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『至宝とボストンと私』 #4 屏風

色鮮やかな作品が連なる第4章『華ひらく近世絵画』。有名な絵師たちの個性がひしめき合っています。
『至宝とボストンと私』第4回目は、絵画・彫刻室研究員の金井裕子(かないひろこ)さんと、屏風のコーナーを見てみましょう。
 

屏風の展示室

特別展「ボストン美術館 日本美術の至宝」屏風のコーナー


『作品の力を、自らの力に』

広報(以下K):「華ひらく近世絵画」は、まさに華のある作品がそろっていて楽しいです。特に長谷川等伯筆 龍虎図屏風など、屏風の作品が目を引きますね。

金井(以下カ):そうですね。近世、つまり江戸時代に入ると、富裕層に拡大に伴って、大きな部屋を区切ったり、彩りを加えたり、空間をデザインしたりする屏風が多く作られるようになります。

K:なるほど!確かにこれだけの大きな屏風を飾るとなると、相当大きなお屋敷でないと難しいかもしれませんね。

カ:この第4章では、ぜひ色々なお部屋に入っていく気持ちで見てみてください。

K:さて、この中から金井さんのおすすめはどちらの作品ですか?

カ:私のおすすめはこの作品です。

韃靼人朝貢図屏風
韃靼人朝貢図屏風(だったんじんちょうこうずびょうぶ)
伝狩野永徳筆 安土桃山時代・16世紀後半


K:とてもきらびやかで、素敵な屏風ですね。
ところで、「韃靼人」とはどこの国の人ですか?

カ:もともとは中国中央部の人々が、北方(現在のモンゴル東部)の民族を指して呼んでいた言葉です。
中国の南宋時代、北方民族を描いた作品が流行しまして、それが日本でも人気の画題となったようです。

K:なぜ日本人が韃靼人の絵を欲しがったのでしょうか?

カ:歴代の中国の中央政権は、常に北方民族からの攻撃に悩まされていました。そのため、「韃靼人は強い民族」というイメージが定着したようです。
この作品は、その韃靼人をはじめとする異民族が朝貢、つまり貢物を捧げるために皇帝の下へ訪れる光景を描いていますので、作品を見る側は「強い民族を従えている」というイメージをもって見ることが出来るというわけです。

K:それは大変気分が良いですね。

カ:そうですよね。
龍や虎などは、強いイメージがあるでしょう?それと同じように、日本では、韃靼人にも強いイメージがあったので、画題として人気がありました。

K:欲しがる理由が分かる気がします。
海からも陸からも、いろいろなところから集まってくる様子がいきいき描かれていますね。

カ:ええ。でも元々はもっとたくさんの人が描かれていた可能性があります。
画面の人々は、向かって左の方向に進んでいますね。実はこの作品はもっと左にも絵が続いていたようなのです。
というのは、滋賀県の観音寺に「王会図屏風」という作品があるのですが、その中にこの屏風とよく似た部分があり、そこには本図からは失われてしまった韃靼人たちの行き先が描かれています。
しかもこの屏風、元々は襖絵だった可能性があるんです。

K:襖絵?これは屏風になっていますが…

カ:元々襖絵だった作品の一部が、後の時代になって屏風に改装されたようです。
襖絵は、火事や建物の改築の際に失われてしまうことが多かったので、このような形で一部が遺される例が時々あるんですよ。
両端をよく見てみてください。引手の丸い跡が残っています。

引き手の跡
画像では分かりづらいので、ぜひ会場でご覧になってみてくださいね。


『良き画題は世代を越えて』

K:細かい描写も色使いもとても美しいですね。
伝狩野永徳筆とありますが、どうして永徳だと分かるのでしょうか。

カ:ずばり、絵が上手いからです!

K:おぉ!わかりやすい!

カ:ちょっとそれは言いすぎましたか(笑)。
この作品は画中に名前が記されていませんので、「永徳筆」と言い切ってしまうことは出来ません。
しかし、他の永徳の作品とも作風がよく似ています。
顔つきを見てください。目元がキリッとしてとても整っているでしょう?

韃靼人朝貢図屏風(部分)
K:確かに、皆さま男前でいらっしゃる。

カ:韃靼人であることを意識して、特に鼻を高く、彫りを深く描いているのですが、決して醜い顔にはなりません。
馬でさえバランスよく描けています。
永徳筆かどうかは不明ですが、少なくとも同じ時代に永徳周辺で描かれたことは間違いないと思います。

K:本当ですね!このあたりは見どころですね!

カ:はい。また、本展覧会の第3章では、永徳の祖父にあたる狩野元信の「韃靼人狩猟図」も展示されています。
韃靼人を主題とした作品は、日本ではちょうど元信の頃から狩野派の得意とする画題となっていきます。
同じモチーフが描かれたこの2枚の時代差を楽しんでいただくのも、また面白いかと思います。

K:良い画題が、世代を越えて受け継がれていくのですね。
世代間の比較が、ひとつの展覧会で出来るというのも面白いです。そういうところに着目して、もう1回第3章に戻ってみようと思います。
金井さん、どうも有難うございました!


金井研究員
専門:中近世日本絵画 所属部署:絵画・彫刻室


次回のテーマは「仏画」です。どうぞおたのしみに。


All photographs © 2012 Museum of Fine Arts, Boston.
 

カテゴリ:研究員のイチオシnews2012年度の特別展

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posted by 小島佳(広報室) at 2012年05月08日 (火)