何この重さ!? 長谷寺の十一面観音菩薩立像
特別企画「奈良大和四寺のみほとけ」(~9月23日(月・祝))は連日多くの方に熱心にご覧いただき、うれしく思っています。
これから数回にわたって展示している仏像についてみどころをお話します。
最初は長谷寺の巻です。
十一面観音菩薩立像 平安時代・12世紀 奈良・長谷寺蔵
この十一面観音菩薩立像は、右手に錫杖を持ち、四角形の岩座に立つ点が特徴で、これは長谷寺本尊、10メートルを超える巨大な木造十一面観音像と同じです。この形の像を長谷寺式十一面観音像と呼びます。ただし、この像の右肘から先と岩座は後世のもの(左手も)なので、後に本尊にならって作り替えられた可能性があります。
わずかに腰を左にひねって立っています。後姿も優美です。
肩に髪束が垂れています。耳の後方から垂れ下がる部分は別材で造っていたのがなくなってしまいました。冠や、衣の下にわずかに見える腕の飾りは細かく彫刻しています。
この像を事前に調査した時、驚きました。持ち上げてみたら重いのです。やさしい顔は平安時代後期のもの。この時期の像は内部の空洞部が大きい、つまり木が薄いので軽いのが普通です(餡のない最中の皮が軽いのと同じです)。
しかし、この像は一木造でしかも内刳りをしていない(内部に空洞がない)のです。異例のことです。
それにしても重い、ヒノキではなさそうだ、と思って像の足枘(像を台座に立たせるための凸部。台座に彫った穴に差し込んで立たせる)を見ると、針葉樹ではなく広葉樹、木目から見るとおそらくクスノキです。クスノキはヒノキより重いので納得。
ただ、足枘を見るとまったく接ぎ目がないことにまた驚きました。足の先まで頭、体と同じ一つの木から彫り出しているのです。足の先は突き出ているので、別の木で作って接合するのが普通です。できる限り、一つの木から造ろうという意識があったのでしょう。
右手は肘まで、左手は手首まで、体と同じ木で作るほか、
からだの正面2段にU字形に垂れる天衣も、腕の内側は接ぎ目が見当たりません。
こうした像の造り方は、白檀(びゃくだん)製の像に多くみられるものです。白檀はインド南部、東南アジアにしか生えない香りの良い木で、大きくなりません。日本には飛鳥時代以降、中国から白檀製の仏像がもたらされました。また材木、香木としての白檀も古くから輸入はしていましたが、非常に高価で入手困難。そこで、カヤで代用することが多かったのです。これらの像を檀像と呼びます。
この像はクスノキを使っていますが、平安時代後期に造られた檀像として貴重なものとわかりました。
展示ケースに入っていますが、後ろからもご覧いただけます。
ぜひ、じっくりとご覧ください。
特別企画「奈良大和四寺のみほとけ」 本館 11室 2019年6月18日(火)~ 2019年9月23日(月) |
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posted by 浅見龍介(企画課長) at 2019年07月22日 (月)