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中国山水画の20世紀ブログ 第10回-李可染の画室

特別展「中国山水画の20世紀 中国美術館名品選」に出品されているのは、
20世紀に活躍した中国人画家28人の渾身の力作、50件の絵画作品です。
いずれも中国では知らぬ人はいないほど、大変著名な画家たちですが、
日本では今まであまり展示や紹介をされることがなかったため、
初めて中国の近現代の作品を見た!この画家は誰? という方がほとんどだと思います。

名前を知っている画家というのは、不思議なことに非常に親しみが湧くもので、
もっとほかの作品を見たい、この作品はどのようにして制作されたのか知りたいと思われる方も多いのではないでしょうか?

本展では、「画室の再現」として展示室の一角にコーナーを設け、
画家の愛用した文房具類、筆や文鎮、硯や溶皿などの参考展示を行っています。



北京での作品調査の折、参考展示のため画家の文房具などをお借りしたい、と中国美術館に相談したところ、
すぐに連絡をとって紹介してくださったのが李可染(りかせん 1907-1989)のご家族でした。

李可染(No.31,32)は、幼いころから画をよくし、国立西湖芸術研究院に在籍した頃は、林風眠(No.28~30)から油画を学びました。
その後、斉白石(No.4~7)や黄賓虹(No.8~10)に長らく師事、北京に移ってからは現在の中央美術学院の国画系の教授を務め、多くの作品を残します。


No.31 蜀山春雨 李可染筆 中国美術館蔵
伝統的な墨色を基調としながらも、光の差し込みが表現される独自の山水画で知られます。

その李可染の住居兼画室には現在も奥様がお住まいとのこと。
さっそくお宅に伺いますと、李可染の奥様、鄒佩珠(すうはいじゅ)さんみずから
日本から来た私達を出迎え、大変歓迎してくださいました。

奥様の鄒佩珠さんは1920年生まれの御年92歳。13歳年上の李可染と23歳のときにご結婚されました。
ご自身も彫刻家であり、中国の女性彫刻家としては草分け的存在、なんと中央美術学院で教鞭をとったこともあるそうです。

1946年、北京に招かれた李可染は、市内の集合住宅に移り住み、
その一室を、牛を師とするという意味の「師牛堂(しぎゅうどう)」と名付け、作画活動を行いました。
山水、人物のほか牛の絵も得意とした李可染。中国では昔から、牛の画題が好まれました。
7月7日生まれの奥様を七夕の「織女」に、李可染は自らを「牽牛」に見立てていたのでしょうか。
多くの弟子を輩出し、名を成した李可染の画室「師牛堂」には、その教えを受けようと、
たくさんの人が訪れました。

1983年、日中平和友好条約締結5周年を記念し、
李可染の個展が東京と大阪でひらかれました。
その際には夫妻で日本を訪れ、平山郁夫、東山魁夷、加山又造ら当時の日本画壇重鎮と
親交を結び、のちもお互いを行き来し家族ぐるみの交流を重ねたようです。


1980年代、李可染画室「師牛堂」にて。中央が平山郁夫。

数々の作品を世に送り出した「師牛堂」は、李可染が活動していたころそのまま。
1畳ほどの大きさのどっしりとした木製の机に毛氈を敷き、傍らの筆架には何本も筆がかかります。
自ら揮毫した「師牛堂」の扁額を背に、毎日創作に明け暮れたのでしょう。

その「師牛堂」で、在りし日の李可染の様子を生き生きと楽しそうに語る鄒佩珠さんのお顔は、
こちらまでうれしくなるような優しい笑顔がとても印象的でした。

作品を生み出した作者像については、時代を遡るにつれどんどん見えなくなり、
その時代背景や周辺の環境などから類推するしかありませんが、
幸い本展出品作品の画家たちは、20世紀を駆け抜けた私たちの祖父母、曾祖父母世代!
その人となりを知る手掛かりは大変豊富です。

会期もあとわずかとなりました。これだけの名品が一堂に会すことはなかなかありません。
是非会場に足をお運びいただき、存分にその魅力をお楽しみください。

日中国交正常化40周年 東京国立博物館140周年 特別展「中国山水画の20世紀 中国美術館名品選
本館 特別5室   2012年7月31日(火) ~ 2012年8月26日(日)

 

カテゴリ:研究員のイチオシ2012年度の特別展

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posted by 高木結美(特別展室) at 2012年08月21日 (火)