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猫に似た虎の描写

毎年恒例のお正月企画「博物館に初もうで」は、干支にちなんだ動物と美術作品とのかかわりについてご紹介しています。
今年は虎です。(特集「博物館に初もうで 今年はトーハク150周年!めでタイガー!!」)どのように描かれているのか、さっそく展示作品からご紹介しましょう。


最初の展示室に入ると目に飛び込んでくるのが、「龍虎図屏風」です。



安土桃山~江戸時代に活躍した曽我直庵(16世紀後半~17世紀初頭)の作品です。屏風という大画面から飛び出んばかりの大迫力!虎は前脚に力を込めて屈み、龍が起こした嵐にジッと耐えている様子が描かれます。


龍虎図屏風(部分) 曽我直庵筆 安土桃山~江戸時代・17世紀

この仕草、どことなく猫を想起させます。目的を定めて今からジャンプ!そんな動きですね。生きた虎を目にする機会がなかった日本では、中国から伝わった虎の絵をもとに、猫のような虎が長らく描かれました。顔が小さく、首が長いですね。十二神将を描いた平安・鎌倉時代の密教図像や「鳥獣戯画」の虎も猫に似ています。ただ、『日本書紀』にはすでに虎皮の記述がありますので、どのような形か、模様がどのようなものであるかは、知られていたと思われます。


一方、こちらの虎はいかがでしょう。


老子龍虎図 旧金谷屏風のうち 岩佐又兵衛筆 江戸時代・17世紀

犬みたいです。口元の部分が前に長いので犬に似ています。猫には見えません(虎にも)。岩佐又兵衛(1578~1650)という江戸時代初期に活躍した絵師の作品です。この特徴ある顔立ちで思い出されるのが、又兵衛が描く人物です。「豊頬長顎」といわれるように、頬が張った顎の長い顔立ちです。本作品の虎は又兵衛風の虎なのですね。同時に、作品全体に漂う、ちょっと怪しげな雰囲気もこの作品の魅力です。


江戸時代後半になると、博物学が流行し、本物の虎を写生した作品も伝わります。


博物館写生図(虎皮)  江戸~明治時代・19世紀

画面の右上には墨書があって、写した虎皮のサイズが記されます。鼻から尾の先までは「八尺五寸」とありますから、およそ2メートル50センチです。頭部の描写は非常に丁寧で、毛の一本一本が描かれ、質感がよく伝わります。本作品が展示される第五章「博物学におけるネコ科の虎」では、虎を描いた(記録した)作品を展示しています。いまでいう動物図鑑のような作品もあり、動物としての虎が認識されたことが分かります。


今回は日本で描かれた虎に注目しましたが、アジアの虎も多彩で、人々の虎へのまなざしの多様さを感じることができます。さて本特集、最後に展示したのがこちら。


諸獣図(部分) 江戸時代・19世紀


虎はネコ科の哺乳類ということで、ちょっとだけトライしてみました。


 

カテゴリ:博物館に初もうで

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posted by 古川攝一(平常展調整室) at 2022年01月12日 (水)