大覚寺展チーフの金井です。
このところ暖かい日が続き、春の訪れを感じる今日この頃ですが、みなさまいかがお過ごしでしょうか。
早いもので会期もあと2日となりました。
今回のブログでは、これまでに多くの方からご質問やご感想をいただいた、最後の障壁画の展示室のコンセプトについてお伝えしたいと思います。
第4章 女御御所の襖絵-正寝殿と宸殿 展示風景
▼空間を演出する―「障壁画」とは
大覚寺の宸殿(しんでん)と正寝殿(しょうしんでん)の2つの建物には、重要文化財に指定されている240面もの障壁画が伝わりますが、今回はこのうち、近年の14か年におよぶ本格修理を終えたものを中心に、前期100面、後期103面を見どころのひとつとしてご紹介しています。
ところで、本展でたびたび登場する「障壁画」という言葉は、あまり聞きなれないものではないでしょうか。皆様からのご感想のなかでも、屛風と障壁画の違いがよくわからない、といったお声も聞こえました。
障壁画は、襖や壁、杉戸や障子などに貼り付けたり直接描いたりしている絵画のことです。屛風はパネルに貼り付けられた折り畳み式の絵画ですが、障壁画は建物に付属するもので、原則入れ替えができません。そのため、それぞれの部屋の格式や使用目的に沿って画題が決められます。
たとえば、ご自宅の居間や応接間、書斎や寝室などをご想像ください。居間や応接間はお客様をおもてなしするための少し華やかな空間、寝室や書斎は休んだり集中したりするための落ち着いた空間です。その目的に応じて、壁紙の色やインテリアのテイストを決めると思いますが、その考え方は安土桃山~江戸時代も同様です。大覚寺宸殿の最も大きな「牡丹の間」は、公的な儀礼を行なう場として金地の色鮮やかな花鳥図が、そして正寝殿で最も重要な門跡の居室「御冠の間」には、画題のなかでも格式の高い水墨の山水図が収められています。障壁画は、空間にふさわしい空気感を演出する力を持っているのです。
宸殿「牡丹の間」
正寝殿「御冠の間」
▼障壁画の展示の仕方
今回の展覧会の展示で私たちが目指したのは、この空気感を体感していただくことでした。そのための展示方法は、大きく2つあります。ひとつは、現在収蔵されている部屋通りに並べて場を再現すること、もう一つは、障壁画に描かれた絵の姿がわかるように当初の順に並べかえて平たく展示することです。大覚寺展では後者を選択しました。
その理由は、大覚寺の障壁画群が当初は別の建物、おそらく内裏のいずれかの御殿のために描かれたもので、現在の配置とは異なっていた可能性が高いからです。寺伝では後水尾天皇(ごみずのおてんのう)に入内(じゅだい)した徳川和子(とくがわまさこ)の女御御所の一部を移築したと伝えますが、女御御所のどの建物だったのか、どの部屋であったのは明確ではありません。また移築の際に、かなり改変が加えられたようで、襖の配置を入れ替えたり引手の位置を移したりといった跡が見られます。そのため、現在の大覚寺と同じ配置で展示するのではなく、なるべく制作当初に近い姿がみえるように、一つの絵の姿がクリアにわかるように広げて展示をしています。
重要文化財 牡丹図 狩野山楽筆
江戸時代・17世紀 京都・大覚寺蔵 展示風景
襖絵の引手位置を改変した跡
実際に展示室に足を運んでいただくと、大きな大広間で、四方を金地の花鳥図で囲まれたような空間を体感することができます。展示はまもなく終了しますが、障壁画が空間を演出する力を、ぜひ実感いただければと思います。
また展覧会を御覧になった後、もっと作品や大覚寺について知りたい!という方のために、参考文献リストを
資料館ウェブサイトで公開しています。
文献の多くは資料館閲覧室にて無料でご覧いただくことができますので、こちらにもぜひ足をお運びください。
カテゴリ:「大覚寺」
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posted by 金井裕子(教育講座室長) at 2025年03月14日 (金)