけど、そんな風に覚えていてくれれば大丈夫。
それで、そういう価値の高い無形の技を保存して後世に伝えてゆくためには、なるべくたくさんの人にこの技術を見てもらわないとね、ってことで始まったのが「日本伝統工芸展」。
ほう。
この展覧会タイトルに「日本伝統工芸展60回記念」って書いてあるほ。じゃあ60回も続いてきたんだほ?
そうよ。すごいでしょ?
この展覧会はそれを記念して開催されるの。だからすごいわよー、出品作品の豪華なこと!
すでに亡くなられた104名の人間国宝の名品を一気にぜーんぶ見ることができるの。
さらに、平成館1階の企画展示室で開催する特集陳列「人間国宝の現在(いま)」では、現在もご活躍中の人間国宝53名の作品が展示されるから、特別展示室と企画展示室を両方見れば、すべての人間国宝(※)の作品を制覇できるというわけ!
(※ 技そのものが認定を受けており、展示することが難しい刀剣研磨と手漉和紙を除きます。)
わほー!!そんなに一気に見られるなんてワンダホー!!
はあ…人間国宝さんかあ。どんなひとなのかなあ。一度会ってみたいほ…。
↓トーハクくんが想像する「人間国宝さん」のビジュアルイメージはこんな感じ。
重文 李白吟行図(りはくぎんこうず)
梁楷筆 南宋時代・13世紀 東京国立博物館蔵
※本展覧会の出品作品ではありません。あくまでビジュアルイメージです。
会えるわよ。
えっ?!
「現役人間国宝によるギャラリートーク」に行けば会えるわよ。
ご活躍中の人間国宝から、展示室のなかで直接お話を聞くことができるの。
いやはや!これは絶対に行きたいほ!ボクが国宝になるにはどうしたらいいのか聞くんだほ。
そういう質問は困ると思うけど…。
でも技に関することや、どんな美を追求してるのかってことだったら聞くことができるかもね。
私もとっても楽しみよ!来年の手帳にスケジュールを書いておかなきゃ。
日本伝統工芸展60回記念「人間国宝展―生み出された美、伝えゆくわざ―」は、1月15日(水)から2月23日(日)まで、平成館特別展示室で開催します。
特集陳列「人間国宝の現在(いま)」も同じ期間、平成館1階の企画展示室で開催します。
トーハクくんが展覧会担当研究員にインタビューするブログもアップしていきますので、おたのしみにね!
えっ、そうなの?!(いま初めて聞いたほ…まったくユリちゃんは人づかいが荒いほ…)
が、がんばるほー!!
カテゴリ:news、2013年度の特別展
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posted by トーハクくん at 2013年12月14日 (土)
呉彬「山陰道上図巻」に驚く!―最初で最後!?東洋館でしかわからない画家の実像―
特別展「上海博物館 中国絵画の至宝」では、貴重な宋元画を含む18件もの一級文物が来日していますが、二級文物のなかにもぜひともご覧になっていただきたい作品があります。
「西湖図巻」や、今回全巻展示された呉彬筆「山陰道上図巻」です。
西湖図巻 南宋時代・13世紀
西湖図巻と西湖の実景が対比して展示されています。
西湖にこの画巻を持って行って実景と対照させた乾隆帝の気分を味わえます。
東洋館の10メートルケースに全巻展示された呉彬筆「山陰道上図巻」。全長862.2㎝の大迫力!
こんなすごい作品が二級文物なのには、「呉彬」という画家の評価をめぐる歴史が関係しています。
呉彬の詳しい一生は不明な点が多いのですが、福建省に生まれ、のち北京の高官であった米万鐘の支援を受けて北京、南京などで活躍します。
何といってもそのトレードマークは、一度見たら忘れられない、その奇怪な山の表現です。
山陰道上図巻 呉彬筆 明時代・1608年 上海博物館蔵
「こんな風景みたことない!?」。画家は山陰(浙江省)の風景と言っていますが、単純な実景ではありません。
造形を見ればびっくりしてしまいますが、しかし、呉彬はただの「変な画家」ではないようです。
よく見れば、全長862㎝を超える作品の最初から最後まで、一つとして同じ描写はなく、画家は細かな描写を変化させているのがわかります。
春の山はおだやかで → 夏の山は湿潤 → 秋の山は色づき → 冬の山は静寂
じつは私はこれこそが、呉彬がこの作品にこめた最大のメッセージだと思っています。
画巻は春の朝焼けからはじまり、夏の雨景、秋の夕暮れ、冬の雪景色と静かな夜景で終わりますが、さらに、中国絵画史を彩る古代の画家の筆法をおり混ぜながら描くことで、四時(朝昼夕夜)と四季(春夏秋冬)、そして、画家が修行の過程で体得した中国絵画の歴史そのものが、一巻のなかに出現する、という作品になっているのです。
【夏】
米友仁の描き方 たとえば↓
(左)呉彬筆「山陰道上図巻」のうち夏景
夏山のジメジメした雲は北宋の米友仁に学んだ描写です。
例:(右)離合山水図 杜貫道賛 明時代・14世紀(出品作品ではありません)
同じく北宋の米友仁に学んだ明時代の山水。
【秋】
李成の描き方 たとえば↓
(左)呉彬筆「山陰道上図巻」のうち秋景
夕景の飛び立つ北宋の李成に学んだ描写です。
例:(右)王雲筆「山水楼閣図冊」のうち、倣李成山水図 清時代・康熙56年(1717)(出品作品ではありません)
同じく北宋の李成に学んだ清時代の山水。
【秋】
王蒙の描き方 たとえば↓
(左)一級文物 山陰道上図巻 呉彬筆のうち秋景
牛の尻尾のようなモワモワした描写は元時代の王蒙に学んだものです。
(右)一級文物 青卞隠居図軸(部分)王蒙筆 元時代・至正26年(1366)
その実際の作品もご覧いただけます。文人の苦悩を表わすかのような壮絶な描写です。
ではなぜ呉彬はこのように描いたのでしょうか?
ことの真相は最後の「吹き出し」のようになった跋に書いてあります。
この絵は米万鐘のために、「晋唐宋元諸賢」の描き方をまねて、描き上げたものです。
おそらくそこには、最も大切なパトロンのために、持てるすべての技を駆使しようとした、真摯な画家の姿が見えてくるでしょう。
呉彬は単に「変な画家」だったのではなく、中国の古典をしっかりと学んだ画家だったのです。
岩の中に吹き出しのように書いている「山陰道上図巻」の呉彬の跋。過去の画家を真似て描いたことが記されています。
意外なことに呉彬の作品が大きく再評価されたのは20世紀になってからで、それは日本とも大きな関係があります。
大阪の高槻市で中国書画を収集された橋本末吉氏(1902-1991)は、おそらくもっとも初期に呉彬の面白さに気がつき、のちに「奇想派」と呼ばれる明末清初の大コレクションを築かれました。
戦後、日本にフルブライト奨学生としてやってきた若きジェームス・ケーヒル(のちのカリフォルニア大学教授)は、橋本コレクションで呉彬「渓山絶塵図」に出会い、今までのおとなしい中国絵画とは全く違う呉彬作品に感銘を受け、帰国後「エキセントリックスクール」という新しい概念から展覧会を開き、研究活動を開始します。
こうして呉彬らは20世紀の日本やアメリカの研究者によって再評価されていったのです。
(左)渓山絶塵図 呉彬筆 個人蔵 (出品作品ではありません)
(中央)一級文物 青卞隠居図軸 王蒙筆 元時代・至正26年(1366)
呉彬の奇怪な表現は、王蒙や北宋山水画の影響も受けていることが指摘されています。
(左)James Cahill , Fantastics and eccentrics in Chinese painting , Asia Society,1967 (出品作品ではありません)
呉彬を評価した最初期の展覧会の図録です。資料館で閲覧することができます。
呉彬「山陰道上図巻」はこのように、最初から最後まで息つくヒマもない程の、筆墨の変化こそが最もおもしろいところですが、一部分しか展示できないのでは、この作品の素晴らしさが全く伝わりません。
今回特にこの作品をお願いしたのは、名品であること、そしてこれが、東洋館8室で新しく作られた10メートルケースにぴったりとおさまるからです。
まさに、新しい東洋館のために描かれたような、奇跡の作品。
このような全巻展示は上海博物館でもほとんどなく(私は見たことがありません)、新しい東洋館ならではの、最初で最後のチャンスかもしれません。
会場では呉彬の傑作から顔を上げれば、呉彬が学んだ王蒙や北宋絵画が見えるように展示しました。
まさに「中国絵画の教科書」のようなぜいたくな空間になっています。
明末清初はこのような、ちょっと変わった画風(奇想派)が流行した時代でしたが、よく聞かれるのは、日本の奇想派との関係です。
私は関係があるのではないかと思っていますが、これはこれからの研究課題となっていくでしょう。
東博の主役は日本美術の素晴らしいコレクションです。
しかし日本の美術もアジアの美術を知ることでより深く理解することができます。東博はその両者がそろった世界でも稀有な博物館です。
どうかこれからもリニューアルオープンした東洋館で、アジア美術の名品を同時にお楽しみいただければ幸いです。
特別展「上海博物館 中国絵画の至宝」は、11月24日(日)までです。どうぞお見逃しなく!
カテゴリ:研究員のイチオシ、news、2013年度の特別展、展示環境・たてもの
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posted by 塚本麿充(東洋室) at 2013年11月20日 (水)