東京国立博物館に就職して間もない6月のある夜、一人展示準備のため収蔵庫で埴輪を探している時であった。
すわ、収蔵庫に五月人形か。いやいや、よく見ると凛々しい武者姿の埴輪ではないか。
武人埴輪模型 吉田白嶺作 大正元年(1912年)
弓取るものが左右に一対、矛取るが左右に一対、合わせて四個一組で揃いとなる。東京国立博物館所蔵品は左手に矛取るものを欠いている。
(注)特別展「はにわ」出品予定
後日、先輩に聞いたところ明治天皇の御陵(京都府京都市 伏見桃山陵)に奉献された埴輪「御陵鎮護の神将」と同じ型で作られたものという。
某研究会の連絡誌に、この埴輪にかかる記述があったことを思い出して読み返し、関連する文献などを集めた。この埴輪の制作にあたっては東京帝室博物館(現:東京国立博物館)歴史部のスタッフが監修に携わり、当館の収蔵品の修復や模造品の制作を担った彫刻家の吉田白嶺が手掛けた。
このような縁もあって当館に伝来されたものだと知ったところで、いったんこのときの熱(好奇心)は去っていった。
それから十数年の時が過ぎ、東京国立博物館で埴輪をテーマにした特別展を開催すると聞く。再度発熱した。
特別展の担当者を捕まえ、展示する意図や意義を説明して(いや、ワガママを言って)何とか出品作品に加えてもらった。
そして保存科学課のスタッフには、展示や輸送のための応急処理(X線CT撮影や接合)もお願いした。
応急修理前のX線CT撮影
埴輪「御陵鎮護の神将」は型作りによる頭・胴部・脚部・台座というように分割成形されている。胴部と脚部の継ぎ目で外れていたため状態を確認し、今回の展示に合わせ接合、修理した。
一人現地調査と意気込んで伏見桃山陵へも足を運んだ。
木々の間に白く伸びる参道、御陵から眺める宇治の景色、そして230段にも及ぶ大階段。
時折、本来の目的を忘れてしまうほどの御陵の清々しさに気を取られながらの調査、ただただ気持ちがよかった。そして、この陵(みささぎ)の墳丘のなかに納められた埴輪と古墳時代の墳丘に樹立された埴輪との差異に一人思いを巡らせた。
玉砂利と杉並木が美しい参道
宇治の景色
230段に及ぶ大階段
上が円形で下が方形の御陵
明治天皇の大喪にかかる記録を調べるために国立公文書館に出かけ、当時の世相を知るために当時の雑誌や新聞記事をあさり、また絵葉書などの記念品を集めるために某オークションサイトにも手を出した。この頃には、またいつもの熱病にかかったのかと同僚はきっと呆れていたに違いない。
参拝記念の人形
参拝記念の絵葉書
1918年(大正7年)以降に印刷された参拝記念の絵葉書の包みにも埴輪「御陵鎮護の神将」があしらわれている。一定期間、この「埴輪」が当時の人々に関心を持たれていたことが分かる。
私は埴輪、ましてや古墳時代を専門にしているわけではない。一考古学者としてモノがどういう目的で作られ、そのモノが当時の人々にどう受け入れられ、そして後世の人がそれをどう考えるのか、ということが気になってしかたがないのだ。本展の担当者でもない一研究員でさえ「はにわ熱」にかかれば、この始末である。ましてや担当者であったならば。
この夏の暑さを上回る熱量で担当者が準備を進めている特別展「はにわ」(2024年10月16日(水)~12月8日(日)、平成館 特別展示室)が、間もなく開幕を迎える。
ぜひ楽しみに待っていてほしい。そして一人でも多くの方々にこの「はにわ熱」を存分に味わってほしいと願っている。
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posted by 品川欣也(学芸企画部海外展室長) at 2024年09月27日 (金)
挂甲の武人 国宝指定50周年記念 特別展「はにわ」(2024年10月16日(水)~12月8日(日)、平成館 特別展示室)。
「埴輪の展覧会なんて、展示室がみんな茶色くなっちゃうんじゃないですか?」
――そんな声が聞こえてきそうです。
でも、目を凝らしてよく見てください。
何かが見えてきませんか?
この埴輪、なんだか赤みの強い部分があるような…。
埴輪 杯を捧げる女子
群馬県高崎市 上芝古墳出土 古墳時代・6世紀 東京国立博物館蔵
(注)特別展「はにわ」出品予定
そう、実は色が塗られていた埴輪があるんです。
とはいえ、長らく古墳の上で雨風にさらされ、土の中に埋もれていた埴輪たちの表面に塗られていた顔料は落ちやすく、追究が難しいこともあって十分には検討されてきませんでした。
もともと、埴輪は赤い色が多く使われていることがわかっていました。
国宝 円筒埴輪
奈良県天理市檪本町東大寺山北高塚 東大寺山古墳出土 古墳時代・4世紀 東京国立博物館蔵
いちばん下の段は土に埋めてしまうため、赤く塗られていません
(注)特別展「はにわ」出品予定
しかし近年、栃木県下野市にある甲塚(かぶとづか)古墳から出土した埴輪が復元された際に色の検討が行われ、鮮やかに塗られていたことがわかりました。
当館でも、国宝「埴輪 挂甲の武人」の修理・調査を行いました。
国宝 埴輪 挂甲の武人
群馬県太田市飯塚町出土 古墳時代・6世紀 東京国立博物館蔵
(注)特別展「はにわ」出品予定
詳細な観察と、蛍光X線分析(どのような物質が存在するか調べる装置を用いた分析)を行い、彩色の復元に取り組みました。
その成果がこちらです。
埴輪 挂甲の武人(彩色復元)
令和5(2023)年 原品:群馬県太田市飯塚町出土 古墳時代・6世紀
東京国立博物館蔵
制作:文化財活用センター
(注)特別展「はにわ」出品予定
埴輪 挂甲の武人には、白、赤、灰の3種類の顔料が使われていたと考えています。
白は白土で、白っぽい土を選別したもの。
赤はベンガラという、自然界にある鉄分に由来するもの。
灰は白土にマンガンという鉱物を混ぜたものと考えられます。
現在の埴輪に付着した黒色もマンガンで、これは埴輪が土の中に埋もれている中で表面に付着したものと考えられます。
埴輪 挂甲の武人の背面。黒く見えるのが土に埋まっている際に付着したマンガンです
埴輪 挂甲の武人が製作され、古墳に立てられた地域では土中にマンガンが多くあったらしいことがわかります。
現在では、白色と赤色はうっすらと残っているのが見て取れます。
しかし、灰色はごくわずかしか残っておらず、よほどしっかりと見ないとわかりません。
白土とマンガンはもともと相性が悪いため、はがれやすかったようです。
埴輪 挂甲の武人を解体した際の、脚(左)と沓(くつ、右)。灰色がわかるでしょうか。
当館には、他にも色を塗っていたとみられる埴輪が多くあります。
埴輪の色の研究はまだまだはじまったばかり。
これからも、埴輪の色についての調査研究を続けていきます。
埴輪 挂甲の武人の彩色復元については、三次元の模型を特別展「はにわ」で皆さまにご覧いただけます。
皆様に新しい埴輪のイメージをお届けできると幸いです。
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posted by 山本亮(考古室) at 2024年05月24日 (金)
幻の芸能と呼ばれる伎楽に用いられた仮面のなかで、現存最古の遺品である法隆寺献納宝物の伎楽面(ぎがくめん)。
このほど実施したX線CT調査の報告書『法隆寺献納宝物特別調査概報 43 伎楽面X線断層(CT)調査』(以下、報告書)について、前回の1089ブログ「伎楽面のX線CT調査報告を楽しもう!(前編)」でお伝えしました。
X線CTを利用した文化財調査が少し身近に感じていただけたのではないかと思います。
出版・刊行物 PDFファイルダウンロードページで報告書、関連動画を見る
さて、報告書に掲載されるのはCT画像データだけではありません。伎楽面の新撮画像を、正面、側面、裏面など、さまざまなカットでお楽しみいただけます。
この機会にモノクロ画像しかなかった裏面も新撮し、これが初公開となります。
裏面は、つぶらな瞳(ではなく、演者が外を見るための孔ですが)がかわいいですね。
N-208 伎楽面 師子児(ししこ)(報告書10~11頁)
カラーで各カットがすべて掲載される刊行物はこれが初めてなので、CT画像に関心がない方も、カラーページだけでもぜひパラパラ見てください。
すると、「かわいい!」「この写真をぜひSNSに使いたい!」とか、(きっと)ご希望が出てくる思います(出てきてほしい)。
「でも報告書の画像は小さいし」
「勝手に載せたらダメだろうし」
「掲載にはお金がかかるんでしょ?」
そんなことはありません。
そのために、国立文化財機構にある文化財活用センターでは、みなさまに無料でお気軽にお使いいただける画像のデータベース「ColBase: 国立文化財機構所蔵品統合検索システム」を運営しております。
「出典:ColBase(https://colbase.nich.go.jp/)」など、本サイトからの引用である旨の出典を示していただいたうえ、利用規約のルールを守っていただければ、商用利用も含め自由にご活用いただけます。
「ColBase: 国立文化財機構所蔵品統合検索システム」の利用規約ページに移動
ここで、検索に「伎楽面」と入れていただいても構いませんし、すぐに目当ての画像を探すなら詳細検索で「機関管理番号」に「N-208」と入れていただければ、この報告書に使われる新撮画像はすべてご覧いただけます。
ColBase「詳細検索」画面
ColBase「N-208」の「作品画像一覧ページ」
報告書では伎楽面をきれいに切り抜いて掲載しているので、ここでは撮影方法がバレてしまいますが、ご自身で報告書同様切り抜いたりトリミングすることも可能なので、ぜひご活用ください。
ちなみに、伎楽面は能面等の仮面とは異なり、後頭部も覆うフルフェイスヘルメットのような形状なので、撮影するのも一苦労です。
側面の画像では、面裏から透明な支柱が斜めに出ているように見えますが、じつは垂直な支柱に乗せており、仮面自体はかなり上向きで撮影しています。
後で画像を自然な角度に調整しました。
裏面は、彩色の剥落に細心の注意を払って仮面を裏返し真上から撮影しました。
綿を薄葉紙と呼ばれる文化財用の和紙で包んだ綿布団というクッションが見えますね。
伎楽面は顔の彫りが深く、鼻の高い仮面もあるので俯瞰撮影も大変でした。
そのような撮影の苦労も感じながら、ご覧いただければ幸いです。
(貴重な伎楽面の新撮画像を載せれば、あなたのSNSもバズることまちがいなし!)
利用方法については、文化財活用センターのブログでわかりやすく解説しておりますので、こちらもぜひご参照ください。
「ColBaseを活用しよう!ColBaseの画像利用について」
今後、街なかで伎楽面グッズを見かける機会があるかもしれません。
個人的には伎楽面Tシャツをぜひ作りたいですね。
「ColBaseを活用しよう!グッズ販売編」
こちらのブログ以外にもシリーズでColBaseの活用方法が紹介されているので、ぜひご参照のうえご利用ください。
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posted by 西木政統(登録室) at 2024年05月09日 (木)
N-211 呉女 X線断層(CT) 前後方向のワンシーン
法隆寺献納宝物特別調査概報 43 伎楽面X線断層(CT)調査 関連動画 より
X線CTといえば、「わたしもやったことある」という方も多いと思います。
これはもちろん医療用CTのことですが、物質を透過するX線の特質を利用し、外からは見えない内部を観察する目的で活用されています。
通常のX線撮影では、一方向の情報がすべて重なりますが(健康診断のレントゲン撮影と同じです)、X線断層(CT)は、対象となる物質に360度の方向から照射されたX線をコンピュータ上で計算し、3Dデータとして生成されるため、対象を立体的に把握できる利点があります。
医療用の他にも産業用CTがあり、これが文化財の撮影にも広く使われるようになって、当館でも2014年に導入しました。
その成果のひとつとして、たとえば2017年の特別展「運慶」出品作品の撮影データは、『MUSEUM』誌にまとめてご報告しております。
ただし、CTデータを公開するにあたって課題なのは、データそのものが簡単には見られないことです。
比較的高スペックのPCに高額なソフトをダウンロードしなければ見られませんし、誰にでも簡単に操作できるソフトでもありません。運慶展のCT調査報告にあたり公開方法を試行錯誤するなかで、このときは、最低限の静止画像を掲載し、概要を示す解説を添えることで中間報告としました。
東京国立博物館 十二神将立像 辰神 X線断層(CT)(『MUSEUM』703号、2023年4月、80~81頁)
これをご覧いただいた方は「もっと別の角度から見たいのに」と、もどかしい思いをもたれたかもしれません。
そこで、このたび館蔵品である伎楽面(ぎがくめん)のCT調査報告『法隆寺献納宝物特別調査概報 43 伎楽面X線断層(CT)調査』(以下、報告書)を刊行するにあたり、報告書をPDFで無料公開するとともに、データを動画形式で公開する試みを始めました。
出版・刊行物 PDFファイルダウンロードページで報告書、関連動画を見る
そもそも伎楽面とは、飛鳥時代に大陸から伝わった芸能である伎楽に使われた仮面です。
中世には廃絶したため、今日には法隆寺や東大寺で制作された遺品しか現存しません。
このうち、飛鳥時代に遡る最古の伎楽面が含まれるのは、法隆寺に伝来し、明治天皇に献納されて今日当館に収蔵される法隆寺献納宝物です。
法隆寺献納宝物は、飛鳥時代から奈良時代にかけて制作された古代美術を中心とするコレクションであり、その重要性から、昭和54年(1979)年度から原則として毎年、館内外の研究者と共同で特別調査を実施してきました。
その調査報告が『法隆寺献納宝物特別調査概報』です。
『法隆寺献納宝物特別調査概報 43 伎楽面X線断層(CT)調査』はその最新号ですが、なんと最初の概報は『法隆寺献納宝物特別調査概報 I 伎楽面』(1981年)でした。
さらに、この概報を増補改訂して豪華本『法隆寺献納宝物 伎楽面』(1984年)も刊行しており、これは伎楽面の研究に欠かせない基本文献となりました。
彫刻史だけでなく漆工や金工の専門家まで、館の内外から参加者が集まり、X線撮影、蛍光X線撮影といった当時最新の研究手法も取り入れた画期的な調査だったことがわかります。
「なぜまた伎楽面を対象にするのか?」と疑問に思われるかもしれません。
さすがに43年も経過すれば技術も進歩しており、当時目新しかったX線撮影に対して、いまはX線CT撮影ができるようになりました。
素材(金属等)の元素分析を行なうための蛍光X線分析や、赤外線の吸収率が高い炭素(墨等)の性質を生かした赤外線撮影も、当時より精度が上がり、なおかつ比較的手軽に行えるようになっています。
本来は、当時と同じく総合的な調査とすべきでしょう。
しかし、当時の法隆寺宝物館(旧館)は毎週木曜日だけ公開していたのに対し、現在の法隆寺宝物館は館の開館日程通り毎日公開しており、その中で伎楽面を展示する第3室は保存状態に配慮しつつ毎週金・土に開館するため、調査時間は限られます。
また、同時に複数の調査を行なうのは危険がともなうため、今回はもっとも新知見が見込まれるX線CTにしぼって調査を実施することになりました。
CTでわかることに、たとえば部材の接合箇所や木目の方向、異なる素材の使用等があります。
いずれも、基本的には素材によってX線の透過率が異なる性質を利用しており、X線を通しにくい材質ほど白く映るため、その濃淡や連続性で判断します。
これは従来のX線撮影と同じですが、立体的な把握ができる点で得られる情報量は飛躍的に増大しました。
これにより、表面観察では見分けられなかった接合箇所や、表面に露出しない金属の使用(釘頭の折損はもちろん、釘が腐朽により脱落した後でも、周辺に鉄成分が付着していることで釘穴とわかります)等が判明します。
たとえば、力士の面を見てみましょう。
X線の透過度による見え方を強から弱へ段階的にかえていくと、もっともX線を通さない材質が白く残ります。
右の画像はその中間のものですが、頭頂部に釘が残り、曲げられていることがはっきりわかります。
なお、おぼろげに表面の輪郭がわかるのは、彩色に使われた顔料が鉱物質であることによります。
こちらは、その垂直断面と水平断面です。
垂直断面というのは、データを左右に輪切りにしたもので、これは顔の中間あたりです。
水平断面は、上下の輪切りで、これは鼻の孔あたりです。
シマシマに木目が見える部分が木製で、表面が光っているのは鉱物質の顔料によるもの。
木製の部分に多い小穴は虫食いによるもので、取扱いに一層の注意が必要でしょう。
垂直断面の眉のあたり、水平断面の頬のあたりにその中間程度の濃さの部分がありますが、木でも金属でもない物質(表面観察では、漆に木粉等を混ぜた木屎漆とわかります)を表面の形にあわせて盛りつけています。
CTでわかるのは、あくまで物質の内部構造であり、厳密にはその材質まで特定することはできません。
そのため、表面観察と組み合わせることで、木屎漆と推定される部分が実際にどの程度あるかわかるようになります。
ただし、紙媒体の刊行物に掲載できる挿図で示せるのは、本来の情報量のごく一部といわざるを得ません。
そこで、少しでもその情報量を増やすため、方向別にデータが見られる1分前後の短い動画を作成しました。
法隆寺献納宝物特別調査概報 43 伎楽面X線断層(CT)調査 関連動画
垂直断面は左右方向と前後方向、水平断面は上下方向の計3種類です。
好きな部分で止められるので、スクリーンショットを撮れば、報告書に掲載されるCT画像のようにご覧いただけます。
これまで、紙媒体では報告書本文の記述をすべて挿図で示すのは難しかったのですが、十分とは言えないまでも、動画でわれわれの報告書の記述を検証することもできるでしょう。
最終的には、データそのものをご覧いただけるように整備したいと考えておりますが、動画公開はその試みの一環としてご利用ください。
しかし、報告書の見どころはCTデータだけではありません。
伎楽面の新撮画像を、正面、側面、裏面等、さまざまなカットでお楽しみいただけます。
これについては後編で詳しくご紹介したいと思いますので、ぜひ報告書をダウンロードして、動画もご覧いただければ幸いです。
リンクまとめ
法隆寺献納宝物特別調査概報 43 伎楽面X線断層(CT)調査
法隆寺献納宝物特別調査概報 43 伎楽面X線断層(CT)調査 関連動画
法隆寺献納宝物特別調査概報
法隆寺宝物館 第3室 伎楽面
MUSEUM(東京国立博物館研究誌)
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posted by 西木政統(登録室) at 2024年05月01日 (水)
ひろがるネットワーク 米欧ミュージアム日本美術専門家交流事業(2020年開催の報告)
当館では毎年、米欧の研究者を招いて「北米・欧州ミュージアム日本美術専門家連携・交流事業」を行っております。
そのプログラムの中で、当館を会場にして国際シンポジウムを開催していますが、1月30日(土)の今年の国際シンポジウム「日本美術がつなぐ博物館コミュニティー:ウィズ/ポスト・コロナ時代の挑戦」はリモートで行い、その様子をライブ配信することにいたしました。
ライブ配信はどなたでもご視聴できます。
ミュージアム日本美術専門家連携・交流事業実行委員会2020のページに移動する
さて、ここでは昨年開催した「第6回 北米・欧州ミュージアム日本美術専門家連携・交流事業」の模様をご紹介させていただきます。
2020年2月1日~5日の間、アメリカやヨーロッパから日本美術の専門家および日本の文化財を扱う人を集めて行う恒例の「北米・欧州ミュージアム日本美術専門家連携・交流事業」を行いました。
6回目となる今回は、当館でのシンポジウム「展示室で語る『日本美術』」を皮切りに、専門家会議、作品取り扱いワークショップ、エクスカーション、フィードバックセッションを東京および京都で実施しました。米欧の11カ国から約30名が参加し、当館をはじめ国立文化財機構の各館や国内のミュージアムの学芸員らと交流しました。
シンポジウムは、当館銭谷館長の挨拶の後、国立民族学博物館の吉田憲司館長から基調講演をいただき、まず今の日本美術史が普及した経緯からミュージアムの種別とその役割、また欧米の日本展示の例などをわかりやすく整理してお話しいただきました。続いて、米欧および当館の4人の学芸員が自館での日本美術展示について事例を交えて発表があり、パネルディスカッションでは、それぞれの日本美術との関わり、各館の取り組み、若年層へのアプローチ等活発な討議が展開し、日本美術の多様性が示されました。
まずは、国立民族学博物館 吉田館長の基調講演から
フリーア美術館 フランク・フェルテンズ博士からは、米国ワシントンDCにある同館での日本美術展示についてお話しいただきました
浮世絵コレクションで有名なホノルル美術館から、スティーブン・サレル氏がハワイでの挑戦について語りました
スイスのチューリッヒ・リートベルグ美術館 カーン・トリン博士は、自身が手がけた「蘆雪」展「神坂雪佳」展を例に、一般へのアプローチの違いをお話しいただきました
当館 松嶋雅人からは、一昨年話題になった「マルセル・デュシャンと日本美術」での試みについて紹介しました
パネルディスカッションは、展示室でみせる日本美術について、和やかかつ活発に意見交換がなされました
シンポジウム後は参加者との交流会も
翌日の専門家会議では、シンポジウムへのコメントから、英国での日本美術活用事例、博物館や学芸員のサステイナビリティ、また実務について、博物館業務に即した議論が交わされました。
持続可能性や輸送実務の課題など、幅広く実務に則した議論が展開しました
きもののワークショップでは、折り紙風の紙を使って、子ども用のきものについて、模様の意味や仕立て方を学びました
書跡ワークショップでは、実際の作品を前に掛物や巻物の取り扱い講義
特別展「出雲と大和」見学
京都国立博物館での刀剣取り扱い講座
東福寺見学
京都での懇親会は、欧米の皆さんにはゆかりの深い山中商会の事務所跡を利用したレストランで開催されました
大徳寺龍光院和尚様による坐禅体験
空気が凛として清々しい体験でした
日本美術品の修理の様子を見学(岡墨光堂)
第16代大西清右衛門様より、茶釜の技法について実物を使って説明を受けました
千總美術館では、現代の京友禅を見ながら染織技法について学びました
最終日にはフィードバックセッションを開催。1週間のプログラムを振り返りました
これが行われたのは2月の初め、世界中がコロナ禍に見舞われる直前の出来事です。今の状況では、米欧からこれだけの人を集めて事業を行うことは夢のようで、この後このようなことをいつ行えるかもわかりません。しかし、この交流でつちかったネットワークを大切に生かし、日本美術で何ができるのか、またトーハクが世界に向けて何を発信していけるのか、探っていきたいと思います。
東福寺にて
永井和尚を囲んで
| 記事URL |
posted by 鬼頭智美(広報室長) at 2021年01月18日 (月)