東京国立博物館コレクションの保存と修理
こんにちは、保存修復室の瀬谷愛です。
突然ですが、皆様は健康診断、定期的にいらっしゃっていますか?
めんどう?
忙しい毎日。お気持ちはわかりますが、放っておくわけにもいきません。
体調不良は早期発見が大切です。
なにかおかしいと気付けるのは、自分の身体だからこそ。
もし余裕があれば、大切な人の変化にも気づいてあげられるといいですね。
文化財の修理も、担当研究員が日々接している文化財の変化に気づくところから始まります。
たとえば・・・
見立王昭君図
桃源斉栄舟筆 江戸時代・19世紀
うん、とくに変化なし!いつもながらきれいですね~
と思ったら・・・
表装の下のところ、何かがつき破ってきてる!
たいへんです!
軸の中から、なにか白いものが出てきて、表装を破っていることに気づきました。
膨らんでるだけじゃなくて、粉までふいています。
このまま放っておくと、表装だけでなく、本紙まで破ってしまうでしょう。
どうしたらいいのでしょうか。
ここで修理技術者の出番です。
まずは、状態を確認するために、
他の健全なところを傷つけないようにして、軸木を包んでいる紙を、丁寧に切り開くことにしました。
すると・・・
中に埋められたものが膨らんで、木も割れてきています。
古い軸木には、掛軸を掛けたときにピンと平らに見せるために、鉛製の錘が入っていることがあります。
これが時間がたって腐食すると、膨張し、表装や本紙を突き破っていきます。
とくに普段は巻いた状態で保管していますから、一枚、また一枚、と本紙まであっというまに到達するのです。
表装の裂け傷を整えて、紙帯をあてて補修します。
今回は、幸いにも、本紙に到達する前に気づくことができました。
破れた表装をつくろい、新しい軸木を用意して、古い軸首を付け替えました。
当館では普段から、意識的に軸のあたりを触診し、「四角いなにか」を感じるときは、鉛が入っていることを疑って、早めの処置を行うようにしています。
乳がんの自己検診のような感じですね。
早くみつかれば、症状に応じたより小さな処置で済みます。
こうした必要最小限の修理を「対症修理」と呼んでいます。
文化財の構造をいったん解体する「本格修理」をメインにご紹介することの多い修理展ですが、
今回の特集「東京国立博物館コレクションの保存と修理」(2017年3月22日(水)~4月16日(日)、平成館企画展示室)では、年間700件ほど行っている対症修理から、修理技術者が選んだ事例もご紹介します。
会期中には技術者によるギャラリートークもあります。
ぜひ会場へお運びください。
ギャラリートーク(会場はいずれも平成館企画展示室)
特集「東京国立博物館コレクションの保存と修理」
2017年3月24日(金) 18:30~19:00
保存と修理 絵画修理の現場から
2017年3月28日(火) 14:00~14:30
保存と修理 立体作品修理の現場から
2017年4月11日(火) 14:00~14:30
ここに注目!保存と修理入門
2017年4月14日(金) 18:30~19:00
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posted by 瀬谷 愛(保存修復室主任研究員) at 2017年03月24日 (金)