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1089ブログ

特別展「東福寺」その3 阿吽の呼吸で梱包作業 巨像展示の舞台裏

東京国立博物館・彫刻担当研究員の児島大輔です。

特別展「東福寺」は会期もいよいよ大詰めとなってきました。
リレー形式で東福寺展をご紹介している1089ブログ。
今回は展覧会の舞台裏へご案内いたしましょう。

前回のブログ(特別展「東福寺」その2 東福寺本尊 今昔物語)でご紹介した「圧倒的スケール、すべてが規格外!」を体現する巨像たち。
当たり前のように会場に立っていますが、実は巨大な彫刻作品の移動と展示はほんとうに大変な作業です。

そもそも仏像は移動することを想定していません。
お寺の堂内に安置されると、何百年もそのまま鎮座されているわけです。
その仏像を展覧会のために輸送しなければいけないわけですから、それ相応の苦労が伴います。

では、いったい何が行われているのでしょうか。

まず、動かせるのかどうか、分解できるのかどうか、どこが危険なのかを事前調査します。
そのとき頼りになるのが、過去の調査報告書や修理報告書などです。
とは言え、もちろん最後はお借りする私たちが実際に確認して、輸送業者や所蔵者と相談して最終的な判断をします。

次にいよいよ実際の梱包と輸送です。と行きたいところなのですが、その前に今回は収蔵場所からの安全な搬出経路を確保するために、なんと仮設のスロープを造ってしまいました。


東福寺内の特設スロープ

仏像の梱包は、一般的には立像は寝かせて担架で運ぶか立たせたまま木枠で輸送、坐像はL字型の木枠で運ぶのが基本です。
ところが、そこは規格外のスケールを誇る東福寺のこと。仏像もいつも通りとはいきません。

本展の中で最も巨大な重要文化財「二天王立像」を例にとってお話しいたしましょう。

まず、お像のまわりに足場を組みます。もはや工事現場です。


二天王立像(吽形)と足場

梱包作業中


お像の状態を確認しながら、注意深く薄葉紙、綿布団、晒などを用いて必要な養生を施します。
ただ手厚く養生すればよいというものでもありません。
必要最低限の養生をバランスよく施さなければ、かえって一部分に強い負荷がかかってしまったり、のちの工程で木枠にきちんと収まってくれなかったりします。

養生が済むと、チェーンブロックを使ってお像を木枠の中へ収めます。


横たわる二天王立像

木枠内で固定、梱包資材は適材適所


この木枠もそれぞれのお像専用に特注でつくられた頑丈なものです。
お像を支える部分には発泡材やウレタン、さらには寝具などにも用いられる低反発素材を駆使することでお像をサポートします。
これで移動中のお像の快眠を約束するわけですね。
二天王立像さん、いったい何年ぶりに横になったことでしょう。

木枠に収めた後は、雨風を防ぐためにビニールシートとラップで保護します。
これで500km弱の長旅に備えた梱包は完成です。


ラップでぐるぐるに梱包

梱包完成!


このような梱包作業はお像を計測して図面を引き、木枠を設計して発注。
さらにお像を養生して木枠の中に収めるまでを図面上で演習をおこない、現地で手順を確認し、そしていざ本番となるわけです。
「稽古は本場所のごとく、本場所は稽古のごとく」とは大横綱・双葉山関の至言。
私たちもその意気込みで、これだけ巨大なお像でも数センチ単位の綿密な準備を行っているのです。


二天王立像の搬出作業


さて、会場に到着後は梱包の逆順で開梱し、安置・展示いたします。
「寝台車での快眠から目覚めると、そこは東博だった」といったところでしょうか。

こうして無事輸送・展示を終え会場内に立っていただくことで、少しだけホッとできるのです。
え…少しだけ?

極寒の中、東福寺でお像を梱包・搬出してからはや3月。

時は過ぎ去り、桜は散り、いつしか本館前のユリノキの花も盛りを迎えました。
そう、東福寺展の会期も残すところあとわずかです。
ということは、またしても梱包・輸送の作業が待っています。
もちろんすでに段取りを終えて、あとは作業を待つばかり。会期が終わってもまだまだ緊張は続きます。
私たちにとっては、お像をお返しするまでが展覧会なのです。


ところで、この二天王立像、どのくらいの重量があると思いますか?
今回は展示にあたっていくつかの作品を計量いたしました。

まずは旧本尊の仏手。その重さは、なんと約125㎏!


仏手 東福寺旧本尊
鎌倉~南北朝時代・14世紀 京都・東福寺蔵


前回の浅見研究員のブログ(特別展「東福寺」その2 東福寺本尊 今昔物語)では計算と史料をもとに旧本尊の大きさを推定しましたが、さて重量はどうでしょうか。

人間工学的にいえば片手の重さは体重の約1%です。
ということは、、、旧本尊を人体になぞらえれば、その重量は片手の100倍ですから12,500kg。12.5トン!
もちろん、内刳(うちぐり)を施して内部を空洞にすればもっと軽量化が図れるはずです。

次に今回のブログで取り上げた二天王立像のうち阿形像の重量はなんと約250㎏!


重要文化財 二天王立像のうち阿形像 
鎌倉時代・13世紀 京都・東福寺蔵


先ほど計量した旧本尊で言えば、ちょうど両手分の重さです。旧本尊の巨大さが際立ちますね。

そして、梱包して木枠に収めた最終的な重さは775kg!!
な、なんと、阿形像の重量の2倍を超える525㎏の梱包材で保護しているのです。

いかがでしたか。仏像の梱包と輸送の苦労をご理解いただけたでしょうか。
いや、むしろ中世の人々がいかに苦労してお像を造立していたかに思いをはせていただけたでしょうか。

なぜ、そこまでして運ぶのか?
それはもちろん、ひとえに素晴らしい仏像たちを東京の皆さんにご覧いただきたいがため。
この大きさと迫力とに圧倒されていただけましたら私どもの苦労も報われるというものです。
たとえ細かなことはわからなくても、この巨大さを体感していただければ、東福寺の魅力の一端を理解できたと言っていいと思います。

しかしですね、仏像はもちろんなのですが普段お像たちがいらっしゃるお堂はもっと凄いのですよ。


雪の舞う東福寺境内(作業日!)

それこそ圧倒される規格外です。本展をご観覧いただき東福寺通になられた皆様におかれましては、是非とも現地に足をお運びいただきたい。
もちろん、新緑も錦秋も息をのみますが、モミジだけではなく、「東福寺の伽藍面」とも呼ばれる所以を現地で体感していただきたいのです。
美しい四季の移り変わりは現地でしか味わえません。
本展はその序章に過ぎないいと言ってもいいかもしれません。

というわけで、是非一度東福寺へお運びを。
お寺に行くまでが東福寺展…です!

そして、まだ展覧会をご覧になっていない方は5月7日(日)までにどうぞお越しください。
会場の最後でお待ちしている巨大な仏像群をどうぞお見逃しなく…見逃すはずはないけれど…。
ご来館をお待ちしております!
 

 

カテゴリ:仏像「東福寺」

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posted by 児島 大輔(東洋室研究員) at 2023年04月28日 (金)