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1089ブログ

特別展「法然と極楽浄土」その1 浄土宗にまつわる江戸時代の書

6月9日(日)まで開催中の特別展「法然と極楽浄土」のみどころを本展担当研究員がご紹介する1089ブログ。
1回目は、書跡・歴史担当研究員の長倉がお送りします。
本展覧会のみどころのひとつは、法然上人の生きた時代に限らず、江戸時代に至るまでの浄土宗の歴史をおみせしていることです。
ここでは特に第4章「江戸時代の浄土宗」に展示している作品の中から、注目していただきたい書跡をいくつかご紹介します。

まずは伝徳川家康筆「日課念仏」です。


日課念仏 伝徳川家康筆 江戸時代・17世紀 東京国立博物館蔵

一度見たら忘れられないこのびっしり感。
名号「南無阿弥陀仏」が整然と、そして隙間なく書かれています
この作品は、徳川家康が晩年に書いたものといわれます。生涯における「罪」を滅しようと、筆を動かしながら、名号を一心に称えたのでしょう。

 
日課念仏 伝徳川家康筆(左:1段目部分 右:2段目部分)
1段目画像中央、また2段目にも「家康」の文字が確認できます

上から1段目と2段目に「南無阿弥家康」と書かれていますが、なぜこう書いたのかは残念ながら分かっていません。


第4章「江戸時代の浄土宗」展示風景 
(右手前)日課念仏 伝徳川家康筆
(左奥)重要文化財 徳川家康坐像     江戸時代・17世紀    京都・ 知恩院蔵 は4月30日から展示中

つづいてご紹介するのは、祐天寺(東京都目黒区)所蔵の「名号」作品の数々です。どれも祐天上人自筆のものです。
祐天上人は弘経寺、伝通院、増上寺などの住持をつとめ、念仏布教に尽力した江戸時代前~中期の高僧です。
この名号を手にすると利益があるといわれ、幕府大奥から一般の人々まで、大変な人気を博しました。

 
左:六字名号 江戸時代 ・17~18世紀    東京・祐天寺蔵
右:阿弥陀像並六字名号 江戸時代 ・17~18世紀    東京・祐天寺蔵

見どころは、まず筆の太さと四角張った字姿から感じられる圧倒的な存在感です。余白を詰めたような筆の運びも、文字の濃縮度を高めていて独特です。
この文字をみて歌舞伎の看板を思い起こす方もいらっしゃるかと思いますが、歌舞伎の書体が生まれたのは祐天上人の生きた時代からさらに半世紀以上も後のことです。

 
左:宝塔名号 江戸時代・元禄12~13年(1699~1700) 東京・祐天寺蔵
右:十念名号 江戸時代・元禄13年~宝永元年(1700~04) 東京・祐天寺蔵

祐天上人自筆の名号は天井に届く大きなものから、懐に入れて持ち歩けるものまで、大小さまざまなサイズがあります。
それは人々の求めに応じてカスタマイズして作ったからといわれています。
宝塔を名号で描いた作品もあり、独特のデザインが目を引きます。


 第4章「江戸時代の浄土宗」展示風景
(右手前)祐天上人坐像 竹崎石見作 江戸時代・享保4年(1719)  東京・祐天寺蔵

 

ほかにも江戸時代の書跡を多数展示しています。
法然上人の教えが世代をこえてひろく人々に浸透し、受け継がれていく様子を、実際の作品を通して感じ取っていただければと思います。

カテゴリ:書跡「法然と極楽浄土」

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posted by 長倉絵梨子(書跡・歴史担当研究員) at 2024年05月20日 (月)