このページの本文へ移動

1089ブログ

「中国・南北朝時代の書」の見どころ

東洋館8室で開催中の「中国・南北朝時代の書」も、残すところ1ヶ月を切りました。実はこの企画、上野の山の麓にある台東区立書道博物館と、共通テーマで開催している連携展示です。今回は両館の展示の見どころにふれつつ、本展についてご紹介いたします。

トーハクくんとユリノキちゃん

東京国立博物館 東洋館8室
中国・南北朝時代の書」 2015年4月14日(火)~2015年6月7日(日)

 
ふせつくん

台東区立書道博物館
不折が愛した中国・南北朝時代の書―439年から589年、王朝の興亡を越えて―
2015年3月24日(火)~2015年7月20日(月・祝)
〈前期〉3月24日(火)~5月17日(日) 〈後期〉5月19日(火)~7月20日(月・祝)

 


展示風景
(左) 東洋館8室。壁付ケースには、石碑などの全体像がわかる拓本が並びます。
() 台東区立書道博物館。拓本のほか、肉筆の資料も展示されています。

本展の舞台となるのは、今から1500年ほど前の中国です。当時は、異なる民族が南北に王朝を分かち、対峙していました。華北地方を北魏が統一した439年から、隋が再び南北統一を果たす589年までの南北朝時代。その間、華南には宋・斉・梁・陳の4王朝が、華北には北魏・東魏・西魏・北斉・北周の5 王朝が興亡します。南北両朝とも覇権争いが繰り返されるなか、実は南北の交流もあり、文化は着実に育まれていきました。

地図と変遷
(左) 5世紀半ばの中国。赤色のところ、華南を宋が、華北を北魏が領有しています。
() 南北朝の変遷。華北では、北魏が東魏・西魏に分裂し、各々、北斉・北周に交替します。


漢民族による南朝の4王朝は、三国・呉、東晋に続き建康(江蘇省南京)を都としました。資源豊かな江南の地に支えられた経済力を背景に、魏晋より形成されてきた南朝の貴族文化は栄華を極めます。書もまた、東晋・二王(王羲之、王献之父子)により高められた技法が継承されました。宋・斉の頃には、軽妙さに秀でた王献之の書が好まれたのに対して、梁・陳では、荘重な趣の王羲之の書が典型とされるように変化していきます。彼らの書は、後世に制作された模本や法帖(木や石の版をつくり拓本をとった書の名品集)に手紙等が残され、その一端を知ることができます。当館では、南朝貴族による当時最先端の筆写体を窺います。南朝の書の作例には、このほか敦煌文献に代表される貴重な肉筆資料や、北朝に比べて僅少な刻石資料の拓本があります。書道博物館では、これら肉筆と拓本から、南朝において通行した筆写体と公用体の双方に迫ります。

草書栢酒帖と草書道増帖
(左)
草書栢酒帖
 王慈筆 中国 原跡=斉時代・6世紀(停雲館法帖 文徴明編) 高島菊次郎氏寄贈 東京国立博物館蔵(東洋館8室で6月7日(日)まで展示)
() 草書道増帖 阮研筆 中国 原跡=梁時代・6世紀(欽定重刻淳化閣帖 乾隆帝編) 高島菊次郎氏寄贈 東京国立博物館蔵(東洋館8室で6月7日(日)まで展示)

摩訶般若波羅蜜経巻第十四残巻と 劉懐民墓誌銘
(左・中)  重要文化財 摩訶般若波羅蜜経巻第十四残巻(部分) 中国 梁時代・天監11年(512) 台東区立書道博物館蔵(台東区立書道博物館で5月19日(火)~7月20日(月・祝)まで展示)
() 劉懐民墓誌銘(部分) 中国 劉宋・大明8年(464) 台東区立書道博物館蔵(台東区立書道博物館で7月20日(月・祝)まで展示)

拓跋氏(モンゴル系の鮮卑族の一部、拓抜とも)による北魏をはじめとして、北朝の5王朝はいずれも北方民族によって建てられました。493年頃に北魏の孝文帝が大同(山西省)から洛陽(河南省)へと遷都し、大胆な漢化政策を実施して以後、北朝は、民族固有の精神を基調としつつ、優れた漢文化を摂取し、新たな文化を形成していきます。書もまた、はじめは魏晋の旧体に北方民族の鋭い気性を盛り込んだ野趣あるものでしたが、洛陽遷都と、東魏・西魏から北斉・北周への王朝交替を画期として、南朝新様式の書との融合が一層進み、構築性に富む洗練された書へと変化していきます。これら北朝の書の作例には、石碑や摩崖、造像記、墓誌等の刻石資料の拓本や前述の肉筆資料があります。両館では同一の刻石資料14種(台東区立書道博物館では展示替えあり)の拓本について、当館は整本(刻石の全形を拓本にとり、その状態のまま装丁したもの)を、書道博物館は剪装本(鑑賞の便をはかり、拓本を切り貼りして装丁したもの)を展示しており、装丁等の違いによる味わいも比較していただけます。また、書道博物館では肉筆も合わせて展示され、北朝において通行した公用体と筆写体をじっくりと比較鑑賞していただけます。

暉福寺碑
(左) 暉福寺碑(整本) 中国 北魏・太和12年(488) 東京国立博物館蔵(東洋館8室で6月7日(日)まで展示)
() 暉福寺碑(剪装本、部分) 中国 北魏・太和12年(488) 台東区立書道博物館蔵(台東区立書道博物館で7月20日(月・祝)まで展示)

張猛龍碑
(左) 張猛龍碑(整本) 中国 北魏・正光3年(522) 東京国立博物館蔵(東洋館8室で6月7日(日)まで展示)
() 張猛龍碑(明拓剪装本、部分) 中国 北魏・正光3年(522) 台東区立書道博物館蔵(台東区立書道博物館で5月19日(火)~7月20日(月・祝)まで展示)

最後に、とっておきの(!?)見どころを1つご紹介したいと思います。それは南北朝時代の書をこよなく愛した2人の書です。1人は、昨年に両館連携で没後130年展を開催した、清時代の文人・趙之謙(1829~1884)。そして、もう1人は書道博物館の創設者で、明治から昭和にかけて画家・書家・収蔵家など多方面で活躍した中村不折(1866~1943)です。両者は、中国と日本の各々において、碑学派(書の拠り所を金石に求めた一派)の隆盛に寄与しました。ともに南北朝時代の書を学び、独特の書風を形成しましたが、その趣は大きく異なります。それは、各々が好んだ書、例えば趙之謙の「鄭魏下碑」(北魏・永平4年(511))と中村不折の「中嶽嵩高霊廟碑」(北魏・太安2年(456))を見比べれば、きっと納得されるように思います。(ともに台東区立書道博物館で7月20日(月・祝)まで展示)
皆さまも上野の山とその麓で、2人のように自分好みの書を見つけてみてはいかがでしょうか。


趙之謙と中村不折
() 楷書「小黄香簃」横披 趙之謙筆 中国 清時代・同治5年(1866) 青山杉雨氏寄贈 東京国立博物館蔵(東洋館8室「中国文人の書斎」で6月7日(日)まで展示)
() 『楷書千字文』(部分) 中村不折筆 日本 大正8年(1919)刊 台東区立書道博物館蔵(台東区立書道博物館で7月20日(月・祝)まで展示)


*東洋館8室では、本展に続いて、碑学派が活躍した「清時代の書」(2015年6月9日(火)~2015年8月2日(日))を開催します。こちらも是非、お見逃しなく。
*台東区立書道博物館では、本展関連事業として、ギャラリートークとワークショップ(2015年7月10日(金))を開催します。詳しくは書道博物館ホームページへ。

キャラクター
 

 

カテゴリ:研究員のイチオシ中国の絵画・書跡

| 記事URL |

posted by 六人部克典(登録室アソシエイトフェロー) at 2015年05月14日 (木)