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キトラ古墳壁画の材料調査

今から約1300年前、飛鳥時代後半に造られたキトラ古墳は、石室内に大陸風、極彩色の壁画をもつことで有名です。
ここでは、キトラ古墳壁画に対して行われている材料調査についてご紹介することにします。

キトラ古墳壁画は漆喰が弱くなっていたり、
表面がバイオフィルム(台所のぬめりのようなもの)や泥に覆われて汚れていたりしています。
壁画の修理は、このような表面の汚れの除去と漆喰の強化、
そして取り外された多くの破片の接合による再構成等からなります。
これら修理作業には壁画の材料と傷み具合に関する基礎データが必要となるため、
材料調査が並行して行われているのです。
材料調査から得られるデータは、修理において重要となるだけでなく、
修理後の保存・活用方法を検討するためにも必要となるものです。

しかし、ここに大きな問題があります。
それは、キトラ古墳壁画が貴重であるが故に、サンプリングをともなう分析調査はできないということです。
また、古代に用いられていた絵具についてはほとんど全くと言っていいほど記録がなく、
材料調査で得られる結果は1300年を経て変化してしまった材料の情報に過ぎません。
壊さず、しかも触らずに調査分析をおこない、
変わり果てた材料のデータから元の材料を推定していこうというのは至難の業といえるでしょう。

このような問題を抱えつつも、あの手この手で調査が進められています。
壊さず、触らずということになると、「光」や「電波」を利用する方法が有効です。
キトラ古墳壁画の材料調査には、蛍光X線元素分析、可視分光分析、斜光によるマクロ撮影、
デジタルアーカイブスキャニング
およびテラヘルツ波イメージングが用いられています。


蛍光X線元素分析の測定風景

一例をあげますと、キトラ古墳壁画の表面は、
漆喰の主成分である炭酸カルシウムが溶出、再結晶して生じた白色の薄い層に覆われていたり、
外部から流入した泥に被覆されて図像が見えにくくなっている部分があります。
このような部分に対して、赤外線によるスキャニングをおこないました。
赤外線は表面を被覆している層を透過してある程度内部に入り込むことができるため、
表面からは見えない画像などを検出することができます。
朱雀の赤外線スキャニング画像を見ると、朱雀の描線、特に嘴の付根の線描や羽翼部分の文様が
鮮明にとらえられていることがわかります。


         

朱雀の赤外線スキャニング画像。
通常では見えづらい線がよく見えます



       ↓

朱雀の顔面部分


特別展「キトラ古墳壁画」の会期中、表慶館においてキトラ古墳壁画の材料調査の成果を、
高精細デジタル画像を駆使して紹介しています。
本館の展示で本物の壁画をご堪能いただくとともに、
表慶館にもぜひおいでいただき、最新の調査から明らかとなってきている
キトラ古墳壁画の世界をぜひお楽しみください。

カテゴリ:研究員のイチオシ2014年度の特別展

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posted by 高妻洋成(奈良文化財研究所埋蔵文化財センター・保存修復科学研究室長) at 2014年05月09日 (金)