トーハクくん、童子切安綱で刀剣の凄みを知る!
ほほーい、ぼくトーハクくん。
今日は刀剣の部屋に来たんだほ。この間の「大包平」にも負けず劣らずの、すごい刀剣が展示されてると聞いて、さっそく、すっかり友達、酒井研究員に会いにいくんだほ。
ごめん、トーハクくん。ちょっと仕事がたてこんでて、「童子切安綱」を案内する時間がないんだ。また今度にしてくれる?
(ガーン)せっかく来たのに、それはないんだほー!
トーハクくん、僕でよかったら案内するよ。
ほ!? その声は10月にトーハクへ来た佐藤研究員!
やったほー、これでまた刀剣に詳しくなれるほ。
それじゃあ大包平と並び “日本刀の横綱” といわれる天下の名刀、「童子切安綱」を見に行くほ!
(なんだかこの人、ノリが良さそうだほ…)
トーハクくん、これが今回ぜひ紹介したい国宝「太刀 伯耆安綱(名物 童子切安綱)」です。
さて、この題箋に書かれている名前、どう読むか分かるかい?
国宝 太刀 伯耆安綱(名物 童子切安綱) 平安時代・10~12世紀
むっ、佐藤研究員、こう見えて僕は広報大使なんだほ。トーハクの文化財のことは任せてほ。えーと…
こくほう たち はく(うーん)なんとかかんとか めいぶつ なんとか?
正解はルビにあるとおり、「こくほう たち ほうきやすつな(めいぶつ どうじぎりやすつな)」だよ。
(ズコっ。ルビがあったほ)
ということは、古備前包平ふうに考えると、伯耆の安綱さんっていうこと? 伯耆ってなんだほ?
うん、その「ふう」の考えは間違ってないね。「ほうきやすつな」、伯耆は地名で安綱は人名。
安綱は、今から約千年前、平安時代の終わり頃に、伯耆国、現在の鳥取県西部で活躍した刀工です。
実は伯耆国は、備前国(岡山県)や山城国(京都府)のような、メジャーな刀剣産地ではないんだけど、ここは良質な鉄の産地で、その素材の良さが名工・名刀を生み出したんだね。
茎に打たれた銘「安綱」
ふーん、いい素材がある地にはいい刀工…、うん納得だほ。
じゃあ、そのあとの「名物 童子切安綱」っていうのはなんだほ?
まず、名物っていうのは分かるかい?
むっ、佐藤研究員まただほ! 見くびってもらっては困るんだほ。
その土地にしかないような特産品、早い話が、おいしいお菓子のお土産のことだほ。
・・・
(ちょっと空気が変わったほ)
「名物」というのは、江戸時代に八代将軍徳川吉宗が、家来に命じて作らせた名刀リストである『享保名物帳』に掲載された刀剣のことを指すんだ。
あの暴れん坊がそんな刀剣カタログを作ってたんだほ。
そう、暴れん坊が作った刀剣カタログ。そこには「名物 ○○」と名刀がいくつも記載されているんだ。
トーハクくんは、酒呑童子って聞いたことあるかい?
お酒が好きな子供? まあまあ不良だほ。
惜しい(わけない、全然)。童子切安綱の童子は、丹波国(京都府)の大江山にいたという酒呑童子と呼ばれた鬼のこと。
鬼?
そう。藤原道長に仕えた武将源頼光が、この安綱の太刀で酒呑童子を斬ったという伝説が名前の由来なんだよ。
童子を切った安綱… えーっ! 今ここに展示してあるのは、酒呑童子を斬ったホンモノなんだほ!
でも、すごく大きかった大包平に比べると、安綱さんが作ったこの太刀は細い感じがするけど…
そうだね、でもよーく見てみて。
まず姿。すらりとした刀身が強く弓なりに反って緊張感のある曲線を描いている。そして地鉄と刃文。パッと見は地味に見えるけど、じっくり見ていくと複雑で細やかな変化に富んでいることが分かる。
目が肥えると見えてくることがたくさんある、通好みの作風ともいえるんだよ。
展示室にはこの童子切安綱のほかにも、それぞれに特徴がある刀剣が多く展示されているから、見比べてみてほしいな。
小乱(こみだれ)と呼ばれる不規則で複雑な変化に富んだ波文
うんうん
安綱の作風には、備前刀工の躍動美、山城刀工の端正美とは異なる、いい意味での素朴さ、野趣があるといわれてるんだ。その最高傑作がこの「童子切安綱」。
ぼくにも見えてきたほ。でも、通好みだから国宝になったほ?
酒井研究員に聞いたと思うけど、国宝に選ばれる文化財は、美術品として優れているだけでなく、華麗なる由来伝来を持ち合わせているんだよ。
「童子切安綱」は安綱の最高傑作であり、その造形の素晴らしさが酒呑童子伝説と結び付いたっていうのは今言った通り。そして、 “天下五剣” の一つとして古くから名高く、足利将軍家→豊臣秀吉→徳川家康・秀忠→越前松平家→津山松平家と伝えられてきたという。
さらに保存状態が抜群にいい。その証拠に茎(なかご)の目釘穴が一つしかなくて、製作当初の姿をほぼ留めていることが分かるね。これは文化財としてとても重要なことなんだ。
いかに大切にされてきたか分かってもらえるかな。
童子切安綱の茎には目釘穴が一つしかない
重要文化財 太刀(部分) 備前景依 鎌倉時代・12~13世紀
拵(こしらえ)が作り直されるたび、柄を固定する目釘の穴があけられている
[本館13室(刀剣)にて、2019年2月17日(日)まで展示中]
うん、分かるんだほ。それで、実際に手に取った感じはどうなんだほ?
「童子切安綱」は数十口ほど現存する安綱の作刀の中でも群を抜いた、いわば破格の造形。だからこそ作風や由来伝来に応じた名前「童子切安綱」が付けられたんだけど…。
うーん、そういうものには神が宿る。
僕には刀身から何か気が放たれているように感じるよ。実際、展示するときに鞘から抜いた瞬間、ビビッとくるからね。
「童子切安綱」や「大包平」など「名物 ○○」のような名前が付けられたものは、もう単なるモノではなくて、この世で一つの命を吹き込まれた存在とも言えるんじゃないかな。
なんだか、とーっても凄みを感じる刀に見えてきたほ。もっとトーハクファンのみんなに教えたいほ!
そうだね。またとない機会だから、僕もぜひみんなに見に来て欲しいんだほ。
良い作品は良い研究員を育てる。ついでに、トーハクくんに触れた研究員はトーハクくんのファンになる。佐藤研究員が熱くなるのもムリないほ。
国宝「太刀 伯耆安綱(名物 童子切安綱)」は、本館13室(刀剣)で2019年2月17日(日)まで展示してるから、年末年始にトーハクに遊びに来たときは、ぜひ見ていってほしいんだほー!
※東京国立博物館は、年末は2018年12月25日(火)まで、年始は2019年1月2日(水)から開館します。
カテゴリ:研究員のイチオシ、トーハクくん&ユリノキちゃん
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posted by トーハクくん at 2018年12月21日 (金)