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古代メキシコのマスク

【はじめに】

特別展「古代メキシコ ―マヤ、アステカ、テオティワカン」を担当している考古室長の井出浩正です。
本展も残すところひと月程となりました。皆さまご覧になられましたでしょうか。
 
突然ですが、みなさんは、「目は口ほどに物をいう」ということわざをご存知でしょうか。目つきやまなざしから言いたいことや気持ちが伝わることのたとえです。
あるいは「目力(めぢから)」という言葉はご存知でしょうか。一般的には、目の表現や視線で相手に与える迫力の程度を指す言葉です。
 
なぜ、そのようなことをいうかというと、この展覧会の注目作品のひとつである赤の女王(レイナ・ロハ)のマスクの目力がすごく強いと私は感じるからです。
 
【赤の女王のマスク】
 
 
赤の女王のマスク・冠・首飾り
マヤ文明 7世紀後半
パレンケ、13号神殿出土
アルベルト・ルス・ルイリエ パレンケ遺跡博物館蔵
 
赤の女王(レイナ・ロハ)のマスクをご覧ください。
端正で力強い直線的なまなざしは、王族としての揺るがない強い意思とともに、慈愛に満ちているように思われます。見つめているうちに、だんだんとこちらの心が見透かされ、やがてその瞳に吸い込まれてしまいそうではないでしょうか。
見つめ合い続けられずに私は思わず目をそらしてしまいます。
でも、もしかしたら、私と同じような感覚を覚える方もいらっしゃるかもしれませんね。
 
赤の女王(レイナ・ロハ)のマスクは孔雀石(くじゃくいし)の小片を組み合わせて作られたマスクです。頭蓋骨周辺から116個もの破片の状態で発見されました。瞳には黒曜石、白目には白ヒスイ輝石岩を嵌めています。硬質なヒスイではなく、軟らかい孔雀石を用いた、豊かな表情が特徴です。
 
続いて、テオティワカン文明やアステカ文明のマスクを比べてみましょう。
 
【テオティワカンのマスク】


マスク
テオティワカン文明 150年~250年
テオティワカン、太陽のピラミッド出土
テオティワカン考古学ゾーン蔵

マスク
テオティワカン文明 350年~550年
テオティワカン、ラ・ベンティージャ出土
テオティワカン考古学ゾーン蔵
 
 
のマスクは、太陽のピラミッドの中心付近で出土しました。地下に存在したであろう王墓への奉納品と推測されています。
瞳が黄鉄鉱で作られており、当初はキラキラと輝いていたと思われます。
このマスクは、テオティワカンで現在確認されている最古のマスクです。テオティワカンのマスクは、これまで550点ほど見つかっています。
のマスクは、ラ・ベンティージャ複合施設の工芸家区域で出土したものです。一部が未完成か、製作直後に未使用のまま遺棄された可能性があります。白目には貝、瞳に黄鉄鉱が象嵌(ぞうがん)されています。口元には、先ほどのマスクと同様に貝で歯の一本一本を表現しており、目や口の象嵌によってよりリアリティがある造形です。
 
【アステカのマスク】
マスク
テオティワカン文明 200~550年
テンプロ・マヨール、埋納石室82出土
テンプロ・マヨール博物館蔵
 
耳飾り
アステカ文明 1469~81年
テンプロ・マヨール、埋納石室82出土
テンプロ・マヨール博物館
 
アステカの世界観を凝縮した力強い彫刻作品が特徴的です。
中央のマスクは、テオティワカンの仮面に、メシーカ人が目や歯、耳飾りをつけるなどして、手を加えたものです。彼らは過去の文明の遺物を掘り起こし、それらを魔術的な力をもつ聖なるものとみなし、大神殿に奉納していました。
 
先ほどご紹介したテオティワカンのマスクと見比べてみると、目や口元の表現がよく似ていると思いませんか。アステカの人々がテオティワカンの遺産を継承し、そして、アステカの人々にとっても白目と瞳をもつ目の表現が意識されていたことが窺えます。
 
【おわりに】
いかがでしたでしょうか。
今回は、レイナ・ロハのマスクをきっかけとして、テオティワカン、マヤ、アステカのマスクをご紹介いたしました。
ある一つの造形や表現に注目して鑑賞してみると、お互いに似ているところや似ていないところなど、それぞれの特徴が改めてみえてくるかもしれません。
ぜひ会場でみなさま独自の着眼点で古代メキシコの至宝を心ゆくまでご堪能いただければ幸いです。

カテゴリ:「古代メキシコ」

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posted by 井出 浩正(考古室長) at 2023年08月03日 (木)