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特集陳列「花生」-さまざまな素材と用いられかた―

3月から展示中の特集陳列「花生」(~6月2日(日)、本館14室)、もうご覧いただけましたでしょうか。
展示期間中に季節はめぐり、新緑が気持ちのいい季節になってきました。

さて今回の特集陳列は、陶磁担当の二人で企画しましたが、
すでに展示をご覧いただいた方はお分かりのとおり、花生の材質はやきものに限られません。
展示室中央のケースには、古銅(胡銅:銅、錫、鉛の合金)の花生を展示しています。
古銅の花生は、中国古代の青銅器にかたちをならい、日本では室町時代から格式の高いものとして珍重されてきました。

古銅象耳花生 銘 秋月 明時代・16世紀 1口 松永安左エ門氏寄贈
古銅象耳花生 銘 秋月  中国 明時代・16世紀 東京国立博物館蔵(松永安左エ門氏寄贈

そして奥のケースには、竹、瓢といった自然素材の花生を並べています。
竹の花生は、千利休の花生を代表するものとして知られています。
東博に所蔵される一重切花生「園城寺」は、天正18年(1590)、利休が秀吉の小田原攻に帯同した際、伊豆の韮山で伐り出した竹から作った三つの竹花生のうちのひとつとされ、利休は陣中の茶会でこれらの竹花生を用いたといわれています。
明日をも知れない臨戦状況下の緊張感のなかにあって、竹という身近な素材で花生を作り上げたことは、利休の茶の湯のテーマのひとつである「創造性」をあらわす物語として象徴的に伝えられてきました。

竹の花生は、「置く」だけでなく「掛ける」という用い方もされます。
昨年、茶席の床の間を特集した雑誌の企画で、先の「園城寺」を床の間に掛けて撮影するという機会がありました。
壁にかかった園城寺花生は、床に置いたときとはまた異なり、厳しさのなかに軽やかさが加わったように感じられました。
一重の花窓を下から見上げるという体験も初めてでしたので、大変新鮮でした。

竹一重切花入 銘 園城寺 千利休作 安土桃山時代・天正18年(1590) 1口 松平直亮氏寄贈
(左) 竹一重切花入  銘 園城寺  千利休作  安土桃山時代・天正18年(1590) 東京国立博物館蔵(松平直亮氏寄贈(2013年5月19日(日)まで本館4室にて展示)
(右) 茶室の床の間に掛けた様子

やきものの花生でも、掛けることを意図して背面に釻(かん)がつけられたものがいくつか見られます。
また、かつて掛花生として穴を開けて使用し、後に鑑賞用(または展示用)として後から埋めた跡のあるものも見られます。
なかには、え・・・これも掛けて使ったの? というような重厚なやきものも含まれます。
茶席に合わせて置いたり掛けたりと、用い方が変えられるのが花生の特徴の一つです。

古染付人物笹蟹文砂金袋花生 景徳鎮窯 明時代・17世紀 1口 横河民輔氏寄贈
古染付人物笹蟹文砂金袋花生 景徳鎮窯 中国 明時代・17世紀 東京国立博物館蔵(横河民輔氏寄贈

さまざまな素材と合わせて、用いられかたにも着目しながらぜひお楽しみください。
 

 

カテゴリ:研究員のイチオシ

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posted by 横山 梓(特別展室研究員) at 2013年05月15日 (水)