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高雄曼荼羅を写す

前回のブログ「密教の仏たちに包まれる―高雄曼荼羅の世界―」でご紹介しましたように、現存最古の両界曼荼羅である「高雄曼荼羅」は、平安時代にはすでに、空海が直接筆を執った特別な曼荼羅と認識されていました。


国宝 両界曼荼羅(高雄曼荼羅)(りょうかいまんだら、たかおまんだら)の展示風景
平安時代・9世紀 京都・神護寺蔵 
【金剛界】後期展示(8月14日~9月8日)

曼荼羅に描かれた仏たちは、密教の仏のお手本、規範であり、「白描(はくびょう)」という、墨の輪郭線を駆使した手法でその姿形が写し取られました。会場では平安時代後半から鎌倉時代の作品を展示しています。


重要文化財 高雄曼荼羅図像(たかおまんだらずぞう) 金剛界 巻上、巻中(部分)
平安時代・12世紀 奈良・長谷寺蔵 金剛界は
後期展示(8月14日~9月8日)

密教の仏は、たくさんの顔や手があったり、持ち物も複雑です。仏の姿ですから間違いは許されません。会場に並ぶ作品を見ると、一発勝負の緊張感を味わうことができます。

重要文化財 三十七尊羯磨形図像(さんじゅうしちそんかつまぎょうずぞう)(部分)

鎌倉時代・13世紀 京都・醍醐寺蔵 後期展示(8月14日~9月8日)

 
高雄曼荼羅はこれまで、鎌倉時代、江戸時代、そして現代(平成28年から6年かけてなされました)と、三度の修理が行われました。

江戸時代の修理の後、修理を企画した光格天皇と後桜町(ごさくらまち)上皇によって、原寸大の模本が制作されました。


両界曼荼羅(りょうかいまんだら)
右から【胎蔵界】江戸時代・寛政7年(1795)【金剛界】江戸時代・寛政6年(1794)
 京都・神護寺蔵 通期展示

「高雄曼荼羅」は、紫色に金銀が生える美しい作品です。今回行われた修理の際に分析が行われ、「紫根(しこん)」という非常に高価で希少な染料が使われていたことが明らかとなりました。「紫根」は紫色の染料ですので、高雄曼荼羅も描かれた当初は、模本に見られるような色味をしていたと考えられます。
 
江戸時代後半にかけて、原寸大だけでなく、数多くの模本が制作されました。空海ゆかりの曼荼羅の規範として、変わらず尊ばれていたことがうかがえます。
 
なかでも「両界曼荼羅」(京都・知恩院蔵)は、江戸時代後半の京都で活躍した仏画師、高橋逸斎(たかはしいっさい)が描いた作品です。


両界曼荼羅(りょうかいまんだら)右から胎蔵界、金剛界
江戸時代・文政11年(1828)
 京都・知恩院蔵 通期展示
 
本作品の魅力はなんといっても超絶技巧というべきその描写です。4メートルを超える大きさの高雄曼荼羅を1.8メートルの大きさに圧縮しているので、描写密度が半端ないのです。
 

両界曼荼羅 胎蔵界の部分
 
描線も美しく、高橋逸斎の持つ技術の高さが感じられます。

表装部分も描いています!


両界曼荼羅の表装部分
 
このほか会場には、高雄曼荼羅の仏を版木にした作例も展示しています。


高雄曼荼羅版木(たかおまんだらはんぎ)
明治3年(1870)
 京都・仁和寺蔵 通期展示

これは、当館に所蔵される京都・高山寺伝来の白描図像を下絵に版に起こされました。会場で久々の再開が果たされたのです!
 
高雄曼荼羅図像(たかおまんだらずぞう)
鎌倉時代・13世紀 
東京国立博物館蔵 通期展示
 
このように、平安時代後半から高雄曼荼羅の仏たちは様々に写されました。そこには、正しい仏を広めたいという高雄曼荼羅への人々の熱い想いを感じることができます。

高雄曼荼羅をご覧になった後は、ぜひこうした「写し」の作例もじっくりご覧ください。
「高雄曼荼羅」では見えにくい、気づきにくいモチーフを発見できるかもしれません。


重要文化財 高雄曼荼羅図像の賢劫千仏(げんごうせんぶつ)部分
 

同じく重要文化財 高雄曼荼羅図像 前期展示の胎蔵界ではカニが描かれていました※現在は展示されておりません
 
創建1200年記念 特別展「神護寺空海と真言密教のはじまり」の会期は残りわずかです(9月8日(日)まで)。

高雄曼荼羅や本尊「薬師如来立像」は、空海の時代から伝えられてきた神護寺の至宝です。今に伝えられたことの奇跡と軌跡、是非お見逃しなく!



 
 

 

カテゴリ:news絵画「神護寺」

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posted by 古川 攝一 (教育普及室) at 2024年08月30日 (金)

 

特別展「神護寺」10万人達成!

 開催中の創建1200年記念 特別展「神護寺空海と真言密教のはじまり」(9月8日(日)まで)は、来場者10万人を突破しました。

これを記念し、山口県下関市からお越しの中山さん親子に、当館副館長の浅見龍介より記念品を贈呈いたしました。
 

記念品贈呈の様子。中山さん親子(中央、右)と浅見副館長(左)

美術館や博物館がお好きなお母様の由貴子さんが、娘の結葉さんを神護寺展にお誘いになったそうです。
 
本展の会期も残すところ15日となりました。
寺外初公開の本尊、国宝「薬師如来立像」や空海が筆を入れたと伝えられる国宝「両界曼荼羅(高雄曼荼羅)」、国宝「山水屛風」など、神護寺1200年の至宝をご覧いただける本展。この機会をどうぞお見逃しなく!
 
 
 

 

カテゴリ:news「神護寺」

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posted by 宮尾美奈子(広報室) at 2024年08月22日 (木)

 

仏像展示の光と影

神護寺の本尊「薬師如来立像」は日本彫刻史の最高傑作といえるでしょう。


国宝 薬師如来立像(やくしにょらいりゅうぞう) 
平安時代・8~9世紀 京都・神護寺蔵 通期展示 

本来は高雄山の中腹に建つ金堂に置かれた厨子の中にまつられます。


金堂 

高雄山という霊地の空気が像の威厳を一層高めます。神護寺を真言密教の寺院として整備した空海は、薬師如来像の威厳のある姿をどのような思いで見つめたのでしょうか。

薬師如来像が寺を離れ、創建1200年記念 特別展「神護寺空海と真言密教のはじまり」に出品されるのは、節目の年とはいえ奇跡の出来事です。みなさまにも、奇跡の場に立ち会っていただきたいと思います。

 

ところで会期半ばに、薬師如来像の背後にある、仏から発せられる光を造形化した光背と、展示造作の幕を取り外しました。像の背中の美しさをご覧いただきたいという博物館担当者の思いと、見たいというお客様の声をご住職様に伝えてお許しをいただきました。このような機会を与えていただいたご住職様には心より感謝申し上げます。


第5章 会場風景

日本彫刻史では、仏像の衣の襞(ひだ)の表現を衣文(えもん)と呼んでいます。薬師如来像の正面には大腿部(だいたいぶ)を除いて、衣文が所狭しと表されます。

両腰から脚の間には、その形状から名付けられたY字形衣文とU字形衣文の美しい衣文線が見られます。大腿部に襞が無いのは、その盛り上がりの大きさを表現するためで、衣文を表さない衣文表現なのです。


薬師如来立像の大腿部

波打つ裾の縁は見どころの一つと思います。腹部には縄を思わせる衣文が刻まれますが、ややぎこちなさが感じられます。


薬師如来立像の腹部

左袖には膨らみのある襞と鋭い襞を交互に配する翻波式衣文(ほんぱしきえもん)が見られます。翻波式衣文は平安時代前期の彫刻の特徴の一つですが、これほど重厚で見事な表現は他にありません。


薬師如来立像の左袖部分

一方、背中には肘や腰、裾を除いて衣文がなく、腰の美しい曲面を見ることができます。背中に衣文がないのは拝するものからは見えないことが主な理由と考えられますが、製作者は、正面、左袖、背面とそれぞれ違った衣文表現を意識したはずです。


薬師如来立像の背中部分

日本彫刻史の最高傑作である神護寺の薬師如来像の背中や、左袖の翻波式衣文を見る機会は二度とありません。この機会を逃さないでください。


さて、背中を見ていただくには、幕と光背を取り外せば済むというわけではありません。これまでは幕や光背があったために、背中には照明が当てられていないのです。背中の美しさを見ていただく光が必要です。

照明を当て、光の具合を調整する作業をシューティングといいますが、この作業には、照明器具を調整する人、会場のデザインを考えたデザイナー、博物館の担当者が参加します。


第5章 会場風景

担当者が、ああしてほしい、こうしてほしいと作業をしている人に伝えても、照明器具の設置場所や仕様の制約などからすべて実現できるわけではありません。会場をデザインする過程で担当者から像のイメージを聞いていて、かつ照明器具のことも熟知しているデザイナーが担当者の意図を作業者に伝えます。

今回は、照明のために像が白く見えるという指摘があったので、まず、光の色を変える機能を調整して黄色味を増し、木の温かみを感じられるようにしました。

薬師如来像と日光菩薩像、月光菩薩像を照らすために、20個の照明器具が使用されますが、半数以上が薬師如来像に向いています。


第5章 中央のステージと照明

照明器具にもいくつか種類があり、すべての器具に光の色を調整する機能があるわけではありません。光の強さを調整する機能は多くの器具にそなわっていますが、広い範囲を明るく照らすもの、対象の形に合わせて光の範囲を調整できるもの、数センチの範囲にまで調整可能なものなどがあります。

薬師如来像も全体の輪郭や、頭髪部分、左袖の翻波式衣文など、その範囲に合わせた光が当てられています。それには微妙な調整の繰り返しが必要です。地震などで光がズレることもしばしばあります。


(中央)国宝 薬師如来立像 
(右)重要文化財 日光菩薩立像(にっこうぼさつりゅうぞう)(左)重要文化財 月光菩薩立像(がっこうぼさつりゅうぞう)
どちらも平安時代・9世紀 京都・神護寺蔵 通期展示

器具は、天井や天井付近に常設された配線ダクトや、展示に合わせて設置された臨時の配線ダクトに取り付けられます。薬師如来像の威厳のある表情を出すのに効果があったのは、その向かいの仮設の壁に付けられた比較的低い位置の器具でした。上方からの光だけでは顎に強い影が生じて、本来の表情が伝わりません。


威厳のある表情の薬師如来立像

注意しなくてはならないのは、像の背面を見ている人がまぶしくないように光の位置、向き、範囲を調整することです。今回は、まぶしさを完全に消せていない光が一部ありますがご容赦ください。


幕を取り除いたことで、薬師如来像と、それを護る十二神将像との一体感が増しました。本展覧会では十二神将像の壁に映った影が素敵だという声を多くいただいています。十二神将像の変化にとんだ身体の動きが、実際の像を見るよりも感じられるためではないでしょうか。


十二神将立像 (じゅうにしんしょうりゅうぞう)の展示風景
[酉神・亥神]室町時代・15~16 世紀[子神~申神・戌神]吉野右京・大橋作衛門等作 江戸時代・17 世紀 京都・神護寺蔵

十二神将像の主となる照明は上方からで、その強い影が壁の下方に映っています。この照明は像の上にも、像自身の強い影を生じさせるので、その影を弱めるために展示台に設けた器具から光を当てています。この光が、変化に富んだ影を壁に映しているのです。


十二神将立像の展示風景

この器具は光の強さを調整できないので、強すぎる場合は弱くするためのフィルターを1ないし2枚入れます。この器具の光は強いものではありませんが、下方から当てるので、いわゆるお化け顔になります。そこで上方から別の器具を使って顔に光を当てます。この照明に気付かれる方はあまりいらっしゃらないのではないでしょうか。というのは、壁の影の状態を保つために顔からはみ出さないように狭い範囲に絞って光を当てているのです。

壁の影の面白さを保つことも意識しましたが、複数の光を当てると影が乱雑に映り、像を見る妨げになるのです。薬師如来像の背後に白い幕があったときには、像を引き立てるのに妨げになる影を薄くするための光も必要でした。


第5章 前期の展示風景

仏像の展示の光と影についてお話ししましたが、このようなところにも担当者の経験と展示への思いが反映します。

 

 

カテゴリ:news彫刻「神護寺」

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posted by 丸山士郎(彫刻担当) at 2024年08月21日 (水)

 

特別展「神護寺」後期展示が開幕!

早いもので本日(8月14日)から、創建1200年記念 特別展「神護寺―空海と真言密教のはじまり」の後期展示が始まりました!


第2会場入り口

絵画と書跡はおおよそ展示替えを行いました。
後期の見どころをご紹介します。
こちらの
神護寺展作品リストとともにご覧ください。

まずは作品No23.国宝「両界曼荼羅(高雄曼荼羅)」です。


国宝 両界曼荼羅(高雄曼荼羅)(りょうかいまんだら、たかおまんだら)の展示風景
平安時代・9世紀 京都・神護寺蔵 【金剛界】 9月8日(日)まで展示

前期の胎蔵界から金剛界へと替わりました。
金剛界は九つの区画に分けられており、整然と並ぶ密教の仏は圧巻です。

区画の中央最上段、一印会(いちいんえ)の大日如来は保存状態も良く、高雄曼荼羅を象徴します。
 
国宝 両界曼荼羅(高雄曼荼羅)の大日如来部分

上方にあるのでご覧になりにくいですが、その先の映像コーナーと合わせてご覧ください。
 

「映像で解説する高雄曼荼羅」コーナーに写る大日如来

続いて平安貴族の美意識にうっとり、作品No43.  国宝「釈迦如来像」、通称「赤釈迦(あかしゃか)」です。


国宝 釈迦如来像(しゃかにょらいぞう)
平安時代・12世紀 京都・神護寺蔵 9月8日(日)まで展示

身体をかたどる朱色の輪郭線は、伸びやかで張りがあり、なおかつ一定の描線で、よほどの鍛錬(たんれん)を積んだ絵師にしか引けないものです。


釈迦如来像の輪郭線

赤い衣の装飾は見事! 
截金(きりかね)という、金箔を髪の毛ほどの大きさに切ったものを模様の形に貼る技法が用いられています。


釈迦如来像の衣部分

優雅な彩色文様とのコラボも見事! どこをとっても平安貴族の美意識が感じられます。
その大きさもぜひ会場で体感してください。
 
そして御本尊、作品No97.  国宝「薬師如来立像」です。


(中央)国宝 薬師如来立像(やくしにょらいりゅうぞう) 
平安時代・8~9世紀 京都・神護寺蔵 通期展示 
(右)重要文化財 日光菩薩立像(にっこうぼさつりゅうぞう)(左)重要文化財 月光菩薩立像(がっこうぼさつりゅうぞう)
どちらも平安時代・9世紀 京都・神護寺蔵 通期展示

後期からは光背と白い幕を取り、脇侍(わきじ)の日光・月光菩薩とともにその周囲をぐるりとご覧いただけます。


第5章 中央ステージ背面からの風景

「薬師如来立像」は日本彫刻史上の最高傑作です。
 
 国宝 薬師如来立像と十二神将立像(じゅうにしんしょうりゅうぞう)

傑作たるゆえんのひとつに、背中の美しさがあります。図録には掲載しておりますが、迫力ある正面観に対し、背中の丸み、衣文の曲線、腰から下の柔らかな造形など、優美で上品な背面です。

展覧会図録に用いる写真撮影の際、初めて背中を拝見した筆者はその美しさに息をのみました。
木の素材感ではなく、暖かみのある穏やかで気品あふれる背面。ここまで意識をして造形されていることに心が震えました。
 
展覧会ではぜひ皆様にもご覧いただきたいと思い、神護寺様と相談を重ねてまいりました。

会場では彫刻作品として鑑賞されますが、本来は1200年もの間、国の平和と安寧(あんねい)という人々の願いを受け止めてきた、信仰の対象です。お寺では厨子(ずし)内に安置され、正面から拝観します。したがって、お寺と同じようにご覧いただきたいというのが神護寺様の想いです。一番近くで静かにご本尊を見つめ続けてこられました。

どのようなお姿をご覧いただくのが適当か、開幕後も検討を続けてまいりました。

そしてこのたび、酷暑の中、展覧会にお運びくださる来館者のため、背中を拝見する機会を作ってくださいました!


薬師如来立像の背中部分

おひとりでも多くの方々にご本尊の素晴らしさをより一層感じていただければ、担当者として望外の喜びです。
 
最後に、改めまして神護寺ご住職様はじめ、関係者の皆様に厚く御礼申し上げます。

 
第5章 展示風景
 
後期も引き続き、展覧会をお楽しみください!
 
 

会期は9月8日(日)まで。
金曜・土曜日(8月30日・31日を除く)は19時まで(入館は18時30分まで)の夜間開館も実施しています。

 特別展「神護寺―空海と真言密教のはじまり」 公式サイト

 

カテゴリ:news彫刻書跡絵画工芸「神護寺」

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posted by 古川 攝一 (教育普及室) at 2024年08月14日 (水)

 

密教の仏たちに包まれる―高雄曼荼羅の世界―

連日の酷暑のなか、 創建1200年記念 特別展「神護寺―空海と真言密教のはじまり」にお越しくださり、まことにありがとうございます。
夏バテ気味の体に、密教の仏のパワーを感じるのはいかがでしょう?

今回は現存最古の両界曼荼羅である国宝の「高雄曼荼羅」についてご紹介します。


国宝 両界曼荼羅(高雄曼荼羅)(りょうかいまんだら、たかおまんだら)の展示風景
平安時代・9世紀 京都・神護寺蔵 
【胎蔵界】前期展示(7月17日~8月12日)

そもそも曼荼羅とは、大日如来を中心とした密教の世界を図示したものです。
金剛界と胎蔵界という二つの世界から成り立ちます。
 

両界曼荼羅(りょうかいまんだら)
右から【胎蔵界】江戸時代・寛政7年(1795)【金剛界】江戸時代・寛政6年(1794)
 京都・神護寺蔵 通期展示
こちらは光格(こうかく)天皇の発願によって製作された「高雄曼荼羅」の原寸大摸本 

九つの区画に整然と分けられ、規則的な仏の配置を見せる金剛界。


国宝 両界曼荼羅(高雄曼荼羅)
【金剛界】後期展示(8月14日~9月8日)


そして、大日如来を中心に密教の仏たちが広がるように配置される胎蔵界です。


国宝 両界曼荼羅(高雄曼荼羅)【胎蔵界】
 
大きさも違います。これは、金剛界と胎蔵界が別々に成立し、展開してきたためです。
ともにインド発祥ですが、空海の師匠である、唐の都・長安の青龍寺(せいりゅうじ)にいた恵果(けいか)のときに、金剛界と胎蔵界がセットになったと考えられます。

空海は恵果から密教のすべてを受け継いで帰国しますが、その際、経典だけでなく曼荼羅や法具類、祖師像などを数多く持ち帰りました。


国宝 金銅密教法具(金剛盤・五鈷鈴・五鈷杵)(こんどうみっきょうほうぐ、こんごうばん・ごこれい・ごこしょ)
中国 唐時代・8~9世紀 京都・教王護国寺(東寺)蔵 通期展示

この持ち帰った曼荼羅を手本に描かれたのが「高雄曼荼羅」です。

天長年間(824~834)、神護寺の灌頂堂(かんじょうどう)にかけるために、淳和(じゅんな)天皇の願いにより制作されました。
当時、空海は神護寺にいたと考えられますので、高雄曼荼羅の制作には空海が密接に関わったと思われます。


重要文化財 弘法大師像(こうぼうだいしぞう) 
鎌倉時代・14世紀 京都・神護寺蔵 通期展示

 
高雄曼荼羅は花や鳥の文様が織られた絹に、金銀泥で仏の姿が描かれます。

国宝 両界曼荼羅(高雄曼荼羅)【胎蔵界】の不動明王部分


国宝 両界曼荼羅(高雄曼荼羅)【胎蔵界】の千手観音部分

彩色をしていないので、輪郭線が際立ちます。
仏の姿、形を正しく描き出そうとする意図が感じられます。

神護寺のお堂の中で見ると、仏たちの姿が浮かび上がり、密教の宇宙観を体感できたことでしょう。

後期に展示される国宝「文覚四十五箇条起請文」に「大師御自筆」と記されるように、平安時代後半には、高雄曼荼羅は空海が直接筆を執(と)った曼荼羅として認識されていました。


国宝 文覚四十五箇条起請文(もんがくしじゅうごかじょうきしょうもん)(部分)
中山忠親筆 平安時代・元暦2年(1185) 京都・神護寺蔵 後期展示(8月14日~9月8日) 



国宝 文覚四十五箇条起請文(部分) 
画像の2行目に「大師御自筆」と見えます

まさに聖遺物です。
ですから、高雄曼荼羅に描かれた仏の姿は曼荼羅の模範であり、仏の姿が写されました。
 
会場では、高雄曼荼羅の旧収納箱や高雄曼荼羅を写した白描図像もご覧いただけます。
 
両界曼荼羅(高雄曼荼羅)唐櫃(りょうかいまんだら、たかおまんだら、からびつ)
江戸時代 寛政5年(1793) 京都・神護寺蔵 通期展示


会場内のパネル
唐櫃の蓋裏には朱漆で銘が記され、徳治3年(1308)8月に後宇多天皇によって高雄曼荼羅の修理がなされたのち、寛政5年(1793)、光格天皇と後桜町(ごさくらまち)上皇によって再び修理を行った旨が記されています


高雄曼荼羅図像 鎌倉時代・13世紀 東京国立博物館蔵 場面替えあり

また、現在見えにくくなっている銀泥部分を復元した動画、曼荼羅そのものの解説映像などもあり、曼荼羅の世界に没入することができます。


「映像で解説する高雄曼荼羅」のコーナー

密教の仏に包まれる不思議な感覚、ぜひ会場で味わってみてください!



館内には日傘などのご用意がありますが、無理せず休みながらお越しください。
また、会場内は少し肌寒くなっておりますので羽織るものをご持参いただくと良いかもしれません。

 

 
 

 

カテゴリ:news書跡絵画工芸「神護寺」

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posted by 古川 攝一 (教育普及室) at 2024年08月02日 (金)

 

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