国際交流室の王蕾(オウ ライ)と申します。私の苗字から、皆様はすぐ気づいてくれたと思いますが、私は中国人です。東京国立博物館で私のような外国人はどんな仕事をしているのだろう、という疑問が出てくるかと思います。今日は、私のトーハクでの仕事をご紹介します。
現在トーハクでは私を含めて、中国(2名)、韓国(2名)とアメリカ(1名)の国籍を持つ職員が働いています。私たちは国際交流室という部署に所属しています。
国際交流室の仕事内容を大きく分けると、国際展覧会のコーディネート、海外博物館・美術館との人的学術的交流事業と多言語対応です。
その中で、現在私が主に担当している仕事は、展示関係の中国語対応です。
トーハクの展示解説は日、英、中、韓の四か国語で表記しています。キャプション(説明文)に書かれた情報は展示室によって、多少違いがありますが、基本的に作品タイトル、時代、作者、作品解説が書かれています。トーハクの作品解説は日本語の場合、119字以下ですが、外国語は、それを圧縮した30字の日本語原稿に基づいて翻訳を行っています。
「褐釉茶入 銘 木間」の四か国語キャプション
美術品の翻訳には語学の知識はもちろんですが、日本美術の知識も不可欠となります。特に鑑賞に使われる専門用語はそのまま翻訳できないものが多く、これらの概念を外国人が理解しやすいように翻訳するのは大変難しいです。例えば、焼き物の解説に使う「景色」です。
日本語のキャプションでは、この瀬戸の茶入を「腰から底部を除いて鉄釉を掛け、その上に灰釉を随所に施して、それが景色となっている」と説明しています。
「褐釉茶入 銘 木間」の日本語キャプション
「褐釉茶入 銘 木間」の英・中・韓国語キャプション
焼き物を愛好されている方はご存じだと思いますが、ここでいう景色は、美しい景観・風景のことではなく、焼き物の見所を指します。
日本の焼き物の見所は、表面にかけた釉の流れ具合や溶け具合、また焼成時の火加減により生じた窯変などがあります。その中で私が不思議に思ったのは、焼き物の釉が流下するところや、長年の使用によるひび割れ、シミなどが鑑賞のポイントになっていることです。
褐釉茶入 銘 木間 瀬戸 江戸時代・17世紀 G-5366
2018年6月19日~9月9日まで本館4室にて展示
点斑文茶碗 唐津 江戸時代・17世紀
※ 現在展示しておりません
焼き物の見どころを考えるとき、中国人の私が真っ先に思い浮かべるのは、白磁や青磁の冴えた釉色、端正な造形や精巧な文様など、精度の側面に注目しがちです。しかし、日本には焼き物が窯の中や使用の過程で生じた不測の変化を焼き物の一部分として愛でる文化があり、人工的な完璧さを美しいと感じる中国とは、まるで正反対の鑑賞の観点と美意識の違いがあるのだと感じました。皆様はどのようにお考えでしょうか?
青磁千鳥香炉 中国・龍泉窯 南宋時代・13世紀 TG-2166
2018年5月22日~9月2日まで東洋館5室にて展示
天藍釉罍形瓶 中国・景徳鎮窯 清時代・乾隆年間(1736~95年) TG-2681
2018年5月22日~9月2日まで東洋館5室にて展示
トーハクでは、日本の美術品だけではなく、中国、朝鮮半島、東南アジア、西域、インド、エジプトなどの美術品も展示しております。皆様はこういった文化の違いを考えながら、各国の作品や四か国語の解説を楽しんでいただければ幸いです。
カテゴリ:トーハクよもやま
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posted by 王蕾(国際交流室アソシエイトフェロー) at 2018年06月29日 (金)