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夏の風物

東京国立博物館では、毎年1回設備保守点検のために全館を休館して点検作業を行います。
この日は電気も使えませんので、点検を担当する部署以外の職員は、館内で仕事が出来ないことになります。
この日にあわせて出張や研修に頑張る職員もいますが、今年の私は、休みを取って何人かの仲間と歴史の跡を巡るリフレッシュ旅行に出かけました。
運慶作の仏像がある願成就院と、国宝「鷹見泉石像」(7月22日(日)まで本館8室で展示)を描いた渡辺崋山と親交の深かった江川英龍(坦庵)が建造した韮山反射炉。そして修善寺です。

修善寺には、建仁寺の開基である鎌倉幕府第2代将軍源頼家の墓があります。その墓の様子を見ておきたいというのもこの旅の目的の一つでした。
そして夜は、伊豆のホタル見物。ホタルというと闇の中をゆらゆらと動くはかない光。情趣に浸って虫の姿を忘れていますが。浮世絵では、しっかりと虫として描かれています。ホタルは日常的に姿を目にする虫だったのです。

江都夏十景・不忍か池 鳥居清長筆 江戸時代・18世紀  江都夏十景・不忍か池 部分拡大
(左)江都夏十景・不忍か池 鳥居清長筆 江戸時代・18世紀
同左部分。右の女性の手の先には、ホタルが描かれています。

鳥居清長の「江都夏十景・不忍か池」には、博物館に近い不忍池の畔でホタルを追う女性が描かれています。そこに描かれているのは飛ぶ「虫」のホタル。江戸の水辺にはホタルが沢山いたのです。
夏の浮世絵には、ホタルと女性が組み合わされてよく描かれていますが、女性の手に欠かせないのが、団扇。夏の風俗を集めた今月の陳列には、団扇がよく描かれています。そして、涼を求めた庶民の姿。江戸っ子の自慢は隅田川での舟遊び。隅田川に架かる新大橋の遠近を誇張して隅田川を広く描いた鳥文斎栄之筆「大橋下の涼み船」は珍しい5枚続きのワイド画面で、男の姿は少なく、大勢の女性が描かれています。

大橋下の涼み船 鳥文斎栄之筆  江戸時代・18世紀
大橋下の涼み船 鳥文斎栄之筆  江戸時代・18世紀


浮世絵の夏のイベントといえば、吉原でのコスプレ「俄」。さすがに暑い夏には、吉原に出かける気も失せるもの。そこで客集めのためにサンバカーニバルならぬ「俄か芝居」が組まれ、大勢の見物が押し寄せたといいます。この顔見世的興行を歌麿は度々描きました。

青樓仁和嘉女藝者之部・扇賣 団扇賣 麥つき  喜多川歌麿筆 江戸時代・寛政5年(1793)
青樓仁和嘉女藝者之部・扇賣 団扇賣 麥つき  喜多川歌麿筆  江戸時代・寛政5年(1793)


そして歌麿は、呉服店で仕入れられた夏のファッションブックとして「夏衣裳當世美人」のシリーズも出版しています。
浮世絵は芸術というより出版広告としての機能も果たしていました。夏らしい構成の浮世絵が本館10室(7月10日(火)~8月5日(日))に並んでいます。
 

夏衣裳當世美人・亀屋仕入の大形向キ 喜多川歌麿筆 江戸時代・19世紀
夏衣裳當世美人・亀屋仕入の大形向キ 喜多川歌麿筆 江戸時代・19世紀


8月7日(火)からの展示は、団扇絵を中心にしました。こちらも夏の浮世絵です。
 

カテゴリ:研究員のイチオシ

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posted by 田沢裕賀(絵画・彫刻室長) at 2012年07月12日 (木)