学校は夏休みに入りました。
夏休みの思い出といえば家族旅行、プールや海、ラジオ体操などでしょうか。
私は部活と宿題です。
夏休みの終わりが近づくと宿題に追われ、特に自由研究は最後まで引きずっていました。
こうなることはわかっていたのに、早めに取り掛からない自分を恨めしく思ったものです。
私と同じ経験をされた方、この夏もしそうな方、いらっしゃいますよね。
じつはトーハクにも夏休みになると美術部、文芸部、歴史研究部などいろんな部活の皆さんが来てくれています。
ゆっくり時間をとれる夏休みに人気なのが、スクールプログラムのひとつである「伝統模様のお皿作り」。
技術を学んだり、うまく描くことを目指すのではなく、鑑賞するための手がかりとして始めたワークショップです。
作品や展示をもっと楽しんでほしい。そのための提案のひとつです。
なんと夏休みの予約はもういっぱいですが、自由研究にもうってつけでは?ということで、今日はこのプログラムの人気の秘密をご紹介します。
まずはどんなプログラムなのか、のぞいてみましょう。
少し緊張気味の生徒たちに真っ白なお皿を渡し、「展示作品から好きなモチーフを選んでお皿をデザインしてみましょう」というと、とたんにざわざわ…
美術部とはいえ、普段から美術館や博物館に通う生徒は少なく、トーハクにきたのが初めてという生徒がほとんど。
どんな作品があるかもわからない状態の彼らには少し難しい課題なのでしょうか、どことなく不安な様子です。
まずはみんなで一緒に本館展示室に行き、お皿のデザインのパターンや日本美術の模様やモチーフについて説明をうけたら一度解散。
約1時間かけて本館の展示作品を鑑賞し、自分の好きなモチーフをスケッチします。
見学のあと、思い思いにスケッチしていきます。
デザインをまとめたら専用のサインペンで絵付けをし、最後に出来上がったお皿を全員で鑑賞します。
30分ほどかけてひとりひとりに展示の感想、どんな作品を基にしたのか、どんなところを工夫したのかを聞いていく鑑賞会が、
このプログラムのポイント。
お互いの発見や工夫を共有します。
お互いのお皿を見ながら、感想を聞きます。
展示作品と、それを基に生徒がデザインしたお皿。
「時代もジャンルも材質も違う作品なのに、同じモチーフが使われていてビックリ」
「同じ着物を参考にしたのに、全然雰囲気が違う!私のお皿は実用に、あの子のお皿は飾るのにいいかも」
「その作品ってどこにあったの?」
できたお皿も、こうした感想もすべて、みんながしっかり鑑賞してきた証です。
同じ日に、同じ時間だけ、同じ展示室を回って、同じ画材で描いたお皿なのに、同じものはありません。
鑑賞になれていない生徒たちも「デザインする」という課題を持つことで、
立体の作品、四角い画面の作品などを丸いお皿にどうアレンジするか、
彩色のない作品に色をつけたらどうなるか想像しながら、
作り手の気持ちという「いつもと違う視点」で作品にじっくり向き合い、何かに気づくことができたのでしょう。
そして鑑賞会では自分の思いつかなかった表現や、見落とした作品の魅力に新鮮な驚きを感じるようです。
「いつもと違う視点」が「日本美術をみるのも楽しい!」といってくれる理由だと思います。
「いつもと違う視点」の他の例として、
作品の「つくり方」に注目する、ということを親と子のギャラリー「日本美術のつくり方Ⅲ」でご提案しています。
こちらも、自由研究の題材になるのではないでしょうか。
自由研究にお困りのみなさん、保護者の皆様、トーハクで自由研究、いかがでしょうか。
余談ですが・・・
この夏も、東京都高等学校文化連盟茶道部門の皆さんが参加してくださいました。
夏にトーハクで作ったお皿を銘々皿として、冬にトーハクのお茶室を借りてお茶会をする、
という壮大な計画を実行してくれている高校生たちです。
こういう発展、活用方法もあったのか!と私も驚きましたし、うれしく思っています。
昨年12月のお茶会の様子。私も一服いただきました
たくさんの皆様に、いろいろな方法でトーハクを活用し、楽しんでいただければと願っています。
カテゴリ:教育普及
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posted by 川岸瀬里(教育普及室) at 2012年08月01日 (水)
7月31日(火)から9月17日(月・祝)まで本館1階14室で行なう特集陳列「運慶周辺と康円の仏像」からみどころをご紹介します。
今回の展示で見逃せないポイントは3つです。
第1に、運慶作の可能性が高い真如苑所蔵の大日如来坐像をぐるり全方向から観察することができます。
頭上に太く高く結いあげられた髻(もとどり)の背面はどうなっているか?胸の厚みはどうか?背中まで写実的に作られているか?などに注目してご覧ください。
仏像の背面は光背や後ろの壁に隠れて絶対に見られることはないのですが、さてこの像の背中はどうでしょうか。
重要文化財 大日如来坐像 平安~鎌倉時代・12世紀 東京・真如苑蔵
第2は、迦陵頻伽(かりょうびんが)です。上半身は人間、下半身は鳥という姿、美しい声で鳴くという鳥です。美声を象徴する楽器を持つことが多いのが特色です。
今回展示する運慶の孫康円の代表作、文殊菩薩像および四侍者像の文殊菩薩の光背に2羽表わされています。
この光背が間近で見られる機会は滅多にありませんのでお見逃しなく。
実はこの2羽、作られた時代が違います。一方は康円作、他方は後世補ったものです。なかなかうまく作っているのでちょっと見ただけではわからないかもしれません。
楽器で顔が隠れていますから横から見て、顔、髪の表現、目や耳の形を比べてみてください。
また、正面ではあまり気になりませんが、斜めや側面から見ると後補の像は不恰好です。どちらが康円作かは皆さんが実際に見て判断してください。
重要文化財 文殊菩薩騎獅像 康円作 鎌倉時代・文永10年(1273) の光背部分
第3は、文殊菩薩が乗る獅子の岩の下です。中国山西省の五台山が文殊菩薩の聖地として信仰されていました。
その五台山から日本にやって来たことを示すなにかが描かれています。これも展示でご覧ください。
重要文化財 文殊菩薩騎獅像 康円作 鎌倉時代・文永10年(1273)
残念ながら展示を見に来られない方のために、8月下旬のこのブログですべて写真入りで解説します。
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posted by 浅見龍介(東洋室長) at 2012年07月31日 (火)
トーハク140周年パンフレットのスタンプラリーの記念品の引換が始まっています。
スタンプを6つ集めた方に、トーハクオリジナル140周年記念グッズを差し上げています。(先着3000名様)
記念品は「松林図屏風」をデザインしたメモ帳とトーハクくんかユリノキちゃんのチャーム付ボールペンです。
毎月替わるスタンプを楽しみにしてくださっている方もいらっしゃると思います。
すべてトーハクの所蔵作品をデザインしました。
スタンプラリーは2013年3月まで。
パンフレットは本館、平成館のインフォメーションなどで配布中。
記念品の引換は、本館インフォメーションまでお越しくださいませ。
トーハクくんとユリノキちゃん、ボールペンはどちらか一つを選べます
関連リンク
東京国立博物館140周年「ブンカのちからにありがとう」キャンペーンページ
1089ブログ 140周年 スタンプラリーで、オリジナルグッズをプレゼント!
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posted by 小林牧(広報室長) at 2012年07月30日 (月)
中国山水画の20世紀ブログ 第2回-いよいよ来週31日火曜日オープン
中国山水画の20世紀ブログ第1回でもご紹介していますが、
今回集う作品50件は、いずれも20世紀の中国を代表する画家たちの優品、
日本初公開!となる作品が一堂に会す、まさに夢の特別展です。
日中国交正常化40周年・東京国立博物館140周年
特別展「中国山水画の20世紀 中国美術館名品選」
会場:本館 特別5室 会期:7月31日(火)~8月26日(日)
ぜひたくさんの方にご来場いただきたいと、
ブログながら開幕直前の本展会場「特5」へご案内します。
会場=特5はどこ?
本展会場は正門を入って正面に構える本館の1階、ちょうど中央に位置する特別5室。
言ってみれば本館のヘソ、通称、「特5」です。
築75年!本館そのものが重要文化財指定
中谷美紀さんのポスターでおなじみ、本館エントランス。特5入口は向かって左手です。(「ここ」の位置)
本館マップ-中央が特5
特5では過去さまざまな企画展示が行われてきました。
記憶に新しいところでは「孫文と梅屋庄吉」「手塚治虫のブッダ展」(2011)、「国宝 土偶展」(2009)、
「レオナルド・ダ・ヴィンチ展」(2007)では名画「受胎告知」を展示した会場です。
会場のいま
作品を所蔵する中国美術館のスタッフと協力しながら、
作品の選定から展示にいたるまで、何度となく打合せを重ねてきました。
安全な輸送には時間がかかります。今回の搬入は深夜になりました。
開幕が目前に迫った今週、その集大成となる
作品展示作業が着々と進んでいます。
作品に異状がないか細かく点検します。
作品を間近に楽しむ
本展会場で作品をご覧いただいたとき、
作品までの距離が非常に近いことに驚かれるかもしれません。
掛け軸の作品の展示ケースの場合、作品までわずか20㎝!
絵画の優品ひとつひとつを間近にじっくりご覧いただけるような作り、
画家の手にした筆の運びや息づかいすら感じられるようです。
特5へGO!
7月31日(火)から8月26日(日)まで、たった25日間の会期ですから、
すこしでも興味をお持ちでしたら思い立ったが吉日、さっそくお出かけください。
「中国山水画の20世紀」展は、総合文化展観覧券でご入場いただけます。
(一般当日600円、大学生当日は400円、高校生以下は無料)
また、この展覧会を詳しく解説しているカラー16ページの小冊子、
パンフレットを無料で配布いたします。
※こちらからパンフレットデータをダウンロードできます。
暑い夏まっさかりですが、画家たちの創作に対する熱い思い、
名品との一期一会を「特5」でお楽しみください!
カテゴリ:研究員のイチオシ、2012年度の特別展
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posted by 高木結美(特別展室) at 2012年07月29日 (日)
美術解剖学のことば 第7回「<コントラポスト> “人が立つかたち” と “美の基準”」
学生の頃、ヌードデッサンの実技授業がありました。
その授業で大切な事は何でしょう?
それは、人間の身体が、立位(立っている)時に「どのように“重さ”を支えているか」でした。
美術解剖学 -人のかたちの学びに展示されている、黒田と久米のデッサンは、
両者とも見事にその“重さ”を描ききっています。
黒田は身体(からだ)全体のバランスを、久米は骨格と筋肉の構造の成り立ちを、
しっかりと「観察」して、それを画面に「表現」しています。
(左) 裸体習作 久米桂一郎筆 明治20年(1887) 東京・久米美術館蔵
(右) 裸体習作 黒田清輝筆 明治20年(1887)
さて、この2枚の「棒を持って立つ裸体デッサン」は、何を表しているのでしょう?
西洋美術の歴史を学ぶと、ひとつの「美の基準」となるキーワードがあるのですが、
それが<コントラポスト>という言葉であり、
その言葉は、すなわちギリシャ・ローマ時代の人体の理想像である、
「カノン」を表す「かたち」のことばなのです。
この2枚のデッサンには、以下の解説を付したのですが、説明不足でしたね。
「カノン」は、音楽においても使われる用語なのですが、
美術においては「人体の理想的比例」を表します。
今回の展示では、その「カノン=人体の理想的比例」を表すレオナルド・ダ・ヴィンチの有名な図が展示されています。
芸術解剖 ― ヒトの外形、静止、運動の記載 ポール・リッシェ著 1890年 個人蔵
Anatomie antistique. Description des formes exterieures du corps humain au repos et dans les principaux mouvements
Paul Richer(1849-1933)
話を<コントラポスト>と「ドリュフォロス(槍を持つ人)」に戻しましょう。
コントラポストは、主に彫刻作品として、
西洋美術を展示する美術館では、度々出会うポーズです。
ベルリン美術館にて
黒田と久米のヌードデッサン話からはずいぶん飛躍しますが、
ではトーハクで<コントラポスト>を見ることはできるでしょうか?
日本美術の殿堂たるトーハクでは、それはなかなか困難なのですが、
あえておススメ作品としてご覧いただきたいのが、
平成館に展示されている、近代彫刻の巨匠・ロダン作『エヴァ』です。
エヴァ ロダン作 19世紀(2012年9月17日(月・祝)まで平成館 彫刻ギャラリーで展示中)
この立脚と遊脚の立ち方による造形は、なんと見事なことでしょう。
ロダンは「立ち足」と「支える足」の平板的な空間だけでなく、
そこに「ねじれ」を加える、複雑な立ち方をまとめあげています。
ギリシャ・ローマ~イタリアルネサンス~近代彫刻に至ってしまったので、
話をぐっと<美術解剖学>に引き戻します。
人間が2本の足で、「立つ」ことを可能にする筋肉を、
久米桂一郎の講義スケッチから紹介しましょう。
(左) 芸術解剖 ― ヒトの外形、静止、運動の記載 ポール・リッシェ著 1890年 個人蔵 より
(右) 美術解剖学 講義用スケッチ 久米桂一郎筆 大正時代・20世紀 東京・久米美術館蔵
この図はポール・リッシェの図(左)を、久米桂一郎が写し取った、
足の筋肉を図解したスケッチですが、
特にお尻の筋肉「大臀筋」に注目してください。
背中をぐっと立たせて、美しく立つ姿勢を保つには、
このお尻の筋肉が発達していなければいけません。
他の足の筋肉も、「立つ」ためにはもちろん必須の筋肉ですが、
このお尻=臀部の大きなふくらみは、
「人のかたち」の、もっとも「ヒトらしいカタチ」なのです。
<コントラポスト> <カノン> <ドリュフォロス> <大臀筋>
などのキーワードを、頭の隅に少しだけ置いてみてください。
自分の身体の「重さ」を感じて、その「重さ」を2本の足で支え、
さらに何かの動きを加えた「かたち」をイメージしてみましょう。
黒田清輝と久米桂一郎が、1887年のパリの美術学校の一室で、
「裸婦・裸体の素描稽古」に明け暮れた、その成果の一端を見比べる事ができるのは、
残りあと2日間(7月28日・29日)です。
ぜひ夏の暑い日、トーハク本館・特別1室をデッサン室に見立てつつ、
「裸んぼ」デッサンを眺めていると、
ふだんは気づかないような自分の身体についての発見があります。
7月の終わりに、展示室にてお待ちしております。
(ただし博物館の中で「裸んぼ」になるのは厳禁です(笑))
特集陳列 「美術解剖学―人のかたちの学び」
本館 特別1室 2012年7月3日(火) ~ 2012年7月29日(日)
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posted by 木下史青(デザイン室長) at 2012年07月28日 (土)