仁王像の意外な一面
特別展「国宝 東京国立博物館のすべて」の最後のコーナーに展示している金剛力士(仁王)像は、今年の2月に購入した、最新の所蔵品です。
この仁王像は滋賀県栗東市の蓮台寺というお寺(今はありません)の仁王門に置かれていたのですが、昭和9年(1934)の室戸台風で仁王門と像が倒れてバラバラになりました。像の部材はほとんど回収して保管されていましたが復興の見込みは立たず、昭和43年に財団法人美術院に引き取られました。美術院は国宝、重要文化財をはじめ仏像の修理をするところです。
美術院では仮に組み立てて保管していましたが、縁あって当館が購入することになったため、およそ2年かけて本格的な修理を行ない、会場で見る姿になりました。
金剛力士立像 平安時代・12世紀 東京国立博物館
修理前の姿は少し違います。
修理前の金剛力士立像
頭の後方から腰の側方に翻る帯(天衣:てんね)を着けています。
しかし、これは像が造られた平安時代のものではなく、後世おそらく江戸時代に補われたものです。
像の容姿を損なうので、はずして別保管としました。
布のふわりとした質感がなくて重たいですね。さらに右腕をよく見てください。肘の上下に帯が巻き付いています。
この巻き付いている帯が天衣です。後世補われた天衣はこれにつながっていないので、像ほんらいの形とは異なります。
阿形像 右腕
肩の下から始まって、手首の上で終わる帯の端がありますから、これにつながる形で上から腕に巻き付き、下に垂れる形だったのです。吽形像の左手も同様です。
この像と同じ平安時代・12世紀の仁王像の中に、これと同じく天衣が腕に巻き付く像があります。しかし、翻る部分が造られた当初の形を伝えているものはありません。
どのような形だったか、絵画資料を見るとわかるかもしれません。今後探して発見したら報告します。
仁王像は門の中に安置されるので、限られた方向からしか見えません。特に真後ろから見ることは通常できません。
この仁王像の背中は特徴があるのでぜひ見てください。
ちょっと贅肉がついているようです。
鎌倉時代の像はこれとは違います。
金剛力士立像 阿形 鎌倉時代・13世紀 京都国立博物館蔵
背中にも筋肉がついて強そうです。
当館の像は正面から見るとたくましくて強そうですが、背中は鍛え方が足りないところがおもしろいですね。
平安時代・12世紀には怒りの表情の仏像、不動明王や四天王像なども激しさが少ないのが特徴です。この像は正面を見ると鎌倉時代の作風に近づいていますが、背面に平安時代らしさが見えると言えるでしょう。
この像の概要についてはYoutubeの「仁王像ざっくり知る」もあわせてご覧ください。
カテゴリ:仏像、東京国立博物館創立150年
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posted by 浅見龍介(学芸企画部長) at 2022年11月18日 (金)