特別展「日本のたてもの―自然素材を活かす伝統の技と知恵」を紹介するほ!
2020年12月24日(木)から特別展「日本のたてもの―自然素材を活かす伝統の技と知恵」を開催しています。
トーハクくんとユリノキちゃんが会場の様子を紹介します。
ほほーい、ぼくトーハクくん! 早速だけど今から特別展「日本のたてもの―自然素材を活かす伝統の技と知恵」を見にいくほ。事前予約も済ませてあるからバッチリだほ!
トーハクくん、どんな展覧会か知っているかな?
模型が展示してあることは知っているけど、あまり知らないほ。
この展覧会は国立科学博物館と国立近現代建築資料館とトーハクの3会場で開催しているのよ。
ほー。3会場に分かれているってことは、それぞれ違う模型を展示しているほ?
そうよ、国立科学博物館は「近代の日本、様式と技術の多様化」、国立近現代建築資料館は「工匠と近代化―大工技術の継承と展開」、そしてトーハクは「古代から近世、日本建築の成り立ち」、それぞれのテーマに沿ってそれぞれ模型を展示しているわ。
どの会場でもいろんな模型が見れそうだほ。
トーハクでは、国宝や重要文化財などの木造建造物の模型を展示してるわ。自然素材を駆使する伝統的な技と知恵を、模型を通じて鑑賞することができるのよ。
なんだか、日本のたてものならではの造形を見ることができそうだほ。
それじゃー、見に行きましょうか!
会場は表慶館だほ、さっそく大きな模型がお出迎えしてくれてるほ。
画像左:一乗寺三重塔 1/10模型 昭和50年(1975) 国立歴史民俗博物館蔵
画像中:法隆寺五重塔 1/10模型 昭和7年(1932) 東京国立博物館蔵
画像右:石山寺多宝塔 1/10模型 昭和38年(1963) 東京国立博物館蔵
これらはお寺の搭の模型だわ。法隆寺五重搭の模型には、製作した工匠の、法隆寺に伝わる飛鳥時代の木匠の技を継承する「最後の宮大工」と言われた西岡常一さん(1908~1995)の名前が記されているのよ。
まさに日本の伝統的な技の粋だほ! 一番下の階の扉が開いていて、中も見れるほ!
法隆寺五重塔の内部に作り込まれている塔本塑像も見ることができるわ!
模型の内部も見どころよ。この機会にしっかり見ましょうね。
ユリノキちゃん、見て見て! 真っ二つだほ。
唐招提寺金堂 1/10模型 昭和38年(1963) 東京国立博物館蔵
唐招提寺は鑑真が開基して、金堂は8世紀末頃に建立されたのよ。もちろん、模型も奈良後期の建築様式を正確に表しているわ。
模型内部の様子がよーく見えるほ
お、これは今にも鐘が鳴りそうな模型だほ。
東大寺鐘楼 1/10模型 昭和41年(1966) 東京国立博物館蔵
本物の鐘も大きいけど、模型でも大きいわね。がっしりとした構造と、軒下と柱の間の装飾はそれぞれ異なる建築様式が取り入れられていて、珍しい建築らしいわよ。
2階にいくほ。お、なんだか雰囲気が少し変わったほ。
春日大社本社本殿 1/10模型 昭和62年(1987) 国立歴史民俗博物館蔵
仏塔から神社のコーナーにきたからだね。これは奈良の春日大社本殿の模型よ。
日本のたてものでよく見る屋根の形しているほ。
切妻【きりつま】造っていうのよ。正面に庇【ひさし】がついているのも神社でよく見るわね。
これは昔のうちだほ?
登呂遺跡復元住居 模型 東京国立博物館蔵
昭和18年に発見された弥生時代の登呂遺跡の住居を復元した模型だわ。
何か教科書で見たことがある気がするほ。
弥生時代の暮らしの様子が思い浮かぶわね!
これはお茶室みたいに見えるほ。
如庵 1/5模型 昭和46年(1971) 国立歴史民俗博物館蔵
織田有楽斎が元和4年(1618)に建てたお茶室よ。国宝のお茶室は少ないから、代表例として製作された模型なの。間取りも特徴的だから内部もよく見てみましょうね。
2階建てだほ。これも家とかを二つにわけた模型ほ?
東福寺三門 1/10模型 昭和54年(1979) 国立歴史民俗博物館蔵
門の模型よ。1階にも2階にも屋根がある二重門と呼ばれる造りよ。本物の高さ22メートルが伝わるような、とてもスケールの大きい模型だわ。
これはぼくでもわかるほ。お城の模型だほ。
松本城天守 1/20模型 昭和38年(1963) 東京国立博物館蔵
姫路城天守とともに五重天守の代表的な建築よ。ここでは、交易によって城下町が栄えた城郭を紹介しているわ。
これだけほ?
平成館ガイダンスルームにあるよ。
首里城正殿 1/10模型 昭和28年(1953) 沖縄県立博物館・美術館蔵
沖縄県外に初出品の首里城正殿の模型よ。2019年10月に首里城正殿は焼失したけど、この展示を通して、首里城復興に思いを馳せていただきたいわ。
松山城とは同じお城でも雰囲気が全然違うほ!
琉球建築として独特の手法が使われているのよ。
説明してほ。
もう時間もないからここで終わりよ。特別展「日本のたてもの―自然素材を活かす伝統の技と知恵」は2021年2月21日(日)まで開催しています、ご観覧には事前予約が必要なので、展覧会公式サイトをご確認ください。
(逃げたほ・・・)
※国立科学博物館会場は1月11日(月・祝)で閉幕、国立近現代建築資料館会場は2月21日(日)で閉幕いたします。
カテゴリ:トーハクくん&ユリノキちゃん、2020年度の特別展
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posted by トーハクくん&ユリノキちゃん at 2021年01月06日 (水)
新年、あけましておめでとうございます。
新しい年を無事迎えられましたことをお祝い申し上げますとともに、新型感染症に苦しんでおられる方々に心よりお見舞い申し上げます。
当館は今年も2日から開館いたします。
入館には事前予約が必要で、感染症予防対策もしっかり行い、皆さまをお迎えいたします。
新春恒例の干支をテーマにした特集展示は「ウシにひかれてトーハクまいり」です。人の傍らでさまざまな営みを支えてきた牛にまつわる歴史と文化を紹介します。
また、今年で18回目となる台東区書道博物館との連携企画 特集「清朝書画コレクションの諸相」では、当館蔵の高島槐安(かいあん)収集品を中心に清朝宮廷の水墨画や書の名品などを公開します。
毎年、海外の研究者を招いて開催していた北米欧州ミュージアム日本美術専門家連携・交流事業は、今年はリモート開催となりました。今月末に行う国際シンポジウムは「日本美術がつなぐ博物館コミュニティ ウィズ/ポストコロナ時代の挑戦」と題し、オンライン配信いたします。
春は、特別展「鳥獣戯画のすべて」からスタートです。昨年から延期となっており、楽しみにお待ちいただいた方も多いのではないでしょうか。人気の甲巻は当館初の試みとして、動く歩道でご覧いただく予定です。皆さまにできる限りストレスなくご鑑賞いただけるよう工夫してまいります。
また、この展覧会に関連して、特集「鳥獣戯画展スピンオフ」を本館で行うほか、会期中は館内の全展示室で動物をモチーフとした作品を展示、作品にあらわされた動物をめぐって楽しめる企画を考えています。さらに、年末から工事をはじめた庭園は桜の季節には皆さまに入園いただけるよう現在メンテナンス中です。
夏は、聖徳太子の1400年遠忌を記念して「聖徳太子と法隆寺」展を開催します。奈良・法隆寺から「薬師如来坐像」にお出ましいただくほか、飛鳥時代以来の貴重な文化財、聖徳太子ゆかりの品々が揃います。
秋は「最澄と天台宗のすべて」展です。伝教大師最澄の没後1200年を記念する展覧会で最澄直筆の書や、平安仏画の優品をご覧いただくよう準備しております。
昨年お正月のブログの中でご紹介した特別展や催し物のいくつかは、残念ながら実現が叶いませんでした。今年も、ここでお知らせした特別展を含め、さまざまな行事を計画していますが、状況に合わせて、開催等を検討し、皆さまに安心して博物館をお楽しみいただけるよう万全を尽くして参ります。感染症が存在する現状を受け入れながらも魅力的な博物館とは何かを模索し、皆さまをお迎えしたいと思います。
一方、実際に博物館にお越しになれない皆さまにも博物館を楽しんでいただけるよう、ウェブサイトでの情報提供やブログの充実、YouTubeでのギャラリートークなど動画の配信にも力をいれる所存です。
さまざまな博物館の楽しみ方ができるよう、そして少しでも皆さまのこころが豊かになりますよう、努めてまいります。
今年モウ東京国立博物館をよろしくお願いいたします。
東京国立博物館長 銭谷眞美
カテゴリ:news
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posted by 銭谷眞美(館長) at 2021年01月01日 (金)
お久しぶりだほ!
2020年がいよいよ終わるほ! 今年はなんだかあっという間だったほ。。。
トーハクくん、年越し前に2020年の振り返りと、2021年の展覧会を紹介しましょうよ。
そうだね、ユリノキちゃん。それじゃー2020年最初の展覧会から紹介するほ。なんだったほ?
もう忘れちゃったの。お正月は毎年恒例の干支にちなんだ作品や新春をお祝いする作品を展示していたわ。それと、和太鼓や獅子舞などのイベントもやっていたよね。
そうだったほ。いろんなネズミさんの作品が展示されていて、要チュー目の作品だらけで心マウッ
スたほ! もちろん、集チューしながら作品見たほ。ねー。ユリノキちゃん。
同じ時期には台東区立書道博物館との連携企画「生誕550年記念 文徴明とその時代」を開催したね。文徴明の書と画の魅力を満喫できたわ~
1月15日(水)からは日本書紀成立1300年 特別展「出雲と大和」が開幕したほ。国宝「秋野鹿蒔絵手箱」や国宝「七支刀」など見どころ満載だったほ。
でも、3月8日(日)までの会期だった特別展「出雲と大和」は、新型コロナウィルス感染拡大防止のため、2月26日(水)で閉幕となったね。
そうだったほ、トーハクは2月27日(木)から6月1日(月)まで臨時休館していたんだほ。
毎年恒例の「博物館でお花見を」、ユネスコ無形文化遺産 特別展「体感! 日本の伝統芸能―歌舞伎・文楽・能楽・雅楽・組踊の世界―」、特別展「法隆寺金堂壁画と百済観音」が中止になったんだわ。
そうそう。それと、4月14日(火)から開幕するはずだった特別展「きもの KIMONO」は6月30日(火)開幕に変更となったほ。
それに、夏開催予定だった特別展「国宝 鳥獣戯画のすべて」、特別展「国宝 聖林寺十一面観音-三輪山信仰のみほとけ」も2021年の開催に延期になったわ。
ユリノキちゃん、展覧会が中止になったり、延期になったりしたけど、その代わりに新しく始めたこと話してほ。
そうね、臨時休館中でも少しでも皆様に総合文化展を楽しんでいただこうと思って、YouTubeで研究員による展示紹介の動画の公開を始めたんだわ。
月例講演会やギャラリートークも実際の会場では実施していないけど、動画で配信しているほ。
どの動画も見ごたえ充分だほ! 画像は【オンラインギャラリーツアー】副館長・井上洋一が語る、土偶からひもとく、時代を生き抜くヒントからだほ!
こどもたちのための特別な日として毎年開催している「トーハクキッズデー」も今年はオンラインでやったわね。
そうだほ。ほかにも、トーハクが実施している教育事業の中から家でも楽しめるコンテンツを集めた「みどりのライオン オンライン」っていうコーナーもウェブサイトにつくったほ。
みんなとトーハクをつなぐ場でもあるほ!
トーハクくん、そろそろオンラインから、展覧会などの話に戻ろうか。
臨時休館は6月1日(月)で終わって、6月2日(火)から再開したほ。その時から、総合文化展は事前予約制を始めたほ!
ほかにも新型コロナウィルス感染症の拡散・予防対策を行っているわね。動画でもお客様に紹介したよね。
ご来館前にぜひご覧ください
臨時休館後の最初の特別展は、春から夏に会期が変わった特別展「きもの KIMONO」だったほ。
きものの過去・現在・未来を見ることができたね!
続いて、秋といえば「博物館でアジアの旅」だほ。今年のテーマは「レジェンド」だったほ。
レジェンドそのものや、レジェンドが作ったもの、レジェンドが集まったもの、レジェンドだらけだったわ。次の特別展は!?トーハクくんどうぞ!
秋には特別展「桃山ー天下人の100年」を平成館で開催したほ。きれいで豪華な作品だらけだったほ。
トーハクくん、その前に特別展「工藝2020-自然と美のかたち-」を表慶館で開催していたわ。そして、12月24日(木)から特別展「日本のたてもの-自然素材を活かす伝統の技と知恵」を表慶館で開催中よ。どちらも表慶館の素敵な雰囲気にぴったりな展覧会だね。
3会場で開催。トーハクでは、古代から近世までの日本建築の成り立ちを紹介しています
入館にはオンラインでの事前予約が必要です
そのほかにも2021年1月11日(月・祝)まで開催中の特集「世界と出会った江戸美術」とか、特集の展示はやっぱりどれもおもしろかったほ。あれ、ユリノキちゃんどこ行くの。
庭園よ。
なんでだほ?
今年の春に庭園を一部リニューアルしたの忘れたの?
そうだったほ。そして今月から2021年3月末までまた工事しているんだったほ。
工事中は庭園散策できないけど、パワーアップする庭園が楽しみだね。
一部リニューアルで前よりも池に近寄れようになったほ!
ユリノキちゃん、来年の展覧会予定を紹介するほ。
新年の幕開けを飾るのは「博物館に初もうで」。2021年の干支にちなんだ、ウシをテーマにした作品に会えるのが楽しみだわ。
入館には事前予約が必要だほ。ギュウギュウ詰めにならないようご協力お願いだほ!
見終わったあとは、ウシに後ろ髪引かれる思いになるほ!
同じ時期には台東区立書道博物館との連携企画「清朝書画コレクションの諸相-高島槐安収集品を中心に―」を東洋館8室で開催しているわ。新年の書初めの参考にしてもいいかも!
清朝の皇帝、乾隆帝が愛した作品も展示されているわ
ユリノキちゃん、特別展のラインナップが知りたいほ!
一気にいくわよ。2021年4月13日(火)からは特別展「国宝 鳥獣戯画のすべて」、6月22日(火)からは特別展「国宝 聖林寺十一面観音―三輪山信仰のみほとけ」、7月13日(火)からは聖徳太子1400年遠忌記念 特別展「聖徳太子と法隆寺」、10月12日(火)からは伝教大師一二〇〇年大遠忌記念 特別展「最澄と天台宗のすべて」が始まるわ。
春からギガアツイ!わ。
法隆寺の寺宝を中心に展示するほ
一気に聞くとすごいボリュームだほ。締めのご挨拶するほ。
ご来館いただいた方、オンラインコンテンツを楽しまれた方、様々な形で関わってくださった皆様のおかけで、2020年を過ごすことができました。2021年も引き続き様々な形で応援いただけますと幸いです。
(みんなに会える日を楽しみにして、クッキー食べて栄養つけておくほ・・・)
トーハクくん! 私たちの動画の紹介忘れているわ!
皆様こちらから私とトーハクくんの動画もぜひご覧ください。
カテゴリ:トーハクくん&ユリノキちゃん
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posted by トーハクくん&ユリノキちゃん at 2020年12月25日 (金)
特別展「桃山―天下人の100年」も後期になりました。
10月末には、樹木を描いた狩野永徳筆「檜図屛風」、長谷川等伯筆の「松林図屛風」と「楓図壁貼付」が並んでいました。金地濃彩の「檜図」と「楓図」が力と華やかさを対比させて燦然とした光を放つ桃山らしいゴージャスな競演でしたが、その間に、柔らかい光と空気感を宿した「松林図」がこの時代の別な一面を見せていました。
これで、利休の侘茶につながる。展示企画者としては、ちょっと安堵の思いで見ていたのですが、11月3日からの展示では、「檜図屛風」に代わって「唐獅子図屛風」が展示されました。
大きさと迫力、「これぞ桃山!」が登場し、あたりは二頭の獅子に食われてしまった感があります。「松林図」の深く静かな世界が、などと言ってはいられません。松林図って小さいのもあったの?と質問される始末です。やっぱり「唐獅子図屛風」が時代を代表する1点だったと思わざるをえません。
右 唐獅子図屛風 狩野永徳筆 安土桃山時代・16世紀 東京・宮内庁三の丸尚蔵館蔵
左 国宝 松林図屛風 長谷川等伯筆 安土桃山時代・16世紀 東京国立博物館蔵
さて、この展覧会は、室町時代末から江戸時代初めにかけての100年間の美術を通して、我々が桃山文化と言っている「桃山」ってどんなもの?かを感じてもらおうという企画です。
それなら、100年を並べて比べて見ようというのが、実は面白いところ。11月3日からは、「変革期の100年―室町から江戸へ―」のコーナーに、室町時代に狩野派の基を築いた狩野元信(1477~1559)、その孫で桃山画壇の寵児、狩野永徳(1543~90)、永徳の孫で江戸狩野のスタイルを作り出した狩野探幽(1602~74)の、それぞれ代表作とされる水墨画の花鳥図が並びました。永徳はおじいさんの元信にかわいがられ、そのスタイルをまねて絵の勉強をしたはずです。
今展示されている「花鳥図襖」に続く別の襖には、右側に展示中の元信筆「四季花鳥図屛風」をもとにした描かれた図が続いています。そちらを展示すれば元信と永徳が比べ易いのにと言われそうですが、今回は、名古屋城の探幽筆「雪中梅竹遊禽図襖」と比べてもらうことを優先して展示しました。
右 国宝 花鳥図襖 狩野永徳筆 室町時代・16世紀 京都・聚光院蔵
左 重要文化財 雪中梅竹遊禽図襖 狩野探幽筆 江戸時代・寛永11年(1634) 愛知・名古屋城総合事務所蔵
図版などの写真でも、木の枝ぶりなどその類似や影響関係が指摘できる一方、永徳の豪放と探幽の瀟洒と言われる画風の違いが際立って感じられます。それが桃山狩野派と江戸狩野派の違いです。と、言うのが常ですが、二つが並んだ時、一緒に展示作業をしていた室町絵画を専攻している高橋研究員と奇しくもオゥッ!!と、声をあげてしまいました。「本当によく似てる。絶対に見てたね。」と、違いよりも「同じ、同じ」感が沸き起こり、ちょっと興奮気味に騒いでしまいました。もちろん探幽が永徳の作品を見て描いたとの共感です。
写真では、同じサイズで見てしまいますが、実際は、名古屋城の襖のほうが一回り大きいのです。それが永徳に負けない迫力を生み出しています。瀟洒という思い込みではなく、力強さもある作品だと感じた瞬間でした。
大きさや質感、光の影響。本物を見て感じることの大切さと深さ。この時代にこそ、その重みが増しているように思います。
カテゴリ:2020年度の特別展
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posted by 特別展「桃山」担当 田沢裕賀(学芸企画部長) at 2020年11月13日 (金)
前回の打刀のお話につづきまして、やきもの担当の三笠より特別展「桃山-天下人の100年」の茶陶の見どころについてお話しいたします。
さまざまな分野から「桃山」に迫ったこの展覧会。私もとても楽しみにしていた作品がたくさんあります。
たとえば「洛中洛外図屛風」の名品群。京都市中の景観と風俗を描いた図を楽しむには、まず天下人になった気持ちで俯瞰する眼と、虫メガネで見るような超微視的な眼、二種類の視点が必要なのだと、実物を目の前にして強く感じ入りました。
空間構成を破綻させずに、グググっと「個」のレベルまでズームアップできる絵師たちの力量もさることながら、当時の人びとの精確なモノの見方に驚かされます。
乱世を生き抜くには、理非を見分けるだけでなく、マクロかつミクロの視野が必要だったのでしょうか。
金雲に覆われた殷賑な都市の図には、この時代特有の高揚感とともに、隅から隅まで緊張感が張りつめているように感じられ、少し息苦しい気もしました。
国宝 洛中洛外図屛風(舟木家本)岩佐又兵衛筆 江戸時代・17世紀 東京国立博物館蔵
じつは同じような視線は、当時流行した茶の湯の道具にも向けられました。
当時の茶会記には、茶人たちが道具をその場で記憶し、記録した様子をみてとることができます。
例えば、天正14年(1586)12月19日に開かれたとされる津田宗及(つだそうぎゅう、?~1591)の会。
参席した博多の豪商神谷宗湛(かみやそうたん、1551~1635)は、四畳半の茶室の床に掛かった牧谿(もっけい)の軸の表装、絵の様子、賛、印について、さらに釜、茶碗(薄茶は高麗茶碗、濃茶は天目とある)、棗、袱紗、手水鉢、水指、建水、蓋置に至るまで、詳細を記録しています(『宗湛日記』より。展示予定はございません)。
天目については、次のように記されています。
「一天目、口三寸七八分、高二寸二三分、式の高一分半ほどに、外の薬はげ高にかかる、下の薬は白く黄うすようなるに、上薬黒き内に、しじらの如くにして、ちぼちぼと上に星の如く細いひかるようなるものあり、内に茶置一段くぼく、そばに細き木の枝の如くなる少高き白けたるものあり、底に朱の印のあとが少残る、そこの面落つ、白ふくりん」
口径は14㎝くらい、白みがかった黄色の釉の上に黒釉というように、釉薬は二重に掛かっていたのでしょうか。「しじら(縮緬)のように星のように光る」というのは釉の変化の様子を表しているよう。
また、見込みには茶溜りと、「細い木の枝のような」焼成時の付着物か削りの痕か、何か特徴があったらしいことがわかります。さらに口には銀か何か金属の覆輪が施されていたようです。
千利休、今井宗久(いまいそうきゅう)とともに天下の茶人として名を馳せた宗及が、唐絵に取り合わせた天目の姿、だんだんと目に浮かんできます。
このように、茶会において一期一会であった道具ひとつひとつ、形だけでなく、寸法、土や釉の色、質感を一瞬で把握するのは容易なことではありません。メモ書きを後から整えたであろうとはいえ、これだけ生き生きとした描写は、若き神谷宗湛にも相当に鍛えられた眼があってのことでしょう。
また、道具個々の良し悪しの判断は、多くのモノを見知った目利きだからできるもの。
まさに全体を把握する俯瞰的視点と、至近距離から捉える視点、どちらも必要なのです。
そうした眼力を持ったうえで、より良い道具を手にすることが、当時の茶人のステイタスであったと考えられます。
灰被天目(はいかつぎてんもく) 中国 元~明時代・14~15世紀 東京国立博物館蔵
室町将軍家のコレクションの評価と飾りの次第についてまとめた『君台観左右帳記(くんだいかんそうちょうき)』によると、灰被天目は「常用」、つまり日用に使う茶碗として、将軍には必要のないものといいます。
しかし、堆朱の台に載った姿は凛として、曜変や油滴の華やかさとは異なる威風を感じさせます。神谷宗湛になった気持ちで、360度じっくりご覧ください!
では、この「より良い道具」とは何でしょうか。
私は、「高麗茶碗」こそ、桃山茶人の眼を映すきわめて重要なカギではないか。「より良い道具」を求めた茶人たちが高麗茶碗に目を向けたことが、茶の湯の歴史、そして日本のやきものの歴史をより豊かなものに導いたのではないか、と考えています。
高麗茶碗に「雑器」のイメージを持っていらっしゃる方も多いでしょう。たしかに、16世紀の日本で見立てられた高麗茶碗とは、朝鮮半島で日用に焼かれた器であったと考えられています。釉薬の掛け残しがあったり、大きく歪んでいたり、粗野なつくりが印象的です。かつて私自身も、武将たちが覇を競った時代に見いだされた茶碗であるから、力強い豪放な作風が好まれたのだろう、と十把一絡げに考えていました。
ところが、高麗茶碗にはじつに豊富な種類があり、それぞれに個性があることを特別展「茶の湯」(2017年 東京国立博物館)で知りました。
薄く鋭い茶碗もあれば、おっとり柔らかな印象の茶碗、釉色が華やかで典雅な茶碗もあり、表情はさまざまに異なります。そうやって一碗一碗比べてみると、何の変哲もない器に見えた東京国立博物館所蔵の「有楽井戸(うらくいど)」、なんとも穏やかに映るのです。
大井戸茶碗 有楽井戸 朝鮮 朝鮮時代・16世紀 東京国立博物館蔵
この茶碗を所持した織田有楽斎(おだうらくさい、1547~1621)といえば、あの信長の弟。厳しい世を生き抜いた人物がこんな優美な茶碗を手にする姿を想像してみると、茶の湯がより豊かで奥深いものに見えてくるでしょう。まさに「桃山」に開眼!
ぜひ展覧会で、心に響く茶の湯のやきものを見つけてみてください。
同時開催
特集「破格から調和へ―17世紀の茶陶」本館14室 ~11月29日(日)
8Kで文化財「ふれる・まわせる名茶碗」東洋館1階ラウンジ 11月10日(火)~11月23日(月・祝)(「ふれる・まわせる名茶碗」についてのブログはこちら)
カテゴリ:2020年度の特別展
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posted by 特別展「桃山」担当 三笠景子(特別展室主任研究員) at 2020年11月05日 (木)