能面 是閑と河内 真作か否か?
本館14室で開催中の特集陳列「日本の仮面 能面 是閑と河内」は2月16日(日)までです。
前回12月9日のブログで焼印や知らせ鉋のお話をしました。この特集では是閑と河内の焼印のある面を展示していますが、すべてが是閑、河内の真作と断定できません。
今回はその理由をお話しします。
河内の焼印は通常、この形です。
能面 中将 「天下一河内」焼印
今回展示した面の中に変わった印が二つあります。
(左)三光尉 焼印 上杉家伝来 (右)泥眼 焼印
三光尉の印は明らかに字体が違いますからわかりやすいですね。泥眼の印は一見よく似ていますが、外枠の円の縦径が少し短く、「河内」の字も上下が短くなっています。それよりも注目すべきは、「下」の字の点の位置です。縦線がコ字形を作る上にあるのが通常ですが、泥眼の印は下にあります。
知らせ鉋はどうでしょうか。
(左)三光尉 面裏 (右)泥眼 面裏
河内の知らせ鉋は前回お示ししたとおり、鼻孔の間に2つの刀跡、右上隅に放射状の刀跡があります。三光尉はどちらもありません。泥眼は鼻孔の部分に布を貼っているため見えず、右上隅にはありません。
焼印が怪しく、知らせ鉋がないなら河内の真作か疑問です。では面の造形はどうでしょうか?
(左)三光尉 「天下一河内」焼印 (右)笑尉 「天下一河内」焼印
比較のため、通常の焼印、知らせ鉋があり、河内の真作と見られる優れた笑尉と並べて見ましょう。頭骨の起伏、眼球のふくらみ、頬の肉付きなど三光尉は笑尉に比べて硬く、河内の真作とは考えにくいでしょう。
(左)泥眼「天下一河内」焼印 (右)泥眼「天下一是閑」焼印
泥眼はどうでしょうか。ここでは是閑の焼印のある泥眼と比較してみましょう。
河内印の方は額が丸く、こめかみはへこみ、頬が張る、輪郭のかすかな曲線がみごとです。
河内印の方が頬に肉がつき、やわらかな彩色と相まってやさしそうに見えます。
是閑印の方は眼の見開きが大きく、気の強さが前面に出ています。河内印の方はおとなしそうなだけ、内にこもる怖さがあります。
泥眼は「葵上」などで嫉妬による怨念を押さえきれない貴族の女性の役に用います。白目に金泥を塗って狂気を宿していることを示しているのです。光を下から当てないとわかりにくいですね。
下から光を当てると顔が一変します。
この河内印の泥眼は、焼印は怪しく、知らせ鉋も確認できませんが、造形は優れていて河内真作の可能性が高いものです。反対に、焼印、知らせ鉋が揃っていても河内作とは到底考えられない面もあります。もちろん白黒はっきりできない面も少なくありません。
焼印、知らせ鉋を信用できない点に能面研究の難しさがあります。
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posted by 浅見龍介(東洋室長) at 2014年01月17日 (金)