上野公園の噴水広場の奥に見える、ひときわ威容を誇る建物。
1937(昭和12)年竣工、1938(昭和13)年開館の東京国立博物館本館です。
関東大震災で大きな被害を受けたジョサイア・コンドル設計の赤レンガ造の旧本館にかわり、
「日本趣味を基調とする東洋式」という様式規定のコンペで当選した、渡辺仁の設計によるものです。
鉄筋コンクリート造の洋風建築に瓦屋根をのせ、東洋風を強く打ち出した「帝冠様式」の代表的建築として、2001(平成13)年に重要文化財に指定されました。
渡辺仁の一等当選図案
それでは、見どころを紹介していきましょう。
入口では、その屋根瓦にご注目。
手前の車寄せの屋根だけでも、鬼瓦がひとつ、ふたつ、みっつ…。
よく見ると、正面は鬼ではなく、朱雀です。ということは、天の四方の方角を司る四神を表しているのでしょうか。
本館を正面に見て、右側(東側)には青龍、左側(西側)には白虎の姿もあります。
鬼瓦は屋根全体で33基あるそうですが、四神のうち、玄武だけは見つかっていないそうです。
左から、朱雀(正面)、白虎(西側)、青龍(東側)。 現在の屋根瓦は1969(昭和44)年の修理工事のときのもの
玄関を入ると、正面にそびえる大階段。
テレビドラマやミュージックビデオなどで見覚えのある場所かもしれません。
手すりは大理石に鋳物の装飾がはめこまれています。
吹き抜けの天井は、寺院のお堂などでよくみられるような格天井になっています。
格天井の一部は採光屋根になっています
階段を上った2階には、便殿(旧貴賓室)があります。
天皇はじめ皇族方や国賓がおいでになられたときのご休憩所として使われました。
今日でも、皇族方や賓客ご訪問の際の休憩室として利用されることもあります。
通常は扉が閉められていますが、第1・第3土曜日と、祝日、お正月(1月2日、3日)に扉を開放し、中をご覧いただけます(室内には入れません)。
便殿(旧貴賓室)の調度品は今や貴重なもの
本館の中でも、撮影スポットとして人気が高いのが、1階の庭園側に面したラウンジです。
ファッション誌や、最近ではウェディングフォトにご利用いただくことも多くなっています。
壁は、仏教系の意匠に使われる「宝相華(ほうそうげ)」文様があしらわれています。
アール・デコ調の照明も目を惹きます。
線画をモザイクタイルで表し、周囲の凹凸は漆喰にニス塗りという手の込んだ文様。
片隅のレトロな黒電話もマッチしています。
美しいアール・デコ調の照明
春と秋の庭園開放時には、庭園から本館のうしろ姿を望むこともできます。
正面とはまた表情の違う、堂々とした“背中”にもご注目ください。
ちなみに、現在本館が立っている場所は、寛永寺の本坊があったところです。
正門は本坊の表門跡であり、それを示す標識板が正門脇の建物裏にひっそりとはめ込まれています。
ぜひ、お帰りの際に、探してみてください。
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posted by 奥田 緑(広報室) at 2017年06月29日 (木)
トーハクの正門を正面にみて、左へ進んだ角に、黒田記念館があります。
その成り立ちは、日本近代洋画の父といわれる黒田清輝の遺言によります。
黒田は、1924(大正13)年に没する際、遺産の一部を美術の奨励事業に役立てるよう遺言しました。
それをうけて、1928(昭和3)年に竣工したのが、黒田記念館です。
その2年後の1930(昭和5)年には、美術に関する学術的調査研究と研究資料の収集を目的とした美術研究所(現在の東京文化財研究所)が設置され、日本・東洋美術に関する調査研究業務が行われてきました。
イオニア式オーダーの列柱がデザインされた外観。
昭和初期の建築によく見られる外壁のスクラッチタイルが特徴です。
設計は、当時、黒田と同じ東京美術学校で建築の教授を務めた岡田信一郎です。
旧歌舞伎座や明治生命館、鳩山会館などを手がけたことで知られています。
上野公園内に建てられた旧東京府美術館(1926(大正15)年、現存せず)や旧東京美術学校陳列館(1929(昭和4)年、現東京藝術大学大学美術館陳列館)とともに、黒田記念館は岡田の美術館三部作と呼ばれています。
それでは、内部をご案内しましょう。
入口は、上部に半円形の窓をもつ扉と、それに呼応するようなアーチをくぐります。
階段の手すりに見られるアールヌーヴォー風の装飾は、岡田信一郎の弟子で、後に東京美術学校で教鞭をとった建築家・金沢庸治のデザインです。
2階には、二つの展示室があります。
開館当初より設けられている黒田記念室には、遺族より寄贈された作品に加え、アトリエも再現し、黒田の画業を一覧することができます。
天窓からの自然採光となっており(現在は人工照明)、当時の美術館建築のありようを今に伝えています。
天井の漆喰装飾にもご注目ください。
2015(平成27)年のリニューアルオープンで新設された特別室は、落ち着いた色調の部屋になっています。
黒田の代表作「湖畔」や「智・感・情」、「舞妓」(以上、重要文化財)、「読書」の4つの名品を展示保管、年3回のみ公開する贅沢な空間です。
2002(平成14)年に国の登録有形文化財に指定されました。
黒田記念館は入館無料、
開館時間は9:30~17:00(入館は16:30まで)、
月曜休館(月曜が祝日の場合は翌平日休)です。
お気軽にお立ち寄りください。
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posted by 奥田 緑(広報室) at 2017年06月14日 (水)
現在トーハクの敷地内にある展示館の中で、最も古い建物が表慶館です。
「慶びを表す」という名のとおり、1900(明治33)年、当時の皇太子(後の大正天皇)のご成婚を記念して建設が計画され、1909(明治42)年に開館しました。
設計は、初代本館を手がけたジョサイア・コンドルの弟子で、東宮御所(現在の迎賓館赤坂離宮)も設計した宮廷建築家の片山東熊(かたやまとうくま)です。
奈良国立博物館旧本館(現:なら仏像館)、京都国立博物館旧本館(現:明治古都館)を手がけたことでも知られます。
堅牢な煉瓦造で関東大震災の被害も少なく、倒壊したコンドル設計の初代本館にかわり、現本館が竣工するまで、展示施設としての役割を果たしてきました。
外観は、中央と左右に美しいドーム屋根をいただくネオ・バロック様式で、上層部の外壁面には製図用具、工具、楽器などをモチーフにしたレリーフがあります。
入口には、2頭のライオンが鎮座しています。
よく見ると、一方が口を開き、もう一方が口を閉じた"阿吽"の像になっています。
作者は、工部省で皇居造営時の建築彫刻にも携わった彫刻家の大熊氏広です。ちなみに、上野公園内にある小松宮彰仁親王銅像も大熊の作品です。
入口に鎮座する阿吽のライオン
製図用具、工具、楽器などをモチーフにしたレリーフにもご注目
表慶館は現在、展覧会やイベント開催時以外は内部非公開となっていますので、ここでみどころを紹介していきましょう。
エントランスに入ると、足元はカラフルなタイルの床、見上げると光が射しこむドーム天井が目を惹きます。
十六稜の星型を描くモザイクタイル
ドーム天井を見上げて
床を彩る7色のモザイクタイルは、フランス産の大理石でできています。
ドーム天井には、漆喰の装飾レリーフかと見紛うほど、陰影を巧みに用いて描かれた文様があります。
この文様は、外壁のレリーフと同じく絵画や音楽などがモチーフとなっており、ここが芸術の館であることを示唆しているかのようです。
巧みな陰影で立体的に見える天井画
建物左右のドーム部分は、階段室になっています。
優美な曲線を描く手すりは真鍮製、縦の支柱は鉄製です。
表慶館の中でも、最もフォトジェニックな場所ではないでしょうか。
1階から2階へ
踊り場では手すりの曲線美をご覧ください
その存在自体がまるで美術作品のような表慶館。
明治末期の洋風建築を代表する建物として1978(昭和53)年、重要文化財に指定されました。
今年は、内部をご覧いただけるチャンスがあります!
「フランス人間国宝展」(2017年9月12日(火)~11月26日(日))が表慶館にて開催されます。
作品とともに、贅沢な展示空間をぜひ、ご堪能ください。
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posted by 奥田 緑(広報室) at 2017年06月01日 (木)
トーハクの正門を入って右手にある、シンプルですっきりとしたモダニズム建築。
現在「博物館でアジアの旅」を開催中の東洋館です。
東洋古美術の所蔵品を展示する施設として建設が計画され、1968(昭和43)年に開館しました。
前回紹介した法隆寺宝物館を設計した谷口吉生の父で、東京国立博物館評議員でもあった谷口吉郎の設計によります。
外観は奈良の正倉院をイメージし、緩やかな勾配の切妻屋根、正面の列柱、周囲にめぐらせた庇を兼ねる大きな広縁など、伝統的な日本建築の要素が盛り込まれています。
広縁(テラス)は休憩スペースになっており、構内を一望できるスポットです。
地下1階VRシアター入口への階段を降りると、そこはサンクンガーデンになっています。
内部は、地下1階、地上5階を半階ずつ上がっていくスキップフロア構造が特徴的です。
2013(平成25)年1月のリニューアルオープン時より、「東洋美術をめぐる旅」をコンセプトにした展示構成となりました。
1室に入ると、巨大な中国の石仏とともに、5階まで吹き抜けの天井に目を奪われます。
(遠景の赤いちょうちんは現在開催中の「博物館でアジアの旅」の装飾です)
3室はエジプトの神殿をイメージ。中央にはミイラが眠ります。
大きく弧を描く青銅器の展示ケースが圧巻の5室。
リニューアルの際には、建築家への敬意を忘れず、壁のタイルや、壁や柱に付けられた照明器具についてもその意匠を継承しています。
よく見ると、横に3本のスジが入っているタイル。既存のものと色や形が合うものを新たに製作するのはなかなか困難でした。
その製作の様子は「生まれ変わった東洋館!~タイル編~ (2012年6月の記事)」をご覧ください。
壁や柱の照明器具も建築当時のものをそのまま使用。内部をクリーニングし、光源をLED化しました。
外観に派手さはありませんが、一歩、足を踏み入れると崇高な建築空間が広がります。
ゆったりと旅行気分で、アジアの悠久の美に思いをめぐらせてみてはいかがでしょうか。
最上階から眺めると、神殿のようにも見えてきます
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posted by 奥田 緑(広報室) at 2016年09月09日 (金)
ル・コルビュジエの設計による国立西洋美術館が世界遺産に登録されたことで、上野界隈で近代建築をめぐってみようと考えている方もいるのではないでしょうか。
コルビュジエは20世紀を代表するモダニズム建築の巨匠といわれますが、トーハクでもモダニズム建築、しかも親子競演がみられるのです。
今回は、そのひとつ、法隆寺宝物館をご紹介します。
法隆寺宝物館は、1878(明治11)年に奈良・法隆寺から皇室に献納され、戦後、国に移管された宝物300件あまりを収蔵・展示する建物です。
初代の宝物館は、1964(昭和39)年に開館しました。しかし、作品の保存上、公開は週1日(木曜日、雨天時は閉館)に限られていました。
旧法隆寺宝物館
設置の構想は「外観は東洋的近代建築として周囲との調和をはかる」というものでした。
設計:関東地方建設局営繕部
そこで、保存機能をさらに高めるとともに作品を広く一般に公開することを目的とし、1999(平成11)年に現在の宝物館が開館しました。設計は、ニューヨーク近代美術館新館など美術館建築も数多く手がけている谷口吉生。その父は、東洋館を設計した谷口吉郎です。
谷口は法隆寺宝物館の設計に際し、「崇高な収蔵物に対する畏敬の念と、周辺の自然を十分に尊重する方針によって、今の東京には貴重な存在となってしまった静寂や、秩序や、品格のある環境を、この場所に実現することをめざした。」と述べています。
では実際に、その言葉を検証するべく、館内を巡ってみましょう。
正門を入り、左手奥に進むと、上野公園の喧騒が嘘のような静寂な空間が現われます。
思わず背筋を伸ばし、襟を正したくなるような品格ある佇まいです。
ステンレスのフレームにガラス張りの明るく開放的なエントランス。格子状のガラスカーテンウォールが和の趣きを感じさせます。
展示室のある建物部分の外壁はドイツ産のライムストーン(石灰石)を使用し、やわらかい色合いとなっています。
計算されつくした配置のアームチェアはイタリア、マリオ・ベリーニのデザイン。
ゆったりと読書などをして過ごせるスペースには、イームズのチェアが贅沢に並びます。
正面の水盤を眺めながらくつろげるソファはル・コルビュジエの名作デザインです。
こうした椅子などの選択にも本物へのこだわりを感じます。
第2室 金銅仏の展示室(撮影:佐藤 暉)
第3室 伎楽面の展示室(年3回公開)
金銅仏、伎楽面の展示にふさわしい静謐な空間には、まさに「崇高な収蔵物に対する畏敬の念」が現われているようです。
─都会の喧騒を離れ、静寂の中でゆったりと貴重な古代美術に向きあう─
いかがでしょうか?
実際に訪れていただければ、建築家の言葉どおりの環境を実感できることと思います。
法隆寺宝物館は2001(平成13)年度の建築学会賞(作品部門)を受賞しています。
そのほか、下記の賞・選定を受けています。
2000年 第41回 建築業協会賞
2001年 第34回 サインデザイン優秀賞
2007年「新日本様式」100選に選定
中2階・エレベーター前の壁面に表彰プレートがあります
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posted by 奥田 緑(広報室) at 2016年08月16日 (火)