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1089ブログ

【トーハク考古ファン】考古展示室にも仏像あり!

考古展示室にも仏像が展示されていることをご存知でしょうか?
それは…

「ここだほ!」

テーマ展示「塼と塼仏」/考古展示室

トーハクくん、大正解! そうです。考古展示室では塼仏(せんぶつ)を展示しています。

さて、開催中の特別展「タイ ~仏の国の輝き~」、皆さんはご覧になりましたでしょうか。
タイを代表する仏教美術品が一堂に会する貴重な展覧会です。
会場には古代から現在までのタイの歴史と文化に関する作品が展示されていますが、こちらの塼仏はご覧になりましたか?

塼仏
バンコク国立博物館蔵
8月27日
(日)まで特別展「タイ ~仏の国の輝き~」で展示中

これはタイのトラン県カオサイ洞窟出土の塼仏です。
涙滴形の中に、蓮華の上に足を組んだ4臂の観音菩薩像が型押しされており、9世紀頃のものと考えられています。
タイを含め、マレー半島ではこうした塼仏が洞窟や山の上から出土しており、僧侶が修行した場所ではないかと推測されています。

そもそも、塼とは現在でいうレンガやタイルのようなもの。粘土を焼き固めて作られました。
この塼に仏像を表したものが塼仏です。寺院の壁をタイルのようにして飾りました。

通常、塼仏は笵型に粘土を押し当てて作られます。そのため、形や図像が同じものがたくさんあります。
これまでの研究成果によれば、以下の工程で作られていたと考えられます。

(1)原型をつくる
木や金属を素材として原型をつくります。塼仏そのものを原型とする例も考えられます。

(2)笵型をつくる
原型に粘土を押し当て笵型を作り、細かな表現を加えます。

塼仏笵(せんぶつはん)
奈良県桜井市 山田寺跡出土 飛鳥時代・7世紀
東京国立博物館蔵
12月25日(月)まで展示中/考古展示室


(3)笵型の乾燥・焼成

(4)塼仏をつくる
(3)で作った笵型に粘土を押し当てて、乾燥したら型から粘土を外します。

(5)塼仏を乾燥させ、焼き固めます


(6)仕上げ
表面に金箔を貼ったり、彩色を施す場合があります。金箔が剥がれないように、表面に漆が塗られていたようです。

塼仏は大きく形によって、方形と火頭形と分けられ、また、仏様の配置から独尊、三尊などに分けられます。
「方形三尊塼仏」のように、本尊と脇侍だけでなく飛天が舞う例などもあります。


重文 三尊像塼仏(さんぞんぞうせんぶつ)
奈良県高取町 南法華寺出土 飛鳥時代・7世紀
東京国立博物館蔵
11月26日(日)まで展示中/考古展示室



独尊像塼仏(どくそんぞうせんぶつ)
奈良県明日香村 紀寺跡出土 飛鳥時代・7世紀
東京国立博物館蔵
12月25日(月)まで展示中/考古展示室


塼仏の構図は唐代に類例があり、7世紀後半に始まる遣唐使によって日本に伝えられた可能性が高く、日本ではもっぱら7世紀後半から8世紀前半にかけて、近畿地方を中心に流行したようです。

さて、考古展示室の塼仏をよく見ると、表面が赤茶色のものや焦げ痕のようなものが付着しているもの、表面がざらざらと荒れているものなどがあります。
 
三尊像塼仏残欠(さんぞんぞうせんぶつざんけつ) ※写真右は部分拡大
奈良県明日香村 橘寺出土 飛鳥時代・7世紀
東京国立博物館蔵
12月25日(月)まで展示中/考古展示室

これは、何らかの熱を受けたためと考えられます。
先ほど「塼仏の制作工程」(6)でご紹介したように、塼仏には金箔や彩色が施されていたので、おそらくは、もともと寺院で飾られていたものが、火災によって表面の金箔や彩色がなくなり、焦げ痕が残されたのでしょう。
なかには、熱によって表面の金箔が溶けて、ごく微小の金粒となって残されている場合もあります。展示室では難しいですが、実物を手に取りルーペでよく観察すると金粒がかすかに輝いて見えます。

モノに残された痕跡は、それがどのような経緯で現在に伝わったかを推測するヒントとなるので、考古学では資料観察がとても重要なのです。


形や模様だけじゃなくて、キズや付着物にも注目だほ

さまざまな国と地域の作品を見比べられるのも、トーハクの魅力の一つです。
特別展「タイ」と考古展示室は同じ平成館にある展示室。
特別展をご覧になった後は、考古展示室の仏教考古学関連の作品をぜひ見比べてみてください。
きっと新たな発見があると思います。

※今後SNS(Twitter, Facebook, Instagram)でトーハクの塼仏を紹介していきます。「#1089考古ファン」で検索してみてください。

カテゴリ:研究員のイチオシ考古

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posted by 井出浩正(特別展室主任研究員) at 2017年08月15日 (火)

 

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