特集「焼き締め茶陶の美―備前・信楽・伊賀・丹波―」鑑賞のススメ
こんにちは。研究員の横山です。
現在本館14室で展示中の特集「焼き締め茶陶の美」、もう御覧いただけましたでしょうか。
9月の半ばに展示替えをし、秋の訪れとともに、ひとつ前の特集「やちむん―沖縄のやきもの」から展示室の雰囲気が一変しました。
さて、「焼き締め」と聞いて、皆さんどんなイメージを持たれるでしょうか。
土もの、茶色、ゴツゴツ、ざらざらとした表面…
簡単に「焼き締め」の概要、しくみをご説明しますと、焼き締めは、釉(うわぐすり)を掛けずに高温で焼かれるやきものです。
ここでいう「高温」とは、陶磁器の世界でいう「高い温度」ですので、窯のなかで焼かれる、およそ1200~1300度ということになります。
焼き締めの土には、高温になっても焼き崩れることのない「耐火度の高い」土が用いられます。
耐火度の高い土のなかには、高温で焼かれることで成分が液状となるもの(珪石や長石など)が含まれており、これらが他の細かい粒子を焼き付けて全体を強く硬くします。
まさに、「焼き締まる」わけです。
こうして、生地はガラス質の釉薬で覆われなくとも、水を通すことのない堅牢なものとなります。
日本では、中世から備前(岡山)、信楽(滋賀)、丹波(兵庫)、越前(福井)、常滑(愛知)といった窯でこうした焼き締めが作られてきました。
今回の特集では、焼き締めのなかでも「茶陶」(茶の湯の器)にスポットを当て、それらをつくりだしてきた備前、信楽、伊賀、丹波の作品をご紹介しています。
焼き締め茶陶は、茶の湯の歴史にとってとても重要です。
なぜなら、焼き締め茶陶の登場が、すなわち和もの(国内産)茶陶の登場となるからです。
室町時代後期に「侘び茶」が広まるようになると、それまで唐物(中国産)を第一としていた価値観は変化していきます。
「心にかなう」ものを選ぶことに重きを置いた「侘び数寄(すき)」の茶では、華やかな茶碗ではなく、あえて粗相な器に目を向け、取り上げていきました。
最初に茶席に登場する焼き締め茶陶は、「見立て」の器です。
穀物を入れる壺など、もともとあった日用の雑器を水指や花入に転用したものでした。
鬼桶水指 信楽 室町時代・16世紀
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種壺形水指 備前 室町~安土桃山時代・16世紀
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やがて、安土桃山時代から江戸時代の初めにかけて、茶の湯が隆盛をきわめあちこちで茶会が開かれるようになると、創意性をもった器が登場します。
扁壺形花入 備前 江戸時代・17世紀 松永安左エ門氏寄贈
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耳付花入 伊賀 江戸時代・17世紀
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展示室では、作品を通じて「見立ての器」から「創造の器」まで、変遷や違いをよく感じていただけるのではないかと思います。
本館13室「陶磁」や本館4室「茶の美術」などで複数の作品を展示する機会はこれまでにもありましたが、東京国立博物館所蔵の焼き締めがここまで一堂に会することは珍しく、なかなかの見ごたえです。
実は展示前、「焼き締めばかりがずらりと並んだらどうなるだろう、地味な感じになるかしら」と個人的に少し気がかりだったのですが、結果はむしろ逆でした。
今回のように並ぶことで、それぞれの作品が「個性」をより強調しているように感じられ、個別にみていた時とはまた違った印象がしています。作品数が一番多いのは備前窯のものですが、同じ備前でも焼き上がりの色合いに幅があり、器種も多岐にわたっていることがあらためて感じられます。
さあいざ、展示室へ!
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ギャラリートークなどでいつもお伝えしているのですが、ぜひ「いろいろな角度」からご覧ください。
(あくまでほかの鑑賞者の方の邪魔にならない範囲で。どうぞ可能な限りぐるぐると!)
特に、焼き締めについては、窯のなかでの炎のあたり方によって、ひとつの器のなかでも異なった焼き上がり、表情を見ることができます。「火表(炎が直接当たった面)」「火裏(炎が直面しなかった面)」というような表現もあります。
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展示室では「おや?」「いつもと何か違う?」と思われる方もいるかもしれません。
今回は、茶陶としての姿をお伝えすることに重きを置き、水指には蓋をつけて展示しました。
袋形水指 信楽 江戸時代・17世紀 広田松繁氏寄贈
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特集 焼き締め茶陶の美―備前・信楽・伊賀・丹波― 本館 14室 2019年9月18日(水)~ 2019年12月8日(日) |
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posted by 横山梓(保存修復課研究員) at 2019年10月29日 (火)