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1089ブログ

五感で味わう酒井抱一筆「四季花鳥図巻」

トーハクのWEBサイト企画、「四季花鳥図巻 あなたが好きな場面は?
もうご投票くださいましたか?

どの場面もすてき。迷ってしまいます。
まんまるの朝顔や白菊、グラデーションが美しい蔦もみじ、
おっとりした顔の鳥、生き生き動きだしそうな虫。
それにしても、場面ごとに雰囲気が違う。いろいろな描き方が混じってる・・・?

その通り。
近づいてよく見ると、朝顔は目にもあざやかな群青が重ね塗りされて宝石のようにきらきらします。
白とピンクの菊は胡粉を盛り上げた厚みが干菓子のよう。
蔦もみじは絵具をうすくのばしてうっすら透けています。
鳥は筆数少なくあっさり、いっぽう虫は図鑑のように精緻です。
  
四季花鳥図巻
四季花鳥図巻 下巻(部分) 酒井抱一筆 江戸時代・文化15年(1818)  東京国立博物館蔵
写真では感じとれない美しさ。ぜひ実際にご覧ください。


描いたのは酒井抱一(1761~1828)。
尾形光琳(1658~1716)の絵を好み、光琳の展覧会をひらいたり、
作品を集めた本を出版したりと、光琳の良さを広く知らせるために尽力しました。
「四季花鳥図巻」の丸い朝顔や菊は、光琳の描く花によく似ています。
木の幹の、にじみを活かした「たらしこみ」も、
光琳や、光琳が好んだ俵屋宗達の絵にしばしば用いられる技法です。

抱一の「四季花鳥図巻」、とくに私が好きなのは、<はじめ>と<おわり>です。
<はじめ>は半円形の月と、その前に優美な曲線の枝を重ねる萩が
すずしげでさわやかな印象です。萩には鈴虫、その下に松虫が。
秋の夜、虫の音が聞こえてきます。
 
四季花鳥図巻(巻頭)
巻頭部。小鳥は左を向いて次の場面へと視線を導きます。

花鳥すなわち草木花に鳥の組み合わせは、日本でも古くから描き継がれてきました。
これに虫が加わるのは、おもに江戸時代後半からです。
ちなみに、抱一の「四季花鳥図巻」に近い時期には、
お殿様自らがたくさんの虫を描きためたアルバムも作られています。
伊勢長島藩藩主・増山正賢(号・雪斎)筆「虫豸帖(ちゅうちじょう)」です。

虫豸帖
東京都指定文化財 虫豸帖 増山雪斎筆 江戸時代・19世紀 東京国立博物館蔵
(2013年10月1日(火) ~ 2013年11月10日(日)、本館8室にて展示予定)


中国の花鳥図巻にはしばしば虫が含まれています。
ただし、中国画では鳴声のきれいな秋の虫はあまり選ばれていません。
抱一は虫の音すだく、親しみ深い日本の秋を表現しているのです。
(岡野智子「酒井抱一筆「四季花鳥図巻」にみる草虫表現―中国絵画との関連をめぐって―」『MUSEUM』551号、1997年)

<おわり>は雪つもる白梅の枝に呼応しあう鶯、藁囲いをかぶせた水仙です。
白に白を重ね、香りに香りを重ねる清々しい場面です。
 
四季花鳥図巻

四季花鳥図巻 巻末部
巻末部。まだ寒い中にも、鶯の呼び声が春の近付きを知らせます。

虫の音、花の香り。
抱一の描写からは、目に見えない季節感まで感じることができます。
色あざやかな花や紅葉より、時にいっそう四季を感じるのです。

巻物としての<はじめ>と<おわり>も見てみましょう。

題せん
巻物の内容をしるす、いわば“本のタイトル”部分。

<はじめ>の部分を見えるように展示しています。
巻物をすべて巻くと、この部分が表紙となります。
かなで「あきふゆのはなとり」と書かれています
(ちなみに上巻は「春夏乃花鳥」と漢字で書かれています)。

落款
「文化戊寅晩春 抱一暉真写之」の署名と「雨華」・「文詮」の印。


<おわり>には、描いた人のサインが入っています。
ここから、抱一が文化15年(1818)春の終わりに描いたことがわかります。
この数年後、抱一は銀箔の「夏秋草図屏風」を描きます。

酒井抱一の「四季花鳥図巻」・「夏秋草図屏風」は、それぞれ8・7室にて展示中。
来週末、9月29日(日)までです。

トーハクで、あなたの秋を見つけてください。

蟻
この蟻がどこにいるのかも見つけてください。

カテゴリ:研究員のイチオシ秋の特別公開

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posted by 本田光子(絵画・彫刻室研究員) at 2013年09月21日 (土)