本館 14室
2019年9月18日(水) ~ 2019年12月8日(日)
焼き締めとは、釉薬(うわぐすり)を掛けずに高い温度で焼かれるやきものです。平安時代末以来、壺、甕(かめ)、擂鉢(すりばち)といった日用の器が各地の窯で量産されました。室町時代後期からは、備前(びぜん)や信楽(しがらき)で作られた焼き締めが国産の陶器としては初めて茶の湯の器(茶陶)として茶席に取り入れられるようになります。それらはもともと茶陶として作られたものではありません。穀物や種子を貯蔵するための桶や壺などとして作られたものが、建水、水指(みずさし)、花入(はないれ)として取り上げられた、いわゆる「見立ての器」でした。やがて安土桃山時代から江戸時代の初めにかけて侘茶(わびちゃ)の美意識が深まり、各地で茶会が開かれるようになると、焼き締めの器も好まれ、他の窯でも茶陶としての創意性が加えられた多彩な器がつくられました。
焼き締めの最大の魅力は、土の素朴な味わい、豪放的な造形、そして窯の中で土と炎が偶然に生み出す変化にあふれた器肌です。茶陶においても、華やかな装飾が施されたものではなく、あえて麁相(そそう)なものに美が見出されました。こうした鑑賞眼は他の国には例を見ません。そこには技術的な変革によらず、独自の美を醸成させてきた日本陶磁の歴史があり、古くは縄文時代の造形美を見出したのと同じような日本独特の独創性に富んだ審美眼があるといえるでしょう。
この特集では、当館が所蔵する備前、信楽、伊賀(いが)、丹波(たんば)で焼かれた焼き締め茶陶を紹介します。産地ごとの土の色の違いや、器種・器形の多様性など、個性豊かな表現をぜひご堪能ください。