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1089ブログ

絵につつまれて暮らす―屏風体験―

現代の私たちの生活では、家に屏風があるという人はめったにいないと思います。
美術館や博物館、あるいは結婚式場や料亭など、
特別な場所でしか目にすることのないものかもしれません。

屏風とは、今でいうパーテーションや衝立のように使われた移動式の壁とでもいうもので、
風除け、目隠し、間仕切りなどの目的に使われました。
昔の人たちにとっては、特別な美術作品というよりは、
日々の生活の道具だったわけです。

しかし、日常の道具といっても、そこにはいろいろな絵が描かれています。
絵につつまれて暮らすなんて、なんだかとても豊かに聞こえますね。
屏風を使う暮らしとは、どのようなものだったのでしょうか。
9月6日に行われたファミリーワークショップ「屏風体験!」では、
それを小学生とそのご家族の皆さんに体験していただきました。

まず、本館2階の7室で3種類の屏風を鑑賞。

屏風とは一体何に使われたのか、というお話を最初にしました。
そして二曲一双、四曲一隻、六曲一双など、
形状によって呼び名が違うこと、
白い紙だけでなく、金や銀の地に
墨一色で描かれたり、色を使っていたり、
描き方もそれぞれ違うことを確認しました。

次に、展示室を後にして博物館の庭園にあるお茶室、応挙館に向かいます。

ここではなんと、国宝『松林図屏風』(の複製)が皆を迎えてくれました!
(ひとめ見て「まさか、本物じゃないですよね…」
とつぶやいた親御さんがいらっしゃいました。残念ですが、複製です…)

こんなところに、『松林図屏風』が!
こんなところに、『松林図屏風』が!

キヤノン株式会社の「綴プロジェクト」の一環で
作成された『松林図屏風』の複製を使い、
応挙館での前半は「屏風の置き方」をテーマにした内容です。

まずは参加ファミリーを3チームに分け、
ミニチュア屏風を使いながら、
それぞれの「理想の屏風の置き方」を考えていただきます。

手で動かしているうちに、アイデアがわいてきます
手で動かしているうちに、アイデアがわいてきます

「自分を囲み込むように置いて、絵に包まれたい…」とか、
「一双を向かい合わせに立てて、松林の間を迷路みたいに歩き抜けたい」とか、
皆さんいろいろなアイデアが浮かんできたようです。

それぞれのチームのアイデア通りに、複製の屏風を置いていきます。
配置の仕方によって、描かれた松林の風景がぐっと広がってみえたり、
コンパクトに見えたり、自分がすっかりその中に入り込んでしまったように思えたりと、
見え方が大きく変わります。


展示室ではまず見ることのできない摩訶不思議な屏風の配置を見て、
「うちに屏風があったら、毎日置き方を変えて楽しむのに…」と
本気で思ってしまいました。

こんな屏風の置き方、見たことない!
こんな屏風の置き方、見たことない!

屏風の前で立ってみたりごろんと寝転んでみたり、
くぼみから顔を出してみたり、皆それぞれに屏風と遊んだひとときでした。

屏風に挟まれてリラックス   それぞれのプライベート空間
屛風に挟まれてリラックス…      それぞれのプライベート空間


休憩時間のあと、後半は「明かりが変わると屏風はどう見えるか」がテーマです。

今までついていた蛍光灯を消して見ると、
障子を閉めた日本家屋の中は、昼間でもかなり暗かったことが分かります。
さらに、夜に向けた明るさの変化を擬似的に体験していただくために、
雨戸を次々に閉めてみました。
とうとう真っ暗になり、もう松林が見えなくなったところで、
ろうそくの灯りをイメージした暖かな色合いの照明器具をつけてみました。
暗い中に、ぼんやりと松林が浮かび上がり、幻想的な光景です。
ろうそくのゆらめきのように調光してみると、
松林の奥行きがすっと変化するようです。

ろうそくをイメージした灯りで幻想的に
ろうそくをイメージした灯りで幻想的に

周囲が暗くなると、不思議と周りの音がよく聞こえてくるようでした。
参加者の皆さんも、集中して静かに屏風をごらんになっていました。

蒸し暑い日でしたが、障子越しの薄暗い自然光のもとで、
蝉の声をバックにじっと見る『松林図屏風』は、
一瞬別世界に連れて行かれるような、
格別の静けさと涼しさをもたらしてくれました。

自然光で見るのもまた素敵です
自然光で見るのもまた素敵です

昔の人は、暮らしの中でどんな配置で、そしてどんな明かりの下で
屏風と暮らしていたのか。
ファミリーワークショップ「屏風体験!」は、
それをゆっくりと体験できる、とても贅沢な時間でした。
 

 

カテゴリ:研究員のイチオシ教育普及

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posted by 藤田千織(教育普及室主任研究員) at 2014年09月12日 (金)