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特集「親と子のギャラリー よりそう動物たち」みどころ(2) 担当室員が選ぶ、おすすめ作品

こんにちは。教育講座室の横山です。
6月16日(日)まで、特集「親と子のギャラリー よりそう動物たち ―家族、仲間のすがたとかたち―」(本館2階特別2室)を開催しています。


特集「親と子のギャラリー よりそう動物たち ―家族、仲間のすがたとかたち―」の展示風景

前回のブログ(特集「親と子のギャラリー ―よりそう動物たち」みどころ(1))では、この特集展示の開催背景にあたる恩賜上野動物園、国立科学博物館との三館園連携企画についてと、5月に実施した特別講演会の様子をご紹介しました。

今回は、みどころ(2)として、現在展示中の作品のなかから、私たち教育講座室員が選ぶおすすめ(推し)の作品をそれぞれご紹介したいと思います。

 
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推し作品 その1:「猿図(さるず)」
サルたちの個性的な表情、ほのかなグラデーションのついた肌の色合い、ふわふわで空気にとけていくような毛並み。濃い墨と薄い墨、そしてわずかな色彩を効果的に使うことで、今にも動き出しそうなサルの姿を描いています。


猿図 森狙仙筆    江戸時代・19世紀 亡九鬼隆一郎相続財産法人寄贈 

作者の森狙仙(もりそせん、1747-1821)は大阪を中心に活動した人で、日本に渡ってきた中国人画家・沈南蘋(しんなんぴん)や、京都で活躍していた円山応挙(まるやまおうきょ)などの影響を受けて、目で見える様子をそのまま絵に表すような、いわゆる写実的表現を好んで用いました。実は「猿の絵の名手」で知られていて、人生で描いた作品の多くがサルを題材にしていたそうです。
改めて作品をみると、サルの姿だけでなく、親子の表情や、仲間との距離感などもよく観察して描いていることに気が付きます。
繊細な毛並みの表現には、サルたちへの愛情があふれているように感じませんか?
特に、登場している3匹のサルのうち、下にいるサルの表情にご注目ください。
歯茎がみえるほど口を大きく開けたサルが、大きな声で上の親子猿に声をかけているように見えますが…

上野動物園の動物解説員、小泉祐里さんによると、このサルの表情は、力関係が下のものが見せる弱気な表情なのだとか。
私はてっきり「ねえ、その虫、見せてよー!」という表情なのかと思っていましたが、そうではなく、「とられてしまって悲しい、悔しい、でもしょうがない…」というイメージのようです。
日ごろからサルたちをよく観察していた狙仙が、彼らの関係性を理解した上で作画なのかもしれません。

猿図(部分)
猿図(部分)
 
3館園の企画では、上野動物園や国立科学博物館の皆様と意見交換をしながら作品を考えるので、それまで思ってもみなかったような発想や新しい発見がたくさんあります。
今回もテーマに併せて伺ったお話をいくつかパネルにしていますので、こちらもぜひ会場でご覧になってみてください。
(教育講座室長/日本絵画担当・金井裕子)
 

動物園、科博コラボ解説のパネル
 
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推し作品 その2:「緑釉羊圏(りょくゆうようけん)」
「ヒツジは肉も毛も有効活用でき」(作品解説より引用)、何よりモフモフで群れる様が愛らしい生き物です。
こちらは副葬品としてお墓に埋葬するために作られた焼き物で、ヒツジたちと一緒なら死後の寂しさも和らぎそうです。
孤独な死後の世界を副葬品で彩ろうとした2000年前の中国の人びとに思いを馳せると、まさにこのヒツジたちは「よりそう動物たち」なのかもしれません。私のお気に入りは、入口から覗いて「どのヒツジの顔が見えるかな?」と低めの視点からの鑑賞です。
(教育講座室アソシエイトフェロー・山本桃子)

(上からみたところ)
(入口からみたところ)

緑釉羊圏 中国    後漢時代・2~3世紀

 
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推し作品 その3:「袱紗 紺繻子地鼠大根米俵模様(ふくさ こんしゅすじねずみだいこんこめだわらもよう)」
皆さんはネズミというと、どのようなイメージを思い浮かべますか?
お祝いの品を贈るときに用いる掛袱紗(かけふくさ)である本作品には、繁殖力が強く子孫繁栄の縁起物としてネズミが描かれています。
ネズミは大黒様を助けたことから、神の使いとされています。京都のお寺では12月に、大根焚き(だいこんたき)が行われます。これには「大根を食う(だいこくう)鼠」という意味があるようです。(私も京都に住んでいた際、大根焚きへ行ってきました。寒い中お寺に足を運んで、あつあつの大根を頂くのは心からほっこり温まります。)
大黒様は五穀豊穣の神であり、俵に乗っている姿がイメージされますが、大黒様をただ描くのではなく大黒様にまつわる縁起物のネズミや大根、俵などを描く吉祥文様が粋です。
(教育講座室事務補佐員・東間礼華)


袱紗 紺繻子地鼠大根米俵模様 江戸時代・18~19世紀    アンリー夫人寄贈

 
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推し作品 その4:「埴輪 子を背負う女子」
正面からみると、一人の女性の埴輪。でも、少し回って見てみると…後ろには小さな子どもがぴったり。子どもを背負っている様子があらわされています。
背負われた子どもの表情は何とも穏やかで、みているこちらも穏やかな気持ちになります。
こうした親子の埴輪自体珍しいようですが、考古研究員の話では女性のすぼめた口元のあらわし方も、あまり例がないとのこと。もしかしたら、子守唄をうたっているのかもしれません。
展示では「よりそう動物」としてヒトの表現にも着目していますが、時代を超えてもかわらない、親子のよりそいが感じられる一作です。
(教育講座室主任研究員・横山梓)

(斜め横からみたところ)
(こどものアップ)

埴輪 子を背負う女子 栃木県真岡市 鶏塚古墳出土 古墳時代・6世紀 橋本庄三郎氏寄贈

 
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いかがだったでしょうか。それぞれの「推し」ポイントが伝わりましたでしょうか。

展示構成を考えるときから、室内ではいろいろアイディアを出し合いながら作品を選定しています。
ですので本当は、「おすすめは全部!」と言いたいくらいに、ここではご紹介しきれなかった作品もみどころに富んだものばかりです。

ぜひ特集「親と子のギャラリー よりそう動物たち ―家族、仲間のすがたとかたち―」の展示会場でじっくりご鑑賞いただき、皆さんのお気に入りを見つけていただければ幸いです。

カテゴリ:特集・特別公開

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posted by 金井裕子、横山梓、山本桃子、東間礼華(教育講座室) at 2024年06月11日 (火)